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第5部 赤壁大戦編
第82話 大鬧!殿の虎!
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俺たちリュービ軍は、ソウソウから逃れ、他の部隊と合流するために、南校舎南部を目指し、進んでいた。
しかし、非戦闘員が一気に増えたことにより、思うように進めず、俺たちは休憩を取りながらのゆっくりした移動をすることとなった。
「リュウアンさんからの差し入れのカツサンドです。
リュービさん、どうぞ」
「ありがとう、ビジク。
しかし、広い校舎とは言えこんなに移動にかかるとはなぁ」
俺は隣で休む軍師のコウメイに訊ねた。
「コウメイ、このまま俺たちがリュウバン・リュウキ・ゴキョらの部隊と合流すれば一大勢力になる。
これでソウソウに対抗出来るだろうか?」
「リュービさん、それは難しいと思います。
それだけ集めてもソウソウ軍よりはるかに少ないですし、それに…」
「それに?
他にも問題があるのか」
俺の問いにコウメイは続けて答えた。
「はい、このまま合流すれば、主導権争いが起きる可能性が高いです。
リュウヒョウさんの弟のリュウキさんが盟主に適任ですが、大人しい方ですから皆をまとめるのは難しいでしょう。
ですが、他の方を盟主にすれば、ソウソウを退けられても、その後の南校舎統治に影響します。
リュービさんが盟主になれば、いくら仲が良くてもリュウバンさんは納得しないでしょうし、ゴキョさんもあまり人の指図を受ける方ではありません。
連合軍、南校舎統治、その両方で支障が出る可能性があります」
「うーん、しかし、他に宛があるわけでもないしなぁ」
確かにコウメイの言う通り、このメンバーで連合を組めば、盟主を決めるのは難航しそうだ。
さらに、その中で元リュウヒョウ陣営の客将に過ぎなかった俺が一人抜きん出るのは、より難しいことだろう。
その時、青髪にスーツ姿の、細身の男子生徒・ソンカンから急報が告げられた。
「リュービさん!
ソウソウ軍がこちらに向けて軍を出したそうです」
「なんだって、もう、動き出したか!
とにかく今後のことは、まず、みんなと合流してから考えよう。
全軍、休憩中止!出発!」
歩きながら、ソンカンより追加の情報が伝えられる。
「敵の先鋒はソウジュン・ブンペーの二人です。
さらに、その後を他の将が続々とこちらに向かってきているそうです」
その情報を受け、隣に控える、黒と緑二色のショートの髪の女生徒、軍師・ジョショが発言する。
「ブンペーですか。
それなら南校舎の構造には詳しいでしょうから、早く追い付かれるかもしれませんね」
ブンペーは元々、リュウヒョウに仕える武将だ。
その彼女が先鋒ということは、道案内も兼ねての人選であろう。
さらに続けて、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪の、華奢な女生徒、軍師・コウメイが意見を述べる。
「これは聞いた話なのですが、ソウソウは親族のソウジュンに、入学祝と称して、自分の親衛隊を割いて与えたそうです。
それを率いているなら脅威です」
「なるほど。
こちらに向かって来ているのは、ソウソウ軍の精鋭ということか」
ソウソウの精鋭が、道案内付きでこちらに向かって来ている。
対してこちらは歩みが遅い。
戦闘は避けられそうにないな。
「アニキ、俺が最後尾に行くぜ!」
そう申し出てきたのは、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けた、小柄な女生徒、俺の義妹・チョーヒであった。
「ダメだ。
いくらお前でも危険すぎる!」
チョーヒは、この学園随一の武勇を誇り、我が陣営ではカンウと並ぶ二枚看板だ。
だが、元々兵数の少ない俺たちの軍では、後方の防備のための兵を多くは出せない。
少数の兵でチョーヒを向かわせて、彼女にもしものことがあれば、俺は…
「アニキ、後ろの連中にはソウソウ軍の精鋭は重荷過ぎるぜ!
カン姉のいない今、それを防げるのは俺しかいねーんだぜ!」
「しかし…チョーヒ…お前に何かあったら…」
「三人で始めた選挙戦。
俺はアニキの命運も、カン姉の頑張りも、ここで終わらせたくはないんだぜ」
チョーヒはニッと笑って八重歯を覗かせる。
その横で、軍師・コウメイが発言する。
「ここはチョーヒさんに20人を与え、後方に回しましょう。
本隊の維持を考えたら、その人数が限界です」
「20人?
