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第5部 赤壁大戦編
第69話 北征!烏丸進軍!
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ソウソウ陣営・生徒会室~
選挙戦が始まり、今はもう仮の生徒会長となったソウソウを中心に、他の生徒会の面々との議論が白熱していた。
ショートカットの黒髪に、鼻に小さな丸眼鏡をひっかけた小柄な女生徒、生徒会副会長・ジュンイクは強い口調でソウソウに詰め寄った。
「私は反対です。
選挙戦開始早々に会長自ら烏丸高校に赴くなんて。
会長空席の間に何かあったらどうするのですか!」
今、議論されているのは、後漢学園改め三国学園と、お隣の烏丸高校とのいざこざについてであった。
この問題にソウソウは、自ら烏丸高校に乗り込んで解決すると言ったが、選挙戦開始を宣言して直後のこの提案に、ジュンイクをはじめとするソウソウの参謀たちからは強く反対されることとなった。
セミロングの茶髪に、ツリ目の、メンバーの中でも一際長身の女生徒、生徒会会計・テイイクも同じようにソウソウに詰め寄った。
「私も反対です。
我らが最大勢力ということはそれだけ皆から狙われるということ。
ソウソウ会長の空席時に複数勢力から同時攻撃を受ければ我が勢力もどうなるかわかりませんよ」
続けて、髪をおさげに結い、地味めな眼鏡をかけた、おっとりした雰囲気の女生徒、生徒会書記・ジュンユウもソウソウに詰め寄る。
「それに烏丸高校はあまり治安のよろしくないと噂のあるところ。
ソウソウ会長の身に何かあっては困ります。
ただでさえ会長は露出の多い格好をされていることですし…」
その隣にいる、セミロングの茶髪に、Tシャツに黄色のパーカー、ショートパンツ姿に、首にヘッドフォンをかけた細身で背の低い少女、生徒会執行部の一員・カクは落ち着いた口調で話し始める。
「まあ、ソウソウ不在となれば真っ先に動くのはリュービでしょうね。
リュービをどう防ぐかが鍵となるでしょう」
カクは反対こそ言わないが、どこかオススメはしないといった口調であった。
彼女たちの中央に陣取る、赤黒い髪と瞳、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート姿の生徒会長・ソウソウは予想以上の大反対に少し考えてから口を開いた。
「ふーむ、カクカ、君はどう思う?」
ソウソウが話を振ったのは、詰め寄る面々の後ろで、一人静かに椅子に腰かける、茶髪をポニーテールにまとめ、男子の制服を着用した、モデルのようなスラリとした体型の女生徒、生徒会広報・カクカであった。
「私はソウソウ会長の烏丸高校遠征に賛成です。
リュウヒョウではリュービを使いこなせないでしょうから、ソウソウ会長が留守の間に我が陣営が滅ぼされることはないでしょう」
そのカクカの発言に、テイイクが噛みつく。
「しかし、ソンサクたち、他の勢力まで同時に攻めてきたらどうする気なの?」
「落ち着きたまえ、テイイク君、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ」
「気安く触らないでもらえますか、カクカ」
「まあ、聞きたまえよ。
まず、東校舎のソンサクは長らく南校舎のリュウヒョウと対立してきた歴史がある。
この二人が選挙戦の開始早々に同盟を結ぶというのは考えにくいでしょう。
それはリュウヒョウにも言えることで、互いに牽制し合い、全力で我が勢力へ侵攻することは難しいでしょう。
また、西校舎のリュウショウと私たちとは長らく友好関係にあり、 いきなり戦争をしかけはしないでしょう。
