【完結】冷徹宰相と淫紋Hで死亡フラグを『神』回避!? ~鬱エロゲー溺愛ルート開発~

愛染乃唯

文字の大きさ
25 / 42

17-1

しおりを挟む
 アルマンド。助けてくれ、アルマンド。
 いや――駄目だな。
 どうして君が私を助けてくれるだろう。
 かつてのわたしならともかく、今のわたしは、君に殺されても文句は言えない……。

 何せ君の娘を、けがしてしまったのだから。

「はあああああああ……」

「あらっ、どーしたのお客さん! そんなため息ついたら、魂が出ちゃうわよ!」

 力強くふくよかな体の給仕女が言い、目の前にどかんと肉の皿を置く。
 貴族は食べない鶏のももに安いスパイスをまぶし、衣をつけて揚げたものだ。むっとするような悪い脂の匂いがして、わたしはまずます深いため息を吐いた。

「こんな魂なら、いっそわたしの体からすべて出て行ってほしい。そのあとで何かいい匂いのするものをねじこむ」

「相変わらず潔癖症ですね」

 淡々と答えて、テーブルの向こうの男が木製ジョッキを煽る。
 わたしはじっとりとした目で彼を見つめた。
 灰色の衣をすっぽりとかぶった小柄な男。黒髪に黒い目で、顔にはガラスを二つ使った視力矯正器具をつけている。衣の地味さと器具の高価さが不釣り合いなこの男は、馴染みの辻占い師であった。
 わたしは酒で重だるくなった顎を拳で支え、安居酒屋のテーブルに肘を突く。

「あの場所で潔癖でいるのは、むしろ変態の所業のような気がしてきているがな」

「今さら気づいたんですか? そもそも潔癖なんていうのは変態趣味のひとつにすぎませんよ。それがご趣味だと思っていたのでつっこんでませんけど」

「相変わらず毒舌だな」

「そういうのがお好きでしょ、潔癖さいしょ……えー、潔癖な謎の旅人さんは」

 宰相、と言いかけた彼をぎろりとにらむと、占い師は視線をさまよわせ、そのまま山盛りの揚げ鳥をつまんだ。
 ここは帝国の広い広い城下町の中でも、宮殿にほど近い場所だ。
 普通ならば宮殿に近いところは治安がいいはずなのだが、この周辺は例外である。古くから宮殿から出るゴミを処理する者たちが住み着き、目を離すとあっという間にスラム化する区域。
 代々宰相はこの周辺を何度も、何度も、新しく清潔な街にしようと試みた。
 が、いくら追い出してもこの場所には無数の人々が戻ってきて、あっという間に違法建築のスラムを作り出してしまう。
 わたしは安い発泡りんご酒をなめながらぼやく。

「毒舌が好きなわけではない。安い居酒屋も、酸っぱい林檎酒も、脂っぽい肉も苦手だ」

「じゃあ、どうしてあなたはこの地域を守ってくれたんです?」

 占い師が面白くもなさそうに言う。
 わたしはぎゅっと眉根を寄せた。

「無駄な金をかけなかっただけだ。入れ物をなくすよりも、無料の学び舎を建て、癒やし処の出張所を建てるほうが安い。自浄作用で、街はいずれ清潔になる」

 周囲に聞こえないよう、ぼそぼそと言う。
 わたしがこの場所を知ったのは、スラム改良計画がきっかけだった。この場所が実際どれくらい荒れているのかを自分の足で確かめ、対策を練った。
 その途中でこの居酒屋に出会い、占い師にも出会ったのだ。
 それまでは占いなどまったく信じていなかった私だが、この占い師は妙に博識であった。占い師という割にめったに占いはしないのだが、そうでなくとも貴族でなくては知らないようなことを知っている。さらに、わたしの頭の中を読んだようにものを言う。
 気持ちが悪い、もしくは怪しい――と思ってもよさそうなものだが、なぜだろう。
 わたしは彼に純粋な興味を惹かれただけだった。この占い師には欲がほとんどない。安酒と安い料理があれば幸せで、あとは眠っているか、占いをしているか、それだけ。
 さらに口も堅いと知れたので、わたしはいつしかたまに彼のもとを訪れるようになった。
 こうして身分を隠して宮殿から降り、酒をおごる代わりに他愛のない話をしてもらうのは、かけがえのない気晴らしだった。国政の愚痴がもらせるわけではないが、それでも、彼と話すと気が晴れる。頭の中の余計な思考や逡巡が、外へ出て行ってくれるようで――。

「あなたって頭いいですよねえ、ほんと。恋愛以外については」

「げほっ! ごほっ、ごはっ!」

「ちょっとぉ、大丈夫!?」

 心配そうな給仕女に片手を挙げて『大丈夫』の合図を送り、私は占い師をにらむ。

「なんで……」

「なんで恋愛の悩みを抱えてるってバレたかって? そりゃあ場末の安居酒屋に来るのに匂い袋忍ばせてるからですよ。習慣になってるんでしょ? 最近思い人がいるから……」

「違う……」

 わたしは必死にうめいた。
 確かに、確かに匂い袋は持つようになった。しかしそれは思い人がいるというより、控え室にいつでもエレナがいるからだ。女性が近くにいるからには、それくらいの気遣いは必要なのではないか。
 占い師は鳥の軟骨をぽりぽりかじりながら続ける。

「まー、百歩譲って思い人じゃなくてもいいですけど。ヤってはいますよね」

「ごふっ! ごはっ! なぜ……!」

「あー、今のは確信はなかったです。かまかけです。その反応ってことは、やってるんだなあ」

「………………!」

 怒りに震えてみるものの、別に占い師は悪くないな、と思い直す。
 身近に女がいて、男が女を意識しているとなったら、そういう発想にはなるだろう。
 悪いのは、むしろ自分だ。
 いい年をして我慢が効かず、保護者にもなりきれない、みっともない自分。

「はあああああああ……」

 さらに深い深いため息をついて、わたしは机上で肘をつき、両手を組み合わせた。
 そこに重い額をもたせかけ、最低の気分で口を開く。

「やはり人間、局部を切断すると死ぬだろうか」

「待って下さい。極端だな。どうしてそうなりました?」

 さすがに占い師も慌てた様子だ。
 私は両の親指で額を支えながら質問を繰り返す。

「死ぬのかどうかを教えてほしい」

「このへんの文明レベルだと、大体死にます。どうしたんですか、ほんとに。デカくて邪魔になりました?」

「邪魔だ。デカい上に自由にならない」

「ははあ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...