超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「どう、研磨。これがあたしとマリのお城ってわけ」

 木製で漆喰しっくいを塗られた灰色の壁。オレンジ色のかわらかれた屋根。小さい庭には各種ハーブが植えられていた。大きく切り取られた窓は開閉式の雨戸で塞がれている。なるほど、しっかり作られていた。

 マリが鍵を開けて玄関に入り、火打ち石でロウソクに点灯する。暗い中を乏しい明かりで進んでいった。後をついていくと、ミズタが先回りするように、全ての雨戸を開け放つ。太陽光と乾いた風が邸内に飛び込んできた。

 そして俺たちはいかにも小家族向けな食堂に至った。やっと、やっと飯が食える。超人類として連戦してきた疲労と、サメ釣りの際に失った血を取り戻すには、やはり食うに限る。メニューは何だろう? 何だかわくわくしてきた。

 マリはしかし、俺とミズタにとんでもないことを言った。

「私が火を起こしますので、ミズタと鏡さんは一緒にお風呂に入ってください」

「はあ?」

 異口同音いくどうおんに俺とミズタが聞き返した。何でこの女と共に風呂に入らなきゃいけないんだ。いや、ちょっと入りたいけども。そうではなくて。

 ミズタは怒髪天を衝く勢いで反駁はんばくした。

「冗談じゃないわ! こんな異常性欲者とお風呂に入ったら、何されるか分かったものじゃない」

「では井戸で水汲みしますか?」

「うっ……」

 井戸といえば地上にあるばかり。この建物と大地とをバケツを持って往復するのは結構大変そうだ。

「そんなにお風呂の水少ないの?」

 ミズタが問うと、マリはうなずいた。

「はい。登城とじょうする前に確認しています。一人で入ると間違いなく肩まで浸かれないでしょう。でも二人なら大丈夫のはず、です」

「絶対嫌」

「では血と汗にまみれたその姿のまま、テーブルや椅子を汚しながら食事しますか?」

「……それも嫌」

 わがままな女だ。俺はミズタの肩をはたいた。

「俺は何もしねえよ。女と風呂に入るなんて、暴走族の恋人がいたときに散々やってるし。今更おめえごときで興奮するもんかよ」

「あたしのわきや下着を見て鼻の下を伸ばしてたじゃない」

「……それはそれだ」

 ミズタはしょうがなさそうに肩を落とした。

「分かったわよ。研磨とお風呂に入ればいいんでしょう? でも研磨、湯船には背中合わせで浸かるのよ。振り向いたりしたら殺すから」

 俺はやれやれとばかりに両手を挙げた。



 その後、マリは建物の裏に行ってしまった。俺とミズタは別々の部屋で衣服を脱ぐ。渡されていたタオルで大事な部分を隠したまま、俺とミズタは浴室の前で落ち合った。彼女はロウソクのともし火のもと、なかなか豊かな胸と滑らかな腰のくびれ、それから大事な股間の辺りを布で覆っていた。

「見たらただじゃおかないわよ」

 分かったっての。俺は先に風呂場に入った。ドラム缶を横長にしたようなバスタブがあり、外からマリが声をかけてくる。

「湯加減はどうですか?」

 俺は爪先をお湯につけた。恐る恐る入る。うん、いい感じだ。

「大丈夫だ。悪いな、マリ」

「どういたしまして」

 温度はいいとして量が足りない。このままでは風邪を引いてしまう。俺は一方の側へしゃがみ込んだ。腹までしか浸かれない。

 そこへ流れるような金髪を後頭部で結ったミズタが、戦々恐々せんせんきょうきょうと入室してきた。『境界認識』を活用して、俺は言われたとおりによそを向く。しばらく立ってお湯が波打ったかと思うと、一気に肩の位置まで膨れ上がった。

「いいお湯ね」

 ミズタが深々と溜め息をついた。それで気が緩んだか、俺の背中にミズタのそれが寄りかかってくる。おいおい、何やってんだよ。

「ねえ研磨」

「何だ」

 無言のまま一呼吸あった。

「巨大ザメの舌を一緒に取りに行ってくれて……ありがとね。感謝してる」

 素直な謝意が伝わってくる。俺は少し照れくさくなって、両手でお湯をすくって顔を拭った。

「別に。ハンシャに貸したままじゃいられないし、第一神族が全滅したら俺が来た意味がなくなっちまうからな。ただそれだけの話だ」

 だいたい、と俺は言った。

「感謝するのはこっちの方だ。おめえが手首を切って血を流さなければ、サメは寄ってこなかったんだからな。普段から俺を性犯罪者呼ばわりして馬鹿にしてるけど、やるときはやるんだな、って感心したよ。覚悟を見せられた感じがした」

「それはあたしをめてるの?」

「一応な」

 室内になごやかな雰囲気が満ちる。湯煙の中、俺は軽く背中を押し返してやった。

「何よ」

 ミズタがやり返してくる。俺たちは押しくらまんじゅうのように何度か背中をぶつけ合った。時と場所を忘れ、童心に帰って、俺たちは湯船ではしゃいでいた。

 と、そのときだ。

「きゃあっ!」

 マリの鋭い悲鳴が外から聞こえてきたのだ。俺とミズタは揃って立ち上がり、高い位置にある窓から外を見下ろした。

「どうした、マリ!」

「どうしたの、マリ!」

 マリはすっかりおびえ切って、地面にへたり込んでいる。

「ネ、ネズミ……!」

 彼女の前を灰色のネズミが鳴きながら横断していった。ミズタが安堵と憤慨の混合する溜め息を吐き出す。

「何かと思えば……。ネズミが嫌いな癖、治ってなかったのね、マリ。……ん?」

 俺とミズタはお互いを見た。双方布が落ちて、真っ裸の状態だ。彼女の顔がたちどころに真っ赤になる。そしてマリとは比べ物にならない金切り声で叫んだ。

「何見てんのよ、変態っ!」

 俺は彼女に洗面器をぶつけられながら、ほうほうのていで風呂場を飛び出した。



「見られた……。全部見られた……。死にたい……」

 食事の席で、ミズタは嗚咽おえつを漏らしながらスープをすすった。もう新しい衣服を身にまとい、外見だけはすっかり元に戻っているものの、その心は悲愴ひそう満々たるようだ。そのくせによく食べる。食ってストレス解消というやつか?

 彼女の隣に座っているマリが、可哀想とばかりに相棒の頭を撫でていた。俺に眼鏡を光らせる。

「鏡さん、乙女の一糸まとわぬ姿を暴き立てて満足ですか?」

 いや、不可抗力だっただろ。元はといえばマリの悲鳴が原因だし。こっちだって見られたというのに、なぜか俺だけが一方的に悪者扱いだ。俺はパンをスープに浸して柔らかくし、口へと運ぶ。

 俺の衣服は人間界に降りた別の神族が、夜のデパートからかっぱらってきたものだ。闘技場でハンシャとやり合ってたときに目測で採寸し、適合するものを選んできたという。これは気がいていて大いに助かった。あんまり美的センスに優れない、野暮ったい長袖シャツとズボンだったが、ないよりかはましである。

「まあ減るもんじゃねえし、そう泣かなくても……」

「このケダモノ! 謝罪の言葉も出てこないっていうの?」

 ミズタが泣きながら、がつがつ食べつつ、俺を非難する。どれか一つにしてくれ。

 マリは盛大な息を吐いた。俺をじっと見つめる。

「ごめんなさいは? ミズタにごめんなさい、でしょう、鏡さん」
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