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第6部 西校舎攻略編

第124話 採用!奸雄の弟!

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 その事件は起こるべくして起こった。

 かねてより不穏な噂の挙がる西北校舎の生徒たちが、バチョウ・カンスイを中心に一大連合を結成。生徒会長・ソウソウに対し、反乱を起こした。

 その総勢を千人と号し、西北校舎を東進、またたく間にソウソウのお膝元である中央校舎西部まで侵食し、それまでの安寧は打ち破られた。

 それに対しソウソウは、配下のソウジンを派遣。防壁を組ませ、バチョウらの侵攻を食い止めさせた。



 西北陣営~

 反乱を起こした西涼の生徒たちは、校舎の一角を占領し、机椅子を盾に陣地を構築して、中央へ続く廊下を防衛するソウソウ軍と戦争を開始していた。

「おお、よく来られた。

 あなた方のような歴戦のお歴々にご足労いただき、このカンスイ、感謝の念に耐えませんぞ」

 カウボーイハットをかぶった筋肉質の男性、この反乱軍の首謀者の一人・カンスイは新たに二人の男を満面の作り笑顔で出迎えていた。

「なーに、三国学園のソウソウと言ったら、その傲岸不遜ごうがんふそんっぷりは有名だからな」

「俺らが奴に一泡吹かせられたら、これ程愉快なことはないわ」

 彼らは興国こうこく高校の番長・アキ、そして、百頃ひゃくけい高校の番長・センバン。二人はそれぞれの手下を率い、この度の反乱軍に合流した。カンスイはその顔の広さを活かして、他校の生徒まで巻き込み、より大規模な反乱へと発展させていた。

 参戦者をねぎらうカンスイに対し、「ボス」と呼びかけて、前線の方より隻眼の男・エンコウが駆けてきた。

「ボス、敵さんの将はソウジンです。

 今、我が軍が攻撃を加えておりますが、一向にびくともしません」

「ふむ、ソウジンといえばリュービ・シュウユらの連合軍の進攻を食い止めたほどの名将だ。

 そう簡単に降すことは叶うまい。

 あせらず、慎重にいけ。

 だが、攻撃の手だけは休めてはならぬ」

 カンスイが指示を与えているところへ、今度は本陣の奥より、鋭い女性の声が轟いた。

 その声に続けてカンスイの前に、光を反射して輝きを放つ長い金髪をひるがえし、あおい瞳、白い肌、着崩した制服の女生徒がゆっくりと、しかし、いていることが伝わる速さでやってきた。

 彼女こそ、この連合の盟主・バチョウであった。

「カンスイ、前線が苦戦しているようだな。

 アタシが出よう」

 彼女は戦闘が始まったというのに、未だ出番のないことに鬱憤うっぷんまっているのが明らかな顔つきであった。

 今にも飛び出さんとする彼女に対し、カンスイは軽く笑い飛ばした。

「ハッハッハ。

 気が早いな。まだソウソウは出向いていないぞ。

 今は力を温存しておきたまえ」

 本番はこれからと、気さくに語りかけるカンスイに対し、それでもバチョウはどこか承服しかねる様子で反論した。

「しかし、今、戦っている相手のソウジンというのは、ソウソウ軍でも名の知れた武将だ。

 苦戦しているようだし、アタシが出向いた方が良いのではないか?」

 その提案をカンスイはより大声で笑い飛ばした。

「ハッハッハ、ソウジン?

 あんなのはただの鉄砲玉に過ぎんよ。

 聞けば、先の戦いでリュービのとこのチョーヒ相手に逃げ出したというじゃないか。

 バチョウ、君はソウジン風情ではなく、ソウソウこそ真に戦う相手だ。

 今はまだその時ではない、休みたまえ」

 カンスイの言葉に不承不承ふしょうぶしょうといった面持ちで、バチョウは本陣奥へと引っ込んでいった。

 そのバチョウの帰陣を見届けると、部下のエンコウは改めてカンスイに問いかけた。

「先程のソウジン評と違いますが、バチョウを温存して良かったのですか?

