移動販売の加地さん。

第30話 加地くんの葛藤※

どんどんどん！

『すみませぇん！……お留守なんですかぁぁぁああ⁉️⁉️』

何時もお世話になってる、このお店が営業していないと……オラも困るだぁよ！

月も変わって3月の初め……古めかしい佇まいのその店の入口は固く閉ざされ、加地くんがどんなにどんなに大声を張り上げようとも！店が壊れるかと思われる程にガンガン引き戸を拳で殴ろうと！………水を打ったような静けさを保ったままであった。

『困っただ………弁当とかも此処で注文してるのに……』

加地くんは縋るような目で何時もの店を見つめる。けれども、その店の中からあの……加地くんが苦手とするあの主が現れる事は遂には無かった。


ーーーナレーター岡田との別れからこれまでの加地くんーーー
バレンタインの日、加地くんにとって最悪の形で岡田より「別れ」を切り出された加地くん。
それまで生活の糧であった移動販売の……まぁ、ある意味パートナーを失ったと言っても過言では無かった。

無論移動販売の仕事を続ける気を根こそぎ失った加地くんは、自部屋に1人引きこもりになり…暫くは移動販売の仕事に手をつける事はしなかった。
"オノレ岡田～～～～～っ‼‼‼今までオラにまとわりついとったのは！オラの事さ好きだったからでは無かったのか！"
……………とか何とかひとりでネチネチと考え込んでいたとかいなかったとか。

それは2月の末。
部屋でただ、ボーっしていた加地くんの頭の中に不意に浮かんで来たあの！東南の方の外国人のガテン系あんちゃんの屈託の無い笑顔。

『オイシイオベントウ、マタオネガイシマス‼』

オラがこないに塞ぎ込んでる間にも……あの工事現場の家は完成してしまう！日の丸とお惣菜…あのあんちゃんに届ける事が出来なくなってしまう⁉️


加地くんは漸く思い出したようにガレージに向かい、薄く埃を被りかけてるタラコ号達の掃除を始めた。
己に振りかかった「何か」を断ち切るかのように。


そうしておよそ2週間もの間の、長い長い加地くんの脳内戦闘バトルは幕を閉じた。

ーそして再び『例の店』で悩む加地くんー
ひたすら店の前で困惑する加地くんに、

『困りましたね、このお店は…商品を仕入れる為に加地さんには無くてはならないお店なんでしょう？』

驚いて声のする方に視線を送ると、そこには何時も何気に加地くんをヘルプしてくれる…眼鏡……ごほんっ！小也さんが何時もの帽子と真っ白い割烹着姿で微笑み、立っていた。