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第4章:イソロク王

第2話:採用面接

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 大魔導士:クロウリー=ムーンライトは応接室で、とある小太りの青年とやりとりをしていた。小太りの青年は大変おどおどとしており、とても20歳をこえているとは思えない落ち着きのなさだった。そいつは消え入りそうな声で、ある質問をしてくる。クロウリーのコメカミにビキビキッ! と2本の青筋が浮かぶことになる。

「そういうことでしたら、娼館にいけば良いと思いますよ? 何故にうちでそんなことが出来ると思っていたのですか?」

「しょ、小生。お恥ずかしいことに20をこえて未だに童貞で候! しかしながら、プロ相手よりも素人相手に筆下ろししたいので候! 濡れ濡れの痴女ビショビショ・エーリカなら、優しく相手をしてくれると聞いたので候!」

「お帰りください。ええっ。先生が禁術の類で貴方の魂をこの世から完全に消し去る前にっ! うずくっ! 先生の右眼がっっっ!」

 クロウリーは右手で右眼を隠しながら、魔力を身体から溢れ出させる。小太りの青年は椅子から跳ね上がり、荷物を急いで手に取り、応接室から転がるように退出していく。クロウリーは小太りの青年が去って行った後、身体から思いっ切り力を抜き、背もたれ付きの椅子にずり落ちてしまうかのように体勢を崩すのであった。

「1日2~3人は今のようなモテ期が一度も到来したことがなさそうな童貞野郎が訪問してきますね……。ここを風俗斡旋所とでも思っているのでしょうか?」

「チュッチュッチュ。軍隊は【殺す・殺される・殺すまで待とうホトトギス】のまさに3ケーなんでッチュウけど、その辺をごまかしたような誘い文句を使っているせいもあるでッチュウね、これは」

「まあ、普通はその辺りをごまかさないと、募兵に乗っかってくるバカは早々にいませんからね。でも、だからと言って、童貞を卒業する前に人生そのものを卒業する危険性のほうを考慮しないんでしょうか?」

「死ぬまで童貞か、童貞を卒業できれば死んでも良いと考えるかでッチュウね。しっかし、童貞どもを抜いたとしても、隊長格の才能を有している応募者は現れないでッチュウねぇ……」

 兵に関して言えば、今のような脱童貞を目指している勘違い野郎を採用しても良い場合がある。しかしだ。稼いだ軍功に対して与えられた恩賞で、娼館に行き、そこで筆下ろししてもらえば良いだろう? で納得する者ならば、まだマシだ。先ほどのようにエーリカやセツラで筆下ろししてもらいたいで候ッ! と力強く主張してくる大馬鹿者たちは、こちらから願い下げだ。

「ちょっと面白いことを考えついたのでッチュウ。いっそ、馬鹿どもには、拳王が筆下ろしすれば良いのでッチュウ」

「ぶふっ! おちんこさんが根本から引っこ抜かれてしまいますよ? 脱童貞どころか脱おちんこさんになりますね。オカマ兵団の出来上がりですよ」

「それはそれでダメでッチュウね。なかなかに難しいでッチュウ。さて、与太話は置いておいて、次に移るでッチュウ」

 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの噂や応募に乗って、1日に少なくとも10人程度がこの屋敷に訪問してきていた。仕事にあぶれて、兵士になるしかない者が6割、脱童貞を目指している将来性魔法使いが3割、残り1割は戦国乱世で自分がどれほど戦えるのか? と腕試しをしてみたいと豪語する者たちである。

 ここでひとつ問題がある。応募者の6割を占める仕事にあぶれた連中。こいつらはこいつらで、脱童貞派よりも圧倒的に厄介であった。

「うーーーん。兵隊の経験が無い貴方をいきなり隊長格に据えろと言うのですか……」

「これでも町工場では監督役をやっていたのです。兄王と弟王の争いが激しくなり、景気が悪化したことで、その町工場が潰れてしまいましたが。でも、監督役の経験を活かせると思うんですよね!?」

「まあ、悪くないと言えば悪くないですが。いったん保留にさせてもらえませんか? 前線でいきなり隊長役を任せるのは絶対に無理なので」

「こ、困ります! すぐにでも採用してもらわなければ、うちの女房に家から追い出されてしまいます! ただでさえ、娘たちからは汚物を見るような目で見られているというのにっっっ!」

 次に応接室に現れたのは、町工場で監督役をやっていたという40代半ばに差し掛かろうとしているシルバー世代のおっさんであった。彼の娘たちは16歳くらいにまで育っており、そこからさらに進学しようか、それとも就労しようか迷っている段階だという。そんな折に父親が職を失ってしまったのだ。母親としては今すぐにでも、次の職を探してこいと旦那を怒鳴りつけている状態である。

(経歴を聞く限り、輜重しちょう隊に配属するのも良いと思うんですが、如何せん、これで独身なら即採用コースです。でも、この方はそれで納得するとも思えませんし。中途採用は中途採用で難しいですね)

 結局のところ、一旦保留ということで、40代半ばのおっさんにはお帰りになってもらう。しかしながら、後日、彼がもう一度、この屋敷に戻ってくることは無かった……。それはさておき、次の応募者を応接室に招き入れるクロウリーである。

濡れ濡れの痴女ビショビショ・エーリカの噂を……」

「回れ右でお帰りください」

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 今日は特にこの手の目指せ脱童貞の馬鹿者が多いと思ってしまうクロウリーである。募集のうたい文句にしっかり注文をつけるべきだろうかと考えるクロウリーである。だが、ダイヤの原石を手に入れる行為はこういった無駄を散々に積み重ねる他無い。血濡れの女王ブラッディ・エーリカは今の段階ではほぼほぼ無名に近しいのだ。だからこそ、急がば回れを徹底しなければならない。

 本日、最後の訪問者が応接室へ入ってくる。その者はまさに木っ端役人という風貌であった。またどこぞで職を失くしたゆえに、ここに行きついた者かと思ってしまうクロウリーであった。だが、コッシロー=ネヅが姿を隠している状態で、クロウリーの右耳の耳たぶをクイクイッと引っ張った。

 これはサインであった。応募者の面接をおこなっているのはクロウリーだけではない。コッシローはコッシローで鑑定眼を使い、応募者たちを品定めしていたのである。

「お恥ずかしい話なのですが、自分は本の虫でして……。そんな強く意見するつもりは無かったのですが、とある一件で上司から疎まれてしまい、職を失くしてしまったのです」

「それは興味深いですね。いったい、何をやらかしたのですか?」

「は、はい。帳簿に書かれている数字がどう考えてもおかしいと感じ、自分で算盤そろばんを弾いてみたのです。どうにも胡散臭い金の流れを感じ、それを上司に報告しただけなのです。それなのに、それ以降、自分は窓際の蔵整理役に追いやられ、さらには職場でありもしない自分の黒い噂を流されて……」

「それはそれはご愁傷様です。貴方は黒い金の流れを感じ取り、さらには上司にそれを報告したという清廉潔白な人物なのですね……。よろしい。採用ですっ! ようこそ、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団へっ!!」
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