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第2章:始祖神の使い

第5話:呆れ

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「ああ、そうだ。負傷者は後詰の砦に運ぶ予定だから、最低限、食事場と寝泊まりする兵舎の復旧に努めてほしいんだわ。仮設で良いから、明日の昼までには兵100人が満足に休息が取れるようにしてほしいわけだ」

「ふむ……。ちょっと計算させてほしいのニャ。えっと……。ゼーガン砦で動けるのは現在、60~70名ほどニャ。キッシー砦とワーダン砦から逃げてきて、戦える兵士を換算すれば……」

 フラン=パーンが両手の人差し指を両こめかみにぐりぐりと当てながら、素早く頭の中でゼーガン砦内のどこをどうすれば良いのか、頭の中でまとめていく。

「あそこの区画は放棄するしか無いニャ。それと、無事な建築用の材木は足りていたかニャ?」

 フランがふぬぬ~と唸り声を上げ始める。さらにはこめかみに当てていた人差し指にさらに力が込められていくのであった。

「うぐぐ~~~、うにゃにゃ~~~。ふ~~~にゃあああ!! はあはあ……。わかったニャ。なんとかしてみせるニャ。文句を言ったところで、やらなきゃどうしようも無いニャ……」

 フランが、はあああと深いため息をついたあと、観念したような顔つきになる。少し肩を落としているのは気のせいなのであろうか? いや、これからの途方もない作業量に今から疲れた顔をしているのは誰の目から見ても明らかであった。

「お? やってくれるか? いやあ、ありがたいありがたい。人員が足りないのなら、言ってくれ。殿とのがその辺りの差配をしてくれるからさ?」

(えっ!? ちょっと、何をいきなりわたしに話を振っているのよ!?)

 蚊帳の外に置かれていたアキヅキ=シュレインは、いきなり人員手配の話を振られて、つい間抜けに金魚ゴールデン・フィッシュのように口をパクパクとさせてしまうのであった。

 その間抜け面を周囲に悟られる前に、シャクマがアキヅキの方に振り向き、グイっと身体ごと、アキヅキに急接近するのであった。そして、バンバンっと両手でアキヅキの両肩を叩き、お互いの鼻息が唇にあたるほどの近さにまで顔を接近させる。そして小声で囁くように

殿との、しっかりしろ。部下の前では毅然とした態度を取っとけ。俺がここまで皆の気分を盛り上げたのが台無しになる」

 シャクマがアキヅキの間抜け面を他の面々に見せないために、視線を遮るようにわざと彼女の顔に自分の顔を接近させたのであった。

(近い、近い、近い!?)

 だが、シャクマの囁き声はまるでアキヅキには聞こえていないのであった。それはそうだろう。異性相手が、こんなもう少しで互いの唇と唇が合わさるほどの近さに顔をもってこられたのは、アキヅキの今まで経験では、父親であるカゲツ=シュレインのみであった。

 いくら気にもしていないシャクマ相手でも、心臓はバクバクと音を立て、さらにはほっぺたにどんどんと熱が昇ってくるのは当然と言えば当然であったのだ。

 シャクマから見て、アキヅキの顔が先ほどよりも間抜け面に変わっていくのがわかるのであった。だが、シャクマはアキヅキの心情は汲めてなく、ああ、これはいきなりの大役を任せられて、頭に血が昇っちまったかと別の意味での勘違いをしてしまったのである。

 そして、シャクマが次に取った行動と言えば、さらにアキヅキの心臓をバックンバックンと破裂寸前にまで達する行為だったのだ。

 あろうことか、シャクマは自分の額をアキヅキの額にくっつけったのである。そして、ふむふむ、なるほどなるほどと、わざとらしく呟いたあと、皆の方に振り向き直し

殿とのはどうやら、大任を得たことにより、のぼせちまったようだわ。ちょっと、休憩を取ってもらおうか。フラン。さきほどの話だけど、とりあえずはニコラスに手伝ってもらってくれ」

「わかったニャ。ニコラスちゃん、頼んだニャ!」

「おう、わかったぜ。んじゃ、隊長。いや、司令官代理殿。アキヅキ隊はとりあえず隊長代理として、俺が預からせてもらうぜ?」

 アキヅキが顔を真っ赤にしながら、顔をぶんぶんと上下に振る。ニコラスから見ても、アキヅキ=シュレインがのぼせたことがわかるほどの顔色であったためにそれ以上は何も言わずに、フランと共に指令室から退出するのであった。

 皆がそれぞれの任務に当たることになり、指令室には、ある意味、のぼせてしまったアキヅキ=シュレインと頭をボリボリと掻くシャクマ=ノブモリの2名だけが取り残される形となるのであった。

殿との……。こんなことは言いたくないんだが、今以上に悲惨な状況に陥るんだ……。これくらいのことでのぼせてもらってちゃ困るんだよ……」

「ち、違うわよっ! のぼせてたんじゃなくて、あなたがいきなり顔を近づけてきたからドキドキしちゃっただけよ!!」

 シャクマが、あん? 何言ってんだこいつ……と言いかけたその次の瞬間であった。はっとした顔つきになり、矢継ぎ早にズケズケとアキヅキにとって矢が突き刺さるかのような痛い言葉を連発するのである。

「あ、ああ! そういうことかよ!! ってか、お前さん、男とはそんな経験が一切無かったのかよ!? 見た目20歳かそこらだろうが!?」

「うっ、うるさい! 悪かったわね! 今まで剣の道を究めることで精いっぱいだったのっ!!」

 アキヅキは涙目になりながら、さらには本当に顔から火が噴き出るかのように真っ赤に染め上げてシャクマに猛然と抗議をするのであった。抗議を受けた側のシャクマはあちゃあああとばかりに額に右手を当てて、部屋の天井に顔を向けるのであった。

「なるほどなあ……。俺もその辺りの事情がわからなかったから悪いとは思うけど、男慣れしていないとまでは思ってなかったわ……。以後、距離感については考えておくわ」

「もしかして、呆れた?」

 アキヅキが恐る恐るそう聞くのである。これには2つの意味があった。『司令官代理としては自分は成っていないのか? それで呆れたのか?』

 そして、『20歳にもなって、父親以外の男性とダンスすらもまともに踊ったこともない不慣れな自分に呆れたのか?』と。

「どっちでもねえよ。ただ不慣れなんだなと、そう思っただけだ」

 シャクマの返答に、アキヅキは何故かはわからないが心底からほっとしてしまうのであった。

「良かった……。呆れられちゃったのかとビクビクしちゃった」

「そんなに気にするな。なんなら俺相手に練習しておくか?」
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