たったそれだけではチョーヒがやられてしまう」
「それで充分だぜ!
アニキ、オレを誰だと思ってるんだぜ!」
チョーヒは胸を叩きながら豪語する。
一騎当千、勇壮威猛、無双の戦刃…チョーヒの数々の伝説を、これまで目の当たりにしてきた俺だったが、それでもなお、心配が拭えないでいた。
「チョーヒ、ボクも殿に残るよ」
そう言って、野球帽に、ジャージ、スパッツ姿の、長い眉に、大きな瞳の女生徒、我が陣営の武将・チョーウンが進み出た。
確かに彼女も、カンウ・チョーヒに並ぶ武勇の持ち主だ。
彼女もともに行かせれば、それだけ勝率は上がるだろう。
だが、その提案をチョーヒは断った。
「ダメだぜ!
チョーウン、お前はアニキやみんなの事を頼むぜ」
「わかったよ。
ボクがみんなを守る。
だから、チョーヒ、後ろは任せたよ」
「任せな!だぜ!」
そういうと、チョーヒはわずか20人の供を連れ、悠々と後方へ向かっていった。
「前方にリュービ軍を発見しました!」
ソウソウ軍の兵が、黄色髪をポニーテールにした女生徒、ソウソウ軍先鋒・ソウジュンに報告した。
その報告を聞いたソウジュンは意気盛んで、前方の人影を睨んだ。
「よっし、全軍突撃かい…ん?
あれは…」
ソウジュンの目に飛び込んできたのは、お団子ヘアーの小柄な女生徒と、その周囲に控える20名ほどの小部隊であった。
「こっから先には行かせねーぜ!」
小部隊の中心にいる小柄な少女は、そう息巻いて、ソウジュンたちの前に立ちはだかった。
「あれは噂に聞くチョーヒね。
でも、率いている部隊は20人くらいしかいないじゃないの。
あれで私たちを防ぐ気なの?」
その敵兵のあまりの少なさに、ソウジュンは少々拍子抜けな様子であった。
だが、その隣に並ぶ、タンクトップにジャケットを羽織った女生徒、同じくソウソウ軍先鋒・ブンペーは、敵を侮るソウジュンをたしなめた。
「ソウジュンさん、戦う気なら止めた方がいい。
あのチョーヒに真正面から挑むより、今は増援を待ちましょう」
リュウヒョウ陣営にいたブンペーは、チョーヒの強さを目にする機会があった。
だが、まだ入学したばかりのソウジュンは、噂こそ聞けど、その実力は知らなかった。
「ブンペー、あなたはソウソウ軍の強さをまだわかっていないようね。
見せてあげなさい!
ソウソウ軍精鋭の実力を!」
「オオー!」
ソウジュンの号令に合わせ、兵たちは喊声を上げ、チョーヒ目指して突き進む。
ソウジュンの兵士は、誰一人怯まず、そして隊列も乱さず、まさに精鋭の名に恥じない動きであった。
並みの者なら、その意気旺盛な進軍に震え上がったであろうが、それを迎え撃つのは、誰あろうチョーヒであった。
「へっ!雑魚だぜ!」
「これは…どういうことですか!」
ロングの黒髪に眼鏡をかけた、切れ長の目の女生徒、ソウソウ前軍武将・ウキンは目の前の惨状に、思わずそう呟いた。
「倒れているのは我が軍の兵士のみのようだ。
リュービ軍らしき兵の姿は見えんな」
逆立った青髪にハチマキをつけた、青い道着姿の屈強な男子生徒、同じくソウソウ前軍武将・チョーリョーは、周囲を見回しながら、そう答えた。
彼ら彼女らはソウソウ軍の前軍に配備された武将たちであった。
準備が整い、先に出た先鋒のソウジュン・ブンペーの部隊を目指して進んでいると、この光景が目に飛び込んできた。
その場には無数の生徒が倒れていた。
しかし、不可解なことに、その生徒はすべてソウソウ軍の生徒であるようだった。
青い髪を矢を模した簪でまとめた小柄な女生徒、同じくソウソウ前軍武将・リテンが倒れている生徒の様子を見る。
「気を失っているだけのようです。
しかし、精鋭50人近くが倒されるとは…」
戦闘があったのか、はたまた事故なのか、前軍の武将たちが不思議に思っていると、先鋒を任せられていたソウジュン・ブンペーの二人の女生徒が現れた。
