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Ⅲ.貴方様と私の計略 ~ 婚約者 ~
131.辺境伯の胸の内(ユミナ視点)
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触れてしまえば止まれない。そんな予感がある。
―――少しやりすぎてしまったな
ミリィの部屋から執務室への道すがらそんなことを思う。
最初は、あれ程長く深い口づけをするつもりはなかった。
少しの焦燥から、深い口づけをしてしまったのが悪かった。
最初こそ戸惑いが強かったが、おずおずと私の動きに応えてくれた辺りから箍が外れてしまった。
少し甘く感じる唾液。時折漏れる小さな甘い声。
どれも私の理性を刺激し溶かしていくものだった。
彼女の身体へと手を這わさない為に、ミリィの小さな手を握りしめていた。
多分、触れてしまえば、止まれない。そんな予感があった。
―――婚姻するまでは・・・駄目だよな・・・
貴族の中には、婚前に深い仲になる者もいる。
あるいは、純潔さえ奪わなければとその手前まで手を出す者もいる。
どちらも、あまり褒められたものではない。
―――私の場合は、何があるかわからないし・・・
婚姻までに何かがあれば、男はともかく、令嬢の未来は苦難なものになる。
特に深い仲になってしまえば、未婚故に傷ものとされ次の婚姻が難しくなる。
―――まぁ、新興貴族はそれ程五月蠅いわけではないが・・・
そんなことを考えていれば、執務室の扉の前にたどり着いた。
気持を切り替えるように小さく息を吐き出し、扉を開ければハレスの他にマルクスがいた。
「・・・マルクス何かあるのか?」
執務机へと腰を落ち着けながら、問いかければ「んー」と気のない返事が返ってくる。
机にはシュトラウス家の印が入った便箋が用意されていた。
私は、とりあえずマルクスの事はほっておき、抗議の手紙を認めることにした。
―――さて、どう書いたら良いものか。まぁ、ありのままを書くしかないか。
テスタメント侯爵家へマグノリア嬢に関する抗議と書き連ねていく。
次にこのようなことがあれば、王家へと奏上する旨も書き添えておく。
何度か読み返し、問題が無いことを確認する。
それを封筒へと収め、辺境伯家の印で封をする。
「ハレスこれをテスタメント侯爵家へ」
「かしこまりました」
私から手紙を受け取り、ハレスは部屋をあとにする。
それを見計らったようにマルクスが口を開いた。
「一線は守れよ」
「ああ」
その一言に短く答えれば、大きくため息をつかれてしまった。
「分かっているならいい。それより、一つ確認したいことがあるんだ」
「なんだ?」
「旦那は秘薬に気付かなかったのか?」
マルクスの問いに、私はその時のことを思い出す。
―――マグノリア嬢が庭園へと押し入った時・・・
「特に気付いたことは・・・いや・・・確か一瞬だが違和感を感じた気がするな。何かを確かめる前にミリィの行動に気をとられて、有耶無耶になってしまったが」
「どんな違和感だったか思い出せるか?」
再度私は、あの時の事を思い出す。
彼女が押し入った時は、何も感じなかった。
感じたのは彼女が私達のテーブルに近づき、直ぐ側に立ったときだ。
何かが私の警戒網に引っかかったんだが・・・何だったか・・・
「どんな・・・かは、ちょっと分からないが、多分あれは気配?いや雰囲気か?それに違和感を感じたんだと思う。以前の彼女とも違った気がするし、通常の令嬢のものとも違った気がする」
私の返答に、マルクスは眉根を寄せ何事かを考えているようだ。
「お嬢は多分香りで気づいた。旦那は違和感を感じた。俺やヘーゼルは力の動きで気がついた」
そんな呟きが漏れ聞こえてくる。
―――力の動き?秘薬の香りではないのか?
