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第4部 カント決戦編

第53話 相対!リュービとカンウ!

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 ソウソウ陣営には逐一、エンショウ軍の情報が伝えられていた。

 今も偵察より戻った橙色の髪に、女顔の男子生徒・ソウジンが報告に入ってきた。

「報告します。エンショウ軍第一陣、中央校舎に移動を開始、その数50~60人。第二陣まもなく移動開始します」

 報告は途切れることなく続けられる。赤髪に、緑玉の首飾りをつけた男子生徒・ジョコーが部屋に入ってくる。

「第五、第六陣、移動開始。その数は…」

「いや、もう数の報告はいい」

 ソウソウは報告を途中で切ると、思案へと移った。

「エンショウ軍は予想以上に多いな。第二渡り廊下が落ち、これだけの兵が侵攻すれば、第三渡り廊下のウキンたちが孤立するかもしれん。

 …ジュンユウ、第二渡り廊下のジンシュン隊をウキンへの援軍に移動するよう伝えろ」

 その指示にジョコーが口を挟んだ。

「お待ちください。それではジンシュン隊が敵の眼前を横断することになります。それではすぐ餌食えじきとなります」

 だが、それに対し、おさげの女生徒・ジュンユウは冷静に返した。

「そうですね、その餌に敵が食いつけば釣り上げることもできますね」

「そういうことだ」

 我が意を得たりと、ソウソウはニヤリと笑った。

「よし、他のものたちは敵が動くまで休憩していろ」



 エンショウ陣営~

 茶髪に金のネックレスをつけた男子生徒・カクトが特ダネとばかりにエンショウの前に駆け込んできた。

「エンショウ様、ソウソウ軍の一軍が我が軍の前を悠長にも通過しているようです。一気に蹴散らしましょう」

「そうね。ガン…ブンシュウ、それとリュービ。敵を蹴散らしてガンリョウの仇を討ちなさい!」

 エンショウに指名された俺とブンシュウは返事をして出陣した。

「さぁ、者共急ぎなさい!ソウソウを蹴散らし、ガンリョウを解放するのです!」

 ショートの桃色髪に、白のブレザー、左に馬の装飾の肩鎧をつけた長身の女生徒・ブンシュウは全速力で敵部隊を目指した。

 一方、俺たちの部隊はその後を歩いて向かった。

 今さらジンシュン軍を蹴散らしたところで戦局は大きく変わりはしない。それよりもわざわざエンショウ軍の前の通過させたソウソウの判断の方が俺は気になった。

 聞くところによると、ジンシュンはソウソウ軍古参の将の一人でソウソウからの信頼も厚いが、後方支援が得意で、最前線で敵をなぎ倒していくタイプではない。ソウソウがそんな人物を不用意に敵前にさらしたりしないはずだ。

「リュービ殿、我らも急がなければブンシュウ軍に手柄を独り占めされてしまいます」

 どんどんブンシュウ軍に引き離されている状況に苛立ったのだろう、部下の一人からそんな提案を受けた。

「いや、俺たちは急ぐ必要はない。おそらくあそこに目指すべき手柄はない」

 俺はその部下を押し止めて、速度を維持し続けた。

 この部下たちも元はガンリョウ軍、エンショウ軍は全体的に個人の手柄を優先し過ぎる。

 それが士気の高さに繋がるが、一度崩れればもろい。ブンシュウ軍が崩れなければいいのだが。

 一方、ブンシュウの急接近を監視するものたちがいた。ソウソウとジョコーの部隊であった。ジョコーはソウソウに判断を仰ぐ。

「ソウソウ様、ブンシュウ軍がジンシュン隊の追撃を開始しました。追いますか」

「まだだ」

「ブンシュウ軍、ジンシュン隊に接触、攻撃を開始した模様です」

「よし、これより全力でブンシュウの背後を撃つ!突撃!」

 ソウソウの影に気付くこともなく、ブンシュウ軍はジンシュン軍を蹴散らしていった。

「はっはっは、脆いですわ、ソウソウ軍!」

 ブンシュウの強襲を受け、ジンシュンの部隊は散り散りに逃げたした。

 しかし、逃走するジンシュン軍と入れ替わるようにソウソウ軍の反撃が始まった。

「ブンシュウ様、背後よりソウソウ軍です!」

「この私を罠にかけたつもりかしら。小癪ですわ、全軍ソウソウを蹴散らしなさい!」

 赤黒い髪をなびかせて、ソウソウは部隊への指示を飛ばす。

「ブンシュウを捕らえろ!」

「あれはソウソウ!奴を捕らえれば全てが終わる!

 皆のもの私に続きなさい!あの赤黒い髪の露出狂を捕らえるのです!」

「ブンシュウ様、お待ちください!一人で行かれては危険です!」

 部下の制止も振り払い、ブンシュウは一人、ソウソウ目指して敵陣を切り開いていく。

「ノロマは後からついてきなさい!ソウソウ、覚悟!」

 先行するブンシュウはソウソウの目前にまで迫る。だが、その拳を遮るものがいた。

「覚悟するのはお前だ、ブンシュウ!」

 赤髪の男子武将・ジョコーによってブンシュウの攻撃は打ち払われた。

「邪魔よ、おどきなさい!」

「邪魔はお前だ!」

 続いて突撃したのは小柄な、空手着姿の女生徒であった。彼女はキョチョ、怪力自慢のソウソウの護衛隊長だ。

「取り囲んだくらいで私は負けませんわ!あなたたち全員を倒してソウソウを討つ!」

 俺の元に前線のブンシュウの戦況が届く。やはり、ソウソウの罠であったか。

「ブンシュウがソウソウ軍に囲まれたか!