「先輩方、申し訳ありません…」
「彼女にやられました…」
二人の指差した方に一同は目を向けた。
「あれは…」
「「「「 チョーヒ!」」」」
前軍の武将たちはほぼ同時に叫んだ。
お団子ヘアーの小柄な女生徒、リュービの義妹の一人にして、その陣営のチョーヒが、20人ほどの兵士とともに、こちらに向かって立ちはだかっていた。
切れ長の目の女生徒・ウキンが一同を代表するように、ソウジュンに詰問する。
「あのたかだか20人程度の部隊に、敵の五倍はいるであろう我が軍の精鋭で挑み、そのうち50人もやられたというのですか!」
しかし、黄色髪をポニーテールにした女生徒・ソウジュンは言いにくそうな様子で、それを否定する。
「いえ…
やったのはチョーヒ一人です」
「一人!そんなバカな…」
矢型の簪をつけた女生徒・リテンは、ガラにもなく声を張り上げる。
だが、隣に立つタンクトップにジャケットを羽織った女生徒・ブンペーが、ソウジュンの話に同意する。
「一瞬の出来事でした…
あれは人の業ではありません…」
「かつて、カンウは、力ならチョーヒの方が上だと言っていたそうだが…
あれは謙遜ではなかったか」
逆立った青髪の屈強な男子生徒・チョーリョーはしみじみと、チョーヒの義姉・カンウを思い出しながら語った。
チョーヒは、ソウソウ軍に体を向けながらも、ゆっくりと後退している。
そのチョーヒを睨むウキンは、彼女の後ろにいる無数の生徒に目がいった。
「おや、チョーヒの後ろに別の部隊がまだ見えますね。
かなり移動が遅いようですが…」
それに対し、タンクトップにジャケットを羽織った女生徒・ブンペーが発言する。
「リュービ軍はどうやら道中、非戦闘員をかなり吸収して歩みが遅くなっているようです。
実際に戦える兵士は200人程度かと」
「なら、チョーヒさえ抜ければ、リュービ軍自体はすぐに倒せる相手ということですね…」
矢型の簪をつけた女生徒・リテンは、ウキンの発言に疑問を呈する。
「あのチョーヒを抜くのですか?
チョーヒは一騎当千…いえ、一騎当万の豪傑と言われているのですよ。
今だってこれだけの兵士を一方的に倒したというのに」
「リテン、怖じ気づいたのですか。
いくら強くても、実際に人間がたった一人で千も万も相手できるわけありません。
それに正面突破ばかりするわけではありませんよ。
ブンペー、先回りできそうなところはありますか?」
ウキンの問いに、南校舎所属の武将・ブンペーが答える。
「そうですね…
このまま行けば南北を繋ぐ渡り廊下に出ますが、その手前が他の廊下と合流する十字路のようになっています。
今から急げば、そこでリュービ軍の側面をつけるかと思います」
「そうですか…
この中で速い部隊となるとチョーリョー…」
「私はここでチョーヒを食い止めよう」
ウキンの思案の言葉を、名を出されたチョーリョーが遮るように言った。
「また、そうやってあなたは勝手に…」
「まあまあ、ウキンさん。
チョーヒは一騎当千の武勇の持ち主、それを抑える役も必要です。
チョーリョーさんはその役のために残しましょう」
チョーリョーの言葉にムッとするウキンに対し、パーカーを着た、小柄な童顔の男子生徒、この前軍の参謀・チョウゲンがなだめるように助言を入れた。
「わかりました…
でしたら、チョウシュウ・チョーコー・コウラン、先回りはあなたたちに任せます」
茶色混じりの短髪に、色黒、背の高い男子生徒・チョウシュウ。
一つ結びにした緑髪、白い学生服、右腕に狼模様のブレスレットをつけた、細身の男子生・チョーコー。
黄色い短髪、左腕に鷹模様のブレスレットをつけた、大柄な男子生徒・コウラン。
以上、三名は同時に返答をする。
ウキンはさらに続けてブンペーの方に振り返った。
「ブンペー。
あなたも道案内として同行してください」
「わかりました」
「私も行きます!
