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第14章:南ケイ州vsアデレート王家

第1話:意見の衝突

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――竜皇バハムート3世歴462年 7月15日――

 この日は朝から血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団が詰めている砦内は慌ただしい動きを見せていた。作戦室には何度もエーリカとクロウリーの指示を仰ぐために幹部たちが出入りする。その作戦室でエーリカは怒号を飛ばしまくる。

「何度も言わせないで! 南ケイ州からの流民を保護するのは血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団だけの問題じゃない! アデレート王家とっても絶対に必要な措置よ!」

「しかしだ! あいつらは敵国のニンゲンぞ! 何故にアデレート王家が保護せねばならぬのだっ!」

 エーリカと激しく舌戦をおこなっていたのは、アデレート王家から派遣されていたシュウキン将軍であった。彼は自分の補佐2人を連れて、作戦室でエーリカとクロウリーに真正面から異を唱え続けた。作戦室はまさに一触即発の雰囲気となっていた。

「アベル、ブルース! こんな頭の固い男のことなんて無視して、砦から出立する準備を整えてちょうだい! シュウザン将軍は2万の敵軍にびびっているってのも触れ回るのを忘れないようにね!」

「貴様っ! われを愚弄するつもりかっ! ケンキ殿と共に計8千の兵を連れてきてやったきたというのにっ!」

「連れてきた兵をちゃんと活用しなさいよって、あたしは言ってるだけよっ! アデレート王家とホバート王国の兵数合わせて、1万2千なのよっ! 2万相手で負けるとは到底思えないわっ!」

「論をすり替えるでないっ! そもそも、我らは南ケイ州との決戦のために、ここまで兵を進めてきたのだっ! 流民の保護のためにやってきたわけではないっ!!」

 エーリカとシュウザン将軍の言い争いは平行線をたどることになる。彼らの横ではクロウリーがエーリカのための指示を血濡れの女王ブラッディ・エーリカの幹部たちに出していく。幹部たちはエーリカとシュウザン将軍のやり取りを横目で見ながらも、クロウリーがニコニコとした笑顔であったために、特に止めるようなことはせずに、出された指示をこなしていく。

「じゃあ、こうしましょう! 流民の面倒は血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団がするわっ! アデレート王家に頼ることは一切しないっ!」

「ふざけるなっ! どこで流民共を養うつもりだっ! 貴様に与えらえている土地は、とてもではないが、6千人もの流民を抱えられる広さは持っていないぞ! アデレート王家と戦うつもりかっ!」

「うるさいわねっ! そんなの後で考えるわっ!」

 エーリカとシュウザン将軍は鼻息を荒くし、お互いの額と額がぶつかる距離にまで接近していた。そろそろ頃合いだと見たクロウリーは、クロウリーに相談したいことがあると作戦室にやってきたタケルに右手で指示を出す。タケルは俺の役目なの? という顔つきになっている。クロウリーは追い打ちをかけるようにタケルにニコニコとした笑顔を送る。

「まあまあ落ち着けって。エーリカ。それ以上、顔をくっつけると、ファーストキスをシュウザン将軍に奪われるぞ?」

「っっっ!?」

 エーリカはタケルの一言で、シュウザン将軍との物理的距離が近すぎることを知る。エーリカはまるで危険を察知した猫のように後ろへと飛び去る。シュウザン将軍はこんなじゃじゃ馬とキスして何が楽しいのだという顔つきになる。

 シュウザン将軍は自分の身体を抑えつけていた補佐に離れるようにと指示を出す。補佐たちが自分から物理的距離を開けた後、シュウザン将軍は襟を正す。

「みっともないところをお見せした。こちらの意見も聞けと言っただけだ」

「ああ、わかってるさ。シュウザン将軍も寝耳に水だったもんな。でも、お互いに頭から否定してたんじゃ、落としどころなんて見つかりようが無い。エーリカもエーリカだ。何もシュウザン将軍は南ケイ州と戦いたくないなんて言ってないだろ?」

「そ、それはそうだけど……。あたしは南ケイ州の投降兵2千を吸収した以上、彼らの家族は絶対に救わなきゃって……」

 エーリカの声は尻すぼみになっていく。タケルお兄ちゃんは自分の意見に全乗っかりしてくれる存在なはずなのに、今はそのエーリカの説教をおこなっている。エーリカはアヒルのくちばしのように唇を尖らせていく。そんなエーリカに対して、タケルはよしよしと優しくエーリカの頭を撫でるのであった。

「シュウザン将軍。俺の妹が癇癪を起こして済まねえ。そこは俺が謝罪する。でも、癇癪を起したことは謝っても、エーリカが為そうとしていることについては、俺は一切、謝るつもりはない」

「タケルお兄ちゃん……」

 エーリカはポロっと涙がこぼれそうになってしまう。エーリカはこぼれそうになった涙を右手の指で抑えるのであった。シュウザン将軍は泣きそうになってしまったエーリカを前にして、ボリボリと右手で頭を掻くことになる。

「これだから、女相手に争うのは嫌なのだ」

「俺の妹は可愛いだろ? この気の強いところがクセになっちまう。んで、本当は泣き虫なんだよ。このギャップがたまらねえ」

「ククク……。おぬしは宮中での噂通りに面白い男だな。エーリカ殿、先ほどは失礼した」

 シュウザン将軍が頭を下げたことで、エーリカはウェ?? と変な声を出しつつ、戸惑うことになる。エーリカは視線を頭を下げるシュウザン将軍からタケルお兄ちゃんに移す。タケルはエーリカにウインクをしてみせる。エーリカは少し考えたのち、エーリカも謝罪するのであった。

「シュウザン将軍。あたしからも謝罪させてもらいます。アデレート王家に何の断りも無く、流民を受け入れる決定をしてしまって」

「いや。人道から言えば、エーリカ殿のやっていることは正しい。エーリカ殿はアデレート王家のためだけでなく、アデレート王国全体として考えてくれているのだと、少し考えればわかることであった」

「シュウザン将軍、それでは!?」

 エーリカの顔はパッと明るくなっていた。その様は夏の向日葵のような明るさであった。シュウザン将軍は、これはとんでもないカウンターを喰らったものだと思ってしまう。確かにこのギャップがたまらないと言っていたタケルという男の台詞は正しいと証明されることになる。

「納得できない兵が多いだろうが、それはこちらでなんとかしておこう。エーリカ殿。共にアデレート王国のために尽力してほしい」

「こちらこそ、お願いします!」

 エーリカはシュウザン将軍から差し出された右手を両手で包み込む。シュウザン将軍はエーリカの両手に左手を外から添える。エーリカは心底ほっとした表情になっていた。シュウザン将軍はエーリカに自分の愛娘を重ねることになる。

「エーリカ殿は『おっさん転がし』という異名を持っていることをすっかり忘れておったわ」

「そこを失念してるようじゃ、シュウザン将軍はまだまだってところだなっ。エーリカは可愛いおっさんほど、こき使う性分だからな? シュウザン将軍は覚悟しておいたほうがいいぜ?」
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