 行くぞ!俺たちが行けば反対にソウソウを挟み撃ちにできる」

 俺は部隊に、ブンシュウ救援の為の急行指示を出した。だが、俺たちの進軍を阻む部隊が現れた。

 その部隊の先頭には、美しい黒髪をそよがせて、長身の女生徒が立っていた。

「待ちなさい!あなたたちの相手はこの私です」

「カンウ!」

 かつて兄妹の誓いをした女性が、今は俺の敵として立ちはだかっている。

「兄さん、ソウソウさんから何があったのかを聞きました。あの話は真実ですか?」

 やはり、ソウソウから話は聞いているか。幻滅されても仕方がないな。

「ああ…真実だ…」

「そんな、兄さん…我慢できずソウソウさんに襲いかかって、返り討ちにあった挙げ句、調教されてソウソウさんでしか興奮できない体になってしまったんですね」

「いやそれは作り話だ!」

 ソウソウめ、デタラメな作り話をカンウに吹き込むんじゃない。いや、ソウソウ見るとちょっと思い出して照れるけどさぁ…

「兄さん、私はあなたが誰と恋仲になろうと、どういった行為をしようと構いません。

 ですが、私はあなたを大望ある人物と見込んで義兄妹の契りを結びました。ただの痴話喧嘩で戦争を起こすような人物なら兄ではありません!

 兄さん、改めて問います。何故、あなたはソウソウさんと戦うのですか?」

 カンウの表情は変わり、空気は一瞬で冷たくなった。

 その空気に俺は息を飲む。ここで発言を間違えるわけにはいかない。

「それは…」

「ブンシュウを倒したぞ!」

 その時、前方のソウソウ軍より勝鬨かちどきが上がる。

「しまった!」

「どうやら決着はついたようです」

 カンウは一息つき、改めて俺に向き直った。

「兄さん、あなたには二つの選択肢があります。

 一つはここでソウソウ軍に降伏し、共にエンショウ軍と戦うこと。

 もう一つは、エンショウ軍に逃げ帰り、私たちと戦うこと。

 どちらを選びますか?」

「カンウ!俺はソウソウが生徒会長になるべきだと思わない。悪いがここは撤退させてもらう」

「では、先程の問いは宿題とします。次会った時、改めて問います。何故ソウソウさんと戦うのですかと。もし、明確な答えがいただけないようなら、その時は…

 ソウソウ軍の将カンウがあなたを倒します!」

「わかった…全軍撤退!」

 俺たちは四散するブンシュウ兵を回収しながら撤退していった。

 リュービが遠くに過ぎ去った後、カンウのもとにソウソウがやってきた。

「リュービは撤退したか」

「ソウソウさん、申し訳ありません。取り逃がしました」

「いや、カンウ、お前の役目はリュービの足止めだ。目的を果たしたのだから謝る必要はない」

 ソウソウは優しくカンウをねぎらった。おそらく、この流れも想定通りであったのだろう。

 続けてカンウのもとに赤髪の男子・ジョコーがやってきて話しかけた。

「しかし、カンウ殿はお強いな。あのガンリョウを一撃で倒すとは。

 ブンシュウは俺やキョチョが二人がかりでようやく倒したというのに」

 ジョコーは笑いながらカンウに言う。その様子から言葉に裏は無さそうで、純粋にカンウを誉めているようだ。

「いえ、私なんてまだまだです。それに力ならチョーヒの方が上ですよ」

「ご謙遜を。今度、稽古に付き合っていただけませんか」

「え、ええ、私で良ければ」

 ブンシュウ以下多数を捕虜にし、ソウソウは展開していた自軍をまとめた。

「エンショウ軍の二枚看板ガンリョウ・ブンシュウを倒し、初戦は我らの勝利といったところだな。

 だが、ここまでか。ウキン・ガクシンに第三渡り廊下を放棄し、撤退するよう伝えよ」

 同行した女性参謀・カクがソウソウに訪ねる。

「テイイク達にも撤退するよう伝えますか?」

「ああ、そうしてくれ」

 カクもこの撤退を予期していたのであろう。その対応は迅速であった。

 しかし、カンウにとっては納得のいかない撤退であった。

「ソウソウさん、勝ったのに、また撤退するのですか」

「ああ、カンウ、そうだ。

 残念だが、エンショウ軍が中央校舎に移った今、前線を今のままでは維持ができない。それに兵力を分散させる程の余裕も我らにない」

 兵力の大小、それはガンリョウ・ブンシュウ二将を捕虜にしたぐらいではくつがえるものではなかった。兵力に劣るソウソウ軍は部隊を一ヶ所に集中させ、決戦を挑む道を選択した。

「第一渡り廊下のゾウハ、第四渡り廊下のショーヨー、後方部隊のカコウトン・カコウエン他の各部の守備隊を残し、全軍、臨時生徒会室前に集合。

 決戦の地は中庭・カント!」
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