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第5部 赤壁大戦編
第86話 一歩!踏み出した天下!
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戦いの果て、悠然と渡り廊下に向け、歩みを進めるのは、一際小柄な、頭の左右に二つ、中華風のお団子カバーを着けている少女であった。
それは紛れもない、一騎当千のリュービの義妹・チョーヒ。
「まさか、我ら全員の攻撃を退けるとはな…
チョーヒ!」
ソウソウ軍を代表するようにカコウトンが叫ぶ。
彼女はカコウトン、カコウエン、ソウジン、チョーリョー、シュレイ、ロショウのソウソウ六将による一対六の戦いを制し、今、先行するソウジュンたちの前に姿を現した。
「はぁはぁ…
へん、お前らが何人がかりで来ようと敵じゃねーぜ!」
「まさか、ソウジン兄さんたちの攻撃でも倒せなかったというの…?」
「どうも、そのまさからしいな…」
ソウジンの妹・ソウジュンとチョーコーの前に現れたチョーヒは、多少息はあがっているものの、全くの無傷であった。
その姿に、ソウソウ軍の兵士たちは畏怖を示し、誰に言われるでもなく、思わず皆一様に彼女に道を譲り、誰も攻撃しようとはしなかった。
チョーヒの進行を許したカコウトンは、歯噛みしながらも、次へ向けて頭を巡らせていた。
六将を次々に繰り出し、絶えずチョーヒを攻撃し続けたが、チョーヒはその全てを撃ち返してしまった。
結果的に傷一つつけることは出来なかったが、チョーヒの体力を削ることは出来た。
カコウトンはこれをチョーヒを倒す好機ととらえ、全軍での総攻撃を指示しようと考えていた。
(相手はチョーヒとわずかな兵のみだが、もはや見栄を張っている余裕もない。
チョーヒの体力が尽きかけているのなら、これが奴を倒す最後のチャンスだ)
だが、そう考えていたカコウトンが全軍総攻撃の指示を出すより先に、一人の男子生徒が飛び出していった。
「我が名はチョーリョー!
チョーヒ、我が武の一振りを受けよ!」
「待て!
チョーリョー!」
青色の逆立った髪、青い道着のような服を着た屈強な男子生徒、ソウソウ軍武将・チョーリョーが、カコウトンの制止も聞かず、一人、チョーヒに向かって突き進んでいった。
「意気がんじゃねーぜ!」
チョーリョー・チョーヒ、互いに勢いよく相手にぶつかり合う。
リーチに勝るチョーリョーから敏速の拳が放たれる。
チョーヒは怯まず、チョーリョーの懐に飛び込み、彼の拳が頬をかすめ、白い肌に、赤い血が滲むのをもものともせず、彼女の渾身の拳がチョーリョーの腹をえぐる。
その一撃は、チョーリョーの鋼の肉体にめり込み、彼は思わず苦悶の表情を浮かべ、不確かな足取りで数歩下がった。
「ううっ…」
「これでトドメだぜぇぇぇ!」
チョーヒから再び放たれた渾身の一撃は、チョーリョーの大柄な体を後方に大きく吹き飛ばした。
「はぁはぁ…
オレはリュービが義妹チョーヒ!
さぁ、次の相手はどいつだ!」
チョーヒはその小さな体を大きく動かし、戦闘体勢をとりながら、ソウソウ軍へ一喝した。
(もうチョーヒの体力は限界だろうが…
今のチョーヒを見て、敢えて闘いを挑む者はいないだろう)
仁王立ちするチョーヒの勇姿に、ソウソウ軍の戦意は大きく削がれ、カコウエン、ソウジンらは部隊への指示を取り止めた。
そんな中、隻眼のソウソウ軍将・カコウトンは代表するように一人チョーヒの前に進み出た。
だが、その表情はどこか朗らかで、敵意は消え失せていた。
「はっはっは、チョーヒ!
どうやら我らの負けらしい。
行け、最早お前を止める者は誰もいない」
「へへへ…
そうか、じゃあ、帰らせてもらうぜ。
さぁ、お前ら道を空けろ」
彼女の前方にいたソウソウ軍の兵士たちは、チョーヒの言葉に呼応するように、一歩下がり道を作った。
「カコウトンさん!
