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第15章:転落

第3話:4人の偉大なる魔法使い

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 剣王:シノジ=ザッシュを呪い殺さんとするレベルの眼力でクロウリー=ムーンライトは睨みつける。シノジはフンッと鼻息を鳴らし、この娘を預かっておけと、ブンエン将軍にエーリカを放り投げる。ブンエン将軍がエーリカをお姫様抱っこした瞬間であった。剣王様に向けられていたはずの眼力が自分に一点集中した。ブンエン将軍は心臓を鷲掴みされる恐怖を感じた。抱えていたはずのエーリカの体重を感じられないほどの圧迫感に襲われる。

「相手を間違えているぞ。用があるのは我輩であろうっ!」

「ぶはっ、ぶはぁっ!!」

 ブンエン将軍とクロウリーの間にシノジが割って入る。それにより、ブンエン将軍は呼吸を再び行えるようになる。ブンエン将軍はエーリカを抱え直し、一歩、また一歩とクロウリーから物理的距離を開けていく。シノジはそんな状態になっている自分の配下に視線を送ることも出来なかった。

 それもそうだろう。ブンエン将軍レベルでも指一本動かせないどころか、呼吸も止められてしまうほどの圧を、眼の前の優男が身体全体から発していた。ブンエン将軍の間に割って入ったはいいが、自分が今、手ぶらであることこにおおいに後悔の念を抱いてしまうことになる。

 シノジは全身から熱すぎる汗がダラダラと流れ落ちる。全身がくまなく汗でべたべたになる。しかしながら、シノジは両手を握りしめ、こぶしを作り、さらにはファイティングポーズを取る。そんなシノジに対して、無礼者とでも言いたげな圧を発するクロウリーであった。

「ふんっ。いつもは冷静なくせに、女のことになると熱くなる。大昔から今になっても、そこは変わっていないようで、逆に安心したのじゃ」

「大賢者様。何故、我輩の前に立つ?」

 次にクロウリーの前に立ちはだかったのは、4人の偉大なる魔法使いのひとりである大賢者:ヨーコ=タマモであった。ヨーコが間に割って入ったことで、シノジはクロウリーからの圧を受けることは無くなった。しかしながら、邪魔をするなとばかりにシノジはヨーコの前へと回り込もうとする。

 そんなシノジを左手に持つ芭蕉扇で止めてしまうヨーコであった。シノジはそれでも、ヨーコに食い下がろうとした。だが、ヨーコは身体を少しだけ捻り、シノジの顔を下から覗き込む。シノジの心臓はドックン! と激しく鼓動を打つ。シノジはたまらず、その場から一歩、下がってしまう。

「2歩下がらなかったのは褒めてやろう。それでこそ、わらわが見込んだ剣王ぞ。しかしだ。偉大なる魔法使い相手に臆することに関して、何ら恥じることはないぞえ」

「臆するだと!? 剣王である我輩がお前たちにびびっているとでも言いたいのか!?」

 剣王は怒号を放つ。だが、ヨーコはコロコロと可愛らしく喉を鳴らす。まるで、我が子が親に宥められたことで、気恥ずかしさを覚え、さらには反発してるのかえ? とでも言いたげな表情となっていた。シノジはまるで心の奥底を見透かされているような気分になってしまう。

「安心せよ。わらわを母親のように思っておくがよい。わらわが可愛いシノジをイジメる悪い大魔導士をこらしめてやろうぞ」

 大賢者:ヨーコ=タマモは赤子を宥めるように優しい口調で、自分の後ろに居るシノジに語りかける。シノジはそう優しく言われれば、言われるほど、憤慨しそうになる。しかし、ヨーコは大地母神のような慈愛を持ってして、シノジの鬼迫を丸ごと受けきってしまう。シノジはグッ! と唸った後、配下に床机しょうぎを用意せよと命じる。

