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第6章:予選大会
第2話:呪文
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予選会場のリーグ戦においては、早期決着のための仕掛けが施されてはいたが、トーナメント戦に入るや否や、別の会場となり、そこは直径12メートルほどの広さにまで試合場は広がることとなる。こうなれば、予選リーグで使えた相手へ一気に詰め寄り、圧倒する手は使いづらい。しかもだ、ご丁寧なことに試合開始の位置も相手から5メートルほど離れている。ロック=イートは自分と同じ徒手空拳使いの相手との距離感を計りつつ、深呼吸に努める。
(ワンツースリーフォーファイブシックス……。ワンツースリーフォーファイブシックス……)
ロック=イートは心の中で、このような呪文を唱えていた。最初は深呼吸であり、段々と浅い呼吸へと変えていく。そして、フッフッ! と細かく息を吐き、身体の中に熱を産み出していく。対して、相手の半猫半人はのっしのっしと上下へと身体を揺らし、独特のリズムを産み出していた。
「ロック、がんばってくださいましー!」
「ロックくんっ! 得意のワンツーからのフィニッシュですよぉぉぉ!」
ロック=イートの背中側の観客席にはリリー=フルールとコープ=フルール、そしてフルール家の使用人たちが陣取り、やんやとロック=イートを応援していた。しかし、彼らの声援はロック=イートの耳には既に聞こえていなかった。ロック=イートは先ほどの呪文を心の中で繰り返すのみで、彼女らの声援はシャットアウトされていた。
試合管理人が銅鑼の真横に立ち、ごほんっと一度咳ばらいをする。それと共に、今まで騒がしかった予選会場は水をうったように静まり返り、観客席に座る者たちは一様に固唾を飲むこととなる。会場が静かになったのを確かめた試合管理人は高々と試合開始の宣言を行い、別の者が銅鑼をジャンジャンジャーン! と3回打ち鳴らす。
「予選トーナメント第1回戦開始っ!!」
試合管理人がそう告げたと同時にロック=イートが動く。すり足のように砂地の地面からほとんど足を離さずに前後へと両足を動かし、一気に相手である半猫半人に詰め寄る。半猫半人の男はニヤリと口の端を歪め、右腕を真っ直ぐ斜め下に振りぬく。
ロック=イートは向かってくる手甲付きの右腕へ左手を添えるようにあてがう。すると、半猫半人の右腕は軽く斬道を逸らされることとなる。ロック=イートはすかさず右腕を下から上へ振り上げる。だが、そのアッパーカットは軽々と半猫半人が身に着けている左腕の手甲で防がれてしまう。ロック=イートはチッ! と軽く舌打ちし、相手と距離を取るべく、バックステップをする。半猫半人はロック=イートを追撃せず、その場でまた身体を軽く上下に揺らし、独特のリズムを繰り返す。
「あんた、意外と策士だな?」
「むふふ。何を言っているのかわからないニャン」
ロック=イートが連撃を叩き込みに行かずにバックステップをしたのには理由があった。半猫半人はロック=イートの右手によるアッパーカットを左腕で防いだ後、カウンター気味に右ひざを振り上げたのである。それを回避すべくロック=イートは後ろへと飛びのいたのだ。
ロック=イートはここで気づきを得る。半猫半人が両腕に装備している手甲は殴打力を高めるというよりは、防御力を高めるためのものであると。もちろん、あんな分厚い手甲で殴られれば、まるでアイアン・クラブで殴られるような衝撃を受けることは容易に想像できる。要はアレは攻防一体の構えなのである。ロック=イートは眼の前の半猫半人がまるで難攻不落の砦のようにも思えた。
だからといって、手をこまねくばかりのロック=イートではない。舌で軽く自分の唇を濡らした後、申し訳ない程度の笑みを浮かべて、真正面からその砦に向かっていく。
(ワンツースリーフォーファイブシックス!)
