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オレの事務所兼自宅から実家まで、普段は車で来ることが多いが、今日は電車を使った。
初めてオレの実家を訪れたハルと、オレの育った街を歩きたいと思ったのだ。
門を出、数分歩くと川に出る。
川沿いをのんびりふたりで並んで歩く。ハルがやっと緊張を解いたのか、口を開いた。
「シウさんは、ご家族にとても大事にされていますね」
「そうだな」
オレは素直にそう答えた。
オレの家族は仲が良い。でも、オレの内にはずっと、この音楽一家に対する複雑な想いがあった。音楽への想いの在り方が違うと、特に兄弟に対して強く感じていた。
家を出て、それまでの自分を捨て自由になり、そんな感情も消えかけていく。オレはオレでいいんだと、思えるようになった。
「特にお兄さんには」
ぼそっと付け加える。両腕で自分を抱き締める仕草をする。
「なんか、俺を殺しそうな眼をしてた」
思い出したのか、抱いた身体をぶるっと震わせた。
ははっ、とオレは軽く笑う。
「天音くん ── 兄さんは、どういうわけかオレを溺愛している。そりゃあ、もう度が過ぎる程ね。両親を押し退けてオレを構うから、諦めてオレのことは天音くんに一任することにしたくらいだよ。まあ、オレも嫌だ嫌だと言いながら、何かあると頼っていたけど」
男兄弟なのに、度が過ぎる程の溺愛振りが煩わしくても、やっぱり頼ってしまうのは天音だった。
高等部のクリスマスパーティーの時も、秋穂の部屋で壱也が血塗れになっていた時も、そうだった。天音ならなんとかしてくれると思ったんだ。
「兄さんが人当たり良く見えるのは、人と距離を測って接しているから。大概はにこにこしている。でも、オレに害をなす相手にだけは辛辣な物言いをする。冬馬とは子どもの頃から家族ぐるみの付き合いがあるけど、秋穂が現れてからは彼への当たりは酷くなったな」
「そう、なんですか」
今ひとつ理解できない、という顔をしている。
当然だろう。長い付き合いのオレでさえ、天音については、理解できていない部分の方が多い。
( そういえば…… )
天音は子ども頃ピアノを弾いていた。それこそ、天才と持て囃されるレベルだったという。でもオレは、天音のピアノを聴いたことがない。
楽団では、ヴァイオリンと父に次ぐコンダクターを担当している。彼は作曲もし、その時にはピアノを弾くが、その姿を誰にも見せない。
いったい何故なのか。でも、オレはそれを訊くことはできない。天音の深い部分に触れるような気がして。
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