チョーヒをみすみす逃がすのですか!」
黒髪に眼鏡、切れ長の目の女生徒、ソウソウ軍将・ウキンは怒鳴るような口調でカコウトンに噛みついた。
「仕方なかろう。
あの健気な闘将を倒すには万の兵士がいる。
今の我らでは戦力不足だ」
「ほう、隻眼の鬼将がいやに気前がいいじゃないか」
カコウトン・ウキンの後ろより、二人のよく聞いた女生徒の声が響いた。
赤みがかった長い黒髪、それと同じ色の眼に白い肌、背はそこまで高くはない、スラリとしたモデルの様な体型、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートのよくよく知った女生徒-
生徒会長、乱世の奸雄・ソウソウであった。
「ソウソウ!
いつの間に…」
「今、来たところだが…
なるほど、チョーヒか。
しかし、スポ根漫画じゃあるまいし、勝手に感傷に浸って満足しているのは感心せんな」
ソウソウはそう言うと、静かにカコウトンを睨み付けた。
「しかし、もう我らにはチョーヒを止めるだけの士気は残っていないぞ」
「それで納得するものばかりではないようだぞ」
ソウソウのその赤黒い目は、前方にいる一人の女生徒に向けられた。
「ソウソウ会長が到着するなんて…
このままリュービを逃してなるものですか!
チョーヒが倒せないのならリュービ軍に総攻撃をかけなさい!」
黄色髪をポニーテールにまとめ、小柄で精悍な顔つきのソウソウ軍の将・ソウジュンは、チョーヒを無視し、部隊を率いて、さらに前方にいるリュービ本隊に向けて進軍した。
「アニキ!
クッ…足が重い…
これじゃ追い付けねぇ…」
チョーヒの体力はもはや走るほども残ってはいなかった。
ソウジュンの進軍にリュービ本隊は慌ただしく動く。
「今、全軍で攻められるとまずい!」
俺は周囲を見回したが、部隊の多くは疲労・負傷し、まだ戦える者も気が抜けたのか、へたりこむ者も少なくなく、ソウソウ軍の猛攻に耐えれるか難しい様子だ。
「もう兵がいない。
とにかく、リュービさんだけでも逃がさないと…」
リュービ軍武将・チョーウンは真っ先にリュービの守りに入ったが、他の多くの者は立ち上がるのもやっとという有り様であった。
その時であった。
美しく、よく澄んだ声が辺りに轟いた。
「遅くなりました兄さん!」
「カンウ!」
俺たちの前に姿を現したのは、腰まで届く長く美しい黒髪、お嬢様のような雰囲気をもつ長身の女生徒、俺の義妹・カンウだ。
「リュウキ軍も一緒です。
敵兵は私たちが引き受けます!」
カンウは部隊を展開し、ソウソウ軍を迎撃するよう陣形を作った。
「ここでカンウが来るなんて!」
ここに来ての無傷の部隊の登場。
さらにその指揮官が、その名を学園に轟かせた無敵のカンウとあって、ソウジュンも思わずその足を止めた。
「カンウの参戦に、兵の補充か。
さすがに退き時か」
そう言うと、奥にいたソウソウは周囲の兵士たちとともに前進を始めた。
一方、ソウジュンが退いたことにより、俺たちの元に、無事、チョーヒが合流した。
「待たせましたね、チョーヒ」
「へへ、遅いぜ、カン姉」
「よく頑張ってくれた。
ありがとう、チョーヒ」
「アニキィ…
疲れたぁー」
チョーヒは少し目を潤ませながら、崩れるように俺に抱きついてきた。
俺は彼女を受け止めると、労るように優しくその頭を撫でた。
無事に、とは言い難いが、なんとか俺たちは渡り廊下の先まで逃げることができた。
だが、その後ろにはまだソウソウの大軍が群れなしていた。
その様子をソウソウはただ静かに見ていた。
「リュウキ軍の合流で息を吹き返したとはいえ、リュービ軍はほぼ壊滅状態、捕虜も多数…
しかし、お前たちの顔を見ると、どうも我が軍の勝ち戦とは言えないようだな」
その言葉に隣に立つカコウトンが答える。
「すまんな、ソウソウ。
しかし、とても勝ち戦という気分にはなれんのだ」
ソウソウが傍らのカコウトンと話ながら、俺たちの方に歩み寄ってくる。
だが、その歩みは遅く、伴う兵も少なく、あまり戦おうという雰囲気ではない。
ガガガガガ…
その時、突然、辺りに謎の機械音が起きた。
「なんだこの音は?」
俺は振り返ると、薄水色の髪に、まだ幼さの残る愛らしい顔つきの、小さな女生徒、軍師・コウメイが駆け寄ってきた。
「リュービさん、今、渡り廊下の防火シャッターを降ろしました。
これでソウソウ軍を切り離せます」
天井を見ると、徐々にシャッターが下りてきている。
降りてくる速度は遅いが、あのソウソウの大軍が渡る時間まではないだろう。
俺はすぐにまだ渡りきってない者を急がせ、ソウソウの方に向き直った。
「ソウソウ!」
「どうやら、リュービが私を呼んでいるようだ」
「ソウソウ、危険だ」
「私はあいつには答えてやらねばならん」
俺がソウソウを呼ぶと、それに応じるようにソウソウは一人、前に進み出て、姿を現した。
俺はソウソウに向けて叫んだ。
「ソウソウ!
