拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第4章:リリー=フルール

第3話:3対7

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 開かれた木製の扉をくぐり、ロック=イートが会場入りを果たす。そこはまるで牢獄を思わせるような造りとなっており、相手か自分が倒されない限りは逃げる場所など無いと言っているように感じられた。裏武闘会の戦士たちが闘う場所は直径10メートルほどの円形の風呂桶のような構造となっており、壁として設置されている木の板は高さ5メートルほどとなっている。ジャンプして飛び越えようとすれば、ロック=イートであれば、あっさりと飛び越えれるほどのものではあるが、もちろんそんなことをすれば即失格となることは明白であった。

 しかしながら、ロック=イートはこの場から逃げ出そうなどとは考えていなかった。前方8メートルほど先にいる3人組の特徴を掴むべく、全神経を集中させていた。前方に居る3人組は革製の部分鎧を身に着けている。そして、右手には黒鉄クロガネ製の細長いクラブを装備していた。ロック=イートの右腕が金属製の義腕だということもあり、それが武器だと認定されたために、相手にも鈍器系の武器使用が認められた形となったのだ。

(武器としては射程リーチが短すぎるし、なんであんなものを相手は選んだんだ?)

 ロック=イートの疑問は至って自然であった。いくら自分の右腕が義腕だからといって、ロック=イートの射程リーチは素手とほとんど変わりない。ならば、それを圧倒するべく、長物を使えばいいはずだと、そう思ったのである。だが、その疑問もすぐに氷解することとなる。3人組の男たちはその細長いクラブをヒュンッと下の方向へと勢いよく振る。そうすることで、そのクラブの本来の形へと作り変えたのであった。それは街の警護のニンゲンが暴漢を制圧する用の伸縮自在棒であった。元は長さ20センチメートルの鉄の棒であったものが、今では4~5倍ほどの長さに生まれ変わっている。

 ロック=イートはなるほどと思わざるをえなかった。たしかにあの武器なら相手を殺傷せしめることは、やりすぎない限りは抑えられる。そして、クラブ系にしては素人でも扱いやすい重量であり、隠し武器としてフトコロに隠しておくにも便利な武器だ。ロック=イートはこの3人組はあの伸縮自在棒を普段でも使用しているんだろうと予測する。伸縮自在棒はクラブというよりは馬の尻を叩くための鞭のようにしならせて、相手を殴る類のものだ。あの3人組が企んでいるのは、試合開始と同時に3方向から自分を囲んで、手に持つ伸縮自在棒で滅多打ちにすることだろうと睨む。

「さあ、賭けも成立しましたので、いよいよ試合開始となりますっ! ロック=イートと赤い三錬星レッド・アルケミィのオッズレシオは3対7でございます! ややロック=イート選手が不利とみてのことでしょうが、結果は見てのお楽しみです!」

 試合管理人が朗らかな表情で、安全な場所から会場に集まる客たちに対して、そう発表する。こういったオッズレシオは下馬評でまずどれほどかが決まり、そして、賭け金が乗せられていくことで徐々に変動していく。最初は4対6であったが、赤い三錬星レッド・アルケミィが長さ1メートルほどに達する伸縮自在棒を持ち込んだことで、ロック=イートが不利とみこんだ観覧客たちが、赤い三錬星レッド・アルケミィに賭け金を積んだ結果と言えよう。

 ロック=イートはオッズレシオを試合管理人から聞かされて、まあ当然だよなと思うことにする。なんと言っても自分は無名であり、あちらは赤い三錬星レッド・アルケミィなんていう字名あざな持ちの3人組である。ロック=イートとしてはもう少し自分に期待を込めてもらっても良かったのに……とも思うが、それは試合の結果を見た観客が思い直せば良いだろうと少しばかり口の端を緩ませる。

(ふむ……。ロックくんは武装した3人が相手でもあまり動じていないみたいですね。賭け金をドブに投げ捨てることにはならなそうですが、はてさて、どうするつもりなのでしょうか?)

 こう思うのは彼の雇い主であるコープ=フルールであった。コープ=フルールはロック=イートのオッズレートが不利になるのは承知の上で、彼に賭け金を積んでいた。それもそうだろう。コープ=フルールが相手をしている貴族:ルイ=ブルゲが赤い三錬星レッド・アルケミィに賭けたのだ。そうなれば、少しでもこの場を盛り上げるために、こりゃ参りましたねえと額に手を当てて、天井を仰ぎつつも、ここは自分の従者を信じましょうと芝居がかった仕草と台詞でロック=イートに投げ銭をしたのである。コープ=フルールはそれだけではなく

「リリー。あなたもお小遣いを全部、ロックくんに賭けてくださいよ……。私と一緒に散財してください……」

「ほほっ! コープ殿、それはいくら自分の娘相手でも酷というものじゃないかね? リリーさん、こちらが用意した赤い三錬星レッド・アルケミィに賭けておきなさい。3対1で、さらに武器を持っている相手に1人で勝てるはずがない」

 ルイ=ブルゲ侯爵がドジョウのような髭を左手でいじりながら、上機嫌にそう言うのであった。確かにロック=イートが不利であることは格闘技に詳しくないリリー=フルールにもわかることである。だが、リリー=フルールには引っかかっていることがあった。先ほど、ロック=イートが語った彼の夢の話である。

 彼は5歳児が夢見ているようなことを平然とその口から出した。『世界最強の生物』。それはただの馬鹿としか言いようが無い言葉だ。しかし、もしかすると本気でそう思っているのではなかろうかという危惧にも似た感情を持ってしまったリリー=フルールである。そんな途方も無い夢を叶えようとしている男がいくら武器を手に持っている3人組相手だとしても、なんとかしてしまうのではないのだろうか? と思えて仕方のない彼女であった。

「わたくしはお父様をたまには信じてみます。お父様は商売人ゆえに進んで損を被っていくタイプじゃないのですわ」

「おお……。なんと、ロック=イートに賭けると言うのか……。ううむ、普通ならロック=イートの勝ちなど考えられないのだが」

 コープ=フルール親子が揃って自分の従者に賭け金を積んだことで、ルイ=ブルゲ侯爵は驚きの表情を顔に浮かべることとなる。コープ=フルールは接待のつもりでこの場に臨んでいる以上、負ける方に賭けるのは当たり前と言えば当たり前である。だが、娘までがそれに付き合う必要がどこにあるのかがわからない。ルイ=ブルゲ侯爵は一抹の不安を抱きつつ、戦士たちのほうに視線を移動させるのであった。
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