学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ

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第5部 赤壁大戦編

第101話 遺命!二つの願い!

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 ソウソウにふんしたソウジュンにまどわされ、追撃したリュウバン・コーチューたちであったが、反対に罠にはまり、ブンペーの強襲を受けることとなった。

「ブンペー!

 この裏切り者が!」

「逃げ出したお前に何がわかるか!」

 激昂したブンペーの一撃は、先頭に立つリュウバンを撃ち破った。

「大将!」

「あなたの相手は私です!」

 隊長・リュウバンの方へと振り返るコーチューを、ソウジュンが引き留める。

 ソウジュンも最強を誇るソウソウ軍の武将、その腕には自信があった。

 しかし、今回は相手が悪かった。

「お主はわしを怒らせたようじゃな。

 ここまでしておいて無事に帰れると思わんことじゃ」

 カンフー衣裳いしょうの女生徒・コーチューの怒りはその場の空気を一変させ、その一にらみだけでソウジュンたちをひるませた。

 だが、それでもソウジュンは歩みを止めなかった。

「私もソウソウ軍の一角を務める者!

 元より覚悟の上です!」

 ソウジュンがソウソウの身代わりをかって出た時より、無事に帰れぬことは覚悟していた。

 今さらコーチューの言葉にじ気づき、逃げ出すことはあり得なかった。

「その覚悟や良し!

 受けてみよ、我が拳を!」

 コーチューは戦闘の構えを取り、それに合わせるようにソウジュンも構えた。

 だが、次の瞬間、ソウジュンの視界からコーチューの拳は消え失せ、それとほぼ同時にソウジュンの全身から無数の痛みが発し、その場に崩れ落ちた。

「見、見えなかった…」

「これがわしの本気の拳じゃ!」

 ソウジュンを倒すと、コーチューはすぐ様、その周囲の兵士に目をやり、彼らが構える暇も与えず、一瞬で倒すと、リュウバンの方へと駆け寄った。

「ソウジュンさん!

 お前たち、リュウバン隊はもういい!

 ソウジュンさんを回収して撤退するよ!」

 一方、ブンペーも、本人が覚悟していたとは言え、ソウソウの親族でもあるソウジュンを、ソウソウ軍の中でも新参である彼女には見捨てることができなかった。

「ブンペー、お主は許せぬ!

 が、今はリュウバン隊長の無事が大事じゃ!

 ここは見逃してやる!」

「その程度の兵士数で意気がらないでもらいたいものですね!

 ですが、我らも今はソウジュンさんの回収を優先させてもらいます!」

 コーチュー、ブンペー、かつてともにリュウヒョウに仕えた二人は高速ですれ違い、お互いの仲間の元に走った。

「ソウジュンさん!

 私たちが無事に連れて帰ります!」

 ブンペーはソウジュンを回収すると、すぐにその場から撤退した。

「大将!

 リュウバンの大将!」

 一方、コーチューはリュウバンの元にたどり着いたものの、こちらはリュウバン以外にも部隊から負傷者を出しており、すぐにその場を離れることができなかった。

「リュウバンの大将、こんなところで死ぬるでないぞ!」

 コーチューがリュウバンの体を起こし、激しく揺らすと、リュウバンがかすかに目を開いた。

「うう…勝手に殺すな、コーチュー」

「おお、生きとったか、大将!」

「死にはせん…

 死にはせんが、ずいぶん、痛め付けられてしまったな…

 ソウソウにもまんまと逃げらたか」

 満身創痍まんしんそういとなったリュウバンは立ち上がるのもままならない様子で、その場に寝たままで話し始めた。

 コーチューがソウジュンを打ち倒したのは手柄だが、肝心のソウソウを追撃するのは、もはや叶わぬ願いであろうことは察せられた。

「リュウバンさん!

 無事ですか!」

 倒れるリュウバンの元に新たな部隊が接近してきた。

 それは他ならぬリュウバンの盟友・リュービであった。



 俺たちリュービ軍は壁となっていたソウソウ軍を蹴散らし、先を急いだが、結局ソウソウに追い付くことは出来ず、先行していたリュウバン隊へ合流することとした。

 だが、リュウバン隊に追い付いた俺たちの目に映ったのは、倒れているリュウバンの姿であった。

「リュウバンさん!

 大丈夫ですか」

 俺はリュウバンの元に駆け寄った。

「おお…リュービか…

 残念だが、ソウソウを取り逃がしてしまった…

 俺も敵襲を受けこのざまだ…

 どうやら俺はここまでのようだ…」

「しっかりしてください、リュウバンさん。

 この怪我ならまだ充分復帰できますよ」

「そうじゃよ、大将!

