上 下
131 / 318
十字架、銀弾、濡羽のはおり

2度目の精霊続祭-1

しおりを挟む
 その日のミーアはすこぶる不機嫌であった。もう就業時刻は当に回っている時刻であるというのに、生業である属間交配研究の論文執筆は全くと言っていいほど手に付かない。研究棟内を歩き回り憂さ晴らしの話し相手を探そうにも、頭の働く午前中はほとんどの者が自身の研究室に籠ってしまっているのだ。研究室内に押し入り、研究活動に勤しむ仲間相手に「ねぇねぇちょっと聞いてくださいよ」などと苦労話を持ち掛けるのも気が引ける。仕事は手に付かないし、雑談の相手もいない。胸の中にあるこのもやもやとした気持ちを一体どうすべきか。悩めるミーアは結局一人の人とも話すことなく、研究棟の玄関口を通り過ぎ屋外へと歩み出る。そうして人気のない建物の陰に座り込み、一人寂しく溜息を零すのだ。

「あれ、ミーアじゃん。そんなところで何をしているの?」

 口から零れ出る溜息が10を数えた頃、そうミーアに話しかける者があった。顔を上げれば、建物の作り出す日陰と日向の端境に、長身の男が立っている。陽の光を浴びて眩しいほどに煌めく金の髪、王子を思わせる麗しの御尊顔、すらりと伸びる細身の体躯には魔法研究所の制服である白衣がよく似合う。珍しい顔にあった、とミーアは顔に少しばかりの笑みを作る。

「クリスさん、久し振りですね。今日は王宮のお仕事お暇ですか?」
「溜まっていた仕事が捌けたから、今日一日お休みをもらったんだ。2週間王宮に鮨詰めだったからね。たまには息抜きをしないと、流石の僕も気が狂いそうだよ」
「2週間ぶりの息抜きが、ごみ捨てですか?」

 ミーアはクリスの腕の中を指さした。長い腕いっぱいに抱き込まれる物は、巨大岩石と見紛うばかりのごみ袋だ。袋の中身は大半が紙ごみと見えるから、見た目ほどの重さはないのかもしれない。しかし2週間研究室を空けていたはずのクリスが、満杯のごみ袋を抱えている様はいささか奇妙である。ミーアの疑問に、クリスは声を立てて笑う。

「僕だって貴重な息抜きの日にごみ捨てなんてしたくないけどさ。ビットに見つかっちゃったんだよ。部屋でごろごろするくらいなら友達の手助けをする方が一日は有意義です、なんて言ってさ。僕に満杯のごみ袋を押し付けるの」
「それ、まさか全部ビットが食べたお菓子のごみですか?」
「そうそう。しかもごみ袋はこれだけじゃないからね。ビットの研究室には同じ大きさのごみ袋があと3つある。そして全てのごみ袋をごみ捨て場に運搬したら、次なる仕事を言いつけられるに決まっているんだ。やれ窓を拭け、やれキメラの檻の掃除をしろってさ。僕の貴重なお休みは、ビットの小間使いで終わりそうだよ」

 文句を零しながらも、クリスの表情はどこか嬉しそうだ。

 クリスが人間族長として王宮に引き抜かれたのは、今日から丁度2週間前のことだ。クリスを引き抜いた人物は、魔法研究所の古株であり現在は王妃の任を兼任するゼータ。引き抜きには彼の有名な国王レイバックが絡んでいるとの噂もあり、クリスの任官に文句をつける研究員は誰一人としていなかった。そして就任より早2週間が経ち、その間クリスは一度たりとも魔法研究所に顔を出さなかった。いや、顔を出さないという表現には語弊がある。人間族長に就任後クリスはまだ王宮に住まいを移しておらず、朝晩馬車に揺られ王宮と魔法研究所を行き来する生活を送っているのだ。しかし例えクリスの才能を以てしても、も国家の重鎮たる人間族長の公務は簡単にこなせるものではないらしい。早朝皆が起床する前に魔法研究所を発ち、皆が就寝した後に魔法研究所へと帰って来る。クリスは2週間もの間、そのような非人間的な生活を余儀なくされていたのだ。週2度魔法研究所を訪れるゼータ曰く「王宮内の私室で仮眠を取っている姿は時々見かけますよ。もっとゆっくり仕事を覚えればいいとは思うんですけれど、教育係が鬼なんですよ。いや、あれは悪魔です」とのことだ。