中央の生徒の代表よ!
俺はこの生徒たちの代表リュービだ!
君が中央で天下を治めるように、俺はこの先の地で新たな天下を目指そう。
この度の戦いは君が俺を捕らえるという目標を達せられなかった。
よって俺の勝ちだ!
次の戦いでは俺が君を捕らえる番だ!
どちらの天下がこの学園を治めるか決着をつけよう!」
「ふふふ、ははは…!
生徒の代表!
天下!
勢力を失い、兵も散り散りとなった根なし草でありながら、英雄になろうと言うのか、リュービ!」
ソウソウはどこか楽しそうに俺の言葉に答えた。
「リュービ!
流浪の王者よ!
認めよう。
今、確かに君は天下を目指す英雄となった。
だが、お前は一つ間違えている。
次の戦いも私がお前を討つ戦いだ。
次は同じ天下を目指す者としてお前を討とう!」
流浪の王者、それがこの乱世の奸雄がリュービに出した答えであった。
「リュービさん、もう閉まります」
コウメイの言葉に、俺は最後の言葉をソウソウに発した。
「ソウソウ、次こそ決着をつけよう!」
そこ言葉とともに、ガシャンと音を立てて防火シャッターが閉まった。
後に残されたソウソウは一人、満面の笑みを浮かべていた。
「ふふ、この状況下で言葉一つで私と対等になるとは…だから奴は面白い。
この戦いはどうやら我らの敗けのようだ。
我らは一度、リュウヒョウ本拠地の図書室に撤退する。
今後をそこで話し合おう。
負傷者、捕虜らを丁重に移送せよ」
リュービを寸前で逃したソウソウ軍は、ソウソウの命令により撤退を開始した。
今やソウソウ軍の将となった元リユウヒョウ軍将・ブンペーも捕らえた捕虜を確認しながら、撤退準備を行っていたが、廊下の隅に見覚えのある少女の姿を見つけた。
「お前は確かリュービの参謀…
ここで何をしている」
そこには黒と緑二色のショートの髪に、フードのついた大きめのパーカーを羽織った女生徒が一人、取り残されたように立っていた。
彼女の名はジョショ。
リュービの参謀として側に仕えていたのを、ブンペーは見知っていた。
「私はリュービの元でなら何かを成せると思っていた。
だが、私の役目はリュービとコウメイを引き合わせることであったようだ。
ふふふ…どうやら、私の役目はもう終わっていたらしい」
後はただただ不適に笑うばかりであった。
どうも、取り残されたというよりは自分の意思で止まったようだが、ブンペーにはいまいち意味が呑み込めなかった。
「よくわからんが、お前は捕虜だ。
ついてこい」
「私の心は既に砕け、何もできなくなってしまった。
…ここでお別れだ、リュービ…」
ジョショはブンペーに連行され、北へと去っていった。
リュービとソウソウの対面を見ていたのは二人の勢力ばかりではなかった。
ここにもう一人、第三の勢力の女が二人のやり取りを目撃していた。
「あれがリュービですか…
勢力も戦力もまるで及ばないのに、それでもなお、ソウソウのライバルと言われる男ですか。
これはとんでもない掘り出し物かもしれないですな…」
彼女は東校舎より来たチュー坊陣営客将・ロシュク。
灰色の長い髪に黒いリボンをつけ、ブラウスの上から黒いローブを羽織ったその女生徒は、手に持った扇子を叩きながら呟いた。
「奇貨居くべし…」
それは紛れもない、一騎当千のリュービの義妹・チョーヒ。
「まさか、我ら全員の攻撃を退けるとはな…
