サラリーマンが女子高生を救ったら、女子高生がサラリーマンのファンになってしまった。人生まだまだ捨てたもんじゃない。

チョコズキ

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ファン第一号と片思いの相手

第14話 鰻と目的

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 俺と翔は今、会社近くの鰻屋さんにやって来ていた。
 ただ冗談で言った事なのだが、翔がせっかくだからと言ってくれて鰻を食べる事になったのだ。

 店の名前は【うな一番】。
 内装は和風テイストで、とても安らげる雰囲気に造られている。
 お客さんは俺たち以外に4名ほど入っており、皆黙々と食事をしていた。

 そして俺達は、座敷の席で対面に座りお互い静かにメニューを眺めている。

 な……何だこの値段!?

 メニューに書かれている値段を見た俺は、驚きのあまり息が止まりそうになっていた。
 昼飯に使う値段にしては、あまりにも高過ぎる。

 そう思った俺は、翔に最後の確認をとる。

 「本当に奢ってもらっていいのか?」
 「全然いいよ。好きな物注文してよ」

 翔があっさりと返答してきた。

 ど……どうしてだ。
 何故翔はこんなに高い値段を見ても、顔色一つ変えずに奢ってやるなんて言えるんだ。

 翔の余裕さが気になったので、またしても詰め寄る事に。

 「おいおい。お前もこの値段見てるだろ?何でそんなに余裕そうなんだよ」
 「え?鰻ならこれくらいするでしょ普通」
 「そうなのか?」
 「そうでしょ。まさか悟、鰻食べた事ないの?」
 「悪いかよ」
 「悪くはないけど……可哀想だなって」
 「何それ憐み?俺を馬鹿にしてるのか?」

 翔が少し馬鹿にしたように笑いながら、俺を哀れんできた。

 それに対して若干腹が立ったが、今回は奢られる身なのであまり強く反論も出来なかった。
 なのでこの恨みは、一番高いうな重を注文する事で全てチャラにしてやろうと思う。

 「おい、俺は決まったぞ」
 「どれ?」
 「この一番高い奴だ」
 「じゃあ俺もそれで」
 「嘘だろ、どんだけ金持ちなんだよ」

 わざと一番高い鰻を選んで、少しビビらせてやろうと考えたのだが……。
 逆に俺自身がビビらされてしまったぜ。

 まさか翔もあんなに躊躇なく俺と同じ物を頼むとは、そこもまたモテポイントなのだろう。

 そして注文も終え、いざ今回の本題に入りたいのだが……。
 なかなか言い出せないで、もじもじとしている自分がいる。

 30歳と言ういい年齢のおっさんが、何もじもじしてんだよと思う人もいるかもしれない。
 が、しかしいざこの状況になってみるとわかる。

 予想以上の緊張感だぞこれ。

 「悟?なんか顔色悪いけど、大丈夫?」
 「ハハハ。全然大丈夫だぜ。それより、れ……」
 「れ?」
 「れ……冷麺とか食べたいよな!最近暑いし!」
 「確かに!冷麺ってたまに食べたくなるんだよね」

 やっちまった……。
 もう勢いで恋愛について聞こうと思ったのに、本番でビビっちまったーー!!

 昔から俺はそうだったんだよな。
 何やるにしても、練習やイメトレでは完璧なのにいざ本番になると人の何倍も緊張して思った様に動けないんだよ。

 このビビリ癖、直さないとな。

 俺が自問自答していると、翔が新たな話題を振ってくる。

 「そうだ悟、例の女子高生とはどんな感じなの?心愛ちゃん、だったかな?」
 「べ……別に、特に何もないが」
 「本当に?変な事してない?」
 「するわけねえだろ!心愛は高校生だぞ」
 「だから心配なんだよ。一歩間違えれば悟は犯罪者になるんだから」
 「分かってる。俺と心愛はただの友達だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 そんな話をしていると、注文していた最高級のうな重が机の上に並べられた。
 漂う香りはこれまた格別、見た目にしてもとても立派な鰻が人間の食欲を刺激してくる。

 コレは食うしかねえぜ!

 俺は目の前に居る翔に「いただきます」と声を掛け、いざ鰻を食す。

 人生初の鰻、それも人の金での鰻だ。
 どんなもんか、採点してやろう。

 ーーーー

 ーーーー

 そして俺たちは鰻を食べ終えた。
 あまりの美味しさに終始感激が抑えきれず、何度か叫びそうになった。

 翔はと言うと、本当何もなくただ昼飯を食っている感じだった。
 昼飯を食っていると言うのはその通りなのだが、鰻だぜ?もっとなんかあってもいいだろ。

 そんな事を考えていると、食休みをしていた翔から声が掛かる。

 「ご飯も食べたし、そろそろ戻ろっか」
 「おう。そうだな」

 俺と翔はそれぞれの営業チームのリーダーだ。
 なので、他の部下達よりも早めに戻って色々と準備をしなくてはならない。

 しかし、ここで俺は重大な事を思い出す。

 しまったーーーー!!
 心愛の事や鰻の事で、今回の最重要目的を忘れてしまっていた。

 気づいた時にはもう遅い。
 翔は会計をスマートに済ませて、外へ出るところだった。

 今日は仕方ない。
 また明日頑張ろう……。

 こうして俺の目的はまたしても上手くいかず、日にちだけが過ぎていくのであった。
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