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第5章:ホバート王国統一戦

第6話:勲功第1位

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(ゴンドール将軍が何を考えているのか、今の時点でははっきりとはわからぬが、私にきっちり恩を売っておきたいというところなのだろう。あとはイザーク将軍への口添えと、とある場面で売った恩を返してくれといったところかな?)

 色々と考えるところはあるが、せっかく握った主導権をこちらに譲ってくれると言ってくれているのだ。それを跳ねのける気が現時点では起きなかったファルス将軍であった。ファルス将軍は承知したとゴンドール将軍に言う。

「オシノビ城に残された敵兵に関しては煮るなり焼くなり、ゴンドール将軍の好きにしたら良い。だが、それによって起きる面倒事はゴンドール将軍の責任ぞ」

「それはわかっているでごわす。では、おいどんたちはオシノビ城を支えるための他の支城へと向かうでごわす。本城が落ちた今、そちらも投降するはずでごわすから、可憐な少女2人でそこの兵士たちを慰めてくるでごわす」

「違う意味での慰めにならぬようになっ! エーリカ殿。助かったぞ。仲間同士で斬り合いに発展しなくて本当に良かったと思う」

 ファルス将軍は騎乗したまま、エーリカと巫女に頭を下げる。その後、後ろを振り向き、自分が率いてきた5千の兵に、この地でのいくさは終わったので、オシノビ城に入り、今日はゆっくりと休めと命じるのであった。事情を察したファルス将軍の旗下にある5千の兵はようやく勝鬨かちどきをあげることになる。

 上の方でいざこざがあったようだが、このオシノビ城に到達するまで、いくつかの砦を落としに落としてきたのだ。そして、ご褒美とばかりに休息を与えられた兵士たちが喜ばないわけがない。勝鬨かちどきをあげる兵士たちに向かって、ニッコリと微笑むファルス将軍であった。

 ファルス将軍率いる5千の兵はオシノビ城の周囲に野営地を構築する。対して、ゴンドール将軍旗下の3千の兵はオシノビ城の支城のひとつの周囲に野営地を築く。そして、3日も経たずにゴンドール将軍の軍団はオシノビ城周辺から完全に姿を消すのであった。

「あのまま行かせて良かったのでしょうか?」

 ファルス将軍の補佐のひとりが、ファルス将軍にそう質問する。ファルス将軍はこの地から去っていくゴンドール将軍の軍団を目を細めながら見送っていた。

「ん~~~、まあ、気にする必要はあるまい。ゴンドール将軍は身の程をわきまえている男だ。それよりも1か月も予定が前倒しになってしまったのだ。そちらに関して、どうするかを本部にいるイザーク将軍と相談せねばなるまい」

 南島部の総指揮官であるイザーク=デンタール将軍の計算では、ファルス将軍が出立してから要害の地であるオシノビ城を落とすまでには、遅くとも1か月少々かかると思っていた。しかし、実際にはファルス将軍が本部である鉱山都市:コウブから出立した日から数えて1週間余りでオシノビ城が陥落してしまうことになる。

 嬉しい誤算ではあるが、本部ではかなりのんびりとした雰囲気が漂っており、それを一気に引き締めなければならない事態になる。そもそもとして、半年から1年という余裕をもった期間で、北島軍の全てを南東部から追い出すつもりであったのだ、イザーク将軍を始め、ほとんどの将軍は。

 その計画を根本から見直さなければならない事態に陥った。それほどまでにオシノビ城は簡単に落ちないと南島軍、並びに北島軍もそう思っていた。衝撃度合いから言わせてもらえば、北島軍のほうがよっぽど慌てることになる。南島部をさらに侵略するための拠点のひとつであったオシノビ城が南島軍の反攻を受けてから1週間で落ちたのだ。

 両軍ともにあわただしく軍議が連日のようにおこなわれていた。その間を縫うように血濡れの女王ブラッディ・エーリカを旗下に置くゴンドール将軍の快進撃が続くことになる。

 ゴンドール将軍は遊撃部隊である。オシノビ城を落とした後、そこにいた北島軍の敗残兵をまとめると、なんと驚くことにその敗残兵を自分の旗下に置いたのだ。いくら兄王と弟王が骨肉の争いをしていたと言っても、元々、北島部と南東部はふたつ合わせてホバート王国なのである。

 本当はどちらの兵も互いを傷つけあいたくなかったのだ。その心理を上手くついたのがゴンドール将軍である。他の将軍から言わせれば、ゴンドール将軍の取っている施策は愚策も良いところであった。いたずらに敵兵を吸収しても、統率など取れるわけがないと思い込んでいた。

 その思い込みこそ、罠そのものである。ゴンドール将軍が率いていた3千の兵はそもそもとして、寄せ集めなのだ。寄せ集め同士というのは意外と意気投合しやすいのだ。その他の将軍が思うこととは逆に結束力が高くなってしまう。

 もちろん、ゴンドール将軍が全て狙って、これをやったわけではない。ゴンドール将軍の本質それ自体が弱者の味方であり、それは口先だけではなかったのだ。その身から溢れ出ている雰囲気に癒される敵側の敗残兵だったのだ。他の生まれながらにして将軍職に就けると考えていた才気溢れる者たちとは根本的に違っていたのである。

「勉強になるわ。ゴンドール将軍はあたしが目指す国主の在り方に似ている気がする」

「良い所に気づきましたね。ただ、ゴンドール将軍は優しすぎます。そこが彼の長所であり、欠点でもあります。でも、このホバート王国内限定で起きている大戦おおいくさにおいて、ゴンドール将軍は何ら間違っていません」

 オシノビ城を落としてから、さらに10日余りで小砦を8つ落としたところで、ゴンドール将軍は一時の休息を旗下の兵たちに与えるのであった。ゴンドール将軍が本部から出立してから、15日前後と言ったところである。小砦を8つ。城を1つ。現段階で南島軍の勲功第1位は間違いなくゴンドール将軍であった。

 そんなゴンドール将軍の快進撃を止めるべく、今、休息をとっている小砦からちょうど東にあるギユウ城に北島軍は兵をかき集めて、守備に当たらせていた。ここを抜けられれば、北島軍が南島部侵攻の最大拠点にしているヤングパインの港町までのルートがこじ開けられてしまうことになる。

 ヤングパインの港町は今からさかのぼること180年ほど前に『ホバート王国の憂国の志士』と呼ばれた24士がその当時の将たちを口説き落とし、ホバート王国に対して一斉蜂起した。200年前からテクロ大陸本土は戦国時代に突入した。だが、ホバート王国はテクロ大陸本土から海を渡らなければならない島国である。

 それゆえに、ホバート王国はテクロ大陸本土からの救援要請をことごとく無視した。そんなことをすれば、テクロ大陸本土がどこかの勢力に統一された時に、まっさきに制裁を加えられるのはホバート王国であることは間違いなかった。それゆえに積極的にテクロ大陸本土で起きている戦火に飛び込むべしと唱えた24士が居たのだ、その当時。

 その憂国の志士が起こした戦乱は1年ほどで鎮火する。だが、当時のホバート王国は苦々しい気持ちから、この街の名前をヤングパインと改名したのである。そんな歴史を持つヤングパインの港町を今まさに占拠しているのが北島軍であることは皮肉もいいところである。
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