チョーヒ!」
ソウソウ軍を代表するようにカコウトンが叫ぶ。
彼女はカコウトン、カコウエン、ソウジン、チョーリョー、シュレイ、ロショウのソウソウ六将による一対六の戦いを制し、今、先行するソウジュンたちの前に姿を現した。
「はぁはぁ…
へん、お前らが何人がかりで来ようと敵じゃねーぜ!」
「まさか、ソウジン兄さんたちの攻撃でも倒せなかったというの…?」
「どうも、そのまさからしいな…」
ソウジンの妹・ソウジュンとチョーコーの前に現れたチョーヒは、多少息はあがっているものの、全くの無傷であった。
その姿に、ソウソウ軍の兵士たちは畏怖を示し、誰に言われるでもなく、思わず皆一様に彼女に道を譲り、誰も攻撃しようとはしなかった。
チョーヒの進行を許したカコウトンは、歯噛みしながらも、次へ向けて頭を巡らせていた。
六将を次々に繰り出し、絶えずチョーヒを攻撃し続けたが、チョーヒはその全てを撃ち返してしまった。
結果的に傷一つつけることは出来なかったが、チョーヒの体力を削ることは出来た。
カコウトンはこれをチョーヒを倒す好機ととらえ、全軍での総攻撃を指示しようと考えていた。
(相手はチョーヒとわずかな兵のみだが、もはや見栄を張っている余裕もない。
チョーヒの体力が尽きかけているのなら、これが奴を倒す最後のチャンスだ)
だが、そう考えていたカコウトンが全軍総攻撃の指示を出すより先に、一人の男子生徒が飛び出していった。
「我が名はチョーリョー!
チョーヒ、我が武の一振りを受けよ!」
「待て!
チョーリョー!」
青色の逆立った髪、青い道着のような服を着た屈強な男子生徒、ソウソウ軍武将・チョーリョーが、カコウトンの制止も聞かず、一人、チョーヒに向かって突き進んでいった。
「意気がんじゃねーぜ!」
チョーリョー・チョーヒ、互いに勢いよく相手にぶつかり合う。
リーチに勝るチョーリョーから敏速の拳が放たれる。
チョーヒは怯まず、チョーリョーの懐に飛び込み、彼の拳が頬をかすめ、白い肌に、赤い血が滲むのをもものともせず、彼女の渾身の拳がチョーリョーの腹をえぐる。
その一撃は、チョーリョーの鋼の肉体にめり込み、彼は思わず苦悶の表情を浮かべ、不確かな足取りで数歩下がった。
「ううっ…」
「これでトドメだぜぇぇぇ!」
チョーヒから再び放たれた渾身の一撃は、チョーリョーの大柄な体を後方に大きく吹き飛ばした。
「はぁはぁ…
オレはリュービが義妹チョーヒ!
さぁ、次の相手はどいつだ!」
チョーヒはその小さな体を大きく動かし、戦闘体勢をとりながら、ソウソウ軍へ一喝した。
(もうチョーヒの体力は限界だろうが…
今のチョーヒを見て、敢えて闘いを挑む者はいないだろう)
仁王立ちするチョーヒの勇姿に、ソウソウ軍の戦意は大きく削がれ、カコウエン、ソウジンらは部隊への指示を取り止めた。
そんな中、隻眼のソウソウ軍将・カコウトンは代表するように一人チョーヒの前に進み出た。
だが、その表情はどこか朗らかで、敵意は消え失せていた。
「はっはっは、チョーヒ!
どうやら我らの負けらしい。
行け、最早お前を止める者は誰もいない」
「へへへ…
そうか、じゃあ、帰らせてもらうぜ。
さぁ、お前ら道を空けろ」
彼女の前方にいたソウソウ軍の兵士たちは、チョーヒの言葉に呼応するように、一歩下がり道を作った。
「カコウトンさん!