兵は半分失いましたがまだ戦えます!」
すかさずポニーテールの女生徒・ソウジュンが会話に割って入った。
彼女の部隊は半壊したが、ソウソウに見込まれるだけあり、その闘志はまだ衰えていなかった。
「わかりました。
では、側面攻撃はこの五人に任せましょう。
そして、残った私たちはこのままリュービ軍を追走。
側面攻撃でチョーヒの注意が逸れた瞬間に、全軍で攻撃します」
ウキンの号令の元、五将が向きを変え、隊列を離れていった。
一方、その様子を遠目に見つめるチョーヒ。
「へへ…増援があんなにも来やがったぜ。
来るなら来やがれ。
例え百万の兵相手でもアニキの元には行かせねーぜ!」
しかし、非戦闘員が一気に増えたことにより、思うように進めず、俺たちは休憩を取りながらのゆっくりした移動をすることとなった。
「リュウアンさんからの差し入れのカツサンドです。
リュービさん、どうぞ」
「ありがとう、ビジク。
しかし、広い校舎とは言えこんなに移動にかかるとはなぁ」
俺は隣で休む軍師のコウメイに訊ねた。
「コウメイ、このまま俺たちがリュウバン・リュウキ・ゴキョらの部隊と合流すれば一大勢力になる。
これでソウソウに対抗出来るだろうか?」
「リュービさん、それは難しいと思います。
それだけ集めてもソウソウ軍よりはるかに少ないですし、それに…」
「それに?
他にも問題があるのか」
俺の問いにコウメイは続けて答えた。
「はい、このまま合流すれば、主導権争いが起きる可能性が高いです。
リュウヒョウさんの弟のリュウキさんが盟主に適任ですが、大人しい方ですから皆をまとめるのは難しいでしょう。
ですが、他の方を盟主にすれば、ソウソウを退けられても、その後の南校舎統治に影響します。
リュービさんが盟主になれば、いくら仲が良くてもリュウバンさんは納得しないでしょうし、ゴキョさんもあまり人の指図を受ける方ではありません。
連合軍、南校舎統治、その両方で支障が出る可能性があります」
「うーん、しかし、他に宛があるわけでもないしなぁ」
確かにコウメイの言う通り、このメンバーで連合を組めば、盟主を決めるのは難航しそうだ。
さらに、その中で元リュウヒョウ陣営の客将に過ぎなかった俺が一人抜きん出るのは、より難しいことだろう。
その時、青髪にスーツ姿の、細身の男子生徒・ソンカンから急報が告げられた。
「リュービさん!
ソウソウ軍がこちらに向けて軍を出したそうです」
「なんだって、もう、動き出したか!
とにかく今後のことは、まず、みんなと合流してから考えよう。
全軍、休憩中止!出発!」
歩きながら、ソンカンより追加の情報が伝えられる。
「敵の先鋒はソウジュン・ブンペーの二人です。
さらに、その後を他の将が続々とこちらに向かってきているそうです」
その情報を受け、隣に控える、黒と緑二色のショートの髪の女生徒、軍師・ジョショが発言する。
「ブンペーですか。
それなら南校舎の構造には詳しいでしょうから、早く追い付かれるかもしれませんね」
ブンペーは元々、リュウヒョウに仕える武将だ。
その彼女が先鋒ということは、道案内も兼ねての人選であろう。
さらに続けて、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪の、華奢な女生徒、軍師・コウメイが意見を述べる。
「これは聞いた話なのですが、ソウソウは親族のソウジュンに、入学祝と称して、自分の親衛隊を割いて与えたそうです。
それを率いているなら脅威です」
「なるほど。
こちらに向かって来ているのは、ソウソウ軍の精鋭ということか」
ソウソウの精鋭が、道案内付きでこちらに向かって来ている。
対してこちらは歩みが遅い。
戦闘は避けられそうにないな。
「アニキ、俺が最後尾に行くぜ!」
そう申し出てきたのは、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けた、小柄な女生徒、俺の義妹・チョーヒであった。
「ダメだ。
いくらお前でも危険すぎる!」
チョーヒは、この学園随一の武勇を誇り、我が陣営ではカンウと並ぶ二枚看板だ。
だが、元々兵数の少ない俺たちの軍では、後方の防備のための兵を多くは出せない。
少数の兵でチョーヒを向かわせて、彼女にもしものことがあれば、俺は…
「アニキ、後ろの連中にはソウソウ軍の精鋭は重荷過ぎるぜ!
カン姉のいない今、それを防げるのは俺しかいねーんだぜ!」
「しかし…チョーヒ…お前に何かあったら…」
「三人で始めた選挙戦。
俺はアニキの命運も、カン姉の頑張りも、ここで終わらせたくはないんだぜ」
チョーヒはニッと笑って八重歯を覗かせる。
その横で、軍師・コウメイが発言する。
「ここはチョーヒさんに20人を与え、後方に回しましょう。
本隊の維持を考えたら、その人数が限界です」
「20人?
