超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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「さあな。試してみたらどうだ、鏡研磨」

 俺は両手それぞれに手刀を構え、一気に急降下した。

「そうしてやらあっ!」

 相手は老人だが、手加減したらやられるのはこっちの方だ。俺より1年早く進化を開始したのだから、今は相当の手練てだれに違いない。いるだけで竜巻を起こしてるし。胸を借りる覚悟で喧嘩させてもらう。俺は左右の手を連続で振り抜いた。二発の衝撃波が超高速でマーレイに襲い掛かる。

 魔族の王はかっと目を見開いた。俺との中間地点で空気が引き裂かれ、ガラスが砕け散るようなきらめきが生じる。奴には傷一つつかない。

 馬鹿な。眼力だけで衝撃波を跳ね返したっていうのか? 俺は屈辱を感じた。

「ちくしょう、この野郎っ!」

 めったやたらに手刀をひらめかす。だがそのいずれも視線だけで粉砕された。帝王は満々たる自信と豪気ごうきをみなぎらせ、見下みくだすように哄笑こうしょうする。

「どうした、その程度か。研磨とやら!」

 マーレイが右手の錫杖を振った。杖の頭の輪が鳴ったかと思うと、俺の右足が膝の辺りまで消し飛んだ。俺とは段違いの衝撃波だ。

「ぐああっ!」

 俺は脳天まで貫くような凄まじい激痛に、空中で七転八倒しちてんばっとうした。だがその痛みは瞬時に沈静化する。見れば、膝から下がにょっきりと生えていた。

 魔界の覇者はこのとき、驚きの色を隠せない。呆然とこちらを見つめている。やがてくっくと笑った。

「これは面白い。ハンシャ相手の戦いの前に、いい予行練習だ。完全に滅し去るまで叩きのめしてくれよう!」

 冗談じゃない、またあの痛みを味わわされるものか。俺は奴に杖を振り抜く暇を与えないよう、連続で手刀衝撃波を繰り出していった。そうしながら次第に距離を詰めていく。鼓膜を破りそうな破砕音と竜巻の轟音とが間断なく聴覚を刺激した。

 さらに2人の間隔が縮まった。地面に近づくにつれて、渦巻きが俺を容赦ようしゃなく揺さぶり、様々な欠片かけらをぶつけてくる。厳しい痛みの中、肉眼で帝王がはっきり捉えられる距離まで接近した。そろそろいいだろう――

 俺は右手を差し出し、青い光弾――『無効化波動』を、マーレイ目掛けて発射した。狙いは申し分なく、ただ光の波の遅さだけが気がかりだった。だが魔族の主君は老齢で、かわせる素早さはないはずだ。果たして……

かつ!」

 奴は大音じょうを張り上げた。ただそれだけで、俺の『無効化波動』は到達前にあっけなく砕かれる。馬鹿な……! 唖然とする俺に、帝王は錫杖を振った。

「うああっ!」

 俺の右腕が肩から吹き飛んだ。鮮血がほとばしり、俺は一瞬失神しかける。だが右腕はすぐさま再生した。魔界の王は攻勢を強める。

「さて、その治癒の力はいつまで持つものかな。それ、それ!」

 俺はまず左の肘から下を、次いで右足首から下をかき消された。その度に頭がおかしくなるような激痛が全身を駆け巡る。そして恐ろしいことに、負傷箇所の再生速度がだんだん遅くなってきていた。復活しても、皮膚ひふが薄く肉が削げたような状態だったりする。

 このままではいずれ、頭や心臓といった重要箇所にもらってくたばるか、竜巻にあらがえず飛ばされていくか、回復能力が減退して失血死するか、どれかの破滅におちいるだろう。

 一番厄介なのはこの竜巻だ。これがあるおかげで前後左右に動けず狙い撃ちされている。これをどうにかしなければ……

「待てよ」

 俺は衝撃波を撃ち込み、帝王に視線で防がれながら、ある単純な思考に辿り着いた。ひょっとして、ことは簡単なんじゃないか?

