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第19章:譲れない明日
第6話:投げ込まれた餌
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――竜皇バハムート3世歴462年 9月27日――
この日は朝からエーリカたちが入植し、築いた村では怒声にも似た激情がそこら中から沸き上がっていた。エーリカたち8000人が住まうこの村の北西側Ⅰキュロミャートル先に西ケアンズ軍3千が姿を現したからだ。血濡れの女王の団員たちは農具を改良した槍を持ち、さらには急ごしらえで作成した出来がいまいちの弓を持つ。
そんな武器がまだマシだと思えるほどに、防具の方はとてもでは無いがまともなものなど、何一つない。村人の服の心臓を含む急所部分に木の板を縫いこんだだけである。そして、額にはこれまた木の板を仕込んだ額当てだ。
エーリカたちが住まう村がこういう状態であるにも関わらず、そこの内情をしっかりと調べるためにも派遣された西ケアンズの使者は血濡れの女王の幹部たちが揃う作戦本部の中へと通される。
「よくもまあ、今から槍の穂先を互いの身に突き刺す直前だというのに、貴女は使者の役目を担おうとしたわね。あたしは貴女に危害を加えるつもりは無いけど、無事にこの村から五体満足で外に出れる保証は出来ないわよ?」
怒りの焔で身体の血液を沸騰させつつある血濡れの女王の幹部たちであった。しかしながら、それをそのまま使者の女性にぶつけるわけにはいかない。あちらが女性を使者に立てたのは、是が非でも、エーリカたちを悪者に仕立て上げたかったからだ。
西ケアンズからの最後通牒を突きつけてきた使者の名はミサ=キックス。彼女はエーリカたちに聞かれもしていないのに、自分の境遇をべらべらと喋りだす。自分は西ケアンズの1将軍である。ダンテ=ガーライ王に忠義を尽くし、ここ10年来、彼と西ケアンズのために働いてきた誇りがあると。
しかしながら、政敵であるムドー=ムドウとパッツン=シャブリルに敗れ、自分はあなたたちに辱められるためにやってきたと言ってのける。
「自分で宣告しておきながら、ヒトの道理から外れていると唾棄してしまうほどの最後通牒! エーリカ殿! あなたならどう返事をするか!?」
ミサ=キックス将軍がエーリカたちに突きつけてきた要求とは、6日前にやってきた使者が言ってきた内容をさらに酷くしたものであった。そこまでして、エーリカたちを激怒させたいのかと思うと、エーリカたちは逆に冷静になってしまうほどであった。
西ケアンズが要求してきたことのまず1つ目は、即刻、武装を解除し、固く閉じている門を開けというものであった。これだけでも十分、抵抗しなければならない要求であった。しかしながら、2つ目はもっとおぞましい要求であった。この土地で育てた作物、この土地の所有権。この土地に住まう者たち全員の生殺与奪の権利をこちらによこせと言ってきたのだ。
財産、土地の没収だけでもふざけすぎた要求であった。さらにそこから100歩も踏み込んで、エーリカたちの住まう村民全員の命をよこせと言ってきたのだ。奴隷市場で買った奴隷相手にでも、こんな要求などしない。
西ケアンズはエーリカたちを自分たちと同じニンゲンとは認めていないという宣言なのだ、これは。自分たちが持つ権利の全てをこちらに差し出し、ニンゲン以下の扱いを受け入れろと言ってきた。こんな完全無条件降伏を受け入れるバカが居るなら、逆にお目にかかってみたいレベルである。
当然、エーリカたちはふざけ過ぎている西ケアンズの要求など、一切、受け入れることは出来なかった。さらには、ここまでふざけ過ぎた宣告をかましたミサ=キックス将軍を村民全員で陵辱することも許されてしまうような気がする。
西ケアンズはエーリカたちの村でミサ=キックス将軍をどうしても辱めてほしい。あちらの思惑に血濡れの女王の幹部たちは絶対に乗るわけにはいかなった。エーリカたちはミサ=キックス将軍を保護する立場を取らざるをえなくなる。
「なかなかに外道な策を仕込んでくれるッチュウ。火に油を注ぐ行為をいともたやすく行ってくれたもんでッチュウ。おい、エーリカ、わかっているでッチュウよね?」
「うん。村人たちが猛り狂ってるのがここに居ても伝わってくるわ。あたし、皆の前で演説してくる」
「頼んだのでッチュウ。おい、ブルース、アベル。エーリカちゃんなら、何とか村人たちの怒りを敵さんにぶつけてくれるはずでッチュウけど、お前たちはエーリカちゃんの双璧として、エーリカちゃんを護るのでッチュウ」
