蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

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第7章:淫蕩の王

第3話:役割

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 アリス=ロンドは急に自分へのしかかってくる体重と呪力ちからが増したことを身体全体で感じ取ることになる。左手で長さ3ミャートルある光刃の背を抑えつつ、アスモウデスの踏みつけ攻撃を防いではいるが、それだけで身体中から軋む音が鳴り響いている。単純な呪力ちから神力ちからの勝負で、アリス=ロンドは押されっぱなしになっている状況を嫌うが、そうだからといって、この状況を無理に覆そうとはしなかった。

 何故、アリス=ロンドがアスモウデスに踏み潰されれそうになっているのを『是』として捉えているのか? その答えは明白である。自分が今、下手に動くことで、アスモウデスが自由に飛び跳ねるようになってしまうことのほうが悪手であると考えたからだ。こうして、アリス=ロンド自身がアスモウデスの右足に囚われている状況のほうが、ベル=ラプソティの生存率が高まるのである。

 アリス=ロンドの至上命題は『ベル=ラプソティを護る』ことである。他者の命と同様、自分の命もひよこの羽根よりも軽いのだ、アリス=ロンドにとっては。身体中の骨と肉を軋ませながら、アリス=ロンドはさらにベル=ラプソティの生存率が高くなる方策を考え続ける。

「わかりまシタ。ボクはアスモウデスの注意を最大限に受けながら、アスモウデスを痛めつければ良いのデス」

 アリス=ロンドはひとつの答えを導き出すと共に行動に移る。身体を段々と沈めて行き、それと同時に身体に神力ちからを蓄えていく。膝が折れ曲がれば曲がるほど、アリス=ロンドの体内に蓄えられた神力ちからは凝縮されていき、それを裂帛の呼吸と共に吐き出す。

 アスモウデスはグラリと右足を中心として、身体が浮き上がり、左足一本で自分の体重を支える形となる。ウヌゥ? と疑いの眼を右足の下へと向けると、すでにそこには片羽の天使は居なかった。どこに行ったのだと訝しながら、足元を注視していると、左の膝裏辺りに衝撃を受けることになるアスモウデスであった。

 右足が浮き上がり、左足を無理やりカクッと曲げられたために、背中から崩れ落ちてしまうアスモウデスである。小癪な……と思ったアスモウデスは腰の裏側から足を追加で2本生み出し、無理やりにバランスを取り戻す。これでアスモウデスは腹にあるドラゴンの顔を含めて4つ。足は4本となり、どこにも死角などない形態へと移り変わる。

そのような変態を見せたアスモウデスは、自分をこけさせた片翼の天使を探すべく、3つある頭部を動かし、かの者の行方を追う。

「見つけたぞ。未だに地上を這いまわる虫のようにちょこまかと動いていたかっ!」

 アスモウデスはまたしても右の前足を振り上げ、片羽の天使を踏みつぶそうとする。ドスンッ! というとんでもない重い音が周囲に響き渡ると同時に、片翼の天使は背中を踏んづけられる恰好となる。

「あの馬鹿ッ! 何をふざけてるの!? 今のを躱すのは余裕も余裕でしょうがっ!」

 アリス=ロンドが無様に踏んづけられるのを見て、憤慨したのはベル=ラプソティであった。まるでカエルのようにグェッ! とアリス=ロンドは口から漏らしているが、誰がどう見ても、わざとにしか思えない。そして、何度も右の前足で踏まれているというのに、そこから脱しようともしないのだ。

 ベル=ラプソティはわざわざ自分から窮地に陥ったアリス=ロンドを救うため、穂先が大剣クレイモアほどの大きさがある光槍をアスモウデスの頭部のひとつに向かってぶん投げる。アスモウデスの雄羊顔はニタリと笑い、投げつけられた光槍を右手に持つ黒い槍で弾き飛ばしてしまう。

 ベル=ラプソティは心底厄介だと思わざるをえない。アリス=ロンドがアスモウデスの注意を引くためにわざとあの位置に居ることはなんとなく察してはいる。しかし、こちらとしても、その場から動けなくなってしまっているアスモウデスに痛打を浴びせられるほどの攻撃力を有していないのだ。明らかに役割が逆なのだ。ベル=ラプソティが相手を引き付けている間にアリス=ロンドが所有する異常なる火力でアスモウデスに攻撃せねばならないはずだというのに、アリス=ロンドはあの位置をどうしても維持したがっている。

 ベル=ラプソティはクッ! と唸りつつ、大剣クレイモアほどの大きさのある穂先を持つ光槍を手にして、アスモウデスに迫撃戦を挑む。光槍を上から下へと叩くように振ると、アスモウデスは右手に持つ黒い槍でなんなく振り払ってしまう。ベル=ラプソティは体勢を流されながらも、右足に力を込めて、今度は斜め下から斜め上へと光槍をかち上げる。

 その攻撃を黒い槍を横薙ぎするこで捌いたアスモウデスは、一旦、右腕を引き絞り、通常のニンゲンの眼では追いきれぬ速さで三段突きを繰り出すことになる。ベル=ラプソティはその魔速の三段突きを光槍の穂先で受け止めるが、衝撃までは受け止めきれず、ベル=ラプソティは宙へと放り投げられることになる。

 そんな無防備を晒したベル=ラプソティに向かって、アスモウデスはトドメとなる一撃を放とうとはしなかった。ベル=ラプソティは舐められたものねっ! と思いながら、戦乙女ヴァルキリー装束のブーツで何もない宙を蹴り飛ばし、光槍の柄をしっかりと握りしめて、アスモウデスに真横から突っ込んでいくことになる。

「ふむ……。今のは出来損ないを救うための一撃か」

 アスモウデスは右の前足の太ももを貫かれぬようにと、その右の前足を大きく上へと持ち上げたのだが、ベル=ラプソティが当たらぬことを承知でそのまま真っ直ぐに突っ込んできて、さらには片羽の天使を左腕で抱え込む。そうした後、ベル=ラプソティが草地の地面を蹴り飛ばし、片羽の天使と共に、その場から脱するのであった。

「あんたは、もうちょっと連携ってものを学びなさいよっ。こっちがやりづらくてしょうがないでしょっ!」

「おかしいのデス。ボクがあの位置を陣取ることで、ベル様とコッシローさんが戦いやすくなっていたはずデス」

 ベル=ラプソティは背中の2枚羽を羽ばたかせながら、宙に飛んでいく最中にアリス=ロンドを叱り飛ばすことになるのだが、馬の耳に念仏とはまさに今のアリス=ロンドにぴったり合う。アリス=ロンドにはまったく意味が通じていなかったのである。ベル=ラプソティは自分の父親を言い様に操っていたアスモウデスに対する怒りよりも、自分の言わんとしていることをまったく理解しようともしないアリス=ロンドの方がよっぽど腹立たしく思ってしまう。

「良い? アリスが攻撃に回りなさい。わたくしとコッシローで、奴の注目を引くから。そして、奴が隙を見せたら、アリスが痛打を浴びせるのっ。良いわね!?」

「それはダメです。取り下げてください。ベル様やコッシローさんでは囮にもなりまセン」

 アリス=ロンドのこの一言にビキッ! とコメカミに青筋が2本浮き出てしまうベル=ラプソティであった……。
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