 あの娘は我らの武力のかなめなのでしょう?」

「良い。

 下手にバチョウをソウジンと戦わせて、敵に対策を講じられては困る。

 ソウソウという女は同じ手を二度も三度も喰らうような奴ではない。

 の女に大打撃を与える可能性が一番高いのは、まだ何の情報を持たぬ初撃だ。

 こちらについて何も知らぬ初撃時に、全力でもってソウソウに大損害を与える。叶うならば捕虜とする。

 それが最良の策だ。

 その時が来るまでバチョウは温存する」

 そう言うと、カンスイは不敵に笑った。彼にとって腹中の意見と外の言葉が一致しないのは、如何いかほどの意味も持たなかった。



 中央校舎・ソウソウ陣営~

 西部でソウジンと西北連合軍が攻防を繰り広げている頃、生徒会室には逐一、その情報が伝えられていた。

「ふむ、奴らが布陣したのはかつてトータクを追い詰めた辺りか。

 …あそこがまた戦場になるのか。

 しかし、西部の乱は予想以上の規模になったようだな」

 赤黒い髪、赤黒い眼、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートの女生徒、生徒会長・ソウソウは、次々と届けられる情報の山に目を通しながら、居並ぶ生徒会役員の面々を前にしてそう呟いた。

 その呟きに、彼女の隣に立つ銀髪に色黒の肌、メガネをかけた着物姿の女生徒が次の資料を差し出す。

 彼女はショーヨー。西部方面の管理を任せられていた生徒会役員である。

「ソウソウ会長、こちらをご覧くださいませ。

 カンスイらの檄文ですぅ」

 ショーヨーはゆったりとした口調ながらも、早々とその檄文を手渡す。

 その檄文には、生徒会の非道と今回の反乱の正当性が端的でありながら容易に、それでいて勇ましい文体で綴られていた。

「ほお、西北の連中は不良ばかりと思っていたが、なかなか学のありそうな奴がいるな」

「会長ぉ、そんな悠長なこと言ってはおられませんよぉ」

 周囲の生徒は、あんたの口調の方がよっぽど悠長だ、というツッコミを飲み込み、一拍空けて続けられるショーヨーの言葉を待った。

「この文体はおそらく、カコーの文ですよぉ。

 生徒会役員のぉ」

 ショーヨーの指摘に、ソウソウもなるほど、言われてみれば見覚えのあるの文体だと、納得する。

「カコーが望んで反乱にくみするとは思えませんよぉ。

 おそらく、敵のとりことなったのではないでしょうかぁ」

 その檄文は、既に西北の進攻が、ソウソウの陣営に食い込んでいることを示す証拠でもあった。

「今回の反乱は既に中央校舎に食い込んでいる。

 あの辺りを任せたゲンカンは生徒をまとめて逃げ出したそうだが、逃げ遅れた者も相当数いるようだな」

「それに加えて、西北が占領する地域から南側は完全に孤立しておりますぅ。

 このままいけば、西側が完全に敵の手に落ちるかもしれませんよぉ」

 元はと言えばショーヨーの献策がきっかけとなって起こった反乱なのだが、彼女はそれを気にしない程度には図太かった。

 しかし、今回の反乱をソウソウを予想以上に悩ませるとのとなった。

 西北の反乱は彼女の予想以上の規模と速さで、中央校舎の多くの生徒を巻き込む形となった。

 ソウソウの協力要請とほぼ同時期の反乱であったため、わずかな差で後手に回ってしまったことは、ソウソウの痛恨事であった。

「うーむ。ここまで大規模になると、カコウエンに一任するのは難しいか」

 現在、北校舎の反乱鎮圧に赴いているソウソウ軍の武将・カコウエン。ソウソウは彼女を西部方面を任せる司令官に育てようと密かに考えていた。

「ソウジンを南部司令官とした時は、赤壁せきへきの敗戦直後ということもあり、充分な準備をさせてやれなかった。

 そのため、次のカコウエンには充分な下準備をして、司令官とするつもりであった。

 だからこそ、司令官経験のあるソウジンに先鋒を任せ、彼の布陣や情報をカコウエンに引き継がせるつもりであったのだが……

 この戦いでカコウエンを失ってしまっては元も子もない。

 一先ひとまずは私が戦おう!」

 ソウソウは立ち上がると、参謀のカクに命じ、すぐに部隊の招集と、人員の確保を行わせた。

「今回の戦いに勝利したあかつきには、西北校舎まで我らの支配下に組み込む。

 そのために武将・参謀だけでなく、占領後の行政官も多く確保せよ!」

 ソウソウ指示の下、迅速に多くの人員が集められた。これらの人材をすぐに用意できるのが、ソウソウ陣営の強みであった。

「さて、この度の反乱鎮圧には、私自らが赴くこととなった。

 そのために生徒会室の留守を預ける武将が必要となる。

 ソウヒ、前へ!」

 ソウソウの言葉に周囲はざわめき、そのざわめきの中より一人の男子生徒が前に進み出た。

 黒い髪だが、前髪の左側より一房の赤髪がれており、瞳も髪と同じく黒いが、その目つきはソウソウに似ていた。背はスラリと高く、制服も着崩すことなく、きっちりと着ていた。