それにリュウショウはそこまで肝の据わった人物ではありませんし、もし戦争をするにしても、我らとリュウショウの間にはチョウロ勢力が横たわり、これを突破しなければなりません。
そのチョウロは勢力が小さく、全力で攻めてきたとしても我らとって脅威とは言い難い。
後は新しく入ってきた西涼勢力がいますが、あの学校も長らく群雄割拠状態で、バトウがこちらについた今、一つにまとまるまでは時間がかかります。
つまり、今なら四方に敵が少ない状態であり、烏丸への遠征を後に引き延ばす方がかえって危険といえます」
そのカクカの意見に、ソウソウは頷き、答える。
「よし、決まりだ。
これより烏丸高校遠征に行く」
そのソウソウの回答になおもジュンイクは反論する。
「お待ちください。
カクカの話はあくまでも選挙期間中にソウソウ会長自ら烏丸高校に行くのが前提の話。
烏丸高校には選挙期間終了後に行くこともできますし、ソウソウ会長以外の方が行くことだって…」
「烏丸高校とのいざこざはすぐにでも解決した方がよい問題だ。
それには私自らが赴いた方が話が早い。
そして、私はもう行くと決めたのだ」
「ソウソウ会長…わかりました」
「では烏丸高校に行くメンバーだが、私とその護衛にキョチョ、そして参謀にカクカ、それと武将としてチョーリョー・ジョコー・チョーコー、そして新入生よりソウジュンを加える」
その名に傍らで待機していた橙色の髪の、中性的な顔立ちの男子生徒・ソウジンが聞き返す。
「ソウソウ、妹を連れていくのか?」
「ああ、私はソウジュンの力量をまだあまり知らないからな。
いい機会だからその腕を見させてもらうとしよう」
黄色髪をポニーテールにまとめ、小柄な凛とした顔つきの女生徒が立ち上がった。
彼女は宗純和、通称、ソウジュン。
ソウソウの親戚で、ソウジンの妹にあたり、今年新たにソウソウ軍に加わった新入生の一人である。
「ソウソウ会長、よろしくお願いします」
ソウソウはかねてより対立関係にあった烏丸高校への遠征を開始した。
名目は話し合いであったが、軍を率いての出陣であり、その行動は内外から批判を受けることとなる。
「おうおう、カンコウ、ようやく見つけたぜ」
「なんですか、シカン。
私は遠征の準備で忙しいのですが」
先に声をかけた、頭にハチマキをつけ、黒い法被を羽織り、腰にベルトの代わりに帯を巻いた男子生徒の名はシカン。
彼はトータクとの戦いの頃からソウソウに仕える古参の武将で、多くの戦いで功績を上げ、今ではソウソウ本隊の指揮官を務めている。
一方、声をかけられた坊主頭に細目の、同じく黒い法被を羽織った男子生徒の名はカンコウ。
彼も古参の武将で、元はカコウトンの部下だったが、ソウソウから評価され、今はソウソウ本隊の監督を務めている。
ソウソウ自ら率いる本隊は兵士の数が多く、ソウソウ一人ではそのすべてを管理できない。
ソウソウの指示が末端の兵士にまで行き渡るように補佐し、ソウソウ不在時の代理や別動隊の指揮を務めるのが本隊指揮官・シカン。
本隊の兵士を管理し、規則を守っているか監視するのが本隊監督・カンコウの仕事である。
シカン・カンコウの二人は、ソウソウから忠義と武勇を見込まれ、この仕事を任せられた。
先ほど、ソウソウが上げたメンバーに名前は上がっていないが、ソウソウが本隊を率いるなら必然的に彼らが同行することになる。
「カンコウよ、今回の烏丸遠征は遠く他校まで行かねばならん上に、勝ったところで選挙戦に直接影響があるわけじゃねぇ。
この遠征は俺たちで止めるべきじゃないのか」
「落ち着きなさい、シカン。
今、烏丸高校は、我が校の患い、今討たねば後々後悔することとなるでしょう。
