彼女は小石

よなぷー

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部活見学01

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「おーい篤彦、早くしろよ!」

「待ってよ保、速過ぎるよ」

 入学6日目。僕――田辺篤彦たなべ・あつひこ渡来保わたらい・たもつと一緒に各部活を回っていた。今目指しているのは8件目だ。

 入学2日目の体育館における部活動紹介で、ひととおりのクラブが新1年生に披露された。そこでは軽音楽部と吹奏楽部のライブまであった。あれはなかなか楽しかったなあ。

 しかし、上級生の新人獲得にかける熱意はそれだけにとどまらない。登校・下校時のチラシ配布、放課後の部活見学など、あの手この手で1年生の確保にかかってくる。文字どおり、必死の争奪戦だった。部活をにぎわわせたいのはどこも一緒みたいだね。

 保の背中を追いかけて廊下を走っていると、ポケットの小石さんが尋ねてきた。

「篤彦さん、何かお目当ての部活動はあるのですか?」

「ううん、特に。ただ、3年間何もしてないと大学進学の際にちょっと困るし、何らか在籍してはおきたいんだけど……」

「中学校ではサッカー部に入ってたんですよね?」

「うん。運動系だね。下手だったけど、まあ内申書の足しにはなったかな――3年進級時に『勉学に邁進まいしんするため』に退部しちゃったけどさ」

「今度も運動系に入るんですか?」

 そうだなあ、どうしよう。運動系。たとえば野球部、バスケ部、陸上部、サッカー部、卓球部……。駄目だ、どれもピンと来ないや。

「いや、今度はもっとのんびりしたいんだ。何だかこう、落ち着いて羽を伸ばせるような、そんな部活……」

 そこで口をつぐんだ。保に追いついたからだった。彼は静止して、目の前のツインテールの美少女に話しかけている。

「あれ、美穂じゃん」

「はぁー?」

 目の前に多奈川美穂たながわ・みほさんがいた。手にプリントを持って、扉の前で保と鉢合わせになっている。

「何よあんたー。誰よー」

 保は大げさに肩をすくめてみせた。

「俺たち同じクラスじゃん。俺、1年A組の渡来保。お前は入学式で挨拶してた多奈川美穂で、クラスメイト。だろ?」

「何で下の名前でなれなれしく呼ぶのよー」

「美穂は美穂じゃん」

「はぁー?」

 僕も会話に加わろうとした。2人を等分に見渡せる位置に、回り込んで立つ。

「や、やあ……多奈川さん」

「あーっ! 覗き魔ー!」

 多奈川さんの怒っていた顔がさらに険しくなった。僕を貫かんばかりに指差し、瞳に憤怒の炎を燃やす。

「あたしの待ち受け勝手に見といて、何で謝らないのー? 最っ低ー!」

 これにはさすがの保も憤慨したのか、低い声で注意した。

「覗き魔って……。スマホを拾って保管してくれてたんだろ、篤彦は。お礼とか言えねえのかよ」

「盗み見した時点で相殺そうさいよー! 誰が言うもんかー!」

「何だよその態度は!」

 僕は2人をとりなそうとする。彼らが喧嘩するにしても、その原因が僕にあるのは嫌だったのだ。

「まあまあ、2人とも、落ち着いて。……それよりこの教室に用があるの、多奈川さん」

「んー?」

「ここ、『読書部』の部室だよ」

 3人の視線が『読書部』と打たれた室名札に向けられる。そうなのだ。僕と保は8件目、『読書部』とやらを見学にここまで来たのだった。

 多奈川さんがそっぽを向く。膨れっ面だった。

「そうよー。どんな部活かなって、名前で興味をひかれたから一応覗こうと思ってー」

 保が引き取る。どうやらほこを収めたようだ。

「決まりだな。じゃあ3人で一緒に中入ろうぜ」

「何であたしがあんたらとー」

「いいじゃんいいじゃん。旅は道連れだろ」

「むー……」

 多奈川さんは腕を組み、左足の先をぱたぱた上下させてしばし思案している。だが、結論は保と同じだったらしい。

「いいわよー」

 保は指を鳴らそうとして失敗した。が、そのことを気にすることなく扉をノックする。

「どうぞ」

 中から男の声が返ってきた。僕のクラスメイトはドアをゆっくり横に引く。

「お邪魔しまーす……」

 室内は中程度の広さだった。真ん中に長テーブルが四つ寄せ集められている。そこに椅子が8脚並び、向かい合うように3人の男女が本を静かに読んでいた。三方の壁には本棚がしつらえられており、国産作家の文庫本がぎっしりと詰め込まれている。窓が開いていて、桜の最後の花びらが柔らかな風とともに室内にふわりと舞い降りてきていた。

 何だろう、非常におもむきがある。まるで図書館のミニチュア版だ。

「閉めたまえ」

 読書していた一人、眼鏡の学生が、本を閉じてこちらを見上げた。保が慌てて、「すいません」とドアをもとに戻す。僕は恐る恐るうかがった。

「あの、3人で部活見学に来たんですけど……」

 眼鏡の生徒は立ち上がる。背が高いなあ。僕ら3人に微笑を向けた。

「それはそれはようこそ、読書部へ。まあかけたまえ。空いてる席ならどこでもいいから」

「は、はあ……」

 僕たちは腰掛けた。眼鏡の生徒は胸に手を当てる。

「僕は読書部部長の3年C組、大蔵秀三おおくら・しゅうぞう

 大蔵部長は単純に言って二枚目だった。端正な顔立ちで、野暮ったい黒縁眼鏡を外しさえすれば、女子からのモテ度が急上昇しそうだ。長い睫毛と高い鼻筋が印象的である。ちなみに髪の毛は今どき七三分けだ。

 印象としては「図書館長」かな。

「こちらの黒いポニーテールの子は副部長の2年E組、峰山香織みねやま・かおりくん」

 峰山副部長は黒いポニーテールで、切れ長の目が鋭利な光を放っている。難しそうな顔をしていて、目鼻口は調和の妙があった。薄い唇は引き結ばれている。座っている姿だけでも、グラビアアイドルのようにスタイルがいいことが判別できた。

 ぱっと見、「愛嬌のないグラビアアイドル」といったところ。

「こちらのショートカットの子は1年A組、河合留美かわい・るみくん」

 1年A組? 僕らのクラスじゃないか。こんな子いたっけ?

 彼女は漆黒のショートカットで、ごく一般的かつ平凡な顔立ちである。よく見れば美人、といった感じもするが、希少価値を訴えるほどでもない。知的な輝きの双眸そうぼうに長い鼻で、卵形の輪郭をしている。峰山副部長の後だからかもしれないが、これまた平均的な胸のボリュームだった。

 彼女の印象を一言で言えば、「平凡」だろう。

 大蔵部長は胸を張った。まるでオーケストラのコンサートをやり遂げた指揮者然としている。

「以上3名が、読書部の部員全員だ」

 保が即座に失礼なツッコミを入れた。

「少なっ!」

 確かに少ないね。3人って、この頭数で部活が成立するんだろうか。

 多奈川さんは唇を尖らせた。

「ちょっと待ってよー。何で地味子がいるわけー」
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