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第五章『水族館でぇと』
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それでもまだ決心がつかず自分の手を握ったり閉じたり、周辺をそれとなく見回したりする。
それで気づいた。
僕の横に人一人分の隙間を空けて、僕らと同じ大学生くらいの男子の二人連れが並んでいた。暗くてはっきりわからないけど、背の高い強面のイケメンと僕よりも少し背の低い可愛い系の顔をした男子のデコボココンビ。
(僕らと一緒だな~)
僕と陸郎の身長差もけっこうある。
二人はぴったりと寄り添うに立っていて、なんとなく「あれ?」と思った。
そのうち小さな話し声がして聞くともなしに聞いてしまう。
「……っくん、やっぱり海月いいよね」
「相変わらず海月好きだな、ナナは」
「家が前よりぐっと水族館に近くなったから、また来よ」
二人は顔を見合わせて微笑み合ったていた。
(なんだか……あの二人……)
と思って目に入ったのが彼らの後ろで恋人繋ぎをしている手だった。
(やっぱり……そうなんだ……)
見知らぬ二人の秘密を見てしまったような申し訳ない気持ちになって、映像のほうに視線を戻そうとした刹那、背の低いほうの男子がこちらを見てにこっと笑ったように感じた。
なんとなく勇気を貰ったような気がする。
僕は映像に目を向けたまま陸郎と腕が触れ合うくらいに身体を近づけ、手の甲と手の甲を合わせた。それから自分たちの背に隠すようにしてそっと手を握る。
陸郎の身体がぴくっと微かに振動したけど振りほどかれはしなかった。やがて陸郎の手がゆっくり動いて恋人繋ぎに変わっていく。
(陸郎さん……っ)
心臓が激しく鳴り響く。
(これが優雅の代わりだとしても)
自分の中でだけは甘い時間を過ごした。
映像イベントは十五分ほどで終わり、ブース内は元の明るさになった。繋がれていた手は自然と離れていく。それを少し寂しいと思う。
中央に集まっていた人々は思い思いの方向へと散っていく。いつの間にかあの二人連れもいなくなっていた。僕らも海月のブースから出て次へと進む。そして突き当たりには三階へと繋がる階段があった。
(確かこの上は……)
昔の記憶を呼び起こしながら前を歩く陸郎を見る。
(あ……)
階段を上がっていく陸郎の足の動きが少し重たいように思えた。
(そうだ……陸郎さん)
陸郎は高校の時に棒高跳びで右足と腰を痛めている。再会してからは感じたことはなかったが。
(痛いのかな? けっこう歩いたもんね)
上りきったところで陸郎は立っていて僕を待っていた。
「陸郎さんっ」
「どうしたの? 温くん。具合でも悪い?」
「え? 僕?」
きっと僕は自分のほうこそ痛いような、青褪めた顔でもしていたのかも知れない。陸郎が心配そうな表情をしていた。
「や、僕じゃなくてっ。陸郎さんもしかして足痛いんですかっ?」
それで気づいた。
僕の横に人一人分の隙間を空けて、僕らと同じ大学生くらいの男子の二人連れが並んでいた。暗くてはっきりわからないけど、背の高い強面のイケメンと僕よりも少し背の低い可愛い系の顔をした男子のデコボココンビ。
(僕らと一緒だな~)
僕と陸郎の身長差もけっこうある。
二人はぴったりと寄り添うに立っていて、なんとなく「あれ?」と思った。
そのうち小さな話し声がして聞くともなしに聞いてしまう。
「……っくん、やっぱり海月いいよね」
「相変わらず海月好きだな、ナナは」
「家が前よりぐっと水族館に近くなったから、また来よ」
二人は顔を見合わせて微笑み合ったていた。
(なんだか……あの二人……)
と思って目に入ったのが彼らの後ろで恋人繋ぎをしている手だった。
(やっぱり……そうなんだ……)
見知らぬ二人の秘密を見てしまったような申し訳ない気持ちになって、映像のほうに視線を戻そうとした刹那、背の低いほうの男子がこちらを見てにこっと笑ったように感じた。
なんとなく勇気を貰ったような気がする。
僕は映像に目を向けたまま陸郎と腕が触れ合うくらいに身体を近づけ、手の甲と手の甲を合わせた。それから自分たちの背に隠すようにしてそっと手を握る。
陸郎の身体がぴくっと微かに振動したけど振りほどかれはしなかった。やがて陸郎の手がゆっくり動いて恋人繋ぎに変わっていく。
(陸郎さん……っ)
心臓が激しく鳴り響く。
(これが優雅の代わりだとしても)
自分の中でだけは甘い時間を過ごした。
映像イベントは十五分ほどで終わり、ブース内は元の明るさになった。繋がれていた手は自然と離れていく。それを少し寂しいと思う。
中央に集まっていた人々は思い思いの方向へと散っていく。いつの間にかあの二人連れもいなくなっていた。僕らも海月のブースから出て次へと進む。そして突き当たりには三階へと繋がる階段があった。
(確かこの上は……)
昔の記憶を呼び起こしながら前を歩く陸郎を見る。
(あ……)
階段を上がっていく陸郎の足の動きが少し重たいように思えた。
(そうだ……陸郎さん)
陸郎は高校の時に棒高跳びで右足と腰を痛めている。再会してからは感じたことはなかったが。
(痛いのかな? けっこう歩いたもんね)
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「陸郎さんっ」
「どうしたの? 温くん。具合でも悪い?」
「え? 僕?」
きっと僕は自分のほうこそ痛いような、青褪めた顔でもしていたのかも知れない。陸郎が心配そうな表情をしていた。
「や、僕じゃなくてっ。陸郎さんもしかして足痛いんですかっ?」
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