それに直接は選挙戦に関係なくとも、背後の脅威がなくなれば、他の勢力との戦いにも専念でき、また、烏丸高校の被害にあった生徒もソウソウ会長を支持することでしょう」
「けどよぉ、けどよぉ、けどよぉ」
「私とあなたは名誉ある中央軍(ソウソウ本隊)の指導者なのですから、いたずらに兵の士気を削ぐようなことを言うべきではありません」
「ああ、そういうもんかぁ。
そういうもんかもしれねぇなぁ」
「シカン、あなたはもう少し落ち着いた方がいいですよ」
内外の批判をはねのけ、ソウソウは烏丸高校へと出発した。
選挙戦開始早々の生徒会長不在には各勢力に衝撃をもって迎えられた。
その衝撃を最も強く受けた生徒が南校舎にいた。
「リュウヒョウさん、ソウソウ不在の今こそ俺たちは中央校舎に侵攻するべきです」
俺、リュービはソウソウが出発したと聞くや、早速、リュウヒョウにソウソウ領への出撃を進言した。
「リュービさん、侵攻したいと言われても、今、うちはソンサクやリュウショウという敵を東西に抱えています。
とてもソウソウ領へ侵攻するほどの余裕はありませんよ」
三つ編みのおさげに、メガネの女生徒・リュウヒョウは落ち着いたような、あきれたような表情で俺にそう答えた。
さらにリュウヒョウの隣に控えるスーツ姿の男子生徒・サイボウが少し怒ったような表情で俺に迫る。
「それにソウソウ不在と言ってもせいぜい数日の話だろう。
その数日で何ができる」
だが、ソウソウ不在このチャンスを逃すことはできない。俺は食い下がった。
「生徒会室までの道のりはこの南校舎が最も近いところにあります。
ソウソウ領全土は無理でも生徒会室を奪取すれば大打撃を与えることができます。
その生徒会室奪取だけに専念すればそこまでの兵数を必要とはしません」
サイボウは小馬鹿にしたような顔で口を開く。
「ふざけた話だ。
ここから生徒会室まではカコウトンやウキンらのソウソウ軍歴戦の将が守る最も堅固な場所だぞ。
それを数日でどうやって突破する」
しかし、リュウヒョウの反応は違った。
「待ちなさいサイボウ。
いいでしょう、リュービさんの出陣を許可します」
「リュウヒョウ部長!」
サイボウは怒鳴るような声量を上げ、立ち上がった。
「ただし、私たちリュウヒョウ軍からは援軍は出しません。
それでよろしいですね?」
「はい、構いません」
俺たちの戦力だけなら生徒会室を取れるかどうかといったところか。
だが、生徒会室を奪えばリュウヒョウの気も変わり、援軍を出すかもしれない。そうなれば戦局はより俺たちに有利になる。
俺は勇んで図書室を後にした。
残されたリュウヒョウはやれやれといった表情で呟いた。
「まさか、あそこまで威勢がいいとは…
少しおだてすぎましたかね」
「少しではないだろ。なぜ出陣を許可した」
サイボウはまだ怒りが納まらないといった様子だ。
「南校舎でより地盤固めをするならソウソウへの牽制役は必要でしょう。
それに、もしリュービが勝てばその手柄を奪えば良いし、負けても私は痛まない。
最悪の事態の時は切り捨てることもできる。
どちらにせよ、彼の実力を知る良い機会です。見させていただくことにしますわ」
俺は仲間たちの待つ教室に戻ると、早速、ソウソウ領侵攻の指示を出した。
「これより我らリュービ軍はソウソウ領へ攻撃を開始する。
カンウ・チョーヒ、二人には先鋒を任せる」
「兄さん、任せてください」
「任せとけだぜ!」
美しく長い黒髪の義妹・カンウと、お団子ヘアーの小柄な義妹・チョーヒが元気よく返事をする。
「カンウ、チョーヒ、二人にはこういうルートで進んで欲しい」
俺は校内の見取り図を指差しながら進軍ルートを指示した。
「兄さん、これは…わかりました」
カンウ、チョーヒは俺の軍の中で最有力の武将だ。この二人に任せておけば大丈夫だろう。