「旦那。この秘薬はちょっと厄介かもしれない」
その一言を残し、「確認したいことができた」と部屋をあとにした。
―――自由だな。まぁいいが・・・
とりあえず、秘薬については彼らに任すことにし、私は私の仕事をする事にする。
領地運営と国境警護に関する報告書と提案書、要望書や嘆願書に目を通し決済していく。
―――少しやりすぎてしまったな
ミリィの部屋から執務室への道すがらそんなことを思う。
最初は、あれ程長く深い口づけをするつもりはなかった。
少しの焦燥から、深い口づけをしてしまったのが悪かった。
最初こそ戸惑いが強かったが、おずおずと私の動きに応えてくれた辺りから箍が外れてしまった。
少し甘く感じる唾液。時折漏れる小さな甘い声。
どれも私の理性を刺激し溶かしていくものだった。
彼女の身体へと手を這わさない為に、ミリィの小さな手を握りしめていた。
多分、触れてしまえば、止まれない。そんな予感があった。
―――婚姻するまでは・・・駄目だよな・・・
貴族の中には、婚前に深い仲になる者もいる。
あるいは、純潔さえ奪わなければとその手前まで手を出す者もいる。
どちらも、あまり褒められたものではない。
―――私の場合は、何があるかわからないし・・・
婚姻までに何かがあれば、男はともかく、令嬢の未来は苦難なものになる。
特に深い仲になってしまえば、未婚故に傷ものとされ次の婚姻が難しくなる。
―――まぁ、新興貴族はそれ程五月蠅いわけではないが・・・
そんなことを考えていれば、執務室の扉の前にたどり着いた。
気持を切り替えるように小さく息を吐き出し、扉を開ければハレスの他にマルクスがいた。
「・・・マルクス何かあるのか?」
執務机へと腰を落ち着けながら、問いかければ「んー」と気のない返事が返ってくる。
机にはシュトラウス家の印が入った便箋が用意されていた。
私は、とりあえずマルクスの事はほっておき、抗議の手紙を認めることにした。
―――さて、どう書いたら良いものか。まぁ、ありのままを書くしかないか。
テスタメント侯爵家へマグノリア嬢に関する抗議と書き連ねていく。
次にこのようなことがあれば、王家へと奏上する旨も書き添えておく。
何度か読み返し、問題が無いことを確認する。
それを封筒へと収め、辺境伯家の印で封をする。
「ハレスこれをテスタメント侯爵家へ」
「かしこまりました」
私から手紙を受け取り、ハレスは部屋をあとにする。
それを見計らったようにマルクスが口を開いた。
「一線は守れよ」
「ああ」
その一言に短く答えれば、大きくため息をつかれてしまった。
「分かっているならいい。それより、一つ確認したいことがあるんだ」
「なんだ?」
「旦那は秘薬に気付かなかったのか?」
マルクスの問いに、私はその時のことを思い出す。
―――マグノリア嬢が庭園へと押し入った時・・・
「特に気付いたことは・・・いや・・・確か一瞬だが違和感を感じた気がするな。何かを確かめる前にミリィの行動に気をとられて、有耶無耶になってしまったが」
「どんな違和感だったか思い出せるか?」
再度私は、あの時の事を思い出す。
彼女が押し入った時は、何も感じなかった。
感じたのは彼女が私達のテーブルに近づき、直ぐ側に立ったときだ。
何かが私の警戒網に引っかかったんだが・・・何だったか・・・
「どんな・・・かは、ちょっと分からないが、多分あれは気配?いや雰囲気か?それに違和感を感じたんだと思う。以前の彼女とも違った気がするし、通常の令嬢のものとも違った気がする」
私の返答に、マルクスは眉根を寄せ何事かを考えているようだ。
「お嬢は多分香りで気づいた。旦那は違和感を感じた。俺やヘーゼルは力の動きで気がついた」
そんな呟きが漏れ聞こえてくる。
―――力の動き?秘薬の香りではないのか?
「旦那。この秘薬はちょっと厄介かもしれない」
その一言を残し、「確認したいことができた」と部屋をあとにした。
―――自由だな。まぁいいが・・・
とりあえず、秘薬については彼らに任すことにし、私は私の仕事をする事にする。
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