拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第4章:リリー=フルール

第2話:戦士と夢

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 リリー=フルールは自分の父親に無理難題をふっかけられたロック=イートに気持ちだけでも詫びを入れようと思い、ここにやってきた。彼に憐憫の情を抱いていたのだが、ロック=イートの言いにそんな感情も吹き飛び、逆に怒りが湧いてきたのである。そして、きつめの口調で彼女はロック=イートを問い詰めることとなる。しかし、ロック=イートは真剣な表情で彼女を見つめる。そんな彼の表情にリリー=フルールの鼓動がドキンッ! と大きく跳ね上がる。

「俺には俺の夢がある。そして、他の戦士たちにもあるんだろう。戦士は誰しもが夢の追い人だと俺は思っている」

「夢? あなたたちは夢のために、自分の身が傷つくことも構わないって言いたいわけ?」

「そうだ。だからこそ、俺たちは『戦士』なんだ。夢を叶えるために戦う者。それが『戦士』だ」

 ロック=イートにそう言われ、納得のいかないリリー=フルールはアヒルのクチバシのように口を尖らせる。夢が何だというのだと言いたげな表情をありありとその顔に浮かべるリリー=フルールである。しかし、そんな彼女に対して、ロック=イートは彼女の金色に染まる頭を革製のグローブで包まれた右手でポンポンと軽く叩き

「俺の闘いを見ていてくれ。そして、俺が俺の夢を叶えていく姿をその眼に焼き付けてほしい。なんたって、俺は『世界最強の生物』になるのが夢だからなっ!」

「ばっかじゃないのっ! それって主アンゴルモア大王様を倒すって意味と同等よ!? あんた、そんなこと口走って良いって思っているの!?」

 リリー=フルールは頭に乗せられたロック=イートの右手を自分の右手で払いのけながら怒鳴りつけることとなる。そんな5~6歳の男児がたわごとでほざきそうなことを20歳を超えた眼の前の男が真面目でありながら、おどけた口調で言いのけることに心底、腹が立ってしょうがないのであった。そして、こんなところに来るんじゃなかったとばかりにドスンドスンと足音に怒りを乗せたまま、控室から退出してしまう。

「まったく……。リリー=フルール嬢に好かれたいのか嫌われたいのかわからない言動はやめておいたほうが良いですぜ?」

 セイ=レ・カンコーが呆れた表情でロック=イートにそう言うのであった。言われた側のロック=イートは俺が悪いのか? と言ってしまい、余計にセイ=レ・カンコーは呆れを強めてしまう。

(リリー=フルール嬢も浮かばれないっすね。多分、父親の件で謝罪にでもきたんでしょうが、大将がこんなんじゃ、話になりゃしませんからなあ……)

 セイ=レ・カンコーはミットをはめたままの右手で自分の後頭部をボリボリと掻く。ロック=イートが何故にここまで朴念仁なのかがさっぱりわからない。弱気になっている女性に対して、もう少し気の利いた台詞を吐いておけば、これからの屋敷での生活も少しは快適に暮らせるであろうことくらいわからないのかと言いたくなってしまう。しかし、ロック=イートがそんな器用なニンゲンでは無いことも、セイ=レ・カンコーは承知である。

 5年にも及ぶ監獄:東の果てイースト・エンドでの付き合いで、それはわかりきっている話なのだ。誰かと慣れあいの友好を結ぶ気など、この眼の前の男には全くないのだ。それよりも、自分の夢を叶えることこそが一番大事なのである。『夢追い人』とはまさにロック=イートのためにある言葉のようでもある。

 しかしながら、そんな彼だからこそ、セイ=レ・カンコーは彼に惹かれているのだ。タイガー・ホールが閉鎖になってしまったことは風の噂で聞き及んでいる。あるじであった拳聖:キョーコ=モトカードは未だ行方知らず。そして、その弟子たちは離散してしまった。そして、今、セイ=レ・カンコーがそのタイガー・ホール出身者であり、かつ、拳聖:キョーコ=モトカードの後継者として指名されたロック=イートそのものが、セイ=レ・カンコーにとってのタイガー・ホールそのものであった。さらには『世界最強の生物』という夢をもっているロック=イートだ。そんな彼に惹かれこそ、嫌う理由なぞ、セイ=レ・カンコーは持ち合わせていなかったのである。

「次の出場者であるロック=イート! 3分後には会場の支度が整うゆえに、扉の前で待機しておけっ!」

 貴族たちに仕える使用人が控室に現れて、怒声のような大声をあげる。ロック=イートは使用人に向かって右手をあげて、自分はここに居ると示す。そして、その後、1度、セイ=レ・カンコーの方に身体を向けて、深々と礼をする。その彼の仕草に思わず、セイ=レ・カンコーはウルッと涙が眼から零れ落ちそうになる。ここまでの道のりは長く険しいモノであった。いくら裏武闘会と言えども、ロック=イートの始めてのタイガー・ホール以外での闘いが始まる。デビュー戦としては血生臭すぎる場所であったが、それでもセイ=レ・カンコーにとって感慨深いものであった。

「行ってくるよ、セイさん。俺たちの過ごした時間が無駄じゃなかったことを証明してくる」

「『俺たち』じゃなくて、そこは『俺』でいいでしょうがっ!」

 セイ=レ・カンコーの溢れだしそうになって必死に止めていた涙は頬を伝い、零れだしてしまう。『俺たち』と言ってくれるロック=イートに感謝を言いたいのはセイ=レ・カンコーの方であった。セイ=レ・カンコーは左腕で涙を拭いながら、ミットがはまったままの右手でグイっとロック=イートの胸の中央辺りを押し出す。ロック=イートは何か変なことを言ったのだろうかと不可思議な顔をしつつ、彼に背中を向けて歩き出す。試合場へと続く通路をぬけて、木製の扉の前に立ち、眼を閉じながら、すぅ……、ふぅぅぅ……と深くて長い呼吸を繰り返す。

 ロック=イートはこの時、既に頭の中は非常にクリアになっていた。自分がコープ=フルールに利用されていること、そして理不尽な戦いに出されることなど、頭の中からどこかへ飛んでいってしまっている。相手が誰であろうと構わない。ただ、自分の眼の前に立つのであれば、それを打ち倒すまでだとだけ思うのであった。深い呼吸を繰り返すロック=イートの耳へ急に大きな歓声が飛び込んでくる。控室から出て、狭くて暗い通路を進み、その先にある木製の扉の前で立っていたのだが、その木製の扉が観音開きで開かれたために、会場に渦巻く音が一斉に彼の耳へと届くことになる。

「さあ、本日、一番の注目とされている闘いとなりますっ!! 青コーナーからは東の果てイースト・エンドの荒くれ者であるロック=イート選手。赤コーナーからは裏社会で血の雨を降らせる赤い三錬星レッド・アルケミィ。両者との戦いの始まりですっ!! 皆様、賭け金のご準備は出来ていますでしょうかっ!?」
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