超人類無双~俺は進化し続ける

よなぷー

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……などと考えていたときだった。

『死ねぃっ!』

 黒い大蛇が大口を開けた。その喉奥のどおく紅蓮ぐれんの炎が湧き起こる。俺は動物的本能から危険を察知し、その正面にとどまる愚を避けた。急上昇する。

 直後、元マーレイは空中に向かって凄まじい火炎を吐き出した。人間界における火炎放射器を思い出させるような――それを数十倍にパワーアップさせたがごとき、高い指向性しこうせいを持つ業火ごうか。それは龍の首の傾きに追従ついじゅうし、こちらへと迫った。

 俺は完全に回避出来ず、両足の膝から下を帝王の火の柱に捉えられる。一瞬で俺の足は炭化し、深甚しんじんな痛みと共に剥離はくりして落ちていった。だいぶその勢いを落とした回復能力は、今までに比べて極めてゆっくりと両足を治癒していく。

 治りが遅いということは、それだけ激痛も長引くということだ。俺は目まいさえ起こしそうになりながら、爆発乱舞する苦痛に歯を食いしばって空を飛翔する。炎は吐き出し終えたのか、いったん止んだ。

 あれは駄目だ。あんなのに全身を焼かれたら一瞬で消しずみになってしまう。俺はドラゴンが再度の火炎放射を行なう前に、この戦いに蹴りをつけようと考えた。

 右手刀を振り抜いて、鋭利な衝撃波を龍の胴体に叩き込む。だが奴の硬く黒い鱗はびくともせず、ただその体表をきらめかせただけだった。俺はようやく元に戻った両足――赤ん坊の肌のように頼りなかったが――を合わせ、空気抵抗を少なくして元マーレイの後頭部にしがみつかんとした。

 しかし黒龍はその巨体に似合わず俊敏だ。こちらの動きを読んでおり、尻尾で俺を叩き落とした。

「くっ!」

 俺は強烈な打撃に脳味噌のうみそが揺れたか、しばし頭がぼやけた。意識を取り戻したときには、森林の焼け跡にいつくばっている。俺は頭上を見上げた。まずい、帝王がまた大口を開けてきている。その奥で種火たねびがくすぶり、今にも喉から炎を投げつけてきそうだ。

 絶体絶命――

……いや、待てよ。俺は単純な事実に気がついた。奴の鱗に攻撃を弾かれるなら、それとは別の場所を狙えばいい。もっと弱くてもろいところを――口の中を。

 俺は手刀一閃いっせん、黒龍の赤い喉へと衝撃波を撃ち込んだ。その考えは大当たりだった。怪物は火の代わりに鮮血をぶちまけて、大きく反り返ったのだ。激しい咆哮ほうこうが大地をも震わせる。俺は鱗のない腹の部分が見えると、そこにまた衝撃波を発射した。その皮は深々と切り裂かれ、肉ごと断たれて更なる出血を強制される。

『がはぁっ!』

 はっきりそれと分かる悲鳴。やった。俺は土壇場どたんばでの逆転に気力を盛り返した。調子に乗って飛び上がり、ドラゴンの顎へアッパーカットを食らわせる。硬いものの折れる音がして、破砕された牙が血潮ちしおと共に地面へ落下していった。

『おのれ……おのれっ!』

 元マーレイは闇雲に前の両足をぶん回した。そんなもん当たるかよ。

「がはっ!」

 当たった。俺は腹から胸にかけてを鋭い爪に引っかかれ、噴水のように出血する。激痛を拡散するその傷をかばいながら、俺は雄叫おたけびを上げ、巨龍の攻撃範囲から脱出した。

 死闘になった。俺は血まみれの胸に手を当てて押さえつつ、手刀を振り抜く。今度は黒龍の右目を直撃し、その視界の一方を奪い取った。

『うがあっ!』

 とはいえ帝王には『境界認識』があるため――怪物に変貌してもまだ使えているのかどうかはともかく――、あまり有効打とは言えない。ただ悲鳴を聞く限りでは精神的ダメージの方はかなり深そうだった。

