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しおりを挟む俺は眼を閉じた。
浮かんでくるのはシウさんのことばかり。
近づくと、いつもいい香りがする。酔うと紅く色づく目許。白いシャツが水に濡れて、肌が透けて見えた……。
俺はだんだんと身体の中心が熱を帯びてくるのを感じた。ジーンズのファスナーを下げ、その熱に直に触れる。
あの口許のほくろを舐めて……半開きの唇を貪る……。
閉じた眼の裏に浮かんでくる、勝手な妄想。
( あの白い肌を全身まさぐって、汚したい )
── あれは、俺の初恋だった。
幼いけど、確かに。それは、綺麗な恋だった。
再び出逢い、違う人として、また恋をした。
ふたつは重なって、より一層激しい想いになる。
そう、綺麗なだけの恋じゃない。
全てを奪い尽くしたい……汚れた欲望を孕んだ恋だ。
**
俺の母親は、メディア系大企業のサクラ・メディア・ホールディングスの社長の娘だが、父親はその傘下のサクラテレビの一般社員だ。つまり俺の家自体は、ありふれた規模の家の、ごく普通の一般家庭ということになる。
しかし、何年経ってもお嬢様が抜けない母は、幼い頃から俺に幾つもの習い事をさせ、庶民ではけして通えない、自分の出身校である聖愛学園の初等部に入学させた。勿論、我が家で学費や寄付金が払える筈もないのだが、娘に甘い父親が全て支払っていた。
坊っちゃん嬢ちゃんばかりのこの学園に俺は少しも馴染めず、愛想のない性格も災いして、友だちの一人もできなかった。
ついでに寮にも入れられた。
今までの習い事は全部やめることになったが、寮生の為の“お教室”があり、幾つかはこっちで続けることになった。
何をやってもそれなりにできてしまい、『庶民のくせに生意気』と反感を買い、ここでも友だちはできなかった。母親の希望で続けてはいるが、俺自身はいつでもやめていいくらいに思っているので、度々自主休講していた。
聖愛の敷地は広く、整然と並ぶ木や良く手入れされた花壇があるかと思えば、建物から離れると鬱蒼と木々が繁る森のような場所もある。
まだ幼稚園児に毛が生えたような程度の俺には、この森は一度では回り切れない。迷子になりそうな時もあった。放課後空いた時間はほぼ探索に使っていた。
こんな場所があるところだけは、合わない聖愛の中でも唯一楽しいと思えた。
**
その日、俺が探索を終え森から出てきたのは、初めての場所だった。森の中に入ると方向が分かりにくくなり、その時に寄って出てくる場所が違う。
(あれ、ここどこだろう)
目線を上げると、小路を挟んだ先の生け垣の向こうに建物が見えた。聖愛のものではなかった。
(隣の音楽院かな)
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