拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第9章:この手で掴むモノ

第5話:モトカード流拳法 第10条

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 大きく前に倒れ込んでしまったロック=イートであったが、下手にヨン=ジューロに逆らえば、首に巻き付いた鎖が首を締め付けると思っての行動であった。ヨン=ジューロの想うように動いているかのように見せかけていただけである。ロック=イートは首と鎖の間に出来たわずかな隙間に左手を突っ込み、気道を確保する。

 そして、右の義腕を折り畳み、ヨン=ジューロが狙ってくるであろう右肩をブロックする。この上覧武闘大会では、どうしようもないような状況以外では相手の命を奪うことなかれというルールが存在する。額当てつきのはちまきしか巻いてないロック=イートの頭頂部目がけて鎌部分を投げてくるとは想像しがたいのであった。そして、ロック=イートの予想は当たることとなる。

 ガキーンッ! という金属と金属がぶつかり合う音が試合場に響き渡る。ロック=イートはヨン=ジューロの一撃を防ぐことに成功した証拠でもあった。しかし、状況はそれほどロック=イートには有利ではなかった。気道は確保していることで、鎖の締め付けで呼吸を無理やり止められることはなかったが、それでも左手を使えぬ状況へと追い込まれている。

 もちろん、ヨン=ジューロもまた分銅付きの鎖を使えなくなってしまっている。ならば、動かしてくるのは鎌の方だけである。ヨン=ジューロは、こなくそっ! と悪態をつきつつ、鎌がついている方の鎖をブンブンと無軌道に振り回しはじめる。

(分銅の方が使えなくなったのは戦術上、仕方無かったとはいえ、状況はまだまだこちらのほうが有利なんやでえ?)

 ヨン=ジューロは常に右手で分銅付きの鎖部分の力加減を調整していた。それにより、ロック=イートの体勢を思うがままに操ろうとしたのである。左手を差し込まれはしたものの、首自体にはしっかりと鎖は巻き付いている。下手に自分の力に逆らえば、その左手ごと、気道が締まってしまうのは自明の理なのだ。だからこそ、ヨン=ジューロはいつでもその分銅を手元に戻してこれるのではあるが、それはしなかった。

 それよりも鎌部分でメッタ斬りにしてしまい、ロック=イートの戦意をくじく方法に打って出る。ヨン=ジューロは左手に持つ鎖の長さを巧みに調整して、ロック=イートへ連続で鎌をぶん回していく。ロック=イートは動かせる右の義腕のみでソレを迎え撃つ。

(大振りするんじゃない、俺! あくまでもコンパクトに振り続けるんだっ!)

 ロック=イートは細心の注意を払って、自分の右腕を律する。ヨン=ジューロはきっと自分が金属製の右の義腕で鎌を打ち払ってくることなど予想しているに決まっていると感じていた。だからこそ、無軌道に鎌を振り回しているようでいて、それは計算された動きであろうと予測する。

 ロック=イートがここで気をつけなければならないことは、鎌の軌道に誘われて、右腕を大振りしてしまうことである。そうなれば、ヨン=ジューロはしめしめとばかりに首に巻き付いている鎖に力を込めてくるであろう。そうすることでロック=イートの体勢を大きく崩してからの鎌攻撃をしかけてくるはずだ。ロック=イートは自制心を働かせて、自分の身に当たるであろう鎌攻撃だけを右腕で打ち払う。ロック=イートはなるべく最小限の動きを繰り返す。いつかやってくるであろう自分の『流れ』を掴むためにも、自分が今出来ることへと集中していく。

 しかし、ロック=イートが試合前に不安に思っていたことがここで起きる。第2回戦の時と同様に、ロック=イートの右腕に激痛が走り始めたのだ。ロック=イートが右腕で鎌を弾くたびに痛みが増してきていたのだが、それは倍々に増幅していったのである。まるで生身の部分を鎌に切り刻まれているかのような激痛に襲われる。ロック=イートは痛みによって、顔が歪み、さらには身体から鈍い汗が浮き上がってくる。

 ヨン=ジューロはロック=イートの変化にいち早く気づくことになる。ロック=イートの首に巻き付けた分銅付きの鎖からロック=イートの心音を感じ取っていたのだが、いくら戦闘中だからといって、その鼓動は早鐘をついているかのようであったからだ。そして、自分が鎌を彼の右腕によって弾かれる時にドクンッ! と心音が一段と跳ね上がったのである。

(なんや? この心音は……。ロックくんの身に何か不都合が生じているのかいな? いやいや。だからといって、わいが手を抜く理由にはならんのやでっ!)

 ヨン=ジューロは敵の事情がどうであろうが、一切、手加減する気は無かった。ここで勝負を決めてしまわなければ、反撃を喰らうことは百も承知だったからである。ヨン=ジューロが考えるセオリー通りにロック=イートの体勢を崩し、そこに必殺の一撃を加えて、この戦いを終わりにしようとしていたのだ。そして、ヨン=ジューロが待ち望んでいたその時がやってきたのである。

 右腕から発生する痛みに耐えかねたロック=イートが右腕を大きく振り回してしまったのだ。しかも、右腕は鎌を払うことが出来ずに宙を空ぶることとなる。ヨン=ジューロは口の端をニヤリと歪め、右手に力を込めて、ロック=イートの首を締めにかかる。分銅付きの鎖に力が込められたことで一気にロック=イートは息苦しさを感じる。

 ロック=イートは右腕から発生する激痛と同時に首を強く締められたことで、身体をぐらりと左側へと崩してしまう。ヨン=ジューロの予定では自分側に倒れ込んでくれることを最上と考えていたが、好機なのは変わりない。予定通りに鎌を大きく振り回し、ロック=イートの背中、やや下部分である腎臓辺りを狙い撃ちしようとした。

「ほな、ロックくん、さよならなんやでぇ~! 腎臓はひとつ潰れたところで死にはしないんやでぇ! ええ勉強になったやろ!?」

 ヨン=ジューロはアイヤー! と雄叫びを上げて鎖を振り回し、鎌を狙っている部分へと振り下ろす。それがロック=イートの誘いだと知らずにだ。

「モトカード流拳法 第10条……。半熊半人ハーフ・ダ・ベアに出くわせば死んだふり……だっ!」

 ロック=イートが左に体勢を崩したのはあくまでも擬態であった。身体を傾けながら右足を大きく後方へずらしている。そして鎖と首の間に差し込んでいた左手は既に抜いている。ロック=イートは態勢を崩しながらも右足で地面を蹴り、無理やりに身体をヨン=ジューロに向けて発進させたのだ。そして、左足でドンッ! と石畳を踏みつける。

「ロケット……アッパー!!」
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