「わかったのでござる。万が一と言うこともあるからな。もしものことが起きたら、拙者たちがエーリカの盾になるのでござる」
「うむ。エーリカばかりに責任を負わせぬぞ。石を投げられるなら、エーリカの代わりに、その石をぶつけられようぞっ!」
エーリカはブルースとアベルにこくりと頷く。その後、エーリカたちは西ケアンズの使者と彼女の身辺警護を担当している兵士10人を連れて、作戦本部から外に出る。すでに作戦本部の周りには足の踏み場も無いほどに、村人たちが集まっていた。村人たちはエーリカの号令を待ちわびていた。エーリカの後ろに続く西ケアンズの使者と兵士10人をこちらに渡せと言わんばかりの表情になっていた。
8千人近くの怒りが自分の身に突き刺さることで、使者を務めていたミサ=キックスは恐怖で心が染まる。この村の住人全てに陵辱される覚悟を持って、ここにやってきたはずだ。しかしながら、いざ、それが為されるかもしれない直前にまでやってきて、今更ながらに住人たちの怒りの熱量に恐怖心とだけでは言い表すことが出来ないほどの何かを感じ取る。
ミサ=キックス将軍は膝がガクガク震え、唇が一瞬で紫になる。とんでもない頭痛と眩暈、さらには吐き気が彼女の身体を襲う。そんな状態に陥ったミサ=キックス将軍の盾になったのが、この村の代表者であるエーリカ=スミスであった。エーリカは作戦本部の周りに集まった村人たちの前に進み出る。
エーリカが前に進むと、進めた歩数分だけ、村人たちは後ずさりする。しかしながら、グッと身体に力を入れ、エーリカの圧に屈しないようにしたのだ。そんな勇ましすぎる村人たちに対して、エーリカは毅然とした態度のまま、身に着けていた防具だけではなく、ブラやショーツまでも脱ぎ捨て、自分の生まれた姿を村人たちに見せつける。
「あたしたちの敵は西ケアンズからの使者じゃないっ! 真に憎むべき敵は西ケアンズを治めるダンテ=ガーライ! あの男はあたしたちの尊厳を踏みにじった! そして、あたしたちを蛮族に仕立て上げるために、ミサ=キックス様を贄にしたっ!」
裸体のエーリカの演説を聞いた村人たちはお互いの顔を見て、ひそひそとした声を出す。しかしながら、戸惑う村人たちに構わず、エーリカは村人たちを割って、前に進み、さらに声を張り上げる。
「絶対に間違えないでっ! あたしたちの敵はあたしたちをニンゲンと認めないと言いのけたダンテ=ガーライよっ! それでもミサ=キックス将軍をレイプしたいのなら、あたしをレイプしなさいっ!」
この日は朝からエーリカたちが入植し、築いた村では怒声にも似た激情がそこら中から沸き上がっていた。エーリカたち8000人が住まうこの村の北西側Ⅰキュロミャートル先に西ケアンズ軍3千が姿を現したからだ。血濡れの女王の団員たちは農具を改良した槍を持ち、さらには急ごしらえで作成した出来がいまいちの弓を持つ。
そんな武器がまだマシだと思えるほどに、防具の方はとてもでは無いがまともなものなど、何一つない。村人の服の心臓を含む急所部分に木の板を縫いこんだだけである。そして、額にはこれまた木の板を仕込んだ額当てだ。
エーリカたちが住まう村がこういう状態であるにも関わらず、そこの内情をしっかりと調べるためにも派遣された西ケアンズの使者は血濡れの女王の幹部たちが揃う作戦本部の中へと通される。
「よくもまあ、今から槍の穂先を互いの身に突き刺す直前だというのに、貴女は使者の役目を担おうとしたわね。あたしは貴女に危害を加えるつもりは無いけど、無事にこの村から五体満足で外に出れる保証は出来ないわよ?」
怒りの焔で身体の血液を沸騰させつつある血濡れの女王の幹部たちであった。しかしながら、それをそのまま使者の女性にぶつけるわけにはいかない。あちらが女性を使者に立てたのは、是が非でも、エーリカたちを悪者に仕立て上げたかったからだ。
西ケアンズからの最後通牒を突きつけてきた使者の名はミサ=キックス。彼女はエーリカたちに聞かれもしていないのに、自分の境遇をべらべらと喋りだす。自分は西ケアンズの1将軍である。ダンテ=ガーライ王に忠義を尽くし、ここ10年来、彼と西ケアンズのために働いてきた誇りがあると。
しかしながら、政敵であるムドー=ムドウとパッツン=シャブリルに敗れ、自分はあなたたちに辱められるためにやってきたと言ってのける。
「自分で宣告しておきながら、ヒトの道理から外れていると唾棄してしまうほどの最後通牒! エーリカ殿! あなたならどう返事をするか!?」
ミサ=キックス将軍がエーリカたちに突きつけてきた要求とは、6日前にやってきた使者が言ってきた内容をさらに酷くしたものであった。そこまでして、エーリカたちを激怒させたいのかと思うと、エーリカたちは逆に冷静になってしまうほどであった。