 そんな弱気なことを言うな」

 引退をほのめかすリュウバンを、俺とコーチューは必死ではげました。

 だが、リュウバンの考えは違った。

「確かに、この怪我ならしばし休養すれば再び戦いに加わることも出来るだろう…

 しかし、俺ももう三年生、復帰した頃には受験に専念せねばならん…」

「リュウバン…

 お前、大学行く予定だったのかぜ」

「チョーヒ…

 すまないが、今は黙っててくれ」

 俺の義妹・チョーヒが余計な茶々を入れたが、リュウバンは話を続けた。

「ふっ、似合わんか…

 だが、俺も受験生になる以上、ここを潮時と判断すべきだろう…

 リュービ、俺の率いている部隊をお前に譲りたいと思う…」

「え、リュウバンさん…

 それは大変ありがたい申し出ですが、リュウバンさんの部隊には副隊長のコーチューさんもおりますし、弟のリュウホウもいます。

 この二人の方が俺よりも主にふさわしいのではないですか」

 それはリュウバンからの突然の申し出であった。

 確かに兵力が大きく劣る俺からすれば、リュウバン隊の精鋭部隊はとても魅力的だが、しかし、それを俺は受け取っていいものなのだろうか。

 戸惑う俺に対し、リュウバンは話を続けた。

「リュウヒョウ陣営が潰れ、この南校舎の情勢は明日さえわからぬ事態となった…

 この混沌の時代の中をコーチューであれ、リュウホウであれ…いや、俺であっても乗り越えることはできないだろう…

 だが、リュービ、君は違う…!

 君はソウソウに追い詰められながらも、不屈の闘志であらがい続け、ついに逆転の一手を打ち、今回の勝利となった…

 君はここで終わる男ではない…

 必ずこの勝利を利用し、この選挙戦に大きな一歩を踏み出すことだろう…

 そんな君だからこそ、我が部隊の行く末をゆだねたい…!」

 そう語るリュウバンに続き、副隊長・コーチューが話を続ける。

「この戦いの前に、リュウバン隊長とは不測の事態が起きた時の身の振り方を話し合っておった。

 その時に次の主はリュービ殿にと、おおせつかった」

 そういうとコーチューとその部隊一同は俺に対してひざを着け、頭を下げて願い出た。

「わしら一同、リュービ殿に忠誠を誓います。

 どうか、わしらの忠義をお受け取りください」

「…わかった。

 君たちの忠義、このリュービ確かに受け取った。

 コーチュー、君をこの部隊の新たな隊長に任命し、君たちが我がリュービ陣営に加わることを許そう」

 俺はコーチューの手を取り、その願いを聞き入れた。

 リュウヒョウ陣営が分裂した今、イトコであるリュウバンが残党をまとめ上げ、盟主となってソウソウに対抗する道もあっただろう。

 だが、リュウバンはまだ海のものとも山のものとも知れない俺に、部隊の命運を託した。

 ならば、俺はそれを受け入れよう。

 コーチューの手を取った俺を見て、リュウバンは安心したように微笑ほほえんだ。

「リュービ、君にもう一つ頼みたいことがある…

 弟を、リュウホウを呼んでくれないか…」

「兄さん、僕ならここにいます」

 リュウバンに呼ばれ、細身に、木訥ぼくとつな雰囲気の男子生徒が前に進み出た。

 彼はリュウバンの弟・リュウホウ。

 前にリュウバンからの依頼で、今はリュービ陣営に所属していた。

「リュウホウ、我が部隊をお前に託そうとも考えたが、リュウヒョウ陣営が分裂した今、一つ部隊を持ったところでお前の負担にしかならんだろう…

 だから、部隊はリュービに譲ることにした…」

「はい、兄さん。

 それが一番良い判断だと思います」

「リュウホウ、お前は引き続きリュービの元にいろ…

 そして、リュービ…

 君にもう一つ頼みだ…

 このリュウホウと義兄弟のちぎりを交わしてはくれないだろうか…!」

「きょ、兄弟ですか?」

「無理な願いだとは承知している…

 だが、それでも頼む…

 リュウホウを君の義弟にしてくれないか…?」

「すでにリュウホウ君は我が陣営で一廉ひとかどの武将を務めています。

 わざわざ兄弟にならなくても、俺は彼をおろそかに扱ったりはしませんよ」

「リュービ、君を信用していないからではない…

 リュウホウは俺の弟…つまりリュウヒョウのイトコにあたる…

 その出自は今や呪いとなった…

 リュウヒョウ陣営が分裂し、その残党が四方に散った今、リュウホウをかつぎ、対ソウソウの旗頭はたがしらに利用しようとする者も出てくるだろう…

 リュウホウがその思惑おもわくを反対に利用し、生徒会長を目指すというのならそれを良いが、リュウホウはその地位を望まないだろうし、それが出来るほど器用でもない…

 リュウホウをこのままにしておくのは、政争の種を生むだけだ…」

「それが俺の義弟にする理由なのですか?」

「リュービ、君たち三兄妹はこの学園でも有名だ…

 君がカンウ・チョーヒと桃園で義兄妹のちぎりを交わし、以来、二人の豪傑ごうけつはリュービを長兄と敬い、苦楽を共にしてきた…

 リュービ三兄妹を知らぬ者はこの学園にはいない…

 リュウホウが、そのリュービの義弟になったと聞けば世間はどう考えるか…

 リュウホウは完全にリュービの傘下さんかに入ったとさとり、余計な手を出す者もいなくなるだろう…」

「なるほど、話はわかりました。

 しかし、兄弟を増やすというのは俺の一存では…」

 俺は後ろに控える義妹・カンウ、チョーヒの方へと振り返った。

「良いんじゃないでしょうか。

 私もカンペーを義妹にしましたし」

「そうだぜ!