 クリスにとれば、今日は貴重な骨休めの日だ。研究室の掃除や引っ越し荷物の整理など、やりたいことはたくさんあっただろう。その貴重な日を小間使いで終えてしまうとなれば、流石にビットに一言物申したくもなる。だがそれが不要な気遣いであることは、今目の前にいるクリスの表情が伝えている。にこにこと穏やかなクリスの表情は、久し振りに「魔法研究所での日常」に戻れて嬉しいのだと語っている。ビットが雑用を言いつけずとも、きっとクリスは自らの脚で仕事を請け負って回ったのだ。「僕今手が空いているんですけれど、何かお手伝いできることはありますか?」などと言って。

「それで、ミーアはこんなところで何をしているの?悩み事?」
「悩み事と言いますか…昨日恋人と喧嘩をしてしまって」
「あ、そうなんだ。恋人とは結婚間近なんだっけ?仲直りできそう?」

 クリスの問いに、ミーアは言葉を返せない。ミーアが恋人のアイザと怒鳴り合いの喧嘩をしたのは、昨日の夕飯時のことだ。アイザとは交際を始めてもうじき3年となるが、互いに声を荒げての喧嘩は初めての出来事であった。喧嘩の理由は、傍から見れば些細なことかもしれない。しかしその些細なことがミーアにとっては大切で、ミーアは今回の件に関し決して譲歩はできないのだ。アイザの側に譲歩の気持ちが芽生えぬ限り、喧嘩はどこまでも長引いてしまう。
 俯くミーアの耳に、がさがさと賑やかな音が届く。音のする方を見れば、ごみ袋を抱えたままのクリスが目の前に立っていた。柔和な笑みを称えるクリスは、巨大ごみ袋を土の地面に下ろし、ミーアの傍らへと座り込む。まさか話を聞いてくれるのだろうか、ミーアは恐る恐る口を開く。

「…クリスさん。そこに座ることは、私の愚痴に付き合うことと同意です」
「愚痴っていいよ。どうせ僕、今日はビットの小間使いだからね」

 2人の座る木陰に、暖かな風が通り抜けていく。一年を通し温暖な気候を保つドラキス王国であるが、月が替われば肌に多少の季節は感じる。今は熱季と呼ばれる時期で、一年の中で最も気温と湿度が上がる季節だ。屋外を歩けば容赦のない日射しが肌を焦がし、生温かな風が肌を撫でる。夜になっても気温は下がらず、寝苦しさに夜中に何度も目が覚める。しかし植物の生育には最も適した時期で、ポトスの街中にある花壇の花々は生き生きとして、市場には多種多様の農作物が立ち並ぶ。それがドラキス王国の熱季だ。
 頭皮で生まれた汗の粒が、こめかみを通り顎先へと流れていく。身体中に纏わりつくような暑さを耐え忍びながら、ミーアはぽつりぽつりと語り出す。

「結婚式をするんです。ドラキス王国には結婚に関する法がないじゃないですか。だから結婚式を挙げて、自分達の気持ちに区切りを付けようと思っているんです。それ自体はお互い納得済みのことだから問題はないんですけれど…。恋人との間で、結婚式に対する温度感に差があるんですよ。意見が折り合わないんです。結婚式って、大概の人間にとっては一生に一度の大イベントじゃないですか。だから私はたくさんの友人や仕事仲間を招いて、皆の記憶に残る大々的な結婚式を開催したいんですよ。でもアイザ…恋人は、結婚式に招くのは親族と数人の友人だけで十分だって。小恥ずかしい姿を大勢にみられるのは御免だって言うんですよ」
「うんうん」