この時点においてもロック=イートは謎の呪文を心の中で唱え続けていた。そして、その謎の呪文に合わせるかのように、左右の拳を次々と半猫半人に繰り出す。左の1撃目は半猫半人の右腕によりあっさりと弾かれる。2撃目となる右の1撃もまた彼の左腕により弾かれる。ロック=イートの両腕は大きく左右に開かされ、身体の真正面ががら空きとなってしまう。そこにすかさず半猫半人が右の正拳突きを叩きこもうとする。
ロック=イートは下がらねばならぬというのに、さらに右足を一歩踏み出す。そして、半猫半人の右の一撃を左胸にモロに喰らう。半猫半人はニヤリと笑みをその顔に映し出す。しかしながら、その笑みは次の瞬間には凍り付くこととなる。
「モトカード流拳法 第5条:『肉を斬らせて骨を断つ』! フォーファイブシックス!!」
ロック=イートが心の中で唱えていた呪文は、眼の前の半猫半人を打倒するための手数であった。ワンツーは自分の最初の2撃まで。そしてスリーは相手の一撃である。続くフォーファイブシックスは予選リーグでも用いていたロケット・3連打であった。しかし、予選リーグと違うところは、ジャブを絡めてのストレートではなく、全段大きく弧を描く左右からの連続フックであった。
ロック=イートは強固な砦を崩すには真正面からだけでは足りぬと感じており、ならば、搦め手として左右からの連続フックを半猫半人の左肩、右頬、そして左のコメカミに叩き込んだのである。半猫半人は眼にも止まらぬ連打を顔に二発喰らい、眼を白黒とさせる。彼が幸運だったのは顎先から頬、コメカミを通り、額をカバーする面具を装備していたことだろう。これが無ければ、この3連打で砂地の地面に仰向けになっていたに違いない。
だが、ロック=イートは浅手だったことを自覚しており、ドンッ! と右足を砂地の地面に打ち付ける。そして続けてワンツースリーフォーファイブシックス! と叫び、都合左右の6連打を半猫半人の革製の胸当て越しに次々と浴びせるのであった。その衝撃は革製の胸当てを貫通し、半猫半人の肺を護るあばら骨には無数の亀裂が走ることとなる……。
(ワンツースリーフォーファイブシックス……。ワンツースリーフォーファイブシックス……)
ロック=イートは心の中で、このような呪文を唱えていた。最初は深呼吸であり、段々と浅い呼吸へと変えていく。そして、フッフッ! と細かく息を吐き、身体の中に熱を産み出していく。対して、相手の半猫半人はのっしのっしと上下へと身体を揺らし、独特のリズムを産み出していた。
「ロック、がんばってくださいましー!」
「ロックくんっ! 得意のワンツーからのフィニッシュですよぉぉぉ!」
ロック=イートの背中側の観客席にはリリー=フルールとコープ=フルール、そしてフルール家の使用人たちが陣取り、やんやとロック=イートを応援していた。しかし、彼らの声援はロック=イートの耳には既に聞こえていなかった。ロック=イートは先ほどの呪文を心の中で繰り返すのみで、彼女らの声援はシャットアウトされていた。
試合管理人が銅鑼の真横に立ち、ごほんっと一度咳ばらいをする。それと共に、今まで騒がしかった予選会場は水をうったように静まり返り、観客席に座る者たちは一様に固唾を飲むこととなる。会場が静かになったのを確かめた試合管理人は高々と試合開始の宣言を行い、別の者が銅鑼をジャンジャンジャーン! と3回打ち鳴らす。
「予選トーナメント第1回戦開始っ!!」
試合管理人がそう告げたと同時にロック=イートが動く。すり足のように砂地の地面からほとんど足を離さずに前後へと両足を動かし、一気に相手である半猫半人に詰め寄る。半猫半人の男はニヤリと口の端を歪め、右腕を真っ直ぐ斜め下に振りぬく。
