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そこのモンスター社員、今すぐ退職届を書きなさい!

第3話 痴漢③

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「綾坂さんのデスクは此方です」

東薔薇さまはどこまでも優しくエスコートしてくださる。彼の甘い笑顔と上品な香りに私は幸せを感じていた。この様な美男子から丁寧な扱いを受けた経験は皆無なのだ。

その途中、多くの諸先輩方と目が合い軽く会釈したけど、皆さん冷ややかな……いえ、少々哀れみの視線を向けておられる。

ほほう。可哀想だと思ってる様ね。やはりそれほど難易度の高いお仕事なのか。うふふ。

と、前向きにルンルン気分で歩いていたけど彼はそのままフロアーを退出してしまう。

え? どこへ? 東薔薇さま?

どんどん奥へ奥へ突き進んで行く彼。そして立ち止まった。倉庫の様な古めかしい扉の前だ。

「あの?」
「ここが特命係の事務所になります。どうぞ」

それはコンクリートの壁で覆われた小さくて暗くてむさ苦しい部屋だった。先程までいたフロアーとは別世界。まるでタイムスリップしたかの様だ。喩えるならカビ臭い地下牢……

「こ、これが特命係の事務所ですか?」
「はい。センシティブな業務だからね」
「なるほど。扱いに細心の注意を要するからですね。かしこまりました」

ん? その割には顔認証システムもないし、非常階段からフリーパスっぽいけど? ……ま、ま、いっか。大変ショックだけど私のサクセスストーリーとしてはここから這い上がるのもありだ。

「綾坂さんのデスクはここです。PCも会議用デバイスもセット済みだよ。あ、業務用携帯電話もね」
「何から何まで御用立て頂きありがとうございます」

けれども気になることがある。誰もいないのだ。

「伊集院係長は……外出の様ですね」

デスクはたったの二つ。中央に会議用テーブルが鎮座し、あとはスカスカの棚にファイルが少々。壁のカレンダーホワイトボードには汚い字でと記されている。今日の日付けだ。

ち、痴漢……ってなに?

物凄く気になるワードだけど、直属の上司である伊集院係長なる人物が不在だと確認のしようがない。

その上司を待つ間に東薔薇さまがPCを立ち上げ、メールやネットなどサクッと設定してくれた。

彼から聞いたお話では、係長は元刑事で一年半前に専務から直接ヘッドハンティングされて中途入社したらしく、社内でも一目おかれてる存在の様だ。

伊集院翔さん。素敵な名前だ。セレブチックで専務取締役のお気に入り。私はアシスタントだけど貴方のお目付役でもある。逐一、青葉マネージャーに報告を命じられてるのだ。果たしてどんな御方なのかな……
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