「研磨よ、貴様の頑張りはわしが後世に語り伝えてやろう。さあ、そろそろとどめを刺してやる。くたばるがいい……!」

 俺は右手を真横に突き出した。マーレイが不得要領ふとくようりょうな顔をする。俺は竜巻の壁に、最大出力の『無効化波動』を叩き込んだ。

 狙いはどんぴしゃだった。竜巻が嘘のように鳴りを潜め、俺と帝王の周囲から完全に雲散霧消うんさんむしょうしたのだ。

 初めから気付いていれば話はもっと簡単だった。泥土魔人の泥沼のように、凍氷魔人の氷のように。竜巻の突風にも『無効化波動』は有効だったのだ。これでもう邪魔されることなく自在に空を飛べる。俺はマーレイとの『上下』の関係から『上下左右前後』の関係を得て、一気に形勢を逆転した。

 竜巻を消すことによるメリットはとてつもなくでかいが、同時にデメリットもある。火炎魔人アシュレや火の玉どもの参戦だ。一刻も早く魔族の支配者を倒さなければならない。俺は飛翔して奴の背後に回るように急接近した。

「ちょ、ちょこざいな……!」

 帝王があわてている。俺は錫杖の攻撃範囲を見極め、巧妙に外すと、死角から手刀を振り抜いた。マーレイの視線が衝撃波の到来に間に合わない。振り向いた奴の錫杖もろとも、袈裟斬りに右腕を寸断した。真っ赤な血飛沫ちしぶきが上がり、魔界の王者は遂に地面に倒れた。

 勝ったか? 俺は肩で息をしながら、額の汗を拭った。帝王は痛みにも悲鳴を上げず、魔族の頂点に立つものとして威厳を見せた。四つん這いならぬ三つん這いで、震えながら地面を手でかきむしっている。俺はそのそばに降りた。

「どうやらあんたは京と同じで、他人の傷は治せても、自分のそれは治療できねえようだな。降参するなら命だけは助けてやるが、どうする?」

「……のれ……」

「え?」

 冠が転げ落ち、禿頭とくとうが露わになったマーレイは、上体を起こして俺を睨みつけた。まるで鋭利な短剣のような視線。

「おのれ……おのれ……!」

 その顔が左右に裂けた。中から現れたのは、神話やテレビゲームでお馴染みの龍の頭だった。

「うわあっ!」

 真っ黒い大蛇の化け物が、まるでそれまでの衣を捨てるかのように脱皮して、天へと駆け上っていく。額から突き出たヤギのようなつの、四本の足と巨大なコウモリの翼、長い尻尾しっぽ。それはまさしくドラゴンだ。

『おのれぇっ!』

 帝王は人間の体を捨てて、新たな姿を手に入れた。これは超人類の成れの果てか、はたまた魔界の帝王の座に就くものの不思議な力か。ともかく、奴はこちら目指して急降下してくる。全長40メートルはあろうかという黒龍が、鋭くまがまがしい牙をぎらつかせ、俺を食い殺そうとしてきた。

「うわっ!」

 俺は命からがら逃げ出した。俺の元いた場所を、上下の牙が合わさって虚空こくうを噛む。人間を丸呑みにでも出来そうな大きな口が、俺の恐怖をかき立ててこちらに追いすがってきた。

「ちくしょう、これでも食らえ!」

 俺は宙を舞い上がりながら右の手の平を向けて、『無効化波動』をぶち決めた。青い光弾が漆黒しっこくうろこに命中する。だがそれは俺の希望と共に砕けて弾けた。まるで効き目がなかったのだ。

『殺す……殺す……殺す……!』

 帝王の分厚い、聞く者の心を絞殺するような叫び声が、俺の頭の中に響いてきた。俺は腹を据えた。それならこっちだってとことんやってやる。ドラゴンと真っ向勝負、喧嘩をしてやろうじゃないか。
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