拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

文字の大きさ
120 / 122
第12章:ロケット・パンチ

第8話:ありがとう

しおりを挟む
「ははっ……。皆、口々に勝手を言いやがって。だが、『世界最強の生物』の夢が叶うその瞬間がやってきてるってのに寝てるわけにはいかないなっ!!」

 ロック=イートはまだ動く右腕を使い、無理やりにその場で立ち上がろうとする。足はがくがくと震え、まともに力が入らない。左腕は肩の骨が折れて、ブランブランと地面の方向へとぶら下がっている状態だ。さらに先ほどアンゴルモア大王に蹴られた腹はあまりの痛みのせいで逆に痛覚が麻痺してしまっている状態だ。ロック=イートは誰の眼から見ても、まともに戦える状態ではなかった。

 しかし、そんな観客たちの悲観な想いを一切受け付けぬとばかりに、ロック=イートは立ち上がり、闘うための構えを取る。両足を大きく前後に開き、重心を下腹部に据えるために腰を落とす。そして、唯一まともに動く右腕を折りたたむ。自分が信頼しているロケット・パンチを放つ体勢を整えていく。

 そんなロック=イートを見て、アンゴルモア大王はほくそ笑む。そして、両腕を身体の左右へ大きく開き、まるで好きなように打ってこいと言わんばかりの構えを取るのであった。ロック=イートはそんな余裕しゃくしゃくのアンゴルモア大王に対して、怒りを通り越して、感謝の念が心の奥底から湧いてきてしまう。ロック=イートよりも数百段上の実力を有していると言わんばかりの態度でありながらも、まるで母が我が子を抱きしめてあげようとも思えるような雄大な姿なのである。

(人類の父にして、同時に母であると言われる所以ゆえんがわかる気がするぜ……。ここはありがとうと感謝の念を伝えるべきなのか?)

 ロック=イートは口からその言葉を伝えるつもりはなかった。その想いは右のこぶしに乗せるべきだと考える。そう考えたと同時にロック=イートは左足で石畳を力強く蹴り飛ばす。そうすることで推進力を産み出すのだ。そして推進力は石畳を踏みつける右足によって打拳力へと変換される。

 ロック=イートの足から産み出されたエネルギーはふくらはぎ、太もも、尻、腰、背中、そして肩へと伝播していく。それと同時に『ありがとう』の想いを込める。そして、その力と想いが込められたエネルギーは真っ直ぐに伸びていく右腕に集中する。

 その時であった。右腕にエネルギーが伝わったと同時に、その右腕が哭いたのである。それは喜び、怒り、嘆き、哀しみの四つの感情を表していた。その哭き声は空気を振動させる。キーーーン! という甲高い音を放射する。その音に共鳴するようにロック=イートの右の義腕がその形を変えたのだ。噴射口を思わせるような突起物が腕先に多数現れる。そこから蒸気を発射し、ロック=イートの右腕をさらに加速させていく。

 右腕の変化はそれだけでは無かった。太さ自体が倍に膨れ上がったのである。まるでその様は頑丈な城門を破壊するような破城槌として形作られる。ロック=イートは自身の右腕がそのように変化していくことに気づいていなかった。彼はただアンゴルモア大王に自分の力と想いの全てをぶつけようと考えていたために、右腕の変化についてはロケット・パンチを放ち終わった後に気づくことになる。

「皆、ありがとう……。ロケットォォォ・パーーーーーーーンチッッッ!!」

 ロック=イートの右のこぶしがアンゴルモア大王のみぞおち部分に深々と突き刺さる。ロック=イートは自然と両目から涙があふれ出していた。ロック=イートの乾いた心が満たされていく。そんな感覚に襲われて、思わず両目からその想いがこぼれだしてしまったのだ。

「くっくっく。良いパンチであったぞ……。さすがは神槍:ブリトニー=ノーガゥを打ち倒しただけはある。さあ、これがわれからの褒美也ッ!」

 ロック=イートはアンゴルモア大王が下から上へかち上げてくる右のこぶしをまともに喰らう。ロック=イートは宙に放り投げられながらも、その眼から涙を溢れさせていた。変化してしまった右腕を見つつ、俺は俺のやれるだけのことをやったんだという満足感に包まれる。ロック=イートは試合場である石畳の上から放り出され、外に広がる芝生の上で数回バウンドを繰り返す。そして、彼は自分が負けたことを察しながら、まぶたを閉じることとなる……。



「ここは……?」

 ロック=イートが次に目覚めたのは、今は馴染となってしまった簡素なベッドの上であった。彼が見開いた瞳には見慣れてしまった薄汚い茶色の天井が映っている。その視界を遮るように眼尻に涙を溜めている女性の顔が映り込んでくる。その女性はぽたりぽたりと涙をロック=イートの顔にこぼしつつ、破顔していたのであった。

「そうか……。俺は『世界最強の生物』にはなれなかったのか」

「そんなことありませんわっ。アンゴルモア大王には完膚無きまでに打ちのめされましたけれど、そのアンゴルモア大王が『望めばいつかはたどり着けるおとこ也』とおっしゃってくれましたものっ!」

 ロック=イートはリリー=フルールからアンゴルモア大王の言葉を伝え聞く。それと同時にみるみるうちに彼の瞳は涙の湖に沈んでしまう。その湖は堰を切って、溢れ出してしまう。ロック=イートはここまでの完敗を喫したのは、拳聖:キョーコ=モトカード以来であった。自分の師匠はとてつもない力で自分を打ちのめしたが、アンゴルモア大王のソレは異次元とも言ってさしつかえないレベルである。自分は『世界最強の生物』を目指しておきながら、未だそれそのモノであるアンゴルモア大王の足元にも及ばないことを思い知らされることとなる。

 ロック=イートが流している涙は悔し涙であった。しかし、リリー=フルールが流しているのは嬉し涙である。自分の愛する男が生きて自分の下へと帰って来てくれた。それだけでリリー=フルールは十分だったのだ。だが、ロック=イートは悔しさの余り、ワンワンと泣いてしまう。上半身を起こし、リリー=フルールにしがみつき、まるで子供が泣くかのように鼻水を流しつつ、せがむようにリリー=フルールに泣きつくのであった。

 リリー=フルールはそんなロック=イートの頭を優しく抱きかかえ、よしよしと子供をあやすように彼を扱う。リリー=フルールは彼が危ういニンゲンだということを承知している。ただただ純粋で、心はすぐに揺れて壊れやすいくせに意地を張り続け、命を賭けてでも夢を成し遂げようとしてしまうそんな彼が愛おしくてたまらないのであった。

 そんな彼とは対照的に彼女は嬉し涙を流すのだが、行きつく先は同じだと信じている。彼がどこに向かっていこうが、自分はその側で同じ方向を向いて、共に歩みを進めていこうと心に誓うのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

処理中です...