蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

文字の大きさ
46 / 72
第5章:襲撃者

第5話:死霊術師

しおりを挟む
「あのゥ。つかぬことをお聞きしますけどォ。うちのコッシロー=ネヅが何か悪さをしたんですゥ? 言いがかりなら、とっちめますけどォ?」

 カナリア=ソナタはあちら側がクレーマーである可能性もあるので、あまり下出でにならないように注意を払った発言をする。顔の表面の肉と皮膚がこそげて、そこら中から骨が露出している謎の老人がよくぞ聞いてくれたとばかりに両腕をおおいに広げる。

われの名はゲラーシー=ジェコフよっ! 大昔にここ一帯に死を等しく万人に与え、そして新たな命を吹き込んだものジャ!」

「ゲラーシー=ジェコフ?? もしかして、あの禁忌の黒魔術に両足を突っ込んで、20代前の星皇様に討伐されたあの『死霊術師ネクロマンサー』さんだったりするんですゥ??」

「オウヨ! その偉大なる『死霊術師ネクロマンサー』様とはわれのことジャ!」

 カナリア=ソナタの頭の中には偉人の名前でなく、世間を騒がせた大悪人の名前もインプットされていた。今から300年ほど前に聖地:エルザレムと崑崙山クンルンシャンけがそうと企み、その当時の星皇に討伐された存在が『ゲラーシー=ジェコフ』であることをすぐに思い出す。それゆえにカナリア=ソナタはコッシロー=ネヅの左耳に口を近づけ、こそこそと何かを呟く。

 コッシロー=ネヅはカナリア=ソナタに何かを告げられたと同時に、口を大きく開き、思いっ切り外気を吸い込み、それを勢い良くゲラーシー=ジェコフと名乗った人物に向かって吐き出す。ゲラーシー=ジェコフはキラキラと輝くミストが自分に向かってきたことで、紫色の魔術障壁マジック・バリアを自分の周囲に展開することになる。

「不意打ちのつもりでしたけどォ、失敗しましたァ。なかなかに手ごわい相手だと認識しますゥ」

「クワクワクワッ! われが300年前に星皇に破れた時も、今と同じように不意打ちを喰らわされたノダ! 同じ轍を二度も踏むと思わぬことジャ!」

 コッシロー=ネヅは口から神聖なブレスを吐いたのだが、それをあっさりと防ぎ切ってしまう死霊術師ネクロマンサーであった。そして、次はこちらの番だとばかりにドラゴンの頭頂部に突き刺した魔法の杖マジック・ステッキを両手で掴み、グリグリと捻じ込むように呪力ちからを込める。

 一度、命を失ったはずのドラゴンはグォォォォン! とドラゴンの雄叫びをあげる。それが衝撃波となり、カナリア=ソナタ共々、コッシロー=ネヅの身体にぶち当たる。カナリア=ソナタたちはビリビリと身体が痺れ、すぐには次の行動に移ることは出来なくなってしまう。

 そんな状態のカナリア=ソナタたちに向かって、死霊術師ネクロマンサーは攻撃の手を緩めようとはしなかった。屍竜ドラゴン・ゾンビと化した蒼き鱗に覆われたドラゴンの身をさらに振るわせて、その体表から散々に四方八方へと巨大な竜鱗を弾けさせるように飛ばす。

 時速200キュロミャートルほどの速度で飛んでくる竜鱗に対して、身体に痺れを覚えるカナリア=ソナタたちは回避を選ぶことは出来ず、防御に徹することになる。カナリア=ソナタは手と手を打ち合わせ、手に持っていたノートをパシン! と勢いよく閉じる。そして、次にその手を開いた時には、色違いのノートが一冊、カナリア=ソナタの両手の間に現れる。

 その銀色のカバーが施されたノートは自然とパラパラとページをめくる。あるページが開かれると、そこには1つの魔法陣が描かれていた。そして、その魔法陣がノートから浮き出て、さらにはカナリア=ソナタたちを護るための盾と化す。カナリア=ソナタが展開した魔術障壁マジック・バリアはかなり強力なモノであり、1つ10キュログラムもあり、さらには時速200キュロミャートルで飛んでくる竜鱗を次々と弾いてしまう。

 その様子をじっくりと観察していた死霊術師ネクロマンサーは乾いた舌でべろりと舌なめずりする。

「クワクワクワッ! 銀の聖書シルバー・バイブルを持っている……ダト? これは侮りがたき相手ジャ。なかなかに創造主:Y.O.N.Nに対して、敬虔な心を持っている者と認識させてもらうのジャ!」

 死霊術師ネクロマンサーであるゲラーシー=ジェコフの言う通り、天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅに跨るカナリア=ソナタが手にしているのは銀の聖書シルバー・バイブルそのものであった。これを所持できる資格を有しているのは教皇の下にいる枢機卿クラスでなければならない。聖者として、かなり名のしれた者なのだろうと死霊術師ネクロマンサーは思ってしまう。

「コッシローさん。あたしって敬虔な創造主:Y.O.N.N様の司徒に見えますゥ?」

「難しい質問をしてくれるッチュウね。それを手に入れた経緯を知っている者ならば、誰もそんな風には思えないでッチュウ」

 カナリア=ソナタは天使族ではあるが、2枚羽の主天使ドミニオン程度の神力ちからしか持っていない。主天使ドミニオンは上位と下位が存在し、その神力ちから如何で2枚羽と4枚羽に分かれる。天使階級において、下から数えたほうが早いカナリア=ソナタであったが、それでも手にしている銀の聖書シルバー・バイブルから神力ちからを如何なく抜き出すことが出来た。

 それゆえにカナリア=ソナタがご主人様のコネを使って、無理やりそれを手に入れたという経緯があることはあるが、それ自体を使いこなすことが出来るので、コッシロー=ネヅは返答に困ることになったのである。

 死霊術師ネクロマンサーはその銀の聖書シルバー・バイブルを手にしているのが2枚羽の天使であったとしても、その姿に惑わされぬようにと、自分の心に注意を促す。そして機が訪れるまで、決して安易に2枚羽の天使に近づかないようにした。

 それゆえに死霊術師ネクロマンサーが選んだ攻撃方法は遠距離攻撃であった。屍竜ドラゴン・ゾンビの頭に突き刺さっている魔法の杖マジック・ステッキを両手でグリグリと動かし、屍竜ドラゴン・ゾンビの身から散々に蒼い竜鱗を飛ばしまくる。

 身体の痺れが取れてきたコッシロー=ネヅはカナリア=ソナタを振り落としてしまわぬように注意しながら、空中を4本足で駆け回る。屍竜ドラゴン・ゾンビが次々と飛ばしてくる竜鱗全てを躱しきれるわけではなかったが、自分たちにぶち当たる予定であった竜鱗はカナリア=ソナタが銀の聖書シルバー・バイブルから生み出した魔法陣で防いでくれた。

「コッシローさん、右に3ミャートル、その次は左斜め上に2ミャートル、その次が真下へ5ミャートルですゥ!」

「任せろでッチュウ! カナリアの指示通りに大空を駆けまわってみせるでッチュウ!」

 死霊術師ネクロマンサーの眼から見て、2枚羽の天使を背中に乗せた天界の騎乗獣の動きはどんどんと良くなっていく。焦らないようにと自分に言い聞かせていた死霊術師ネクロマンサーであったが、ついに自分から手を出す行動へと移ってしまう……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...