 どっしりと腰を据えて、大賢者と大魔導士の戦いを見届けてやると態度で示してみせた。ヨーコは拗ねているシノジに視線を送ると、またしてもコロコロと可愛らしく喉を鳴らすのであった。

「さて、待たせたのぅ。頭を冷やす分も含めて時間はたっぷり与えてやったのじゃ。わらわとやり合う準備は整ったはずじゃな?」

「おかげさまで、禁忌を犯さなかったことは感謝します。でも、あなたが相手であれば、先生は何の規則にも縛られませんけど?」

「それはわらわにも言えたことじゃ。さて、久方ぶりに喧嘩と相成ろうぞ。わらわとおぬしの関係上、そう表現するのが正しかろう?」

「喧嘩するほど仲が良いと言いたいんでしょうけど、先生はとっくの昔に、あなたに振られたはずですが?」

「おや? そうであったか? わらわの記憶では、ふがいない貴様がわらわの愛に耐えきれなくなって、夜逃げしたとばかり思うておったわ」

 ヨーコは自信たっぷりに上から目線でそう言ってみせる。彼女が胸を張れば張るほど、彼女の暴力的なおっぱいが目について、目障りこの上なかった。あの暴力的なおっぱいを鷲掴みにして、もみくちゃにしてやろうかとさえ思ってしまう。

「ほぅ? 挟んでほしいのかえ? しょうがないにゃぁ?」

「いい加減にしてくださいっ! 詠唱コード入力:紅焔!! 先生の身体を護りなさい!!」

 ヨーコの挑発に耐えきれなくなったクロウリーは詠唱をおこなう。身体の奥底から溢れる魔力を詠唱を通して、物質へと変換する。クロウリーの身体に纏わりついた魔力は焔で出来た鎧に変わる。対して、ヨーコは怪しげな笑みをその顔に浮かべ、ぷっくりした艶めかしい唇を動かす。ヨーコもまた、身体の奥底から溢れ出す魔力を詠唱を通して、物質へと変換したのであった。

 クロウリーは焔の鎧を纏い、焔の剣を両手で持っていた。ヨーコはそれに反発するかのように冷気が花咲く美しいドレスを身に纏い、さらには氷の円月輪を両手に一個づつ持っていた。

 先に動いたのはヨーコであった。右手に持つ円月輪を下手したてにクロウリーに向かって投げ飛ばす。円月輪は高速に回転しながら、地面に氷の針山を創り出す。その円月輪が突然、アッパーカットのようにクロウリーの顎先に向かって、かち上げをおこなう。

 クロウリーは下から上へといきなり軌跡を変えた円月輪を焔の剣の腹で受ける。しかしながら、氷と冷気をまき散らす円月輪は勢いを止めず、クロウリーの身体を宙へと吹き飛ばす。クロウリーは空中で体勢を整えつつ、焔の剣を横薙ぎに払う。

 すると、焔の剣から竜の焼き付く息吹ドラゴニック・ファイアブレスが吐き出されるこになる。紅き竜レッド・ドラゴンの紅焔がヨーコを燃え尽きさせようとした。だが、ヨーコは左手に持つ円月輪を回し、迫りくる紅焔をそれを持ってして防ぎ切ってしまう。

 とんでもない高熱を持つ焔と魂まで凍り付きそうな冷気がぶつかり合うことで、空気が一気に膨張する。それは爆発音だけでなく、とんでもなく厚みを持つ風を産み出すことになった。クロウリーとヨーコの戦いの趨勢を見守っていた者たちは、彼らが生み出した暴風により、吹き飛ばされそうになってしまう。

「こりゃ、とんでもないなぁ。あ~~~。身体がうずくんだわぃ……。うちがクロウリー様と闘いたいんじゃぁぁぁ」

「やめとけい。一瞬で骨まで溶かされて、灰にされるわ! しっかし、ここまでニンゲンと偉大なる魔法使いたちとの力に差があるとはおもなんだわ。あたしゃ如きが武人と名乗るのが恥ずかしくなってしまうんじゃ」
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