【完結】冷徹宰相と淫紋Hで死亡フラグを『神』回避!? ~鬱エロゲー溺愛ルート開発~

愛染乃唯

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 わかったような、わかっていないような返事だった。
 確かにこの告白の仕方では、何ひとつ伝わらないだろう。かといって事細かに事情を話すのは、エレナの名誉のためにもよろしくない。
 わたしは悩み抜いた末に、ぽつりとこぼした。

「――相手は、何しろ、若いのだ」

「ははあ?」

「若くて、美しい。ただ顔が美しいというわけではない。いや、もちろん、顔も美しい。だが、そうでなく……夏の日差しがそのまま体内に閉じこめられたような、輝きのある乙女だ」

 語れば語るほどに、まざまざと彼女のことが思い出された。
 高いところで結んだ黒髪を、ぴょこんと揺らしながら私を見上げてくる無邪気な顔。いつも不思議なくらいきらきらと輝いている瞳。私の腕にすがる指のいじらしさ。
 ごわついた軍服の下に秘められた、薄クリーム色の、なめらかで張り詰めた肌――。

「いいですね」

「ああ。いいんだ」

 占い師の素直な肯定が、妙に嬉しい。
 そう。そうなのだ。彼女はとても、いい。素晴らしい。
 元々は酷く暗く、黙りがちな少女だった。まだ幼い頃に、前皇帝ラウルがエレナの母とエレナにお忍びで会いに行ったときに同行したのが、私との初対面だ。あのときのエレナは私を怖がって母の後ろから出てこなかったものだ。
 その次に出会ったのは、ラウルが死に、わたしがエレナを下町まで迎えに行ったとき。彼女はすっかりと暗い顔で、心を閉ざしてしまっていた。彼女の母は流行病で死に、ラウルは陰謀で死に……わたしは彼女ではなく、ラウルへの忠誠のために、エレナを自分の近衛兵にした。明るい顔でいろというほうが無理がある。
 そう、それなのに、最近の彼女はひとが変わったかのように明るい。
 底抜けの明るさというわけではない。ただただ前向きで、ひたむきなのだ。仕事についてもびっくりするほど有能で、洞察力にも富む。宮廷の複雑な構造も一瞬で把握した。
 そしてことあるごとに、わたしのほうを振り返って、笑う。
 花ほころぶような――そしてどこか切ないような、笑み。

「彼女には、どこまでも、いつまでも、輝いていてほしい。彼女は深く傷ついた人間だ。わたしは――できるかぎり、彼女を守りたいと思っていた」

 口に出して言うと、気分は徐々に落ちこんでくる。
 私は、彼女を守りたかったのに。

「それなのに、できなかった」

 低くつぶやく。
 あのときのことを思い出す。
 熱い怒りで新皇帝に立ち向かっていった、あのとき。
 あのときわたしは、死ぬつもりであった。むしろ、殺されたかった。
 なのに下腹部がいきなり熱くなったかというと、頭に砂嵐が吹き荒れたようになり、気づけば……まだ青さの残る彼女の体を組み敷いていた。最初は呆然としたが、半分くらいはその事態を当たり前のように感じていたのを覚えている。
 目の前に山盛りのごちそうがあり、自分は凶悪なほどに飢えている。そんな感覚に背中を突き飛ばされ、何もかも引きちぎって彼女の中にねじこみたいのを我慢するので必死だった。我慢といっても、できたのはほんの時間稼ぎのようなことでしかない。
 そうして早急に中に押し入り、楽園のような快楽に包まれて――絶望したのだ。

「つまり、ヤっちゃった」

 ぼそり、とつぶやかれ、わたしはのろのろと視線を上げた。
 生来強面なほうだから、おそらくはかなり酷い顔をしていたのだろう。
 周囲の関係ない客が、ひっ、と引くのをよそに、占い師をにらみつけて言う。

「言葉を選ぶことの重大さを、手ずから教えてやろうか?」

「いい脅迫ですねえ。ガタイがいいから迫力があるな」

 占い師は少しも動じることなく、むしろにやりと笑った。
 わたしを軽んじるような態度が、今はひどく心地よい。やはり、無理をしてでも部屋を抜け出してここに来たのは正解だった。わたしは体から力を抜き、ごくりとりんご酒を呑む。酒はひどくぬるかったが、酸味とわずかな発泡の刺激が多少の爽快感は与えてくれる。

「そうだな。彼女も、私に組み敷かれたときは怖かっただろう」

 飲み干したジョッキをテーブルに置いて言う。
 占い師は、半分ほどに減った鳥に手を伸ばしながら、何やら考えているようだ。

「それで『切り落としたい』ですか。うーん。でも、それも独りよがりじゃないです?」

「……なんだ、それは」

 何を言っているのか本気で意味がわからず、わたしは占い師を問いただす。
 占い師は骨離れのいい肉を白い歯で梳き取り、細い骨を振り回した。

「ヤっちゃったとき、彼女は抵抗したんですか?」

「ほとんどしなかった。だが、あれは、できなかったのだ」

 苦い言葉を唇に載せる。何せ記憶が飛びがちだったから、わたしも事後は慎重になった。気絶した彼女の体に怪我がないことを確かめ、きれいだったことにほっとした。
 自分の体も堅い床に押しつけていた膝に痣があったくらいで、きれいなものだった。
 おそらく、エレナは諦めたのだ。
 信じられる身内であるわたしに裏切られ、呆然とわたしを受け入れたに違いない。

「それはそうかもですけど……そのあともあなた方、割とヤってるわけですよね? 最近も。なんかそんな感じの反応でしたよね?」

「…………」

 反論は、できない。
 そうだ。
 ヤっている。

 あの忌々しい淫紋のせいで……淫紋がなくとも、ひょっとしたらやってしまったかもしれない。それだけ、彼女は素晴らしかった。目の前に居て、その気配を、声を、匂いを感じるだけで頭がくらっとすることがある。
 二度目以降は淫紋が発動しても記憶が飛ぶことはなかった。
 おかげで、目に、感覚に、焼き付いてしまっているのだ。
 見た目は青く未熟にも見える彼女が、見る間に甘く、果汁を滴らせるさまを。熟れた果実のような魅力を放つ瞬間を。彼女はしなやかな腕を伸ばし、私を抱き寄せてくれる。まるですべてを受け入れてくれるかのように。
 すっかりいつもとはトーンの変わった、甘い声で私に甘え、ときには自ら自分の肉をかき分けて花開いた秘所を見せつけてくる。頭の芯が痺れたようになって手を伸ばすと、彼女のそこは優しく潤んで、私の全てを呑みこんでしまう――。

「僕の占いによるとですね、あなたは、ひとを助けたいタイプのひとです」

「ひとを、助けたい?」

 いきなり話が逸れた。
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