超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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 俺は髪の毛をかき回した。納得いかないが、ここは美味い飯を提供してくれたし、機嫌を損ねないようにしておくか。

「……悪かったよ、ミズタ。ごめんなさい。今後は気をつけて、なるべくおめえを見ないようにするよ」

 ミズタが俺をきっと睨んだ。

「何よそれ。あたしの体に魅力がないって言うの?」

 どうすりゃいいんだよ。



 体を清めて、腹一杯になって、後はぐっすり眠った。この家には来客用の寝室があったのだ。俺は色々あった一日を振り返ることもなく、ただただ睡魔に組み伏せられた。夢さえ見ず、こんこんと眠る。

……ツンと後頭部をつつかれた。それが何度も繰り返される。うるさいな、とそちらに寝返りをうった。重たいまぶたをこじ開けてみると、そこには既にミズタとマリが平常のいでたちで立っている。

「研磨、ハンシャ様に謁見えっけんしに行くわよ。準備して」

「……おう」

 俺は寝ぼけまなこをこすりながら大あくびをかました。マリが水をがれた洗面器と手拭いを置いていってくれる。俺はありがたくそれで顔を洗った。気分がさっぱりする。小山のように盛られた塩は歯磨き用だろう。俺はそれを指につけて口腔こうこうを掃除した。杯の水で口をゆすぐ。

 いよいよ魔族と喧嘩するのか。血がたぎってきて男の本懐ほんかい武者震むしゃぶるいしてしまう。身繕みづくろいを済ませると、意気揚々いきようようとドアを開けて外に出た。

 蒼穹そうきゅうは見るものの心を清めるように澄明ちょうめいだ。神族の女たちが半透明の輪を背中に生やして行き来している。宙に浮かぶ邸宅郡も、今となっては何だか当然の光景のように思えてきた。俺とミズタとマリはその中を、昨日の王城目指して飛行していく。隣を飛ぶミズタは横乳を、前方を飛ぶマリはパンツを丸出しにしていた。今日は白色か……

「ど変態! またマリを血走った目で凝視して……」

 血走ってねえよ。

「うるせえな。こんな若い子の下着に欲情するかよ。なあマリ?」

 マリは肩越しに振り返り、俺を見つめる。

「私、ミズタと同年齢ですよ」

「へ?」

 ミズタが腕を組んで俺を馬鹿にする。

「何、気付かなかったの? あたしとマリは前女王クキョク様の爪から同時期に生まれた幼馴染よ。年は2017歳。同い年ね」

 ガーン。そうだったのか。てっきり姉妹みたいな関係なのかと思ってた。しかしよくよく考えてみれば、礼儀作法にかなった喋り方をするマリが、こんな自意識過剰女のミズタより年下なわけもないか。それにしても2017歳って……。とんだ婆さんだ。

 とか何とかやってるうちに、城郭に辿り着いた。顔パスのミズタとマリに遅れないよう後をついていく。二人の姿を見失ったら、この複雑怪奇な城塞で迷子になれる自信があった。

「なあ、おめえらは人間界に来たり、俺と一緒に解毒薬探しに行ったりしてるけど、身分的には――職業的にはどんな位置づけなんだ?」

 ミズタは楽しそうに笑った。

「エージェントよ」

「エージェント?」

 マリが階段を斜めに飛翔しながら補足ほそくした。

「諜報員ということです。スパイ、細作さいさく間者かんじゃ間諜かんちょう……言い方は色々ありますが、主にハンシャ女王の命で秘密に動いている立場です」

「現在は超人類である研磨の監視・お目付け役として機能しているわ。これからもあんたにつかず離れずで行動するからそのつもりで」

 ミズタの言葉に、俺は嬉しいような悲しいような妙な気持ちにさせられた。女と一緒にいられるのは男冥利おとこみょうりに尽きるが、一方これから始まる魔族との喧嘩の邪魔になりそうで、残念な気もする。

 やがて昨日の黒曜石の間に着いた。ハンシャが巨大宝石の真下で、他の神族に命令書を渡している。ナンバー2のレンズが付き添うようにかたわらで立っていた。

「研磨、ミズタ、マリ。昨日はありがとうございました」

 ミズタとマリが丁寧ていねいにお辞儀をする。

「もったいなきお言葉。女王陛下こそ昨日の傷は大丈夫ですか?」

「3人のおかげですっかり良くなりました。まだ完全にはえてませんが、もう日常生活に差し障りはありません」

 俺はポケットに両手を突っ込みながら尋ねた。

「で? 俺はどの方面に助っ人に行けばいいんだ?」

 ミズタが俺の右足を、マリが左足を踏んづける。結構痛い。

「馬鹿! 昨日に引き続いて何て態度よ!」

「礼節を守ってください、鏡さん」

 ハンシャはしかし怒らず、やや苦しそうに命じた。

「南西方面です。今はそこが最大の激戦区との情報が入っております。泥土魔人ウォルシュの前に、多くの神族が苦戦しています。貴方には彼女らをお救い願いたいのです」

 デク人形の親分か。相手に取って不足なしだ。俺はよっぽど気楽になった。

「よっしゃ任せろ。軽くひねってきてやるよ」

 女王が俺の左右のスパイに命じた。

「ミズタ、マリ。研磨の案内をお願いいたします。わたくしはここで吉報をお待ちしております」

「ははあっ!」

 二人がかしこまって一礼した。俺の足を踏みしめながら……



 かくして俺は巨大ザメとは違う、本物の初陣ういじんに向かって城を出発した。前方を飛翔するマリについて、ミズタともども空中都市から次第に離れていく。

 半透明の輪を背中辺りに生やして飛ぶことに対し、体力が奪われることはなかった。何だか原付に乗った気分だ。動く椅子みたいな。どれだけ飛ばしても、警察に検挙されることはないのが嬉しいところだ。

 地上に脈打つような畑と、それを管理する農家群――これも宙に浮いている――を幾度か飛び越し、更に南西方面へひたすら飛行していく。だがさすがに一日で辿り着けるほど、戦場は近くはなかったようだ。日が落ち、空を濃紫色が支配して、月がおぼろげな姿を現しても、目指す『世界の縁』には到達出来なかった。

「今日は野宿よ、研磨」

 ミズタが宣言し、マリと共に下降した。俺も後に続く。ピアノの連弾のように着地した。そこは見晴らしのいい川べりで、人家とは遠く離れた辺境の一隅いちぐうだった。マリが火打石で火を起こし、ミズタがまきを集めてくる。俺も出来る限り手伝った。やがて焚き火が完成し、少し冷える夜に貴重なだんが取れるようになる。

「今のところ、魔族との交戦状況はどうなんだ?」

 俺はふやかした干し肉をかじりながら尋ねた。実際、優勢なのか劣勢なのか。応じたのはマリだった。

「魔族は基本、単体ではかなりの強さだといいます。しかし上位神族のような『境界認識』の力に欠ける上、指揮官の命に従わず個別に動くことを好むので、各個撃破しやすいとのことです」

 ふむふむ。それなら大したことはなさそうだな。しかしミズタが語を継ぐ。

「でも今までに確認された魔人――強力な上位魔族――の、火炎魔人アシュレ、凍氷とうひょう魔人ブラングウェン、泥土魔人ウォルシュの三体は、魔族を強固な力で従わせ、かなり手強いらしいわよ」

 俺はアシュレの名に反応した。親父とお袋を消し炭にしたにっくき仇。忘れかけていた憎悪の炎が再燃する。
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