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11話 はい?落とすって何を…?

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「綾坂さん、ちょっといいかしら……」

いきなりバンっとデスクにファイルを投げつけられた。気づけば私は絵梨花Grに囲まれている。

皆さん敵意むき出しだ。見下した表情の絵梨花。腕組みして眉間にシワを寄せながら威圧するお局。意味不明な軽蔑の眼差しを向ける新卒女子。人を小馬鹿にした薄ら笑いで阿保丸出しの同期男子に後輩モブ男子。

つまり、東薔薇主任以外の“敵”が総攻撃を仕掛けてきたかの様相を呈している。

──今日はそんな気がしていた。怪文書に対する圧力なのか、全員出勤してるからタイミングもいいのだ。

「あなた、謝恩会の会計ですよね?何を呑気にしてるのかしら?」
「……すみません。昨日前任と引き継ぎをして、本日東薔薇主任に相談しようと思っていました」

すると敵がお互いの顔を見合わせ、苦笑した。

「ホホホホ……主任はあなたのようなは苦手だと仰って~。わたくしに間に入って欲しいって頼まれましたの~」

あぁ、そうですか。どうせ自分から近寄ったのでしょう?まぁいいけど。

「綾坂!そのファイルに目を通して全て絵梨花様に報告しなさい!」
今度はお局ですか。絵梨花の太鼓持ちやって悔しくないの?先輩なのに。

「少しは自覚持ってくださる?あなたのような空気読めない人がいると、皆さんが迷惑するの~」
「気をつけます。ご配慮ありがとうございました」
「じゃあ、よろしく~」

ふんっ!と、お局から捨て台詞を吐かれ、包囲網は解かれた。敵はそのまま戦勝祝いでもするかのように自販機コーナーへサボりに行く。私は見逃さなかった。すぐに給湯室へ直行だ。

『ララ様、これが絵梨花です』
『うふふ、自信たっぷりって感じで倒しがいがあるわね。楽しみだわ。あ、それと男性陣は花の瞳を見て驚いてたわよー』
『そうなんですか?気づきませんでした』

ちなみに、“ララ化”した私は視力も回復して、眼鏡の必要はなくなっていた。でも、いきなり美しい裸眼を披露するのは早いとの判断で、ララ様のお部屋から頂戴した似たような伊達眼鏡をしてカモフラージュしていたのだ。


オーッホホホホホ……

自販機の前で、けたたましい笑い声が聞こえてくる。給湯室の隙間からそっと耳を澄まし、すかさず携帯を取り出し録画を始めた。
 
「東薔薇主任と御相談ってウケましたわ、オホホ」
「全く厚かましいわ。主任は迷惑がってるのにね」
「それにしても絵梨花様の迫力、怖かったですう」

まぁ想定内の会話だ。でも男性陣は意外な発言をした。

「あいつ、あんな顔だったっけ……?」
「そうそう、僕も思った。あんな目だった?」
「はぁ?なに言ってるんだか」
「そうですよ。いや、まさか主任と会うつもりで、お化粧してたとかー!?」
「オーホホホホ、ありえな~い。あの干物女が~」

間違いなく彼らは正常性バイアスが働いている。自分にとって不都合な情報を無視して私を過小評価してるのだ。綾坂花が東薔薇主任に色香を漂わせて気に入られようとするはずない。そんな無駄な努力など彼女はしない。だって“干物女”だから──

「おや、お揃いで。干物女がどうしたって?」

えっ、あ、あれは……!?

『誰なの、花?』
『ひ、東薔薇主任だ……』

突然現れた真打ちといったところだろうか、ベンチに座っていた五人が一斉に席を立つ。特に絵梨花はキャラ変したかのように、身体をクネらしながら主任へ近づいていく。

「あら~東薔薇主任。ご機嫌いかがでしょう~」

気持ち悪いくらいに声も半オクターブ高い。

「会計のこと、わたくしにお任せくださいね~」
「ん?あぁ、だから干物女の話題だったのか」
「ええ。よぉく指導して参りましたの。お忙しい主任に無謀にも打ち合わせしようとしてたのですぅ」
「まぁ、彼女とは口聞いた記憶がない。間に立って貰って助かるよ」
「はいぃぃ。わたくしもお役に立てて嬉しいですわ~ん」

さりげなく主任にボディタッチしながら満面の笑みで愛想振りまくる絵梨花は必死そのものだ。

『東薔薇って絵梨花に話合わせてるだけかもね。役員の令嬢ってのもあるし、謝恩会も彼女の力を借りた方が上手くいくって計算してるのよ』
『そうなんですか?』
『落とすわよ。彼を』

はい?落とすって何を……?

『花に惚れさせるの。東薔薇を』

ララ様、なにを仰ってるのですか?女性陣の憧れの的である彼が私に惚れるなんて考えられないですって。それに私も彼のこと、まったく好きじゃありませんから!




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