「他に今回の出陣メンバーは、チョーウン、ビホウ、ソンカン、リューヘキ、それとリュウホウだ」
「任せてよ!」
「お任せー!」
「了解しました」
「任せな!お前たち行くよ!」
「オー!」
名前を呼ばれた各武将たちと、リューヘキ配下の黄巾党の面々が返事をする。
「リュービさん、お任せください」
その面々の最後に細身で、木訥な雰囲気の男子生徒・リュウホウが返事をする。
「リュウホウ君はこれが初陣になると思うが、焦らず行動してくれ」
リュウホウはまだ一年生で、最近仲間になったばかりだが、細身な体に似合わず、かなり腕も立つから危ないことはないだろう。
「それとビジク、コウソンサン、リョフ、カコウリンは留守を頼む」
くせっ毛の女生徒・ビジクを筆頭に、なぜか未だにメイド服を脱がない先輩・コウソンサン、謹慎が明けて俺たちに合流した長身ポニーテールの女生徒・リョフ、チョーヒの押し掛け女房・カコウリンが返事をする。
「リュービさん、留守はお任せください」
「リュービならきっと大丈夫さ」
「リュービ…気を…つけて…ね…」
「チョーヒちゃん!頑張ってきてねー!」
「リュービー!頑張ってきてねー!」
カコウリンに続いて返事をしたのは金髪に片耳にイヤホンをぶら下げた男子生徒・カンヨーがへらへら顔で返事をした。
「そうだ、カンヨーを忘れていた…」
このカンヨーという男、危なくなったらいつの間にか消えて、余裕ができるとひょっこり現れ何をするわけでもない困ったやつだ。
「俺は留守番してるからリュービは気にしないでいいよー」
「お前、留守番って言ったって別に何もしないだろう。
たまには一緒に出陣したらどうだ?」
「あーまた今度ねー」
カンヨーは悪びれた様子もなく適当に返してくる。
「 まったく…今度、出陣させるからな」
「おー」
何の実感もこもってない返事だ。
まったく、この男は…
次回出陣する時には首に縄をつけてでも同行させてやろう。
「とにかく、このメンバーで出陣だ!」
「オー!」
選挙戦が始まり、今はもう仮の生徒会長となったソウソウを中心に、他の生徒会の面々との議論が白熱していた。
ショートカットの黒髪に、鼻に小さな丸眼鏡をひっかけた小柄な女生徒、生徒会副会長・ジュンイクは強い口調でソウソウに詰め寄った。
「私は反対です。
選挙戦開始早々に会長自ら烏丸高校に赴くなんて。
会長空席の間に何かあったらどうするのですか!」
今、議論されているのは、後漢学園改め三国学園と、お隣の烏丸高校とのいざこざについてであった。
この問題にソウソウは、自ら烏丸高校に乗り込んで解決すると言ったが、選挙戦開始を宣言して直後のこの提案に、ジュンイクをはじめとするソウソウの参謀たちからは強く反対されることとなった。
セミロングの茶髪に、ツリ目の、メンバーの中でも一際長身の女生徒、生徒会会計・テイイクも同じようにソウソウに詰め寄った。
「私も反対です。
我らが最大勢力ということはそれだけ皆から狙われるということ。
ソウソウ会長の空席時に複数勢力から同時攻撃を受ければ我が勢力もどうなるかわかりませんよ」
続けて、髪をおさげに結い、地味めな眼鏡をかけた、おっとりした雰囲気の女生徒、生徒会書記・ジュンユウもソウソウに詰め寄る。
「それに烏丸高校はあまり治安のよろしくないと噂のあるところ。
ソウソウ会長の身に何かあっては困ります。
ただでさえ会長は露出の多い格好をされていることですし…」
その隣にいる、セミロングの茶髪に、Tシャツに黄色のパーカー、ショートパンツ姿に、首にヘッドフォンをかけた細身で背の低い少女、生徒会執行部の一員・カクは落ち着いた口調で話し始める。
「まあ、ソウソウ不在となれば真っ先に動くのはリュービでしょうね。
