蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

文字の大きさ
26 / 72
第3章:星皇の重い愛

第5話:半分消し飛んだ崑崙山

しおりを挟む
「アリス。あの馬鹿があんたに贈ってきたプレゼントは壊れてなさそうよ」

「それは良かったのデス。先ほどの戦闘では奥の手を使ってしまっていマス。すでに超一級天使装束はその形を保つだけのエネルギーしか残されていまセン」

「ちなみに、エネルギーがゼロになるとどうなるの?」

「ボクがすっぽんぽんになるだけデス。ヘルメットと左腕に装着している籠手は物質なので、さすがに残りますケド」

 ベル=ラプソティはアリス=ロンドがオープン型フルフェイス・ヘルメットと籠手だけを装着し、首級くびから下がスッポンポンの姿を想像し、ブフッ! と噴き出してしまう。しかも、アリス=ロンドがその姿のままで平然とその辺りをうろついている姿が容易に想像できてしまう。

「今、笑われたのデス。ボクにとって、星皇様とベル様以外に裸体を見せるのは死に等しい恥辱なのデス」

「そうならないようにしないとねっ。あの馬鹿のプレゼントによって起きた地熱が収まり次第、崑崙山クンルンシャンを抜けつつ、超一級天使装束のエネルギー補給も終わらせましょ」

 アリス=ロンドが少し怒り気味になっているのを感じ取り、ベル=ラプソティは少しだけ気分が安らぐことになる。半天半人ハーフ・ダ・エンゼルとして、生まれ変わったアリス=ロンドはヒトと天使の感情が希薄そうに見えてしょうがない。しかしながら、少なからずも、感情を持ち合わせている存在であることにベル=ラプソティは安堵を覚えたのであった。

(価値観の違いってやつなんでしょうね。アリスには大切なヒトがこの世にふたりしかいない。でも、わたくしにはたくさんの護りたい命がある……)

 護りたい存在が多ければ多いほど、ヒトや天使はその心がおおいに揺らぐ。しかしながら、ベル=ラプソティはそんな自分が嫌いではなかった。自分の手の届く範囲でしか、ヒトはヒトを護れないというが、ベル=ラプソティはその手が届かない先にまで、救いの手を差し伸べたいと思っている。それがアリス=ロンドが他者に向ける態度以上に傲慢であることは、ベル=ラプソティ自身もわかっている。

「アリス。わたくしたちも休憩に入りましょ。昨日からここまで休みなしなんだから」

「わかりまシタ。食事により、超一級天使装束のエネルギーを少しでも補給しておきマス」

「すごいわね。戦乙女ヴァルキリー・天使装束とはまったく別な機構を持っているのね」

 ベル=ラプソティはこの時、超一級天使装束がいったいどんなシロモノかをまるでわかっていなかった。通常の天使装束は神力ちからを蓄えておくことにより、戦闘時で神力ちからを発揮することが出来る。そして、それらの天使装束は天使たち自身や聖地と呼ばれるような神聖な場所が生み出す神力ちからでないと、天使装束はエネルギーとして受け入れることが出来ない。。

 しかし、アリス=ロンドは自身の体内に食物を摂り入れることで、超一級天使装束にもエネルギーを補給できると言ってのけた。これが後々、ベル=ラプソティが聞き流して良い言葉にならないとは彼女自身は思いもしなかった。

 休憩に入ったベル=ラプソティたちは、一団の最後方にある幌付き荷馬車で食事と軽い湯あみ、そして睡眠をとる。取るもの取らずに聖地から出立してしまったために、一団の皆は冷たく硬くなったパンパーンと芋と根野菜のスープで腹を満たすことになる。しかしながら、食べる物と寝る場所があるだけマシな状況である。

 ベル=ラプソティたち3人娘は狭い幌付き荷馬車の荷台で川の字になって眠る。明けぬ夜は無いという言葉通り、次の日も太陽が東から昇り、一団は朝の訪れに安堵する。太陽の光は創造主:Y.O.N.Nの恵み、月明かりは創造主:Y.O.N.Nの慈悲という言葉がある。朝日を浴びることで、若干ながら、生気を失っていた聖地の住人たちにも活気を取り戻すことになる。

