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第四章『陸郎さんて呼んでもいい?』
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「そう? あと丁寧な言葉もなしで」
「え?」
「だって『友だち』だろ」
そこは「恋人だろ」って言って欲しいところなのに。けして『恋人』にはならないと念を押されたような気がした。
(恋人っていうか……まぁ『ごっこ』だけどね)
「うーん、それはちょっとハードル高いかも。徐々にやっていきます」
とやっぱり丁寧語になってしまった。
* *
フードコートを出てそのままショッピングモールを出ようとする陸郎を引き止める。
「まつ……あ、り……陸郎さん」
今まで『松村さん』と呼んでいたんだ。会わない間も含めて何年も。いくら自分から言いだしたこととはいえ、すぐにはすんなり出てこない。いざ口にしてみると妙に照れもある。
「もう少し遊んで行きませんか?」
自然と出てしまう口調なので仕方ない。とりあえず名前をすらすら言えるようになるのが先だ。
ショッピングモール内のゲームセンターで一頻り遊び帰途に着く。五月初旬の午後五時はまだまだ明るくのんびりと歩いて帰ることにした。
僕の手には僕の顔くらいの大きさのぬいぐるみが。意外なことに陸郎はクレーンゲームが得意だったようだ。
「意外でした~り……くろーさんがクレーンゲーム得意だなんて」
また一つ陸郎のことを知って嬉しい気持ちになる。
「高校の時けっこうやってたから」
どきっと胸が鳴る。いい意味の音ではない。
「それって兄と?」
「あ……うん、まあ」
なんとなく気不味くなって二人して黙りこむ。
(あーその情報はいらなかったなー。高校の時のことを聞くとだいたい優雅が付属品のようについてくるし。ってか、部活で遅くなってるのかと思ったけどちゃっかり遊んでたのかー)
「今日楽しかったです」
この間の晩別れた場所に着いてしまった。たいしたことは話してはいないけど一緒にいるだけで楽しい道のりだった。
「俺も楽しかったよ」
本気でそう思ってくれるならすごく嬉しい言葉だ。ただ相変わらず乏しい表情からはその本気度はわからない。
「……送っていこうか?」
黙って見つめたまま立ち止まっていたせいなのか、陸郎がそう訊いてきた。
まだ全然明るい時間だ。この間よりももっと必要ない。
「何言ってるんですが、まだ明るい……」
でもそこで留まる。
(そうだ、今度機会があったらって……)
「あの、やっぱり送って貰ってもいいですか? 送って、というか、まだもう少し一緒にいたいなぁって」
上目遣いで可愛くあざとく言ってみる。
「いいよ」
どう思ったかはやはりわからない表情だけど、きっとそんなに悪くは思ってないだろう。希望的観測だけど。
また二人で歩き始める。
十分ほどで家に辿り着いた。そうしたらまた離れがたくなったので、つい。
「上がって行きませんか?」
陸郎が家に上がるのは三年振りくらいだろう。
「……優は?」
「今日は僕より早く出てって、今日は帰らないって言ってました」
そうじゃなかったら誘ってはいない。僕と優雅と陸郎。この家に三人が揃ったら……考えただけでも恐ろしい。
「そう……じゃあ少しだけ」
懐かしそうな眼差しを門の外から家屋へと向ける。玄関、リビングの窓、それから優雅の部屋の窓。
「……優……いるんじゃないか? 窓に人影が」
「え?」
陸郎と同じ方向を見ると、レースのカーテンの隙間に誰かが立っている。顔は見えないが、見えている肩から腕は朝見かけた優雅の服色だった。
「あれ、なんで」
「今日はやめておくよ」
「なんか、すみません」
別に謝ることでもないのかも知れないけど何だか申し訳ない気持ちになった。
「また今度」
そう言ってくれたのは陸郎の優しさか。ぽんと頭に置いた手は、恋人にというより小さな子どもにしているようだった。
「え?」
「だって『友だち』だろ」
そこは「恋人だろ」って言って欲しいところなのに。けして『恋人』にはならないと念を押されたような気がした。
(恋人っていうか……まぁ『ごっこ』だけどね)
「うーん、それはちょっとハードル高いかも。徐々にやっていきます」
とやっぱり丁寧語になってしまった。
* *
フードコートを出てそのままショッピングモールを出ようとする陸郎を引き止める。
「まつ……あ、り……陸郎さん」
今まで『松村さん』と呼んでいたんだ。会わない間も含めて何年も。いくら自分から言いだしたこととはいえ、すぐにはすんなり出てこない。いざ口にしてみると妙に照れもある。
「もう少し遊んで行きませんか?」
自然と出てしまう口調なので仕方ない。とりあえず名前をすらすら言えるようになるのが先だ。
ショッピングモール内のゲームセンターで一頻り遊び帰途に着く。五月初旬の午後五時はまだまだ明るくのんびりと歩いて帰ることにした。
僕の手には僕の顔くらいの大きさのぬいぐるみが。意外なことに陸郎はクレーンゲームが得意だったようだ。
「意外でした~り……くろーさんがクレーンゲーム得意だなんて」
また一つ陸郎のことを知って嬉しい気持ちになる。
「高校の時けっこうやってたから」
どきっと胸が鳴る。いい意味の音ではない。
「それって兄と?」
「あ……うん、まあ」
なんとなく気不味くなって二人して黙りこむ。
(あーその情報はいらなかったなー。高校の時のことを聞くとだいたい優雅が付属品のようについてくるし。ってか、部活で遅くなってるのかと思ったけどちゃっかり遊んでたのかー)
「今日楽しかったです」
この間の晩別れた場所に着いてしまった。たいしたことは話してはいないけど一緒にいるだけで楽しい道のりだった。
「俺も楽しかったよ」
本気でそう思ってくれるならすごく嬉しい言葉だ。ただ相変わらず乏しい表情からはその本気度はわからない。
「……送っていこうか?」
黙って見つめたまま立ち止まっていたせいなのか、陸郎がそう訊いてきた。
まだ全然明るい時間だ。この間よりももっと必要ない。
「何言ってるんですが、まだ明るい……」
でもそこで留まる。
(そうだ、今度機会があったらって……)
「あの、やっぱり送って貰ってもいいですか? 送って、というか、まだもう少し一緒にいたいなぁって」
上目遣いで可愛くあざとく言ってみる。
「いいよ」
どう思ったかはやはりわからない表情だけど、きっとそんなに悪くは思ってないだろう。希望的観測だけど。
また二人で歩き始める。
十分ほどで家に辿り着いた。そうしたらまた離れがたくなったので、つい。
「上がって行きませんか?」
陸郎が家に上がるのは三年振りくらいだろう。
「……優は?」
「今日は僕より早く出てって、今日は帰らないって言ってました」
そうじゃなかったら誘ってはいない。僕と優雅と陸郎。この家に三人が揃ったら……考えただけでも恐ろしい。
「そう……じゃあ少しだけ」
懐かしそうな眼差しを門の外から家屋へと向ける。玄関、リビングの窓、それから優雅の部屋の窓。
「……優……いるんじゃないか? 窓に人影が」
「え?」
陸郎と同じ方向を見ると、レースのカーテンの隙間に誰かが立っている。顔は見えないが、見えている肩から腕は朝見かけた優雅の服色だった。
「あれ、なんで」
「今日はやめておくよ」
「なんか、すみません」
別に謝ることでもないのかも知れないけど何だか申し訳ない気持ちになった。
「また今度」
そう言ってくれたのは陸郎の優しさか。ぽんと頭に置いた手は、恋人にというより小さな子どもにしているようだった。
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