蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

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第6章:眠れぬ夜

第10話:矛と盾

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 サフィロ=ラプソティに八極拳と呼ばれる拳法に含まれる技のひとつであるテツザンコウを背中に叩きこまれたアリス=ロンドは草地の上で錐揉み状態となりながら、2度3度とバウンドする。アリス=ロンドは四つん這いの姿勢となりながら、一気に身体を起こそうとする。しかし、そこを追撃するためにサフィロ=ラプソティはアリス=ロンドの正面から肉薄し、アリス=ロンドの顎を右ひざでかち上げる。

 アリス=ロンドは無理やりに空中へと飛ばされる。さらにサフィロ=ラプソティが草地の地面を蹴り上げ、アリス=ロンドよりも高い位置へと瞬間移動し、両手を思いっ切り握り込み、それをアリス=ロンドの背中へと叩きつける。またしもてアリス=ロンドは草地の上で這いつくばることになる。

 サフィロ=ラプソティは何も無い空中を蹴飛ばし、さらに上空へと移動する。草地に転がるアリス=ロンドにドロップキックをかまそうとしたが、反撃を予想し、距離を開けて、黒い球体を放つ方を選択したのである。両腕を引き絞り、前へと突き出す所作を繰り返し、両手の先から直径30センチュミャートルの黒い球体を次々とアリス=ロンドに向かって放ち続ける。

 アリス=ロンドは草地の上で身体を半回転させて、仰向け状態となり、左手に光のシールド、右手に長さⅠミャートルほどの金筒を構える。そして右手の金筒の先から一条の光線ビームを連射し、サフィロ=ラプソティが放ってくる黒い球体を次々と撃ち砕く。サフィロ=ラプソティは的を絞らせないためにもアリス=ロンドを直接穿つための黒い球体だけでなく、彼女を中心として、直径2ミャートルの地点にも黒い球体を放ってみせる。

 アリス=ロンドから見れば、放射状に黒い球体を放たれているように見えたために、サフィロ=ラプソティがベル=ラプソティも同時に狙っているように感じられ、自分の意識を逸らすために放たれる黒い球体をも金筒から放つ光線ビームで撃ち砕かなければならなくなる。

 アリス=ロンドの射撃は正確無比であり、ベル=ラプソティ自身が被害を受けることは一切なかった。しかし、アリス=ロンドが自分に当たる黒い球体を撃ち抜かなかったおかげでもある。アリス=ロンドが護る優先対象はベル=ラプソティだからだ。ベル=ラプソティへの被害はゼロ。それ以外は最大限であることは変わりないために、アリス=ロンドの身を護るのは左手に持っている光のシールドのみであった。

 アリス=ロンドの迎撃行動のパターンに気づいたサフィロ=ラプソティは、黒い球体を放つパターンを変えていた。ベル=ラプソティに向かっていくのを4割、アリス=ロンドの周囲に向かっていくのを6割とした。そして、その効果は如実に出ており、サフィロ=ラプソティは思わず顔がほころんでしまう。

 サフィロ=ラプソティは娘であるベル=ラプソティが馬鹿だと思わざるをえなかった。それど同時にアリス=ロンドも愚かだと思ってしまう。戦いにおいて、被害をゼロに抑えるなどありえないからだ。互いの身を食い破りながら、最後に立っていた者が勝者となる。そして、最大火力を持つ者が矛となり、その他は盾として犠牲にならなければならない。矛役がどれほどに活躍できるかが戦いにおける基本も基本なのである。

 しかし、その矛役であるアリス=ロンドが盾も同時にこなそうとしている。これほど愚かな行為はなかなかに無い。相手が明らかに格下相手なら、それも可能であるが、基本、誰が盾役で、誰が矛役なのかを明確にしておいたほうが戦いを有利に運びやすくなる。その基本も基本と思われる行為を否定している存在がアリス=ロンドであった。

 そして、その愚かな行動をとり続けるアリス=ロンドに対して、一切、手加減をしようとはサフィロ=ラプソティ側には無かった。一方的となった戦いの中、サフィロ=ラプソティは黒い球体に込められている呪力ちからを高めていき、アリス=ロンドへのダメージを増やしていく。

(存外、楽な相手だ。この状態を続けているだけで、こちらの勝ちは確定したものだからなっ)

 サフィロ=ラプソティは自然と口から笑みがこぼれてしまう。戦い初めは自分の思い描く通りの戦いへと運ぶことは出来なかったが、アリス=ロンドの行動パターンを知れば知るほど、それを逆手に取ることが出来るようになり、サフィロ=ラプソティは一方的にアリス=ロンドを攻撃できるようになった。あとは猟犬が獲物を囲むように追い詰めるだけである。

 サフィロ=ラプソティは数分間ほど両手から交互に黒い球体を出した後、トドメとばかりに今までの5倍以上ある大きさの黒い球体を創り出す。もちろん、それはアリス=ロンドに向かってではなく、ベル=ラプソティに向かってであった。

 サフィロ=ラプソティは勝ったと思った。右手で生み出した直径2ミャートルある黒い球体がベル=ラプソティに向かって飛んでいくところをアリス=ロンドがその身を盾にしようとしている。後は左手に溜め込んでいる呪力ちからを1本の光線ビームとして撃ち出し、黒い球体ごと、アリス=ロンドの身を貫いてしまえば良いだけであった。

 聖母であるベル=ラプソティも殺すことが出来る、まさに一石二鳥と言って良いシチュエーションであった。

「それを待っていましたのですゥ。勝ちを確信した時ほど、油断が出来てしまうのはニンゲン、天使、そして悪魔も変わりありませんのですゥ!」

 サフィロ=ラプソティはいきなり背中側から間延びした口調の声が聞こえたことで、驚いてしまう。急いで身体を半回転させて、自分の後ろに居る人物を見ることになる。そこには天界の騎乗獣であるケルビムとそのの背中に乗っている胸にスイカをふたつ実らせている女性であった。サフィロ=ラプソティはアリス=ロンドとベル=ラプソティに集中していたために、この人物のことがすっかり頭から抜け落ちていた。

「カナリア=ソナタっっっ! 貴様の存在を忘れていたのが私の敗因かっ!」

 サフィロ=ラプソティは苦虫を100匹ほど噛み潰したかのような表情へとなっていた。左手で生み出した黒い球体はどんどんベル=ラプソティに向かって飛んで行っているが、それを撃ち抜くための右手の呪力ちからは、今、自分の背中側にいつの間にか回ってきていたカナリア=ソナタの方に向けざるをえなくなてしまっている。

 カナリア=ソナタは銀色のカバーが施された聖書バイブルを手の上で開いていた。そのページに書き示されていた魔法陣が浮き上がり、カナリア=ソナタとコッシロー=ネヅの前面へと展開する。

 サフィロ=ラプソティはその魔法陣ごと、右手に宿る呪力ちからで撃ち抜こうとしたが、そうするまえにカナリア=ソナタが展開した魔法陣から神気を纏う光が溢れ出す。光のシャワーがサフィロ=ラプソティに降り注がれることになり、サフィロ=ラプソティは黒い眼に紅い線を縦横無尽に走らせることになる。さらにはウガァァァッッッ! という獣のような吼え声をあげつつ、空中から草地の上へとまっすぐに堕ちていく……。
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