 彼はソウソウの弟・ソウヒ。

 ジュンイクからその起用は慎重にと、言われていた彼だが、周囲の彼をす声に答える形で、先日、生徒会の一員となった。

「ソウヒ、お前は私の弟であるが故に、その能力を疑問視する声もある。

 この度、お前を留守の大役につける。

 よくよく私不在の生徒会室を守り、見事大役を果たせ」

「はい。

 このソウヒ、謹んで留守の任を務めさせていただきます。

 姉さん…いえ、生徒会長の期待に沿えるよう、身命をして任務を全ういたします」

 ソウヒの格式張った言葉に満足すると、ソウソウは生徒会役員の面々へと目を移した。

 そして、ソウソウは次の人員の名前を呼んだ。

「テイイク!」

 ソウソウの呼びかけに応じ、今度は190㎝はある長身の女生徒、古参の参謀・テイイクが前に進み出る。

「テイイク、お前には軍事顧問を頼む。

 ソウヒを助けてやってくれ」

「はい、わかりました。

 このテイイクにお任せください」

 次にソウソウはせた、飾り気のない男子生徒、コクエンを招き、彼を行政顧問とした。

 さらに仙人のような風体ふうていの男性・チョウハン、穏やかな雰囲気の女性・ヘイゲンの二人を呼び、相談役とした。

 こうして留守を任されたソウヒには、四人もの補佐役がソウソウよりつけられた。

「ソウヒよ。

 テイイクは長らく参謀として私を助けてくれた人物だ。軍事のことは彼女に聞け。

 コクエンは清廉つ厳正で、また経理に長ける。行政のことは彼に聞け。

 チョウハン・ヘイゲンの二人は高潔こうけつで、模範生として知られる。行動に迷えばこの二人に相談せよ」

 四人もの補佐役をつけられ、内心、少々不服なソウヒであったが、その気持ちはおくびにも出さず、深くお礼を述べた。

「……お心遣いありがとうございます。

 彼ら彼女らによくよく相談し、生徒会の一員として恥じぬ行いに努めます」

 ソウソウは留守役の任命を終えると、すぐに頭を切り替えて、西部の兵乱対策の準備にいそしんだ。




 ソウソウの任命式が終わると、彼女の弟・ソウヒは各々おのおの持ち場に帰る生徒会役員の列からスルリときえて、一人、薄暗い教室へと姿を消していった。

「まったく、姉さんは…

 次から次にと監視役を任命して、この私を信用していないのか」

 生徒会から離れた途端に愚痴をこぼすソウヒ。

 ソウソウからすれば弟を心配しての人事であろうが、弟からすれば、ただ自分を監視する役が増えたに過ぎない。彼は生徒会室では従順で真面目な生徒をよそおっていたが、一人になると、その仮面を即座に脱ぎ捨て、姉・ソウソウに対する不満を爆発させた。

 そんな彼の元に一人の女生徒が静かに近づき、その言動をたしなめる。

「ソウヒ様、ご発言にはお気をつけください。どこで誰が聞いているやも知れません」

 先程まで荒れていたソウヒも、彼女の姿を見つけると、安心したのか、少し落ち着いた様子に戻っていた。

「ああ、わかっている。

 “シバイ”よ」

 ソウヒの向けた目線の先に立つのは、薄い金色の無造作に伸ばした長い髪、光量のとぼしい鋭い眼つき、長身の全身黒ずくめの女生徒・シバイであった。

 ジュンイク、サイエンらの推薦を受け、ソウソウに仕えたシバイであったが、当初はあまり積極的には生徒会に関わろうとはしなかった。

 ソウヒはシバイの才能を見込んで自ら赴き、親しく交流を重ね、自身の相談役になってもらった。

 内と外、二つの顔を使い分けるソウヒにとって、シバイは数少ない、自身の内面を見せることが出来る相手であった。

 シバイはソウヒが落ち着きを取り戻したのを見て取ると、さらに言葉を続けた。

「それにソウヒ様。

 この度、あなた様の補佐に任命された方々は当代一流の人物。

 彼ら彼女らに認められるということは、次期生徒会長へ一歩前進するとお考えください」

「そうだな、そもそも留守役に任じられるというのは大きな前進だ。

 必ずやこの私が次期生徒会長になる。いや、ならねばならん。

 そのためにはこの程度、些事さじに過ぎん」

 ソウヒはニヤリと笑った。その顔はまさに姉・ソウソウと瓜二つであった。



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