 話すうちに、ミーアの口調は段々と滑らかになる。クリスと雑談を交わし、落ち着きかけていた苛立ちがふつふつと蘇る。

「結婚式の規模については、昨晩ひとまず折り合いを付けたんです。式に招く客人はお互いの親族と、特に仲の良い友人5人だけ。仕事仲間とは、また別に結婚パーティーをすれば良いということで、私も一旦は納得したんです。でもその先がまた駄目。私は結婚式には絶対ウェディングドレスを着たいんです。でもアイザは、小規模の式なら白いワンピースで十分だと言う。私が人気の式場で式を行いたいと言えば、アイザはすぐに予約のとれる手軽な会場で十分だって。全然意見が合わないんです。私は結婚式には、お金も時間もたっぷり掛けたいんですよ。でもアイザは、たった一日の晴れ姿のためにお金と時間を掛けることは無駄だって」
「うーん…」
「クリスさん、どう思います?私が妥協する必要なんてないですよね?」

 ミーアが鼻息荒く詰め寄れば、クリスは悩ましげな表情だ。ミーアの意見に賛同できないというよりは、いまいち状況に理解が及ばないという様子である。ちょっと待ってね、との断りの後に、クリスは腕を組み天を仰ぐ。適当な相槌で済まされるものかと思いきや、クリスは本腰を入れてミーアの悩みに応えるつもりのようだ。期待と不安に胸高鳴らせながら、ミーアはクリスの答えを待つ。そして互いに2度額の汗を拭ったときに、クリスはおもむろに語り出す。

「生憎僕には婚約者も恋人もいないもので、結婚式に対する意気込みというのはよくわからないんだけど…でもミーアが妥協する必要はないんじゃない。盛大な結婚式を開催することはミーアの夢なんでしょ?夢を叶えるためにたくさんのお金と時間を使うことは、当たり前のことだと思うよ。たった一日のために…と言うアイザさんの気持ちもわからないでもないけどさ。夢を理性で押さえつけるのは勿体ないでしょ。夢とか憧れとか直感とか、そういう理屈では説明できない気持ちは大事にすべきだと僕は思うよ」

 夢、とミーアは呟く。その通りだ、盛大な結婚式を開催することはずっとミーアの夢だったのだ。皆が羨む人気の結婚式場で、天使のような可憐なドレスに身を包んで、会場を訪れるたくさんの人々に結婚を祝ってもらいたかった。そう考えることに理屈などないのだ。少女が御伽話の中のお姫様に憧れを抱くような、純粋で無垢な気持ち。そうであるからこそ、アイザの主張が癇に障る。「ミーアのドレス姿なんて他人の記憶には残らない」ことも「たった2時間ぽっちの式のために多額のお金を使うなんて馬鹿げている」ことも、そんなことはとっくに理解しているのだ。理解した上でなお盛大な結婚式を開催したいと主張しているのに、ミーアを頓馬な浪費物扱いするアイザにはほとほと腹が立つ。アイザの理屈に、まともな説明を返せない己にも腹が立つ。しかし今ようやく理解が及んだ。ミーアの結婚式に対する感情は理屈を抜きにした純粋な「憧れ」アイザの理屈に理屈を返せなくとも当然だ。人が特定の物事に憧れを抱くのに、明確な理由など存在しようか。

「…そうですよね。そうそう、私は間違っていないんです。だって憧れなんだもん。私みたいな平凡平俗の人間が世界の中心になれる日なんて、生まれた瞬間と結婚式くらいしかないんです。人生に2度しかない機会で妥協したら、一生後悔するに決まっている」
「少し日を置いて、もう一度アイザさんに相談してみれば?昨日の喧嘩ならまだ向こうも気が立っているだろうしさ。ほとぼりが冷めれば、案外あっさり譲ってくれるかもよ」

 そうします、と言い掛けてミーアは口を噤む。ミーアもアイザも、どちらかと言えば些細な喧嘩を根に持つ質だ。怒鳴り合いの喧嘩をした今回の場合、数日距離を置いて再度話し合いをするのが最善であることは間違いがない。
しかし一つ憂慮点がある。それは2日後に控えた精霊族祭だ。一年に12回、毎月月末に開催される種族祭。精霊族祭の内容は毎年決まってダンスパーティーであり、隣国ロシャ王国からの観光客も多く訪れる人気の祭りだ。結婚を目前にした今回の精霊族祭、ミーアはもちろん婚約者であるアイザと共に祭りに赴く予定であった。靴もドレスも新調し、結婚式に向けて気分を盛り上げるための前座的催しとして準備はばっちりであった。しかしこのままの状態では、アイザと共に精霊族祭に参加することは到底不可能だ。

