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第五章『水族館でぇと』
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しおりを挟む僕は『恋人ごっこ』、陸郎は『友だち』。僕らの関係は順調に続いていた。
梅雨の走りで雨の日が多くなってきた、六月一週目火曜日。
『陸郎さん、おはようございます』
『今日は朝から雨ですね』
『今日は学食にしますか』
ラインは毎日欠かさず送る。名前で呼ぶことにも慣れてきた。「丁寧な言葉はなし」という陸郎の提案はまだ微妙。陸郎が学校に来る日の昼食は一緒に取り、たまには帰りに待ち合わせをして大学外でも食事をする。
朝ラインをした通り二限が終わると食堂に向かった。
(陸郎さんもう来てるかな)
初デートの日からまだ土日に会ったことはなく、月曜日は陸郎は休みで三日振りに会うのを火曜日はいつも心待ちにしている。
(やっぱり、僕、陸郎さんのこと、かなり好きじゃない?)
などと思いながら入った学食は、もうすでに大勢の学生たちで賑やかだ。きょろきょろと辺りを見回す。
(いた!)
窓を背に陸郎が座っているのが見えた。グループで来ている学生たちは一テーブルを占拠するが、それ以外は相席だ。まわりに知らない学生が座っていることは少なくない。だからかなり近づくまで気づかなかったのだ、陸郎の前にいる人間のことを。
(え……、あれって優雅?)
大学生になってから見た目も派手になってきた兄の、茶系に金のメッシュの入った頭が見えた。
(うわぁ~なんで~)
僕は途中で立ち止まり少し考えた末、陸郎にラインした。
『陸郎さん、ちょっと用事があるのでお昼は別で!』
『また明日!』
そう送信してから陸郎のほうを見ると彼はスマホを確認しているようだった。僕はさっと踵を返して学食を出ていく。
(カフェのほうに行くか……売店で買って次の教室で食べてもいいかな)
寂しい気持ちになりながら歩いていたが次にきたのはちょっとした怒り。
(なんで、優雅が一緒にいるの! 陸郎とのお昼楽しみにしてたのにっ)
それから。そう言えば、と考える。最近、陸郎のほうからも「ごめん、今日は昼だめ」と断られることがある。夕食の誘いも。単純に陸郎にだって他に友人がいるだろうし、本当の恋人でもない僕を最優先することもないだろうと考えていた。
でも今優雅を見て、もしかしてその相手は優雅なのではないかと思った。
(そういえば優雅最近家に帰ってくることも多くなったし、ひょっとしてまた彼女と別れたのかな。彼女いなくなったからとりあえず陸郎さんを構おうって魂胆?)
事実はまだわからないのに勝手にそう思ってはイラッとする。
(そんな都合良く陸郎さんのこと使ってずるいっ)
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