「おはよう、皆。よく眠れた?」

「ベル様の寝相の悪さ以外は快適だったのですゥ」

「もしかして、ベル様が星皇様と寝室を共にしなくなったのは、ベル様が自分の寝相の悪さを気にしてデスカ?」

「あんたたち、ぶん殴るわよっ! 知ってて言ってるでしょ!?」

「あゥあゥ。朝から雷が落ちたのですゥ!」

「ボクはボクの知らないベル様の可愛いところがあると知って、ほっこりしてしまいマシタ。これは星皇様にお伝えしなければなりまセン」

「絶対に言わないでっ! あいつ、絶対に勘違いするからっ!」

 3人娘が集まれば、かしましいと言うだけはあり、朝からベル=ラプソティたちは騒ぎ立てる。コッシロー=ネヅはやれやれと口から漏らし、次の瞬間にはふわあああと大あくびをするのであった。ハイヨル混沌が魔の手を伸ばしてきたことで、日常そのものが失われそうになっているというのに、3人娘たちがいつもと変わらぬ日常のような風景を描き出す。

「いやあ、ここは晴れやかですな」

「ベル様。ボクの気持ち良い気分を台無しにされまシタ。眼から光線ビームの発射許可をくだサイ」

「えっと、クォール様。何か御用がありまして?」

 ベル=ラプソティはクォール=コンチェルト第1王子が一団の最後尾にまでわざわざやってきたことに警戒心を抱く。崑崙山クンルンシャンの半分を消し飛ばした張本人が星皇であることに感づいたのではないかと思ってしまう。アリス=ロンドがクォール=コンチェルト第1王子の口封じをする前に、そのことを確かめようとする。

「いや。用というほどのことではないが……。アリス殿の御尊顔を1日1回は必ず拝しておこうと思ってな」

「ベル様、早くボクに眼から光線ビームの発射許可をくだサイ。ボクを性的な眼で見て良いのは星皇様だけデス」

 アリス=ロンドが許可を早くクレクレと急かしてくるが、それを無視して、ベル=ラプソティはホッと安堵の息をつく。どうやら、崑崙山クンルンシャンを半壊させた犯人が星皇だと知っているのは、ベル=ラプソティたちだけであり、クォール=コンチェルト第1王子は、それに気づく素振りも見せないのであった。

 ベル=ラプソティが崑崙山クンルンシャンのことをそれとなく訪ねてみても、クォール=コンチェルト第1王子は、アリス殿たちに怪我がなくて良かったとだけ言ってくる。ニンゲン、知らない方が幸せなことは多々あることだ。聖地に準ずるほどに神聖視されている崑崙山クンルンシャンを半分吹き飛ばした犯人はハイヨル混沌だろうと、ベル=ラプソティは語気を強めて主張しておくことにした。

「やはり、俺たちの予想通り、ハイヨル混沌が起こしたことだったのかっ!」

「俺『たち』とは?」

 ベル=ラプソティはクォール=コンチェルト第1王子が複数形をつけるので、誰のことを指しているのかと問うてみる。クォール=コンチェルト第1王子は右手を握り込み、わなわなと身体を震わせながら

「ああ、教皇様もハイヨル混沌が崑崙山クンルンシャンを吹き飛ばしたのであろうとおっしゃっていた。あの山にはグリーンフォレスト国の守護獣であるフェンリル様が住んでいらっしゃる」

「そ、そう言えば、フェンリル様が居ましたわよね。えっと、カナリア……。フェンリル様が衝撃で吹っ飛ばされてるとこは無い……わよね?」

 ベル=ラプソティは今の今まで、崑崙山クンルンシャンに住まうフェンリルの存在をすっかり忘れていた。あの大爆発に下手をすると巻き込まれてしまっているのではないかと、身体中から冷や汗をダラダラと垂れ流すことになる。そして、崑崙山クンルンシャン周辺の調査をしてもらったカナリア=ソナタに、フェンリル様は健在だったのかを今になって問うことになる……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...