「…精霊族祭、どうしよう。ドレスも用意したのに」

 このミーアの呟きには、クリスは言葉を返さなかった。

「クリスさんは、精霊族祭に参加します?」
「迷い中。リィモンに誘われてはいるんだけど」
「リィモン?なぜリィモンがクリスさんにお誘いを?…まさか」
「違う違う。変な勘繰りは止めてよね。男2人で精霊族祭に繰り出して、会場でナンパ行為を働かないかと誘われているの」

 なるほどリィモンらしい誘いだと、ミーアは頷く。クリスが魔法研究所の一員となってからというもの、リィモンが頻繁にクリスを連れ出していることはミーアも知っている。行き先はポトスの街の歓楽街。男2人で飲み屋に繰り出し、ナンパ行為を働くことがリィモンの目的なのだ。魔法研究所の王子と名高いクリスの尊顔は、ナンパの餌としては正に極上。中々良い魚が釣れるらしい。しかし当のリィモンには王子の御尊顔を利用している罪悪感はないらしく、「俺はクリスの社会勉強に付き合っているだけだ」などと豪語する。魔法研究所の面々も苦笑いだ。
 されどだ。日頃のナンパ行為は抜きにして、今回ばかりはリィモンの誘いに素直に応じれば良いのにとも思う。精霊族祭の楽しみ方は人それぞれだ。恋人同士が一晩限りの非日常を楽しむために、片思いの相手と仲を深めるために、友人同士で気ままに手を取り合うために。そして特定の相手を持たないリィモンやクリスにとっては、絶好の出会いの場ともなり得るのだ。リィモンのようにナンパを目的として精霊族祭の会場を訪れる者は多い。一晩限りの付き合いを目的としてナンパを行う者もいれば、恋人探しの場として精霊族祭の会場を利用する者もいる。そうすることが認められている場所なのだから、クリスがリィモンの誘いを断る理由など何一つないのだ。恋人のいない気ままな身であれば、男同士連れ立って精霊族祭の会場を訪れ、ナンパ行為に勤しむこともまた楽しかろう。しかしクリスはリィモンの誘いに対する返答を保留にしている。その理由として、ミーアには一つ思い当たる節がある。

「クリスさん、もしかして気になる女性がいます?」
「…何で?」
「ナンパ行為へのお付き合いを渋っているのは、精霊族祭の会場でその女性と出会っては困るからですか?」

 クリスは黙り込み、答えを探すように目線を泳がせた。ミーアはアイザに対する苛立ちなど瞬時に忘れ、にんまりとする。魔法研究所の拡声器と名高いミーアは、他人の色恋話が3度の飯より好きなのだ。

「その顔、図星ですね。同行の約束をしていないということは、もしかして相手の女性にはすでに恋人がいらっしゃる?ねぇねぇクリスさん、どうなんですか?」

 ミーアはクリスの肩に手のひらをのせ、ゆさゆさと揺する。一時前まで憂いに沈んでいたはずのミーアの表情は、今は大好物の焼き菓子を前にした幼子のごとしだ。円らな瞳は期待に煌めき、口端からは涎が零れ落ちんばかり。興奮したミーアの追及を躱すことは困難と思ったのか、やがてクリスは諦めがちに溜息を零す。

「ミーアの言う通り。僕には片思いの相手がいるの。でも残念なことに、相手の人にはもうすでに恋人がいるのさ。数日前にそれとなく探りを入れたら、精霊族祭には恋人と一緒に行くんだって」
「ほほぅ…なるほど」
「例え叶わぬ恋だと理解していてもさ。好きな人が恋人と仲良くしているところを見るのは辛いでしょう。だから精霊族祭に行くのは止めようかと思っているんだよね。リィモンには悪いけど」

