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第4章:真の|神力《ちから》

第6話:ぶつかり合う主張

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 ベル=ラプソティはアリス=ロンドの言葉を聞き、眉根をひそめることになる。しかし、彼女に対して、かける言葉が見つからないベル=ラプソティである。アリス=ロンドは出会った頃から感情が欠如している男の娘である。星皇であるアンタレス=アンジェロには子犬のように付きまとってはいたが、それはもう1度、捨てられないための防衛策のようにも思えて仕方が無いベル=ラプソティであった。

 ベル=ラプソティはそんなアリス=ロンドに対して、勇気を振り絞り、喉から出かけている言葉を声へと変換する。

「アリス、よく聞いて。貴女はあいつの所有物じゃないの。貴女は貴女の意志でやりたいことを見つけるのっ!」

「ボクがしたいことは星皇様が喜んでくれることデス。そして、ベル様も同じなのデス。ベル様の言っていることがわかりまセン」

 アリス=ロンドの返事はベル=ラプソティの予想通りの言葉であった。わからないというその表情は、本当にわからないという感じをありありと映し出していた。自分の何が間違っているのだろう? と逆にベル=ラプソティに質問してきそうな雰囲気すら出していた。

「アリスはアリスであって、アンタレス=アンジェロじゃないのっ。アリスにはアリス=ロンドの魂が宿っているのっ!」

「ハイ。もちろんデス。この魂、命、肉体、全て、星皇様のためのモノなのデス。同時にベル様のモノなのデス。アリスは間違っていマスカ?」

 ベル=ラプソティは歯噛みしてしまう。アリスに伝えたいことの意味が半分も伝わっていないことにだ。自分の語彙力の無さが悪いのか、感受性が欠如しているアリスが悪いのかはわからない。だが、それでもベル=ラプソティはアリスに向かって、言葉を投げかける。

「貴女には本当にやりたいことが無いの!? わたくしにはあるわっ! 福音の塔にたどり着いて、天界に戻れる日がやってきたら、あいつの横っ面をぶん殴ってやるのっ!」

「ベル様は星皇様のことがお嫌いなんデス? 星皇様がベル様のことをどれほど愛しているのかわからないのデス?」

「あいつがわたくしにべた惚れなのは、わかってるわよっ! そうじゃないのっ! あいつはそれを免罪符にして、やって良いことと、やっちゃダメなことの違いがついてないのっ!」

「ボクは星皇様に教わりました。愛してくれるヒトには、愛で応えなさいト。でも、同時に愛してくれないとわかってても、尽くすのが本当の愛ダト。それで天界を追われることになっても、悔いは無いハズダト」

 ベル=ラプソティはアリス=ロンドとの主張のぶつけ合いで、頭の中でガンガンと鐘が鳴る音が響き渡る。どうしてこう歪んだ愛をそのままアリス=ロンドに植え付けたのかと、星皇を恨めしく思ってしまう。自分がアリス=ロンドの相手を天界に居た頃にしっかりしておけばさえ思ってしまう。

 しかし、実際のところは違う。アリス=ロンドはアリス=ロンドである。ベル=ラプソティは自分でそう言っておきながら、ベル=ラプソティ自身もアリス=ロンドという個を認めていなかっただけである。

 アリス=ロンドにとっての世界とは、星皇:アンタレス=アンジェロとベル=ラプソティのみなのだ。それ以外は『要らない』のである。対して、ベル=ラプソティは自分の手が届くか届かないかわからないギリギリのニンゲンたちにも愛を示す。

 『博愛』と『偏愛』は平行線なのだ。その代表であるベル=ラプソティとアリス=ロンドが交わうところなど、どこにも無い。そして、どちらも絶対的に正しいわけではない。ベル=ラプソティはベル=ラプソティで正しくもあり、間違っている。そして、アリス=ロンドもアリス=ロンドで正しくもあり、間違っている。ただただ、両者は交わり合うことが無いだけなのである。

「ダメ……。もう限……界」

 ベル=ラプソティはアリス=ロンドとの譲らぬ主張の言い合いだけでなく、熾天使セラフィム状態になったことによる疲弊により、意識を失うことになる。ベル=ラプソティは今度こそ、アリス=ロンドを説得しようとした。しかし、それはベル=ラプソティの意識が途絶えることで終わりを告げる。

 気を失ったベル=ラプソティを保護するため、アリス=ロンドはベル=ラプソティをお姫様抱っこする。そして、ベル=ラプソティをベッド式カプセル型エネルギー補給器の中へと閉じ込めてしまう。

「ベル様は考え過ぎなのデス。でも、ボクのために色々と言ってくれてくれるのがありがたいのデス。今はお休みになってくだサイ」

 アリス=ロンドはそう言うと、ベッド式カプセル型エネルギー補給器の稼働スイッチをオンにする。ベル=ラプソティはカプセル内に満たされていく薄桃色の液体に包まれていく。

「うわァァァ! ベル様が拷問器に入れられたのですゥ!」

「チュチュゥゥゥ! カプセルの下部からチューブが出てきたのでッチュウ! 僕は無関係なのでッチュウ! 何も見てないでッチュウ!!」

 ベル=ラプソティとアリス=ロンドの激しい主張のぶつけ合いを遠巻きに見ていたカナリア=ソナタとコッシロー=ネヅであったが、ベル=ラプソティが例のカプセルに押し込められた時点で、嫌な予感に襲われた。

 しかし、カナリア=ソナタたちは遅かった。すでにアリス=ロンドはベル=ラプソティにとっての拷問器のスイッチを押してしまった後である。カナリア=ソナタとコッシロー=ネヅは触手のようにうごめくチューブ群を見て、ガクガクブルブルと震えあがることしか出来なかった。

「大丈夫デス。これは拷問器では無く、『ゆりかご』なのデス。ベル様は今頃、きっと良い夢を見ているのデス」

「そうは言っても、ベル様の表情が苦悶に満ちているのですゥ! アリス様、その拷問器を止めてくださいィィィ!」

「うわあ、これは周りには見せられないのでッチュウ。そして、ベル様にも何があったのかを言えないのでッチュウ!」

 カナリア=ソナタとコッシロー=ネヅはせめて、ベル様が受けている恥辱の数々を周りから見られないようにと、大きな布をどこからか引っ張り出してきて、カナリア=ソナタたち自身が鉄のカーテンとなる。

 そんな慌てふためくカナリア=ソナタたちに対して、キョトンとした表情をしていたのがアリス=ロンドであった。

「あ、そうですヨネ。ベル様の寝姿を見て良いのは、星皇様だけなのデス」

「半分当たってて、半分間違っているのですゥ! 布を持ってくれるのはありがたいですけど、その考え自体を改めてほしいのですゥ!」

 カナリア=ソナタはアワワアワワと慌てふためきながら、アリス=ロンド、コッシロー=ネヅと共に、決して、周囲にベル様のあられもない姿を見せぬようにと尽力する。その甲斐もあって、ベル=ラプソティは一団から奇異な目で見られぬように済んだのは、まさに僥倖であった。

「ふわあああ。よく寝た。あれ? カナリア、コッシロー、随分、お疲れね? 次は貴女たちが、この快眠カプセルで寝てみる?」

「全力でお断りさせてもらいますゥゥゥ!」
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