ロック=イートは向かってくる手甲付きの右腕へ左手を添えるようにあてがう。すると、半猫半人の右腕は軽く斬道を逸らされることとなる。ロック=イートはすかさず右腕を下から上へ振り上げる。だが、そのアッパーカットは軽々と半猫半人が身に着けている左腕の手甲で防がれてしまう。ロック=イートはチッ! と軽く舌打ちし、相手と距離を取るべく、バックステップをする。半猫半人はロック=イートを追撃せず、その場でまた身体を軽く上下に揺らし、独特のリズムを繰り返す。
「あんた、意外と策士だな?」
「むふふ。何を言っているのかわからないニャン」
ロック=イートが連撃を叩き込みに行かずにバックステップをしたのには理由があった。半猫半人はロック=イートの右手によるアッパーカットを左腕で防いだ後、カウンター気味に右ひざを振り上げたのである。それを回避すべくロック=イートは後ろへと飛びのいたのだ。
ロック=イートはここで気づきを得る。半猫半人が両腕に装備している手甲は殴打力を高めるというよりは、防御力を高めるためのものであると。もちろん、あんな分厚い手甲で殴られれば、まるでアイアン・クラブで殴られるような衝撃を受けることは容易に想像できる。要はアレは攻防一体の構えなのである。ロック=イートは眼の前の半猫半人がまるで難攻不落の砦のようにも思えた。
だからといって、手をこまねくばかりのロック=イートではない。舌で軽く自分の唇を濡らした後、申し訳ない程度の笑みを浮かべて、真正面からその砦に向かっていく。
(ワンツースリーフォーファイブシックス!)
この時点においてもロック=イートは謎の呪文を心の中で唱え続けていた。そして、その謎の呪文に合わせるかのように、左右の拳を次々と半猫半人に繰り出す。左の1撃目は半猫半人の右腕によりあっさりと弾かれる。2撃目となる右の1撃もまた彼の左腕により弾かれる。ロック=イートの両腕は大きく左右に開かされ、身体の真正面ががら空きとなってしまう。そこにすかさず半猫半人が右の正拳突きを叩きこもうとする。
ロック=イートは下がらねばならぬというのに、さらに右足を一歩踏み出す。そして、半猫半人の右の一撃を左胸にモロに喰らう。半猫半人はニヤリと笑みをその顔に映し出す。しかしながら、その笑みは次の瞬間には凍り付くこととなる。
「モトカード流拳法 第5条:『肉を斬らせて骨を断つ』! フォーファイブシックス!!」
ロック=イートが心の中で唱えていた呪文は、眼の前の半猫半人を打倒するための手数であった。ワンツーは自分の最初の2撃まで。そしてスリーは相手の一撃である。続くフォーファイブシックスは予選リーグでも用いていたロケット・3連打であった。しかし、予選リーグと違うところは、ジャブを絡めてのストレートではなく、全段大きく弧を描く左右からの連続フックであった。
ロック=イートは強固な砦を崩すには真正面からだけでは足りぬと感じており、ならば、搦め手として左右からの連続フックを半猫半人の左肩、右頬、そして左のコメカミに叩き込んだのである。半猫半人は眼にも止まらぬ連打を顔に二発喰らい、眼を白黒とさせる。彼が幸運だったのは顎先から頬、コメカミを通り、額をカバーする面具を装備していたことだろう。これが無ければ、この3連打で砂地の地面に仰向けになっていたに違いない。
だが、ロック=イートは浅手だったことを自覚しており、ドンッ! と右足を砂地の地面に打ち付ける。そして続けてワンツースリーフォーファイブシックス! と叫び、都合左右の6連打を半猫半人の革製の胸当て越しに次々と浴びせるのであった。その衝撃は革製の胸当てを貫通し、半猫半人の肺を護るあばら骨には無数の亀裂が走ることとなる……。
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