リュービをどう防ぐかが鍵となるでしょう」
カクは反対こそ言わないが、どこかオススメはしないといった口調であった。
彼女たちの中央に陣取る、赤黒い髪と瞳、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカート姿の生徒会長・ソウソウは予想以上の大反対に少し考えてから口を開いた。
「ふーむ、カクカ、君はどう思う?」
ソウソウが話を振ったのは、詰め寄る面々の後ろで、一人静かに椅子に腰かける、茶髪をポニーテールにまとめ、男子の制服を着用した、モデルのようなスラリとした体型の女生徒、生徒会広報・カクカであった。
「私はソウソウ会長の烏丸高校遠征に賛成です。
リュウヒョウではリュービを使いこなせないでしょうから、ソウソウ会長が留守の間に我が陣営が滅ぼされることはないでしょう」
そのカクカの発言に、テイイクが噛みつく。
「しかし、ソンサクたち、他の勢力まで同時に攻めてきたらどうする気なの?」
「落ち着きたまえ、テイイク君、せっかくの綺麗な顔が台無しだよ」
「気安く触らないでもらえますか、カクカ」
「まあ、聞きたまえよ。
まず、東校舎のソンサクは長らく南校舎のリュウヒョウと対立してきた歴史がある。
この二人が選挙戦の開始早々に同盟を結ぶというのは考えにくいでしょう。
それはリュウヒョウにも言えることで、互いに牽制し合い、全力で我が勢力へ侵攻することは難しいでしょう。
また、西校舎のリュウショウと私たちとは長らく友好関係にあり、 いきなり戦争をしかけはしないでしょう。
それにリュウショウはそこまで肝の据わった人物ではありませんし、もし戦争をするにしても、我らとリュウショウの間にはチョウロ勢力が横たわり、これを突破しなければなりません。
そのチョウロは勢力が小さく、全力で攻めてきたとしても我らとって脅威とは言い難い。
後は新しく入ってきた西涼勢力がいますが、あの学校も長らく群雄割拠状態で、バトウがこちらについた今、一つにまとまるまでは時間がかかります。
つまり、今なら四方に敵が少ない状態であり、烏丸への遠征を後に引き延ばす方がかえって危険といえます」
そのカクカの意見に、ソウソウは頷き、答える。
「よし、決まりだ。
これより烏丸高校遠征に行く」
そのソウソウの回答になおもジュンイクは反論する。
「お待ちください。
カクカの話はあくまでも選挙期間中にソウソウ会長自ら烏丸高校に行くのが前提の話。
烏丸高校には選挙期間終了後に行くこともできますし、ソウソウ会長以外の方が行くことだって…」
「烏丸高校とのいざこざはすぐにでも解決した方がよい問題だ。
それには私自らが赴いた方が話が早い。
そして、私はもう行くと決めたのだ」
「ソウソウ会長…わかりました」
「では烏丸高校に行くメンバーだが、私とその護衛にキョチョ、そして参謀にカクカ、それと武将としてチョーリョー・ジョコー・チョーコー、そして新入生よりソウジュンを加える」
その名に傍らで待機していた橙色の髪の、中性的な顔立ちの男子生徒・ソウジンが聞き返す。
「ソウソウ、妹を連れていくのか?」
「ああ、私はソウジュンの力量をまだあまり知らないからな。
いい機会だからその腕を見させてもらうとしよう」
黄色髪をポニーテールにまとめ、小柄な凛とした顔つきの女生徒が立ち上がった。
彼女は宗純和、通称、ソウジュン。
ソウソウの親戚で、ソウジンの妹にあたり、今年新たにソウソウ軍に加わった新入生の一人である。
「ソウソウ会長、よろしくお願いします」
ソウソウはかねてより対立関係にあった烏丸高校への遠征を開始した。
名目は話し合いであったが、軍を率いての出陣であり、その行動は内外から批判を受けることとなる。
