拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第9章:この手で掴むモノ

第9話:コープの陣中見舞い

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――大王歴1200年10月22日 アンゴリア大王国 首都:アウクスブルグにて――

 結局のところ、神槍:ブリトニー=ノーガゥは危なげなく勝利を掴み、準決勝へと駒を進めることとなる。明けて次の日、いよいよロック=イートとの対戦と相成った。今日は午前10時から準決勝に勝ち進んだ者たちが闘い、そこで勝利した者たちは午後からの決勝戦に出場することとなる。

 この日ばかりは控室にはコープ=フルールも現れて、ロック=イートに労いの言葉を送ることとなる。

「いやあ、ロックくん。よくぞ、ここまで勝ち進んできましたね。あとは神槍:ブリトニー=ノーガゥの整った顔を一発ぶん殴って、苦痛で歪めるだけですよっ!」

「簡単に言ってくれますね……。俺があのヒトの顔面に一発入れる前に槍を10発は叩きこまれそうなんですけど……」

 コープ=フルールがバンバンとロック=イートの両肩を両手で叩き、はっぱをかける。だが、ロック=イートは渋面であった。またしてもコープ=フルールが何かを企んでいるような気がしてならないのであった。そして、労いの言葉を送り終えたコープ=フルールは執事であるゴーマ=タールタルに、この日のために準備したカラテ着を渡すように指示する。

 ロック=イートはゴーマ=タールタルから手渡されたカラテ着を手に取るや否や、頬を引きつらせてしまうこととなる。なんと、カラテ着の背中部分には大きく『拳』と黒い糸で刺繍を成されていたからである。

「えっと……。コープ様。これはいったいぜんたい、どんな計らいでこんなことを?」

「いやあ。本当は『拳聖』と刺繍してもらおうかと思ったのですが、まだ後継者止まりじゃないですか? というわけで、控えめに『拳』だけにしておきました」

 コープ=フルールがにこやかな表情でそう言いのける。ロック=イートが聞きたいことはそこでは無い。何故にこんな目立つようなことをしたのかと問いたいのであった。確かにコープ=フルールの言うことには一理ある。ロック=イートは拳聖:キョーコ=モトカードに後継者として指名はされたが、真に拳聖にまで昇り詰めたわけではない。ならば、彼の言う通り、中途半端だという意味を込めて、『拳』一文字のみなのは正しいのであろう。

「ふむっ。これは悪目立ちしそうなのじゃ。さすがはコープ様じゃのう。わらわなら、こんな道着を渡されたら、足で踏んずけて、ボロボロにしてしまうのじゃ」

「ご安心ください、タマモさん。貴女用の試合着となれば、極上の絹でこしらえた艶やかな着物を準備させてもらいますよ。もちろん、これはあくまでもロックくん用ですので」

 コープ=フルールがふっふっふっと不敵な笑みを顔に浮かべつつ、ヨーコ=タマモと言葉を交わす。ヨーコ=タマモは、はんっ! と鼻を鳴らし、腹黒半兎半人ハーフ・ダ・ラビットの言を受け流す。何故にこの男は半狸半人ハーフ・ダ・ポンポコではないのかと疑いの眼をコープ=フルールに向けることとなる。その非難が込められた視線を受けつつもコープ=フルールはロック=イートにそのカラテ着に袖を通してみてくださいと促す。

 ロック=イートは嫌な顔をしつつも、ゴーマ=タールタルから受け取ったカラテ着を着込む。すると、ロック=イートは驚きの表情をその顔に浮かべてしまうのであった。

「えっと……。これは何か仕掛けがほどこさているんでは?」

「はい、その通りです。きっと神槍:ブリトニー=ノーガゥは眼を剥くことになるでしょう。そのために大枚はたいて、アンゴリア大王国1番の仕立て屋に準備させましたので。ああ……。無駄にならなくて本当に良かった良かった」

 何が良かったというのだろうと思わずにはいられないロック=イートであった。今、自分が着こんでいるカラテ着はロック=イートの信条をギリギリで護っている程度のシロモノだ。しかし、ご主人様の要求を袖に出来る権限はロック=イートには持ち合わせていない。ロック=イートはひと際大きくため息をつき、コープ=フルールへの抗議とする。

「わたくしもロックとおそろいのカラテ着が欲しいのですわ……。この背中の『拳』ってところが優雅極まりないのですわ……」

 リリー=フルールは左手を頬に添えつつ、うっとりとした表情で、はぁ……と羨ましそうにため息をつく。ロック=イートはますます頬を引きつらせてしまうのであった。親が親なら子も子とはまさにこのことかっ! とツッコみを入れたくなってしょうがないロック=イートである。しかし、そんなロック=イートの助けとなるべきであるセイ=レ・カンコーがとんでも発言をしだしてしまう。

「ロックさん。あっしは誉れ高いですぜ……。神槍:ブリトニー=ノーガゥに勝った時は、コープ様に『聖』の字も増やしてもらうようにしましょうぜっ!」

「おお……。セイくん。なかなかにナイスアイデェア~ですよっ! そうですねっ! 神槍を打ち負かすほどなのです。『拳聖』と名乗っても差し支えなどありませんねっ! というわけで、ロックくん。先ほどはブリトニー=ノーガゥに一撃与えるだけで良しと言いましたが、訂正させてもらいます」

 ロック=イートはげんなりとしていた。コープ=フルールが続けていう言葉が容易に想像できたからである。ヨーコ=タマモは左手をロック=イートの右肩にポンと置き、顔を左右に振って見せる。その所作でロック=イートはがっくしと頭を下に向けてしまうのであった。

「では、ロックくん。拳闘なだけに健闘を期待していますので……。ゴーマくん、そろそろ私たちは観客席に戻りましょうか」

「わかりましたのじゃ。ロックよ、コープ様のご期待に沿えるように頑張るのじゃぞ。くれぐれも神槍:ブリトニー=ノーガゥ様に一方的にやられるようなことだけは止めるのじゃっ!」

 言いたいことを言い終えたコープ=フルールたちは控室から退出していく。ロック=イートは神槍:ブリトニー=ノーガゥを打ち倒す前に、自分のご主人様をぶん殴るほうが正解のような気がして堪らないのであった。しかしながら、そんな憎たらしいご主人様が愛情込めて育て上げた娘がロック=イートを励ましてくれるので、ロック=イートとしては複雑な気持ちになってしまう。

「ロック。ようやくここまで来ましたわね。わたくしはロックが勝ってくれることを願ってやみませんわっ!」

「ああ……。なるべく恥にならないように、やれるべきことの全てを出し切ってくるよ……」

「なんですの!? 勝利の女神であるわたくしが貴方を応援していますのよっ! しっかり胸を張って、まっすぐに前を向いてくださいましっ! わたくしの騎士たる者がそんなことでどうするというのですっ!?」
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