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第四章『陸郎さんて呼んでもいい?』
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何故かめちゃめちゃ怒り口調の優雅。
「うん、たまに大学でお昼一緒に食べてる」
たまにというか、陸郎が大学に来ている時はほとんどだけど。そこまで言うこともないかと省略する。
「それだけ?」
「それだけだけど?」
(なんか執拗いなぁ)
いつになくねちっこい言い方に、本当は夕食を共にしたり今度映画を観に行くことになってることは言わないほうがいいなと判断した。
「今日は?」
「今日?」
「だから、『恋人たちの森』にいたろ」
恥ずかしい名称を言うの二度目。何がそんなに気になっているんだろう。
「うん。あれは松村さんも僕も二限が休講になって偶然カフェで遭遇したんだ。そしたら松村さんが散歩でもする? って言ってくれて、あそこへ。『恋人たちの森』って初めて行ったよ」
陸郎のほうから誘ってくれて嬉しかったのが滲みでる。
「陸が?」
「うん」
返事をする声も弾む。
「ほんとに陸から言ったのか?」
なんでか同じ質問を繰り返す。
「そうだけど」
訝しんで優雅の顔を見ると疑いの眼差しを向けられていた。
(なんでそんな顔してんの)
「『恋人たちの森』に?」
三度目。
何故そんなに念を押すのだろうかと少しイラッとする。
「そうだってば」
(何をそんなに……)
と思ってはっとする。
『恋人たちの森』と呼ばれているからといって別に恋人たちだけが行くわけではない。一人でだって友人同士だって行ってもいいわけだ。それなのに優雅がそれほど気にしているのは陸郎が自分に告白をしたからだ。陸郎が男を好きになる人間だと頭にあるからだ。陸郎と『恋人たちの森』に行く男は『友人』ではなく『恋人』ではないかと疑っているに違いない。
(まぁ、本気で僕が松村さんの恋人だって疑っているわけじゃないと思うけど)
「お兄ちゃん執拗い。本当に松村さんから誘ってくれたんだよ。僕が行ったことない場所だからじゃない?」
「……お前、あんまり陸に迷惑かけんなよ」
その言葉にはさすがにかちんっときた。
「はぁ? 入学式の時に松村さんに僕の案内頼んだのお兄ちゃんのほうじゃん、勝手なことばかり言うなよ」
僕は一口残ったドーナツを口に放りこみ、アイスココアを持って立ち上がった。
「なんだって?!」
優雅のほうも怒りを露わにした。そんな彼の横をさっと通り抜け、足早に階段へと向かう。
「温っ!」
怒鳴るように名前を呼ばれても僕は振り向かなかった。
「なんだ優雅のヤツ、あんなに怒って」
僕らはけして仲の悪い兄弟ではない。というよりケンカするほど接触もないのだ。一緒に遊んだ記憶は優雅が小学生の間だけ。その後は優雅のほうが忙しく、顔を合わせるのは食事の時だけという日も多かった。それも優雅が大学生になってからはかなり少なくなっていて、ケンカもしようがないというのが本音だ。さっきみたいに言い合うことは思い返してもなかったような気がする。
「うん、たまに大学でお昼一緒に食べてる」
たまにというか、陸郎が大学に来ている時はほとんどだけど。そこまで言うこともないかと省略する。
「それだけ?」
「それだけだけど?」
(なんか執拗いなぁ)
いつになくねちっこい言い方に、本当は夕食を共にしたり今度映画を観に行くことになってることは言わないほうがいいなと判断した。
「今日は?」
「今日?」
「だから、『恋人たちの森』にいたろ」
恥ずかしい名称を言うの二度目。何がそんなに気になっているんだろう。
「うん。あれは松村さんも僕も二限が休講になって偶然カフェで遭遇したんだ。そしたら松村さんが散歩でもする? って言ってくれて、あそこへ。『恋人たちの森』って初めて行ったよ」
陸郎のほうから誘ってくれて嬉しかったのが滲みでる。
「陸が?」
「うん」
返事をする声も弾む。
「ほんとに陸から言ったのか?」
なんでか同じ質問を繰り返す。
「そうだけど」
訝しんで優雅の顔を見ると疑いの眼差しを向けられていた。
(なんでそんな顔してんの)
「『恋人たちの森』に?」
三度目。
何故そんなに念を押すのだろうかと少しイラッとする。
「そうだってば」
(何をそんなに……)
と思ってはっとする。
『恋人たちの森』と呼ばれているからといって別に恋人たちだけが行くわけではない。一人でだって友人同士だって行ってもいいわけだ。それなのに優雅がそれほど気にしているのは陸郎が自分に告白をしたからだ。陸郎が男を好きになる人間だと頭にあるからだ。陸郎と『恋人たちの森』に行く男は『友人』ではなく『恋人』ではないかと疑っているに違いない。
(まぁ、本気で僕が松村さんの恋人だって疑っているわけじゃないと思うけど)
「お兄ちゃん執拗い。本当に松村さんから誘ってくれたんだよ。僕が行ったことない場所だからじゃない?」
「……お前、あんまり陸に迷惑かけんなよ」
その言葉にはさすがにかちんっときた。
「はぁ? 入学式の時に松村さんに僕の案内頼んだのお兄ちゃんのほうじゃん、勝手なことばかり言うなよ」
僕は一口残ったドーナツを口に放りこみ、アイスココアを持って立ち上がった。
「なんだって?!」
優雅のほうも怒りを露わにした。そんな彼の横をさっと通り抜け、足早に階段へと向かう。
「温っ!」
怒鳴るように名前を呼ばれても僕は振り向かなかった。
「なんだ優雅のヤツ、あんなに怒って」
僕らはけして仲の悪い兄弟ではない。というよりケンカするほど接触もないのだ。一緒に遊んだ記憶は優雅が小学生の間だけ。その後は優雅のほうが忙しく、顔を合わせるのは食事の時だけという日も多かった。それも優雅が大学生になってからはかなり少なくなっていて、ケンカもしようがないというのが本音だ。さっきみたいに言い合うことは思い返してもなかったような気がする。
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