「おうおう、カンコウ、ようやく見つけたぜ」
「なんですか、シカン。
私は遠征の準備で忙しいのですが」
先に声をかけた、頭にハチマキをつけ、黒い法被を羽織り、腰にベルトの代わりに帯を巻いた男子生徒の名はシカン。
彼はトータクとの戦いの頃からソウソウに仕える古参の武将で、多くの戦いで功績を上げ、今ではソウソウ本隊の指揮官を務めている。
一方、声をかけられた坊主頭に細目の、同じく黒い法被を羽織った男子生徒の名はカンコウ。
彼も古参の武将で、元はカコウトンの部下だったが、ソウソウから評価され、今はソウソウ本隊の監督を務めている。
ソウソウ自ら率いる本隊は兵士の数が多く、ソウソウ一人ではそのすべてを管理できない。
ソウソウの指示が末端の兵士にまで行き渡るように補佐し、ソウソウ不在時の代理や別動隊の指揮を務めるのが本隊指揮官・シカン。
本隊の兵士を管理し、規則を守っているか監視するのが本隊監督・カンコウの仕事である。
シカン・カンコウの二人は、ソウソウから忠義と武勇を見込まれ、この仕事を任せられた。
先ほど、ソウソウが上げたメンバーに名前は上がっていないが、ソウソウが本隊を率いるなら必然的に彼らが同行することになる。
「カンコウよ、今回の烏丸遠征は遠く他校まで行かねばならん上に、勝ったところで選挙戦に直接影響があるわけじゃねぇ。
この遠征は俺たちで止めるべきじゃないのか」
「落ち着きなさい、シカン。
今、烏丸高校は、我が校の患い、今討たねば後々後悔することとなるでしょう。
それに直接は選挙戦に関係なくとも、背後の脅威がなくなれば、他の勢力との戦いにも専念でき、また、烏丸高校の被害にあった生徒もソウソウ会長を支持することでしょう」
「けどよぉ、けどよぉ、けどよぉ」
「私とあなたは名誉ある中央軍(ソウソウ本隊)の指導者なのですから、いたずらに兵の士気を削ぐようなことを言うべきではありません」
「ああ、そういうもんかぁ。
そういうもんかもしれねぇなぁ」
「シカン、あなたはもう少し落ち着いた方がいいですよ」
内外の批判をはねのけ、ソウソウは烏丸高校へと出発した。
選挙戦開始早々の生徒会長不在には各勢力に衝撃をもって迎えられた。
その衝撃を最も強く受けた生徒が南校舎にいた。
「リュウヒョウさん、ソウソウ不在の今こそ俺たちは中央校舎に侵攻するべきです」
俺、リュービはソウソウが出発したと聞くや、早速、リュウヒョウにソウソウ領への出撃を進言した。
「リュービさん、侵攻したいと言われても、今、うちはソンサクやリュウショウという敵を東西に抱えています。
とてもソウソウ領へ侵攻するほどの余裕はありませんよ」
三つ編みのおさげに、メガネの女生徒・リュウヒョウは落ち着いたような、あきれたような表情で俺にそう答えた。
さらにリュウヒョウの隣に控えるスーツ姿の男子生徒・サイボウが少し怒ったような表情で俺に迫る。
「それにソウソウ不在と言ってもせいぜい数日の話だろう。
その数日で何ができる」
だが、ソウソウ不在このチャンスを逃すことはできない。俺は食い下がった。
「生徒会室までの道のりはこの南校舎が最も近いところにあります。
ソウソウ領全土は無理でも生徒会室を奪取すれば大打撃を与えることができます。
その生徒会室奪取だけに専念すればそこまでの兵数を必要とはしません」
サイボウは小馬鹿にしたような顔で口を開く。
「ふざけた話だ。
ここから生徒会室まではカコウトンやウキンらのソウソウ軍歴戦の将が守る最も堅固な場所だぞ。
それを数日でどうやって突破する」
しかし、リュウヒョウの反応は違った。
「待ちなさいサイボウ。
いいでしょう、リュービさんの出陣を許可します」
「リュウヒョウ部長!」
サイボウは怒鳴るような声量を上げ、立ち上がった。
