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第13章:ロリョウの町・攻防戦

第4話:コッサンのデート相手

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「いや、そりゃ逆だろ。コッサンがセツラに釣り合うかどうかって言わないと。セツラは節目の20歳を来年には迎える。それに合わせて、とんでもなくキレイになったんだ。コッサンの方から土下座して、セツラにデートしてくださいとお願いするべきだろ」

 エーリカとクロウリーは出来るなら、作戦室から逃げてしまいたくなった。セツラがタケルに特別な想いを持っているのは、いわば血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団員たちの共通認識でもあった。だが、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団員たちが知らなかったことは、タケルのセツラに対する感情であった。

 誰しもがほっとけば、自然とくっつく間柄だろうとタカを括っていたのだ。実際のところは。だが、周りの思惑とは裏腹に、まったくもって2人の仲は進展することは無かった。タイミングの問題もあったのだろう、そこについては。だとしても、皆は根本的な勘違いをしていた。それはエーリカもクロウリーですらもだ。

 隠形術で気配を消していたコッシローは後に、この事件のことを『タケルの天然タラシ事件 第3弾』と名付けた。タケルの監視役をしているコッシローがおこなったナンバリングは間違っていないとコッシローは力強く主張したのである。

 それはさておき、エーリカとクロウリーの顔は青ざめる一方、にこやかなセツラの表情とは裏腹に彼女のコメカミにはどんどん青筋が増えていった。それにも関わらず、タケルはコッサンにセツラの良いところを主張しまくるのであった。

(タケルお兄ちゃんはきっと、今頃、俺ってすごく良いことしてんだなって思ってるんだろうなぁ……)

(誰かそろそろ本当にタケル殿を止めてくれませんかね。先生はタケル殿のために火中の栗を拾いにいきたくはありません……)

 エーリカとクロウリーはそれぞれで思うことはあるが、決して、自分たちから巻き込まれには行こうとしなかった。セツラはついに堪忍袋の緒が切れたのか、タケルを肩でドンッ! と押しやり、さらにはコッサンにこう告げる。

「コッサン様が良ければ、わたくしはコッサン様とデートいたしますわ。それこそ、うんと楽しみましょう!」

「あ、ああ……。女心がわからないと自負している自分でもなんとなく察したが、セツラ殿がそれで良ければ、皆がうらやむほどにデートを楽しみたいと思う。それで嫉妬してくれる相手なら、万々歳だ……。多分」

「おお? ふたりとも乗り気かっ! よかったよかった。んじゃ、俺はコッサンがセツラにデートを申し込んだって、言いふらして回ってくるとしましょうかね。こういうのは周りも囃し立ててこそと思うんだよなっ!」

 タケルはそう言って、呑気なことに意気揚々と作戦室の外へと歩いていく。セツラは未だにニコニコ笑顔でコメカミに青筋を立てている。この空気をどうにかしてから、外に行けよとエーリカとクロウリーはそう思うのであった。

「うっぅん! そういうことだから、コッサンはコッサンで頑張ってちょうだい」

「う、うむ……。タケル殿はああだが、自分もまんざら悪い気はしていない。セツラ殿。デートのプランはこちらで考えておくゆえ、その時は身共に集中してほしいですぞ」

「まんざら? わたくしとデートするのはうきうき気分でないですの??」

 コッサンは言葉を間違えてしまったと思った。これだから、自分は女性にモテないんだと思ってしまう。いくらあてがわれた相手と言えども、ちゃんと喜びの表情を嘘でも顔に浮かべないといけないはずなのにだ。コッサンは気持ちを改めるためにも、一度、パンパンと強く両手で自分の頬を叩く。

「セツラ殿とデート出来るのは大変に光栄です。身共はセツラ殿のために、エーリカ様から与えられた任務をエーリカ様が期待する以上の働きで、成果を叩きだしてきます。それこそ、セツラ殿がコッサンで良かったと思えるくらいにです」

「それでこそ、わたくしをデートに誘った相手ですわ。わたくしも楽しみにしてますわ。では、この辺でお暇させていただきます」

 セツラはコッサンに礼儀正しくお辞儀をした後、作戦室を後にする。コッサンはこれで良かったのか? という顔つきになっていた。クロウリーはヤレヤレ……といった表情で息を吐く。

「いっそ、コッサンがセツラ殿を本気でデートで口説き落としてください。コッサンが悪いわけではありません。セツラ殿もいい歳なんです。どっかのあほんだらに付き合って、婚期を逃すほうがよっぽど、セツラ殿のためにはなりませんので」

「うむ。クロウリー様がそうおっしゃってくれるなら、身共はセツラ様を本気で嫁にもらうつもりでデートに望ませてもらおう。だが、その前に、エーリカ様の身共への評価を爆上げさせる作業が待っていますがな?」

 コッサンはそう言うと、期待しておいてくだされと言って、作戦室を後にする。エーリカはようやく強張った身体から力を抜くことが出来るようになる。

「ほんとあの朴念仁は……。自分から告白する気が無いセツラお姉ちゃんもお姉ちゃんよ……。クロウリーの言うように、セツラお姉ちゃんが嫁ぎ遅れになりかねないわ。いい加減、白黒はっきりさせようかしら」

「まあまあ。エーリカ殿が出張れば、こじれた糸をさらにこんがらせることになりかねません。コッサンのお手並み拝見といたしましょう」

「それもそうね。結局、男女の関係は本人たちが解決するしか無いって言うし。周りがどうとかで決めることじゃないわ。クロウリー、あたし、ちょっと気疲れしたから、涼しいとこで休んでくるね」

「はい、いってらっしゃいませ。こちらで次の作業の準備に取り掛かっておきます」

 クロウリーがそう返事をすると、エーリカは疲れをみせる足取りで作戦室の外へと出ていく。エーリカはとりあえず冷たい水で喉を潤そうと思った。キョロキョロと辺りを見回し、軒下にある水瓶みずがめの近くへと移動する。

 柄杓ひしゃく水瓶みずがめから水をすくい取り、それを口に当てて、ごくごくと飲み干す。エーリカはふぅ……と疲れた気を肺から吐き出す。そして、もう1杯とばかりに柄杓ひしゃくで水をすくい取る。

「これはこれは。エーリカ様ではないですか。タケル殿の話では、セツラ様を甥のコッサンの嫁としてといただけるというありがたい話を聞いております」

「ああ……。カキンの耳にも入ったのね。裏の事情は疲れている今のあたしには聞かないでほしい。これ以上、その話に関わったら、あたしはあたしでいくさが起きる前にダウンしちゃいそうだから」

「ほうほう。裏の事情ですか。エーリカ様たちは青春を謳歌されているようで、何よりです。青春とは青い春と書きます。そして、青いがゆえに青臭い策謀をめぐらせるものですからな。私もあの頃に戻りたい気分になってしまいますぞ」

「カキンの場合、真っ黒そうな春だけどね。噂で聞いているわよ。コッサンのことを甥とは言っているけど、コッサンはあなたの実子だという噂をね」
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