西ケアンズが要求してきたことのまず1つ目は、即刻、武装を解除し、固く閉じている門を開けというものであった。これだけでも十分、抵抗しなければならない要求であった。しかしながら、2つ目はもっとおぞましい要求であった。この土地で育てた作物、この土地の所有権。この土地に住まう者たち全員の生殺与奪の権利をこちらによこせと言ってきたのだ。
財産、土地の没収だけでもふざけすぎた要求であった。さらにそこから100歩も踏み込んで、エーリカたちの住まう村民全員の命をよこせと言ってきたのだ。奴隷市場で買った奴隷相手にでも、こんな要求などしない。
西ケアンズはエーリカたちを自分たちと同じニンゲンとは認めていないという宣言なのだ、これは。自分たちが持つ権利の全てをこちらに差し出し、ニンゲン以下の扱いを受け入れろと言ってきた。こんな完全無条件降伏を受け入れるバカが居るなら、逆にお目にかかってみたいレベルである。
当然、エーリカたちはふざけ過ぎている西ケアンズの要求など、一切、受け入れることは出来なかった。さらには、ここまでふざけ過ぎた宣告をかましたミサ=キックス将軍を村民全員で陵辱することも許されてしまうような気がする。
西ケアンズはエーリカたちの村でミサ=キックス将軍をどうしても辱めてほしい。あちらの思惑に血濡れの女王の幹部たちは絶対に乗るわけにはいかなった。エーリカたちはミサ=キックス将軍を保護する立場を取らざるをえなくなる。
「なかなかに外道な策を仕込んでくれるッチュウ。火に油を注ぐ行為をいともたやすく行ってくれたもんでッチュウ。おい、エーリカ、わかっているでッチュウよね?」
「うん。村人たちが猛り狂ってるのがここに居ても伝わってくるわ。あたし、皆の前で演説してくる」
「頼んだのでッチュウ。おい、ブルース、アベル。エーリカちゃんなら、何とか村人たちの怒りを敵さんにぶつけてくれるはずでッチュウけど、お前たちはエーリカちゃんの双璧として、エーリカちゃんを護るのでッチュウ」
「わかったのでござる。万が一と言うこともあるからな。もしものことが起きたら、拙者たちがエーリカの盾になるのでござる」
「うむ。エーリカばかりに責任を負わせぬぞ。石を投げられるなら、エーリカの代わりに、その石をぶつけられようぞっ!」
エーリカはブルースとアベルにこくりと頷く。その後、エーリカたちは西ケアンズの使者と彼女の身辺警護を担当している兵士10人を連れて、作戦本部から外に出る。すでに作戦本部の周りには足の踏み場も無いほどに、村人たちが集まっていた。村人たちはエーリカの号令を待ちわびていた。エーリカの後ろに続く西ケアンズの使者と兵士10人をこちらに渡せと言わんばかりの表情になっていた。
8千人近くの怒りが自分の身に突き刺さることで、使者を務めていたミサ=キックスは恐怖で心が染まる。この村の住人全てに陵辱される覚悟を持って、ここにやってきたはずだ。しかしながら、いざ、それが為されるかもしれない直前にまでやってきて、今更ながらに住人たちの怒りの熱量に恐怖心とだけでは言い表すことが出来ないほどの何かを感じ取る。
ミサ=キックス将軍は膝がガクガク震え、唇が一瞬で紫になる。とんでもない頭痛と眩暈、さらには吐き気が彼女の身体を襲う。そんな状態に陥ったミサ=キックス将軍の盾になったのが、この村の代表者であるエーリカ=スミスであった。エーリカは作戦本部の周りに集まった村人たちの前に進み出る。
エーリカが前に進むと、進めた歩数分だけ、村人たちは後ずさりする。しかしながら、グッと身体に力を入れ、エーリカの圧に屈しないようにしたのだ。そんな勇ましすぎる村人たちに対して、エーリカは毅然とした態度のまま、身に着けていた防具だけではなく、ブラやショーツまでも脱ぎ捨て、自分の生まれた姿を村人たちに見せつける。
「あたしたちの敵は西ケアンズからの使者じゃないっ! 真に憎むべき敵は西ケアンズを治めるダンテ=ガーライ! あの男はあたしたちの尊厳を踏みにじった! そして、あたしたちを蛮族に仕立て上げるために、ミサ=キックス様を贄にしたっ!」
裸体のエーリカの演説を聞いた村人たちはお互いの顔を見て、ひそひそとした声を出す。しかしながら、戸惑う村人たちに構わず、エーリカは村人たちを割って、前に進み、さらに声を張り上げる。
「絶対に間違えないでっ! あたしたちの敵はあたしたちをニンゲンと認めないと言いのけたダンテ=ガーライよっ! それでもミサ=キックス将軍をレイプしたいのなら、あたしをレイプしなさいっ!」
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