 このままリュウホウを見捨てるわけにもいかねーしな」

 今回は事情が事情だろうからか、カンウ・チョーヒは案外簡単に納得してくれた。

「わかりました。

 リュウホウが望むなら、俺の義弟としましょう」

「は、はい、僕からもお願いします。

 リュービさん、僕を義弟にしていただけないでしょうか」

「わかった。

 リュウホウ、君を今日この時から俺の義弟としよう」

 俺は新たな義弟として、リュウホウを迎えた。

 その決断に、その兄・リュウバンは感謝をもって答えた。

「ありがとう、リュービ…

 だが、義弟になったからといってリュウホウを特別扱いすることはない…

 厳しく接してやってほしい…

 それが俺の最後の願いだ…」

「了解しました。

 リュウホウをお預かりいたします」

 さらに俺はリュウホウを新たに義弟として、陣営に加えることとなった。

 ここにきて思わぬ戦力の増強を得て、俺たちは再びソウソウへの追撃戦へと戻っていった。



 南校舎・元ソウソウ本陣~

 先ほどまでソウソウが陣取っていたこの場所は、ソウソウ軍とシュウユ軍の激戦を経て、今やまるで焼け野原のような惨状さんじょうとなっていた。

 激戦の中、シュウユ軍の兵士も多く倒れたが、それよりも多くのソウソウ軍兵士が倒され、そのほとんどは収容する場所もなく、そのままこの場へと放置されていた。

「コウガイはまだ見つからんのか!」

 頭に赤いバンダナを巻き、ほおに傷がある屈強な男が部下たちを怒鳴り付ける。

 この男・カントウは普段は無口で、大声を発したり、怒鳴ったりすることはまれであったが、この時ばかりは別であった。

 コウガイは危険をかえりみずこの戦いでソウソウに対して偽りの投降をし、そのまま行方知れずとなっていた。

 ソンケン(兄)時代からの友人・カントウはソウソウ軍を撃退後、引き続きこの地でコウガイの行方を探していた。

「すみません、折り重なって倒れている兵士も多く、なかなか顔の判別ができません。

 しかし、これだけ探しても見つからないのなら、ソウソウの捕虜となって連行された可能性も高いのではないでしょうか?」

「うう、コウガイ、何処いずこへ…

 コウガイ!

 いたら返事せよ、コウガイ!」

 その時、少し離れた兵士の山の下よりわずかに声がれ出た。

「カ…カントウ…」

「これはコウガイの声!

 コウガイ、そこか!」



「コウガイ、無事だったか」

 コウガイの無事を聞き、この軍の副司令・テイフが急ぎ、医務室へと姿を現した。

「おお、テイフ、心配かけたのう。

 この通り、ワシは無事じゃ!」

 予想より元気そうなコウガイの姿を見て、テイフはホッと胸をで下ろした。

「目もろくに見えんまま、人流に巻き込まれ、トイレの方まで流されておったそうじゃ。

 カントウが見つけてくれねば今も臭い思いをしとるところじゃったわ、ハッハッハ」

 豪快に笑うコウガイの横には、彼を発見したカントウ、さらにこの軍の総司令官・シュウユも同席していた。

 そして、その総司令官・シュウユはコウガイに対し、頭を下げた。

「コウガイさん。

 今回は私の策のために危険な目に合わせ、申し訳ありませんでした」

「謝ることはないわい、シュウユ。

 元々この役目はワシが望んだことじゃ」

 その言葉に、今度は副司令・テイフが頭を下げた。

「謝らなければならないのは俺の方だ。

 コウガイ、君がシュウユに今回に役目を申し出たのも、俺がシュウユと不仲であったからであろう。

 シュウユ、俺は君が軍権を掌握しょうあくしていく様を見て、密かにソンケン様の陣営を乗っ取ろうと画策しているのではと疑っていた。

 だが、君は私の矮小わいしょうな疑惑をものともせず、見事あのソウソウに勝利した。

 どうやらソンケン様の繁栄を阻害そがいしていたのは俺であったようだ。

 シュウユ、そしてコウガイ、許してほしい。

 そして、シュウユ、改めて俺は君の指揮下に入ることをここに誓おう」

「テイフさん、ありがとうございます。

 では、これより我らは対ソウソウ戦の第二幕へと移ります」
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