 爪に傷つけられた箇所が半ばほど回復する。もう少しもってくれよ、俺の体。俺はたくみに空を飛行し、ドラゴンの羽を手刀衝撃波で切り刻んだ。宙を自由自在に舞っていた帝王だったが、片方の翼をもがれてそうもいかなくなった。物凄い勢いで焼け野原に突っ込み、頭から墜落する。

 だがその寸前、鞭のようにしなる巨大な尻尾しっぽが一振りされ、俺の頭を殴りつけていた。

「ぐぅっ!」

 俺は意識の半分を持っていかれ、きりもみを描いて落下する。地上ギリギリ、頭がかぼちゃのように割られる寸前で、どうにかブレーキをかけた。だがそれが精一杯だ。俺は森林の焼け跡に降下して四つん這いになった。混濁こんだくする意識の中、汗と血にまみれ、俺はどうにか思考を回復させようと首を振る。

 と、そのときだった。

「研磨!」

 懐かしい声と気配が『境界認識』の中に飛び込んできた。誰だったっけ、と思い返す間もなく、そちらの方角から白い光弾が飛んでくるのが見えた。やばい、『無効化波動』か? 今撃たれたら帝王を倒す力が失せてしまう。俺は地べたを這いつくばって逃れようとしたが、無情にも直撃を受けてしまった。ちくしょう……!

「……って、あれ?」

 俺を包み込んだのは『無効化波動』などではなかった。胸や頭から苦痛が取り除かれ、全身に活力が一気に沸き立つ。かすんでいた視界が元に戻り、心臓の鼓動が安らかになった。元気一杯になった俺は立ち上がって、助けてくれた相手を見る。

 神界の最高位に立つ者、女王ハンシャだった。空中にミズタやマリ、レンズを引き連れて、勇ましい鎧姿と編みこんだ銀の長髪とを風になぶらせている。その背後には大勢の神族たちが飛び交い、森の消火作業に当たっていた。

「研磨、よくここまで頑張りました。後は私が引き継ぎます」

「ハンシャ! 何で来たんだ?」

 俺の叫びに、彼女は意外そうな顔をした。

「何で、とは? 貴方を助けに来たのですよ」

「馬鹿野郎、おめえが死んだら神族は全て息絶えるんだろう? それなのにのこのこ戦場に出てくるなんて……!」

 ミズタがばつが悪そうに、両手をもじもじと組み合わせた。その傷はマリやレンズ同様治っている――ハンシャに手当てされたのだろう。

「だって、魔界の帝王に研磨一人で勝てるとは思えなかったから……」

 マリが言い添えた。むしろ胸を張る風だった。

「女王様とはこの戦場とみやことの中間地点で遭遇しました。ハンシャ様は既に自身で決断なされて進発されていたんです。私はミズタと一緒に女王様に進言しました。火炎魔人アシュレ、帝王マーレイの進軍は、鏡さん一人じゃとても抑えられない、と。そこでとにかく不眠不休で、この場所まで飛んできたんです」

 見くびられたもんだ。まあ、ちょっとだけやばい状況だったがな。ちょっとだけ。

……というか、それよりも。

「アシュレは、奴の火の玉の軍勢はどうしたんだ? ここまで来る間に遭遇したはずだろう?」

 ハンシャ女王は首を横に振った。

「いいえ、森が燃えているだけで、火炎魔人もその部下たちもいませんでした」

 何? ……そんな馬鹿な。あいつらはドラゴンに化けても戦い続ける指導者をほったらかして、どこかへ行っちまったってのか? それとも、帝王のマーレイが人身を捨てた際に、あえなく絶命したか。

「研磨!」

 ミズタが叫んだ。俺はぱっと飛び上がる。その足元すれすれを、黒龍の尻尾がぎ払っていった。危ねえ。まだ戦いは終わっていなかったのだ。
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