 王子の口から語られる生々しい色恋の悩み。採れたてぴちぴちの色恋話を目前の皿に並べられ、ミーアはすっかり浮かれ調子だ。しかし憂いを帯びるクリスの横顔を見ては、そう浮かれてばかりもいられない。ミーアにとっては面白おかしく掘り下げたい他人の色恋話だが、それはクリスにとれば深刻な人生の悩みだ。ミーア自身、精霊族祭をどうすべきかという問題も残されている。恋人アイザを放り出し単身精霊族祭の会場に赴くのか、それとも着るはずだったドレスを眺め生活棟で寂しい夜を過ごすのか。

 その時ミーアの中で、2つの問題が重なった。恋人と喧嘩をしたミーアと、好いた人物を精霊族祭に誘えなかったクリス。哀れな2人が出会えば、取るべき方法は一つだ。

「クリスさん。私と一緒に精霊族祭に行きましょう」

 突然の誘いにクリスは目を瞬かせた。

「…何で?」
「相手の女性が精霊族祭に来るなら、クリスさんも精霊族祭に参加すべきです。だって会場にいればダンスに誘えるじゃないですか。精霊族祭は気ままな祭ですから、恋人のいる相手をダンスに誘っても責められることはありませんよ。知り合いなら尚更です」
「んー…そうかな」
「そうですよ。今は片思いかもしれませんけど、未来のことはわかりませんよ。積極的にクリスさんの良さを売り込んでおけば、将来恋人の座を掻っ攫える可能性は十分にあります。恋愛には破局が付き物ですからね。…って恋人と喧嘩中の私が言う言葉じゃありませんけれど」
「そう誘われてしまえば僕に断る理由はないんだけどさ、ミーアはいいの?アイザさんが知ったら怒るんじゃない?」

 ミーアは言い淀み、顔を俯かせる。喧嘩中の恋人を放って別の男性に祭りの誘いを掛ける。その行いが咎められるべきことであるとは理解している。しかしそうだとしても、ミーアには精霊族祭の会場に赴かなければならぬ理由がある。

「でもアイザが精霊祭の会場に来るかもしれないから…。もしかしたら仲直りをしようと思って、気合いを入れて来るかも。それなら私も精霊族祭の会場にいないと不味いじゃないですか。アイザが他の女性に軟派されるのも嫌だし…」

 もごもごと言葉を連ね、それからミーアは溜息を吐く。将来のためにクリスは精霊族祭の会場に赴くべき。他人のためを装いながらも、結局ミーアがクリスを誘う理由は外ならぬ自分のためだ。楽しみにしていた精霊族祭を不参加で終わらせたくない。喧嘩中のアイザが、仲直りを目的として会場にやって来るかもしれない。でも単身で会場に乗り込む勇気はないから、たまたま連れのいないクリスを言葉巧みに利用しようとしている。言葉にすればするほど打算的だ。己の功利主義に嫌気がさし、ミーアは本日20度目となる溜息を零す。

「すみません。私、結局自分のことしか考えていなくて。打算的と感じればどうぞ遠慮なく断ってください」

 小狡い思惑には乗らないよ、そう断られることは覚悟していた。しかし怖じ怖じと見上げたクリスの顔は、ミーアの予想に反する満面の笑み。それも王子の表情にはあるまじき、少し人の悪い笑みだ。擬音にするなら「にやり」

「僕、打算って大好きだよ。交渉は成立だ。一緒に精霊族祭に乗り込もうじゃないの」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,396pt お気に入り:103

目を開けてこっちを向いて

BL / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:194

インソムニアは楽園の夢をみる

BL / 連載中 24h.ポイント:413pt お気に入り:5

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:49,928pt お気に入り:10,501

最強の英雄は幼馴染を守りたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:327

突然訪れたのは『好き』とか言ってないでしょ

BL / 完結 24h.ポイント:546pt お気に入り:24

侯爵様、今更ながらに愛を乞われても

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,080pt お気に入り:2,789

常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:148

【完】眼鏡の中の秘密

BL / 完結 24h.ポイント:1,308pt お気に入り:43

処理中です...