拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第10章:神槍

第8話:男の友情

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「目が覚めたッスか。まったく……。老体なんだから無茶をするのはやめるッスよ。俺っちがクオンさんを探してこれなかったら、死んでいたッスよ」

 剣聖:プッチィ=ブッディが目覚めたばかりの神槍:ブリトニー=ノーガゥにそう言うのであった。剣聖:プッチィ=ブッディは弓神:ダルシゥム=カーメンに準決勝:第2試合の審判を代わってもらい、クオン=ズィーガーを探し出して、彼女を控室のベッドで横たわる神槍:ブリトニー=ノーガゥの治療を任せたのであった。

 当の本人は神槍:ブリトニー=ノーガゥの治療を終えた後、上半身をベッドにもたれかけてクークーと可愛らしい寝息を立てていた。そんな彼女に対して、彼は彼女の茶色に染まる頭をそっと右手で撫でるのであった。神槍:ブリトニー=ノーガゥは口に当てられている吸引マスクを外し、剣聖:プッチィ=ブッディに顔を向けて苦笑する。

「クオンくんには感謝してもしきれませんね。彼女に頼まなければならないほど、自分は大怪我を負っていたという証拠になりますね?」

「そうッスねえ。クオンっちが言うには肋骨の左前側のほとんどが原型のないほどに砕け散っていると言っていたッス。ロックっちはとんでもない技をかましてくれたもんッスよ……」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥは自力で呼吸できるほどに回復していることに、クオン=ズィーガーに対して、感謝の念しかなかった。彼女がこの上覧武道会の会場にいなければ、きっと自分は未だに生死の境界をさまよっていただろうということは容易に想像できた。自分はまだまだ幸運に恵まれているのだろうと思わずにはいられない。

 だが、それ以上に思うことは、自分の準決勝であるロック=イートの存在である。自分の意識が途切れる寸前、彼は最後に『モトカード流拳法』ではなく、『ロック流拳法』と名乗っていたことを思い出す。ひな鳥が成長し、ついに巣立ちを告げるかのような宣言であったように思われてしょうがない神槍:ブリトニー=ノーガゥであった。

「彼は拳聖:キョーコ=モトカードさえも飛び越えていってしまうのでしょうか?」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥは独り言のようにそう呟く。だが、その言葉を耳で拾った剣聖:プッチィ=ブッディは首を振り、彼の言葉を否定しにかかる。

「それはわからないッス。試合場のすぐ近くで見守っていた俺っちには先ほどの勝負は、上覧武闘会のルールあってこその決着ッス。ブリトニーっちは手足をもがれた状態で闘っていたんッス。最初から槍の穂先に取り付けていた木製カバーを外していれば、負けていたのはロックっちのほうッス」

 今大会が開かれた目的のひとつに、アンゴルモア大王が近々結成しようとしている開拓軍の幹部を見定めるというモノがある。そのため、極力、相手を殺さないようにしなければならないルールが制定されている。試合に臨む戦士たちは長剣ロング・ソードの刃を潰したりなどして、武器自体の殺傷力をなるべく落としているのだ。それは神槍:ブリトニー=ノーガゥも変わらない。彼は聖槍:ロンギヌスの穂先に厚い木製のカバーを取り付けていたのだ。

「勝負に勝って、試合に負けるとはまさにこのことでしょうねえ……。だからといって、試合結果が覆るわけでもないので、自分は先ほどの試合にケチをつける気はまったくありせんけどねっ」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥは爽やかな表情に変わっていた。何か憑き物が取れたかのような顔つきである。そんな彼の表情を見て、剣聖:プッチィ=ブッディは、はあああ……と呆れたようなため息をつく。

「そんな顔を見せたところで、まだまだ引退なんかできないッスよ? 俺っちたちがアンゴルモア四天王の座から降ろされるかどうかは、アンゴルモアっちの気分ひとつなんッスから」

「そう……ですね。全てはアンゴルモア大王の御心のままにというモノです」

 神槍:ブリトニー=ノーガゥはそこで一度、言葉を切る。そして、ふむ……と息をつき、段々と神妙な顔つきになっていく。自分の処遇を自分で決めることなど出来ないのは百も承知であり、あと数年はアンゴルモア四天王として、主アンゴルモア大王の御側に居ることは確実であろうことは変わらない。だが、拳聖の後継者に負けてしまった以上、何かしらの沙汰がアンゴルモア大王から下されることは確実である。

「自分はどうしたら良いんでしょうかね?」

「それこそ、直接、アンゴルモアっちに聞いたら良いッス。開拓軍の代表からは確実に降ろされるだろうけど、それに関わる任務や責務全てを解かれるとまでは思わないッス」

 そもそもとして、神槍:ブリトニー=ノーガゥが今大会で敗れることなど、誰も予想していなかったことである。それはアンゴルモア大王とて同じであったろうと剣聖:プッチィ=ブッディは言う。あくまでも、参加者たちにやる気を起こさせ、今大会を盛り上げるための余興とも言えたのだ、神槍:ブリトニー=ノーガゥの参戦は。だが、皆の予想を裏切り、準決勝ではロック=イートが勝利を収めてしまった。下の者が上の者に克つことになった以上、開拓軍の代表者はロック=イートにほぼ決まりであろこうとは間違いないであろう。

 しかし、そのロック=イートが決勝でもし負けてしまった場合はどうなるのか? ひとごとではあるがそんな危惧をつい抱いてしまう神槍:ブリトニー=ノーガゥであった。直接的に自分に勝ったのはロック=イートではあるが、彼もまた重傷の身であることは間違いない。そして、決勝は午後から執りおこなわれることになっている。自分はクオン=ズィーガーの高等治療術により、一命を取り留めたが、彼はどうなるのだろうか? と心配になってしまう。

「もし、ロックくんが決勝で敗れることになれば、彼が開拓軍の代表となるのにいらぬケチがついてしまいますね……」

「そんな心配をするくらいなら、あいつにブリトニー流槍術の奥義をぶちかますなって話ッス。確実に決勝にダメージを残したまま、出場することになるッス」

 剣聖:プッチィ=ブッディが頭を左右に振りながら、厳しめの口調で神槍:ブリトニー=ノーガゥに言いのける。言われた側の神槍:ブリトニー=ノーガゥはおどけた表情で、負けたくありませんでしたからと返すのであった。剣聖:プッチィ=ブッディは両腕までも身体の左右に広げて、呆れて見せるのであった。

「しっかし、やけにロックっちの肩を持つッスね? 試合前と最中はあれほどロックっちの存在自体を忌避していたくせに」

「それは当然、そうなってしかるべきですよ。男が男に惚れる条件はただひとつ。お互いの武器を交え、本気で闘いあうことですから。自分はロックくんと血で血を洗う戦いを経て、真の友情を結んだ仲となったんですからねっ」
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