チョーヒをみすみす逃がすのですか!」
黒髪に眼鏡、切れ長の目の女生徒、ソウソウ軍将・ウキンは怒鳴るような口調でカコウトンに噛みついた。
「仕方なかろう。
あの健気な闘将を倒すには万の兵士がいる。
今の我らでは戦力不足だ」
「ほう、隻眼の鬼将がいやに気前がいいじゃないか」
カコウトン・ウキンの後ろより、二人のよく聞いた女生徒の声が響いた。
赤みがかった長い黒髪、それと同じ色の眼に白い肌、背はそこまで高くはない、スラリとしたモデルの様な体型、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートのよくよく知った女生徒-
生徒会長、乱世の奸雄・ソウソウであった。
「ソウソウ!
いつの間に…」
「今、来たところだが…
なるほど、チョーヒか。
しかし、スポ根漫画じゃあるまいし、勝手に感傷に浸って満足しているのは感心せんな」
ソウソウはそう言うと、静かにカコウトンを睨み付けた。
「しかし、もう我らにはチョーヒを止めるだけの士気は残っていないぞ」
「それで納得するものばかりではないようだぞ」
ソウソウのその赤黒い目は、前方にいる一人の女生徒に向けられた。
「ソウソウ会長が到着するなんて…
このままリュービを逃してなるものですか!
チョーヒが倒せないのならリュービ軍に総攻撃をかけなさい!」
黄色髪をポニーテールにまとめ、小柄で精悍な顔つきのソウソウ軍の将・ソウジュンは、チョーヒを無視し、部隊を率いて、さらに前方にいるリュービ本隊に向けて進軍した。
「アニキ!
クッ…足が重い…
これじゃ追い付けねぇ…」
チョーヒの体力はもはや走るほども残ってはいなかった。
ソウジュンの進軍にリュービ本隊は慌ただしく動く。
「今、全軍で攻められるとまずい!」
俺は周囲を見回したが、部隊の多くは疲労・負傷し、まだ戦える者も気が抜けたのか、へたりこむ者も少なくなく、ソウソウ軍の猛攻に耐えれるか難しい様子だ。
「もう兵がいない。
とにかく、リュービさんだけでも逃がさないと…」
リュービ軍武将・チョーウンは真っ先にリュービの守りに入ったが、他の多くの者は立ち上がるのもやっとという有り様であった。
その時であった。
美しく、よく澄んだ声が辺りに轟いた。
「遅くなりました兄さん!」
「カンウ!」
俺たちの前に姿を現したのは、腰まで届く長く美しい黒髪、お嬢様のような雰囲気をもつ長身の女生徒、俺の義妹・カンウだ。
「リュウキ軍も一緒です。
敵兵は私たちが引き受けます!」
カンウは部隊を展開し、ソウソウ軍を迎撃するよう陣形を作った。
「ここでカンウが来るなんて!」
ここに来ての無傷の部隊の登場。
さらにその指揮官が、その名を学園に轟かせた無敵のカンウとあって、ソウジュンも思わずその足を止めた。
「カンウの参戦に、兵の補充か。
さすがに退き時か」
そう言うと、奥にいたソウソウは周囲の兵士たちとともに前進を始めた。
一方、ソウジュンが退いたことにより、俺たちの元に、無事、チョーヒが合流した。
「待たせましたね、チョーヒ」
「へへ、遅いぜ、カン姉」
「よく頑張ってくれた。
ありがとう、チョーヒ」
「アニキィ…
疲れたぁー」
チョーヒは少し目を潤ませながら、崩れるように俺に抱きついてきた。
俺は彼女を受け止めると、労るように優しくその頭を撫でた。
無事に、とは言い難いが、なんとか俺たちは渡り廊下の先まで逃げることができた。
だが、その後ろにはまだソウソウの大軍が群れなしていた。
その様子をソウソウはただ静かに見ていた。
「リュウキ軍の合流で息を吹き返したとはいえ、リュービ軍はほぼ壊滅状態、捕虜も多数…
しかし、お前たちの顔を見ると、どうも我が軍の勝ち戦とは言えないようだな」
その言葉に隣に立つカコウトンが答える。
「すまんな、ソウソウ。
しかし、とても勝ち戦という気分にはなれんのだ」
ソウソウが傍らのカコウトンと話ながら、俺たちの方に歩み寄ってくる。
だが、その歩みは遅く、伴う兵も少なく、あまり戦おうという雰囲気ではない。
ガガガガガ…
その時、突然、辺りに謎の機械音が起きた。
「なんだこの音は?」
俺は振り返ると、薄水色の髪に、まだ幼さの残る愛らしい顔つきの、小さな女生徒、軍師・コウメイが駆け寄ってきた。
「リュービさん、今、渡り廊下の防火シャッターを降ろしました。
これでソウソウ軍を切り離せます」
天井を見ると、徐々にシャッターが下りてきている。
降りてくる速度は遅いが、あのソウソウの大軍が渡る時間まではないだろう。
俺はすぐにまだ渡りきってない者を急がせ、ソウソウの方に向き直った。
「ソウソウ!」
「どうやら、リュービが私を呼んでいるようだ」
「ソウソウ、危険だ」
「私はあいつには答えてやらねばならん」
俺がソウソウを呼ぶと、それに応じるようにソウソウは一人、前に進み出て、姿を現した。
俺はソウソウに向けて叫んだ。
「ソウソウ!