たったそれだけではチョーヒがやられてしまう」
「それで充分だぜ!
アニキ、オレを誰だと思ってるんだぜ!」
チョーヒは胸を叩きながら豪語する。
一騎当千、勇壮威猛、無双の戦刃…チョーヒの数々の伝説を、これまで目の当たりにしてきた俺だったが、それでもなお、心配が拭えないでいた。
「チョーヒ、ボクも殿に残るよ」
そう言って、野球帽に、ジャージ、スパッツ姿の、長い眉に、大きな瞳の女生徒、我が陣営の武将・チョーウンが進み出た。
確かに彼女も、カンウ・チョーヒに並ぶ武勇の持ち主だ。
彼女もともに行かせれば、それだけ勝率は上がるだろう。
だが、その提案をチョーヒは断った。
「ダメだぜ!
チョーウン、お前はアニキやみんなの事を頼むぜ」
「わかったよ。
ボクがみんなを守る。
だから、チョーヒ、後ろは任せたよ」
「任せな!だぜ!」
そういうと、チョーヒはわずか20人の供を連れ、悠々と後方へ向かっていった。
「前方にリュービ軍を発見しました!」
ソウソウ軍の兵が、黄色髪をポニーテールにした女生徒、ソウソウ軍先鋒・ソウジュンに報告した。
その報告を聞いたソウジュンは意気盛んで、前方の人影を睨んだ。
「よっし、全軍突撃かい…ん?
あれは…」
ソウジュンの目に飛び込んできたのは、お団子ヘアーの小柄な女生徒と、その周囲に控える20名ほどの小部隊であった。
「こっから先には行かせねーぜ!」
小部隊の中心にいる小柄な少女は、そう息巻いて、ソウジュンたちの前に立ちはだかった。
「あれは噂に聞くチョーヒね。
でも、率いている部隊は20人くらいしかいないじゃないの。
あれで私たちを防ぐ気なの?」
その敵兵のあまりの少なさに、ソウジュンは少々拍子抜けな様子であった。
だが、その隣に並ぶ、タンクトップにジャケットを羽織った女生徒、同じくソウソウ軍先鋒・ブンペーは、敵を侮るソウジュンをたしなめた。
「ソウジュンさん、戦う気なら止めた方がいい。
あのチョーヒに真正面から挑むより、今は増援を待ちましょう」
リュウヒョウ陣営にいたブンペーは、チョーヒの強さを目にする機会があった。
だが、まだ入学したばかりのソウジュンは、噂こそ聞けど、その実力は知らなかった。
「ブンペー、あなたはソウソウ軍の強さをまだわかっていないようね。
見せてあげなさい!
ソウソウ軍精鋭の実力を!」
「オオー!」
ソウジュンの号令に合わせ、兵たちは喊声を上げ、チョーヒ目指して突き進む。
ソウジュンの兵士は、誰一人怯まず、そして隊列も乱さず、まさに精鋭の名に恥じない動きであった。
並みの者なら、その意気旺盛な進軍に震え上がったであろうが、それを迎え撃つのは、誰あろうチョーヒであった。
「へっ!雑魚だぜ!」
「これは…どういうことですか!」
ロングの黒髪に眼鏡をかけた、切れ長の目の女生徒、ソウソウ前軍武将・ウキンは目の前の惨状に、思わずそう呟いた。
「倒れているのは我が軍の兵士のみのようだ。
リュービ軍らしき兵の姿は見えんな」
逆立った青髪にハチマキをつけた、青い道着姿の屈強な男子生徒、同じくソウソウ前軍武将・チョーリョーは、周囲を見回しながら、そう答えた。
彼ら彼女らはソウソウ軍の前軍に配備された武将たちであった。
準備が整い、先に出た先鋒のソウジュン・ブンペーの部隊を目指して進んでいると、この光景が目に飛び込んできた。
その場には無数の生徒が倒れていた。
しかし、不可解なことに、その生徒はすべてソウソウ軍の生徒であるようだった。
青い髪を矢を模した簪でまとめた小柄な女生徒、同じくソウソウ前軍武将・リテンが倒れている生徒の様子を見る。
「気を失っているだけのようです。
しかし、精鋭50人近くが倒されるとは…」
戦闘があったのか、はたまた事故なのか、前軍の武将たちが不思議に思っていると、先鋒を任せられていたソウジュン・ブンペーの二人の女生徒が現れた。
「先輩方、申し訳ありません…」
「彼女にやられました…」
二人の指差した方に一同は目を向けた。
「あれは…」
「「「「 チョーヒ!」」」」
前軍の武将たちはほぼ同時に叫んだ。
お団子ヘアーの小柄な女生徒、リュービの義妹の一人にして、その陣営のチョーヒが、20人ほどの兵士とともに、こちらに向かって立ちはだかっていた。
切れ長の目の女生徒・ウキンが一同を代表するように、ソウジュンに詰問する。
「あのたかだか20人程度の部隊に、敵の五倍はいるであろう我が軍の精鋭で挑み、そのうち50人もやられたというのですか!」
