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第5章:ホバート王国統一戦

第4話:オシノビ城・攻略戦

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「エーリカのためならえんやこーらえんやこーらでござる!」

「エーリカが突出しすぎているっ! 皆、遅れずについてこい!」

 血濡れの女王ブラッディ・エーリカの双璧と後に呼ばれる予定であるブルース=イーリン、アベルカーナ=モッチンはそれぞれに兵100を率いて、エーリカの両翼を駆け抜ける。鋒矢ほうしの陣に似た形で血濡れの女王ブラッディ・エーリカの400が眼の前で驚きの表情を隠せぬままに動揺しまくっている3千の兵を蹴散らしていく。

 ブルースは馬上で斧槍ハルバードを突いて回してさらに突きまくる。そのすぐ側でケージ=マグナが徒歩でありながらも柄全体が真っ赤に染まっている長大な槍をぶんぶんと振り回す。ケージが振るう槍の穂先が敵兵の血で赤く染まり、ケージの槍は『皆朱槍』とも呼べる様相に変わっていく。

 一方、アベルは乗っている馬自体を敵兵にぶつけ、ぶっ飛ばされ宙に浮かぶ敵兵を十字槍の柄部分で地面へと叩き落とす。それでもなお起き上がろうとする敵兵に対して、大槌をその後頭部にぶち込むのがミンミン=ダベサであった。

「おいら、エーリカに近づく不貞なやからを全部ぶっ飛ばすんだべさ!」

 ミンミンはのっしのっしと巨体を揺らし、騎乗しているアベルの後を追う。アベルの周りを敵兵が囲み、馬上から引きずり落とそうとする。だが、徒歩の者たちがアベルに付き纏う敵兵に対して、一斉に槍の穂先を敵兵に向けたまま突進していく。

「た、助かったぞ!」

「おいらたちがアベルを補佐するから、アベルは後ろを振り向かずに前へ前へと突き進むんだべさ!」

 アベルはミンミンたちにコクリと頷くと、馬の腹を右足で蹴飛ばし、再び前進するように促す。アベルの意志を受け取った馬はヒヒーン! とけたたましい雄叫びをあげ、決してご主人様を落とされぬようにしながらも暴れ馬と化す。

 軍師:クロウリーは二頭の馬に引かせている戦車の上から左翼の様子を見る。アベル率いる左翼が本隊から若干、遅れ気味になっている。しかしながら、息を吹き返したかのように勢いを増したことで、ホッと安堵の息を漏らす。

 奇襲は速度が命だ。いくら横腹をつかれた3千と言えども、たった400で突き崩すには数が足りない。足りない兵を補うのが速度なのだ。軍師:クロウリーは戦場全体を俯瞰するように眺めていた。目を細め、額にある第三の眼サード・アイと呼ばれる呪物に意識を集中する。第三の眼サード・アイからは血濡れの女王ブラッディ・エーリカに所属する兵たちの情報が随時入ってくる。

「ロビン=ウィル。前方右斜め45度の方向へ3矢放ってください」

「あ、ああ。当てずっぽうで良かったんですよね?」

 クロウリーが乗る戦車に同乗している人物が2人いた。そのうちのひとりが辺境の村:オダーニで1番の弓使いと呼ばれているロビン=ウィルであった。クロウリーは右斜め前方へ右手に持つ芭蕉扇を向ける。それを合図にロビンは言われたように3矢放ってみせる。この3矢による結果を見る前に、クロウリーはもう一人の同乗者に巫女の聖力ちからを使うようにと指示を出す。

「平和の使者よっ! エーリカたちの援護をお願いしますわっ!」

 セツラ=キュウジョウは祈りを込めるポーズを取り、ここら一帯に住まう野鳥と心を通じさせる。戦火に怯え、草地に隠れていた野鳥たちは一斉に飛び立つ。その羽音の量はすさまじく、敵兵3千を激しく動揺させた。戸惑う敵兵を踏みつぶすが如くに血濡れの女王ブラッディ・エーリカは前進を続けたのである。

 ついにオシノビ城から支城へと救援にやってきていた兵3千は混乱の境地に陥る。我先とばかりに手に持つ武器を放り投げ、蜘蛛の子を散らすが如くにその場から霧散し始めた。眼の前の敵兵が散り散りに逃げ出すのを見て、それに呼応するかのように本隊1500を率いるゴンドール将軍が皆に鬨の声をあげよと命ずる。ゴンドール将軍に付き従う1500はワーワー! と喉が張り避けんばかりに勝利を喜ぶ雄叫びをあげる。

 だが、そんな本隊1500が驚く事態が起きる。ここで一旦、足を止めるのかと思いきや、400しかいない血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団が散り散りに逃げる敵兵を完全に無視して、オシノビ城の城門へと突っ込んいったのだ。

 戸惑うゴンドール将軍であったが、一羽の伝書鳩クル・ポッポーがゴンドール将軍の左肩に止まったのである。ゴンドール将軍は伝書鳩クル・ポッポーの左足に括りつけてある小さな手紙を読み、ゴクリッ! と強く喉奥に唾を押下する。

「名無しのクロウリー殿はどこまでこのいくさの推移を予想していたのでごわす!? ええい、迷っている暇などないぞ! エーリカ殿を死なせるわけにはいかぬでごわす!!」

 オシノビ城を護る北島軍は戦々恐々せんせんきょうきょうとなっていた。オシノビ城を護る兵士の9割近くを支城援護のために出してしまった。その3千が蹴散らされたことで、城門を開けて、その3千を城内に迎えいれようと一時は考えた。だが、城門を開けようにも、まっすぐオシノビ城へと突っ込んでくる400の軍団がいた。城門を開ければ、この400の軍団が城内に突入してくることはバカでもわかることだ。

 オシノビ城に残された300の兵は城門を固く閉じ、籠城の構えを取った。さしもの血濡れの女王ブラッディ・エーリカは城門前で停止する他無かった。しかし、ただ止まったわけではない。血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団に所属する兵士全員がオシノビ城を前にして、手に持つ武器を散々に天へと向かって何度も突き立てる。

 オシノビ城を護る兵士たちはウグググと苦しそうなうめき声をあげる。陽が傾き、その陽の底部が地平線の向こう側にくっつこうとしていた。もう1時間余り粘りきれば、いくら勢いがすごい敵兵たちと言えども、一旦、休戦せねばならなくなる。それほどまでに夜は暗すぎる。真っ暗闇の中で強行的な攻城に移れるわけがない。

 しかし、もしかするとそんな真っ暗闇の状態でも、敵が攻城をするのではないか? という危惧がオシノビ城を護る兵士たちの心によぎる。400の先鋒隊のすぐ後ろには1500ほどの兵士が後詰めに入ってしまった。

「ぐぬぅぅぅ……。タモン王から預かったこのオシノビ城。易々と敵に明け渡したくないっ。だが……! もう、ここまでなのか!?」

 オシノビ城を護るは将の補佐のさらに補佐クラス、100人隊長のビーダ=グレイマンであった。彼の上役たちは支城を囲う1500をすぐさま蹴散らしてくると告げて、兵300をビーダに預けて、城外へと飛び出していった。ビーダも1時間もしないうちに上役たちが帰ってくると思い込んでいた。

 しかし、上役どころか、城外へと飛び出していった兵士は1兵たりともオシノビ城へと戻ってくることは出来なかった。ビーダはただただ呻き声をあげるしか無かったのである。詰みの状態に入ったオシノビ城において、さらなる悲しみに暮れた声があがることになる。
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