中央の生徒の代表よ!
俺はこの生徒たちの代表リュービだ!
君が中央で天下を治めるように、俺はこの先の地で新たな天下を目指そう。
この度の戦いは君が俺を捕らえるという目標を達せられなかった。
よって俺の勝ちだ!
次の戦いでは俺が君を捕らえる番だ!
どちらの天下がこの学園を治めるか決着をつけよう!」
「ふふふ、ははは…!
生徒の代表!
天下!
勢力を失い、兵も散り散りとなった根なし草でありながら、英雄になろうと言うのか、リュービ!」
ソウソウはどこか楽しそうに俺の言葉に答えた。
「リュービ!
流浪の王者よ!
認めよう。
今、確かに君は天下を目指す英雄となった。
だが、お前は一つ間違えている。
次の戦いも私がお前を討つ戦いだ。
次は同じ天下を目指す者としてお前を討とう!」
流浪の王者、それがこの乱世の奸雄がリュービに出した答えであった。
「リュービさん、もう閉まります」
コウメイの言葉に、俺は最後の言葉をソウソウに発した。
「ソウソウ、次こそ決着をつけよう!」
そこ言葉とともに、ガシャンと音を立てて防火シャッターが閉まった。
後に残されたソウソウは一人、満面の笑みを浮かべていた。
「ふふ、この状況下で言葉一つで私と対等になるとは…だから奴は面白い。
この戦いはどうやら我らの敗けのようだ。
我らは一度、リュウヒョウ本拠地の図書室に撤退する。
今後をそこで話し合おう。
負傷者、捕虜らを丁重に移送せよ」
リュービを寸前で逃したソウソウ軍は、ソウソウの命令により撤退を開始した。
今やソウソウ軍の将となった元リユウヒョウ軍将・ブンペーも捕らえた捕虜を確認しながら、撤退準備を行っていたが、廊下の隅に見覚えのある少女の姿を見つけた。
「お前は確かリュービの参謀…
ここで何をしている」
そこには黒と緑二色のショートの髪に、フードのついた大きめのパーカーを羽織った女生徒が一人、取り残されたように立っていた。
彼女の名はジョショ。
リュービの参謀として側に仕えていたのを、ブンペーは見知っていた。
「私はリュービの元でなら何かを成せると思っていた。
だが、私の役目はリュービとコウメイを引き合わせることであったようだ。
ふふふ…どうやら、私の役目はもう終わっていたらしい」
後はただただ不適に笑うばかりであった。
どうも、取り残されたというよりは自分の意思で止まったようだが、ブンペーにはいまいち意味が呑み込めなかった。
「よくわからんが、お前は捕虜だ。
ついてこい」
「私の心は既に砕け、何もできなくなってしまった。
…ここでお別れだ、リュービ…」
ジョショはブンペーに連行され、北へと去っていった。
リュービとソウソウの対面を見ていたのは二人の勢力ばかりではなかった。
ここにもう一人、第三の勢力の女が二人のやり取りを目撃していた。
「あれがリュービですか…
勢力も戦力もまるで及ばないのに、それでもなお、ソウソウのライバルと言われる男ですか。
これはとんでもない掘り出し物かもしれないですな…」
彼女は東校舎より来たチュー坊陣営客将・ロシュク。
灰色の長い髪に黒いリボンをつけ、ブラウスの上から黒いローブを羽織ったその女生徒は、手に持った扇子を叩きながら呟いた。
「奇貨居くべし…」
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