しかし、黄色髪をポニーテールにした女生徒・ソウジュンは言いにくそうな様子で、それを否定する。
「いえ…
やったのはチョーヒ一人です」
「一人!そんなバカな…」
矢型の簪をつけた女生徒・リテンは、ガラにもなく声を張り上げる。
だが、隣に立つタンクトップにジャケットを羽織った女生徒・ブンペーが、ソウジュンの話に同意する。
「一瞬の出来事でした…
あれは人の業ではありません…」
「かつて、カンウは、力ならチョーヒの方が上だと言っていたそうだが…
あれは謙遜ではなかったか」
逆立った青髪の屈強な男子生徒・チョーリョーはしみじみと、チョーヒの義姉・カンウを思い出しながら語った。
チョーヒは、ソウソウ軍に体を向けながらも、ゆっくりと後退している。
そのチョーヒを睨むウキンは、彼女の後ろにいる無数の生徒に目がいった。
「おや、チョーヒの後ろに別の部隊がまだ見えますね。
かなり移動が遅いようですが…」
それに対し、タンクトップにジャケットを羽織った女生徒・ブンペーが発言する。
「リュービ軍はどうやら道中、非戦闘員をかなり吸収して歩みが遅くなっているようです。
実際に戦える兵士は200人程度かと」
「なら、チョーヒさえ抜ければ、リュービ軍自体はすぐに倒せる相手ということですね…」
矢型の簪をつけた女生徒・リテンは、ウキンの発言に疑問を呈する。
「あのチョーヒを抜くのですか?
チョーヒは一騎当千…いえ、一騎当万の豪傑と言われているのですよ。
今だってこれだけの兵士を一方的に倒したというのに」
「リテン、怖じ気づいたのですか。
いくら強くても、実際に人間がたった一人で千も万も相手できるわけありません。
それに正面突破ばかりするわけではありませんよ。
ブンペー、先回りできそうなところはありますか?」
ウキンの問いに、南校舎所属の武将・ブンペーが答える。
「そうですね…
このまま行けば南北を繋ぐ渡り廊下に出ますが、その手前が他の廊下と合流する十字路のようになっています。
今から急げば、そこでリュービ軍の側面をつけるかと思います」
「そうですか…
この中で速い部隊となるとチョーリョー…」
「私はここでチョーヒを食い止めよう」
ウキンの思案の言葉を、名を出されたチョーリョーが遮るように言った。
「また、そうやってあなたは勝手に…」
「まあまあ、ウキンさん。
チョーヒは一騎当千の武勇の持ち主、それを抑える役も必要です。
チョーリョーさんはその役のために残しましょう」
チョーリョーの言葉にムッとするウキンに対し、パーカーを着た、小柄な童顔の男子生徒、この前軍の参謀・チョウゲンがなだめるように助言を入れた。
「わかりました…
でしたら、チョウシュウ・チョーコー・コウラン、先回りはあなたたちに任せます」
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一つ結びにした緑髪、白い学生服、右腕に狼模様のブレスレットをつけた、細身の男子生・チョーコー。
黄色い短髪、左腕に鷹模様のブレスレットをつけた、大柄な男子生徒・コウラン。
以上、三名は同時に返答をする。
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あなたも道案内として同行してください」
「わかりました」
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彼女の部隊は半壊したが、ソウソウに見込まれるだけあり、その闘志はまだ衰えていなかった。
「わかりました。
では、側面攻撃はこの五人に任せましょう。
そして、残った私たちはこのままリュービ軍を追走。
側面攻撃でチョーヒの注意が逸れた瞬間に、全軍で攻撃します」
ウキンの号令の元、五将が向きを変え、隊列を離れていった。
一方、その様子を遠目に見つめるチョーヒ。
「へへ…増援があんなにも来やがったぜ。
来るなら来やがれ。
例え百万の兵相手でもアニキの元には行かせねーぜ!」
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「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
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