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第四章『陸郎さんて呼んでもいい?』
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「松村さんのこと振ったくせに」
それだからこそ今の僕と陸郎の関係があるわけなんだけど。
(振ったけど松村さんが他の誰かと一緒にいるのを見るのが嫌とか? 自分のことを一番に考えて欲しいとか? あるある、絶対あるよ~あの兄なら)
薄気味の悪さにふるっと身体が震えた。
「陸」
兄が松村のことを呼ぶ時の呼び方を真似てみた。
(そういえば優雅の口から松村さんの名前が出るの久しぶりだな)
「陸……か」
もう一度呼んでみた。
「いいな……僕も名前で呼んでみたいな。絶対そのほうが恋人感出るよね。松村さんは僕が優雅の弟だから会った時から『温くん』って呼んでるし」
さっきまでの怒りは何処へやら。自分の考えたことにテンションがあがる。
僕は例のノートを開き、またつけ加える。
『名前で呼ぶ』
* *
「松村さん……ホラー好きなんですか?」
「好き……というか、今この時点で観てみたいのがこれだったんだけど……温くんホラー、ダメだった?」
「そんなことないですよー、楽しみですね」
予定通り駅で待ち合わせをして軽く昼食を取り、映画館へ。看板を観ながら何を観ようか悩む。男同士で少女漫画原作の恋愛物を観るのはどうかと思うし、子どもの多いアニメも年齢的に合わない。観てもいいかなぁって作品は時間が合わなかったり。
そしたら。
「これにする?」
と陸郎が指差したのがホラーだった。しかもジャパニーズホラー。海外のスプラッターや怖い人形が出てくるものよりも日本のホラーのほうが怖いと僕は思っている。
つまり、僕はホラーが苦手だ。
でも陸郎には言えなかった。ホラーが苦手なんか情けないし、何しろ陸郎が選んだものだ。
(大丈夫。大丈夫。ホラーなんて。それに口コミじゃ怖くないって書いてあった!)
チケットを買ってから少しの時間の間にネットで調べた。
だけど。まだ始まる予告の前からもうどきどきしている。
そしていよいよ始まり……。
(うぎゃ~誰だよ、怖くないって書いたヤツ。めっちゃ怖いじゃないか~)
思わず隣の肘掛けに甲を向けて置いてあった陸郎の手を握った。
(あ、いけない)
と離そうとした瞬間、くるっと陸郎の手が反転した。甲を向いていたのが掌に変わりぎゅっと握り返された。
(松村さん……)
恐怖からのどきどきは別のどきどきに変わったけど。それは一瞬だけですぐに目の前を流れる映像に慄いた。
「まつ……り……りく……っ」
彼の腕にぎゅっとしがみついて目を瞑った。
「温くん、やっぱりホラー駄目だったんだね」
映画館の入っているショッピングモールのフードコートで一息をつく。
「すみません、なんかご迷惑かけちゃって」
結局あれからラストまでぎゅうぎゅう腕にしがみついていた。
「言ってくれれば他のにしたのに」
アイスコーヒーを飲みながら労るような眼差しを向けてくる。
それだからこそ今の僕と陸郎の関係があるわけなんだけど。
(振ったけど松村さんが他の誰かと一緒にいるのを見るのが嫌とか? 自分のことを一番に考えて欲しいとか? あるある、絶対あるよ~あの兄なら)
薄気味の悪さにふるっと身体が震えた。
「陸」
兄が松村のことを呼ぶ時の呼び方を真似てみた。
(そういえば優雅の口から松村さんの名前が出るの久しぶりだな)
「陸……か」
もう一度呼んでみた。
「いいな……僕も名前で呼んでみたいな。絶対そのほうが恋人感出るよね。松村さんは僕が優雅の弟だから会った時から『温くん』って呼んでるし」
さっきまでの怒りは何処へやら。自分の考えたことにテンションがあがる。
僕は例のノートを開き、またつけ加える。
『名前で呼ぶ』
* *
「松村さん……ホラー好きなんですか?」
「好き……というか、今この時点で観てみたいのがこれだったんだけど……温くんホラー、ダメだった?」
「そんなことないですよー、楽しみですね」
予定通り駅で待ち合わせをして軽く昼食を取り、映画館へ。看板を観ながら何を観ようか悩む。男同士で少女漫画原作の恋愛物を観るのはどうかと思うし、子どもの多いアニメも年齢的に合わない。観てもいいかなぁって作品は時間が合わなかったり。
そしたら。
「これにする?」
と陸郎が指差したのがホラーだった。しかもジャパニーズホラー。海外のスプラッターや怖い人形が出てくるものよりも日本のホラーのほうが怖いと僕は思っている。
つまり、僕はホラーが苦手だ。
でも陸郎には言えなかった。ホラーが苦手なんか情けないし、何しろ陸郎が選んだものだ。
(大丈夫。大丈夫。ホラーなんて。それに口コミじゃ怖くないって書いてあった!)
チケットを買ってから少しの時間の間にネットで調べた。
だけど。まだ始まる予告の前からもうどきどきしている。
そしていよいよ始まり……。
(うぎゃ~誰だよ、怖くないって書いたヤツ。めっちゃ怖いじゃないか~)
思わず隣の肘掛けに甲を向けて置いてあった陸郎の手を握った。
(あ、いけない)
と離そうとした瞬間、くるっと陸郎の手が反転した。甲を向いていたのが掌に変わりぎゅっと握り返された。
(松村さん……)
恐怖からのどきどきは別のどきどきに変わったけど。それは一瞬だけですぐに目の前を流れる映像に慄いた。
「まつ……り……りく……っ」
彼の腕にぎゅっとしがみついて目を瞑った。
「温くん、やっぱりホラー駄目だったんだね」
映画館の入っているショッピングモールのフードコートで一息をつく。
「すみません、なんかご迷惑かけちゃって」
結局あれからラストまでぎゅうぎゅう腕にしがみついていた。
「言ってくれれば他のにしたのに」
アイスコーヒーを飲みながら労るような眼差しを向けてくる。
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