超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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 写……

 元漁色家だったあいつが、敵方の超人類としてこんな真似をしているのだろうか。女を殺すのは忍びない、とか考えて……? 分からん。さっぱりだ。

「相手はフェミニストかしら」

 ミズタの独り言に、近くで寝ていた神族が反応した。頭に包帯が巻かれていて、そこに血がにじんでいる。

「違う……。凍氷とうひょう魔人ブラングウェンと、超人類が、いがみ合いながら共闘しているのだ……。魔人は神族のすみやかな死を、超人類は単なる戦闘不能状態を、それぞれ相手に与えている……。ここは後者によって担ぎ込まれたものがほとんどだ……」

 3魔人の一人、凍氷魔人と、超人類がいがみ合いつつ共闘? どういう状況だかいまいち飲み込めないな。

「まあ行ってみりゃ分かることだ。さっさと出発しようぜ、ミズタ、マリ」

「待ちなさいよ。とりあえず食事とトイレをここで済ませておきましょう。それからでも遅くないわ」

 俺はうずうずする拳を固め、手の平に押し当てた。



 かす俺に呆れつつ、ミズタとマリは休憩の後再び空の通行者となった。3人で数時間ほど飛んでいくと、宙を舞う神族たちと、大地を侵攻してくる魔族たちとの激しい交戦が遠くに確認された。雄叫おたけび、喊声かんせい、悲鳴に絶叫が、鈍い衝突音と鋭い激突音を包含ほうがんして一帯に広がっている。

「雪だるま……か?」

 俺は降雪激しい戦場を俯瞰ふかんした。泥土魔人ウォルシュの配下はデク人形だったが、凍氷魔人ブラングウェンのそれは歩行する雪だるまだった。下から投げつけられたものをかわしつつキャッチすれば、それは石つぶてならぬ氷つぶてだ。神族たちはそれらを巧みにかわし、光の矢で応戦している。互いにその攻撃は強烈で、神族には不運にも胸を撃ち抜かれたり手足を骨折したりするものがいれば、魔族にも完全に破壊されてばらばらに砕けるものがいた。

「研磨、あれ! 人間の男よ!」

 何? 俺は弟の写かと思い、ミズタの指差す先を見た。やや着膨きぶくれした長身の男――完全に写とは別人だ――が、魔族側では一人宙を飛んで、神族たちの中で暴れ回っている。その鉄の棒が女たちを叩くが、とても全力の攻めとは思えず、また狙う箇所もわざと急所を外していた。自身はといえば、光の矢を疾風のようにかわし、傷一つついていない。俺は『境界認識』を男に集中してみた。

 天然パーマの茶髪をわかめのように垂らして、それが激しい身体運動で上下左右に揺れ動いている。芸術家がモデルを依頼してきそうな、女に好かれるであろう美形だ。二重まぶたで睫毛まつげが長く、顔の肌はやや褐色だ。身長は推定180センチ弱といったところか。

 写ではなかったが、その飛翔能力といい攻撃力といい、超人類と見て間違いない。俺より早く魔族側についたとかいう人物だろう。俺の中で戦意が高揚こうようする。

「あっ、待ってください鏡さん!」

 マリが制止するのも待たず、俺は全速力で飛び出していた。喧嘩だ、喧嘩が出来る。俺の闘争本能の加熱は最高潮で、気がつけば敵はすぐ目の前に迫っていた。

「むっ!」

 超人類の男が俺のパンチを間一髪でかわす。すかさず距離を取った。

「君が写君の兄弟とかいう超人類かい?」

 俺はたかぶる心でニヤつきを押しとどめられず、相手に不快感を抱かせたようだ。空中で睨み合いつつ、俺は拳の骨を鳴らす。

「その通り、俺は写の兄の鏡研磨だ。あいつと知り合いなんだな。ボコボコにして写の居場所を吐かせる前に、名前だけ聞いといてやるよ。おめえの名は?」

 俺を好戦狂と見て取ったか、美青年は付き合いきれないとばかりに苦笑した。

「僕は矢田野京やたの・きょう。神界の賢者サイードのいた『進化の粒』の覚醒者だ。研磨君、悪いが君は邪魔だ。殺しはしないが、他の神族同様、戦闘不能に追い込ませてもらう」

「勝手にしな。できねえけどな!」

 俺は待ち切れず突進した。京の鉄の棒と俺の手刀が激突する。鉄の棒は、真っ二つに裂け――ない。何と、俺の手刀にびくともしなかった。馬鹿な。人間界では鉄パイプも釘バットも寸断したっていう俺の技が通じないってのか?

 俺の目にあせりを見い出したか、美青年はにこやかに笑った。

「この棒は魔界の特別製でね。超人類の手刀でも切断出来ないんだ。写君も試していたけどね、無理だったよ」

 言い終えると同時に両手で振り回す。一方の先端が俺の顎をかち上げた。俺は激痛にたまらず下降する。

 と、そこへ鋭い槍が地上から俺目掛けて飛んできた。やばい、かわせない――

 だがその槍を、京の鉄の棒が空中で叩き落した。槍は――よく見れば氷で出来ている――爆砕して四散する。え? 助けてくれた?

 俺は斜め下を見る。そこには人型の氷が仁王立ちしていた。表面を雪の結晶で覆っていて体色たいしょくは白く、身長は190センチ前後だ。

 京がそいつに向かって怒鳴った。

「ブラングウェン、勝手な真似はするなと言っているだろう! この超人類は僕が無力化するから、手を出すんじゃない。分かったか?」

 こいつが凍氷魔人、この雪だるまたちの親玉か。奴はとげとげしい頭部を揺らして高笑いした。

「何、京殿が苦戦しているようだから、私が少々手助けをしたまで。そうお怒りになるな」

 その体は泥土魔人の人形のように細身だ。雪が降り積もる地面に手を当てると、そこから氷の槍をあっという間に作り上げる。地面は棒状に剥き出しとなった。

「では京殿のご活躍をここから堪能たんのうさせてもらうとしよう。……といっても、『あれ』を使うのだろう? 違うかね?」

「分かっているなら黙っていろ」

 京は吐き捨てた。何だこいつら、本当に情報通りにいがみ合っている。でも共闘はしているのか。複雑な関係が垣間かいま見えた瞬間だった。

 へっ、それにしても「無力化する」か。どうやって俺を叩きのめすのか、楽しみじゃねえか。俺は再び京に襲い掛かった。今度は飛び蹴りだ。だが奴も『境界認識』が使えるらしく、高速な一撃に易々と対応する。鉄の棒が俺の足を受け止め、弾き返した。俺は空中を一回転しながら体勢を整え、来たるべき反撃に備える。

 だが――

「食らえっ!」

 京は右の手の平を差し出し、そこから青色の光弾を発射したのだ。それは正確に俺を真正面から捉えた。痛みはない。衝撃もない。しかし俺の体からみるみる力が抜ける。気がつけば俺は真っ逆さまに墜落していた。飛ぶ力さえ失って、大地へ激突しそうになる。

「鏡さんっ!」

 マリが矢のように加速し、俺を空中でキャッチした。地面まで1メートル、危ないところだった。マリは俺を抱えて逃げ出す。背後から京が大声で叫んだ。

「残念だったな研磨君。それは撃たれたものを無力化する波動だ。もはや君は超人類の力を失った。せいぜいどこか辺境にでも逃げて、神族の滅亡を陰からひっそりと見守るのだな」

 青色の光弾? 無力化する波動? 『無効化波動』のことか!

 京も使えたのだ。俺はそれに撃たれ、全ての進化の力を一度に消されたってわけか。何てこった。
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