「ただし、私たちリュウヒョウ軍からは援軍は出しません。
それでよろしいですね?」
「はい、構いません」
俺たちの戦力だけなら生徒会室を取れるかどうかといったところか。
だが、生徒会室を奪えばリュウヒョウの気も変わり、援軍を出すかもしれない。そうなれば戦局はより俺たちに有利になる。
俺は勇んで図書室を後にした。
残されたリュウヒョウはやれやれといった表情で呟いた。
「まさか、あそこまで威勢がいいとは…
少しおだてすぎましたかね」
「少しではないだろ。なぜ出陣を許可した」
サイボウはまだ怒りが納まらないといった様子だ。
「南校舎でより地盤固めをするならソウソウへの牽制役は必要でしょう。
それに、もしリュービが勝てばその手柄を奪えば良いし、負けても私は痛まない。
最悪の事態の時は切り捨てることもできる。
どちらにせよ、彼の実力を知る良い機会です。見させていただくことにしますわ」
俺は仲間たちの待つ教室に戻ると、早速、ソウソウ領侵攻の指示を出した。
「これより我らリュービ軍はソウソウ領へ攻撃を開始する。
カンウ・チョーヒ、二人には先鋒を任せる」
「兄さん、任せてください」
「任せとけだぜ!」
美しく長い黒髪の義妹・カンウと、お団子ヘアーの小柄な義妹・チョーヒが元気よく返事をする。
「カンウ、チョーヒ、二人にはこういうルートで進んで欲しい」
俺は校内の見取り図を指差しながら進軍ルートを指示した。
「兄さん、これは…わかりました」
カンウ、チョーヒは俺の軍の中で最有力の武将だ。この二人に任せておけば大丈夫だろう。
「他に今回の出陣メンバーは、チョーウン、ビホウ、ソンカン、リューヘキ、それとリュウホウだ」
「任せてよ!」
「お任せー!」
「了解しました」
「任せな!お前たち行くよ!」
「オー!」
名前を呼ばれた各武将たちと、リューヘキ配下の黄巾党の面々が返事をする。
「リュービさん、お任せください」
その面々の最後に細身で、木訥な雰囲気の男子生徒・リュウホウが返事をする。
「リュウホウ君はこれが初陣になると思うが、焦らず行動してくれ」
リュウホウはまだ一年生で、最近仲間になったばかりだが、細身な体に似合わず、かなり腕も立つから危ないことはないだろう。
「それとビジク、コウソンサン、リョフ、カコウリンは留守を頼む」
くせっ毛の女生徒・ビジクを筆頭に、なぜか未だにメイド服を脱がない先輩・コウソンサン、謹慎が明けて俺たちに合流した長身ポニーテールの女生徒・リョフ、チョーヒの押し掛け女房・カコウリンが返事をする。
「リュービさん、留守はお任せください」
「リュービならきっと大丈夫さ」
「リュービ…気を…つけて…ね…」
「チョーヒちゃん!頑張ってきてねー!」
「リュービー!頑張ってきてねー!」
カコウリンに続いて返事をしたのは金髪に片耳にイヤホンをぶら下げた男子生徒・カンヨーがへらへら顔で返事をした。
「そうだ、カンヨーを忘れていた…」
このカンヨーという男、危なくなったらいつの間にか消えて、余裕ができるとひょっこり現れ何をするわけでもない困ったやつだ。
「俺は留守番してるからリュービは気にしないでいいよー」
「お前、留守番って言ったって別に何もしないだろう。
たまには一緒に出陣したらどうだ?」
「あーまた今度ねー」
カンヨーは悪びれた様子もなく適当に返してくる。
「 まったく…今度、出陣させるからな」
「おー」
何の実感もこもってない返事だ。
まったく、この男は…
次回出陣する時には首に縄をつけてでも同行させてやろう。
「とにかく、このメンバーで出陣だ!」
「オー!」
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