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第1章:罪には罰を
第1話:大家族会議
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――北ラメリア大陸歴1492年10月5日 ウィーゼ王国 首都:オールドヨークにて――
1週間ほど続いた収穫祭も終わり、祭りの熱に浮かされたひとびとは段々と日常の生活に戻っていくことになる。しかし、国王:ロータス=クレープスから端を発した事件が戦にまで発展するとは国民たちは、この時はまだ知らなかった。
そもそもとして、ウィーゼ王国が北ラメリア大陸1番に収穫祭を賑わせたのには理由があったのだ。ウィーゼ王国から北西には亜人族が支配するバルト帝国が広がっている。バルト帝国の領土は北ラメリア大陸の北半分を占めており、南半分はエルフ族が代表となっているウィーゼ王国を含めて、3つの王国が占拠している状態である。
とある事件をきっかけとして、国王:ロータス=クレープスの代において、ウィーゼ王国とバルト帝国との関係は一気に冷え込み、どちらとも一戦を辞さずという雰囲気になっていたのだ。だが、それはそれぞれの国民たちには知らされていない。あくまでも御上同士のいがみ合いであり、それが国民に広がりを見せることは無かったのだ。
だが、国王:ロータス=クレープスは収穫祭を大々的に行うことにより、バルト帝国なにするものぞという国威を見せつけてしまった。それにより、ますます両国の緊張は高まってしまったのだ。しかしながら、ロータス=クレープスは武人としての血を曾祖父から強く引き継いでおり、もしも何かしらが起こったとしても、北ラメリア大陸の北半分を支配するバルト帝国相手に力で解決する気まんまんであったのだ。
そんな豪胆なロータス=クレープスが驚愕の表情へと変わってしまうほどの寝耳に水なことが収穫祭中に起きる。自分の愛娘から物理的に距離を空けさせたはずのレオナルト=ヴィッダーが、あろうことか、収穫祭に乗じて自分の愛娘に一生消えぬ傷をつけたことである。
「ぐぬぅ! レオナルト=ヴィッダーめがっ!! おいっ、何をおかしそうに笑っておるのかっ! 貴様の提案通りに死罪にはせずに、城から遠ざけるだけにしておいたのだぞ! 聞いておるのか、フィルフェン!!」
王宮の円卓の間において、国王並びにその家族、そしてウィーダ王国の宰相、ウィーダ国軍の総軍団長、首席騎士だけでなく、さらには衛兵隊長までもが呼ばれることとなる。その家族会議としては済まされない面子が勢ぞろいし、レオナルト=ヴィッダーの処分について円卓会議が行われることとなる。
「いやあ……。レオナルトくんもやらかしてくれましたねえ……。こればかりはこのフィルフェン=クレープスにも読めませんでした、ははっ!!」
「ははっ!! じゃなからろうがっ! 貴様の案を採用したからこそのこの始末だぞっ! 貴様がどうにかせねばならぬだろうにっ!」
国王:ロータス=クレープスはエルフ耳の先までをも真っ赤に染め上げて、今にも第一王子であるフィルフェン=クレープスをぶん殴ってやろうかというような目力で彼を睨みつける。しかし、睨まれている側のフィルフェン=クレープスはどこ吹く風の如くに、まいったまいったとばかりの所作をするのみである。国王としては、今すぐにでも後ろ足で椅子を蹴り飛ばして、自分の息子の胸ぐらを両手で捕まえて、首を締めてやろうかとさえ思っている。
だが、そんな国王がギリギリで冷静でいられるのは、宰相たちといった国の重鎮たちが円卓の間に集まっていたおかげでもあった。しかしながら、この場において、場違い感たっぷりの衛兵隊長は顔から血の気が引くに引けて、真っ青から紫色へと変貌しつつある。そんな今にも死にそうな顔をしている衛兵隊長に首席騎士は同情心を抱くが、実際に彼を助けるために行動に移るつもりもない。出来るなら、衛兵隊長だけにとばっちりが飛ぶようにと願っているのだ、首席騎士は。
「お父様。そんなに兄上を睨みつけても、暖簾に腕押しなのですわ。こうなることを半分期待してのことですものね?」
「おやおや。これは奇妙なことを言ってくれますね、フローラくん。先生はそんな風にキミを教育したつもりはありませんけど?」
自分のことを『先生』と呼ぶどこぞの教授気取りな兄のことを第一王女:フローラ=クレープスは毛嫌いしていた。もしも妹の件が無ければ、この円卓の間で兄と同じ空気を吸う気にもなれないのである。だが、可愛い妹が嘆き悲しむ結果になるのが嫌なので、渋々、この円卓会議に出席しているのだ。
この国の第一王女であるフローラ=クレープスは、父親であるロータス=クレープスに勧められるままに隣国のバージニア王国の第二王子と婚約を交わしている。所謂、政略結婚というものだ。それもあって、自分の妹には束の間となろうとも少しでも自由恋愛を楽しんでほしいと願っている。そのため、いくら庶民の出であるレオナルト=ヴィッダーと仲睦まじい関係になったからといって、ことさらに妹を責める気はないのだ、フローラ=クレープスは。将来的にどうなるかまではわからないが、せめて親が敷いたレールの上を走らせっぱなしにはさせたくはなかった。
そして、一番に親の敷いたレールの上を黙って走るべき兄が最もレールから外れていることに腹立たしい気持ちでいっぱいになってしまうフローラ=クレープスである。代々、クレープス家の家長は武人たれという言葉がある。しかしながら、ロータス=クレープスの後を継がねばならぬ長兄が国の研究所に入り浸りになり、夜な夜な怪しげな実験を繰り返しているという噂が市中にまで広まっているのだ。
その噂話の真相までは、フローラ=クレープスにはわかっていないが、相当な食わせ者であることだけは確かなのだ、自分の兄は。国王:ロータス=クレープスの末子であるアイリス=クレープスには自由に生きてほしいと願っているのは兄も同様であることは、フローラ=クレープスが兄と数カ月前に意見を交換し合った時に確認済みだ。しかしながら、いざ蓋を開いてみれば、このざまである。
父上であり、同時にウィーダ王国の国王であるロータス=クレープスに直接的には意見を言いづらいフローラ=クレープスは、兄であるフィルフェン=クレープスを介して、父親に異を唱えてはいる。だが、やはり邪兄フィルターを通すと意見が捻じ曲がることを痛いほど思い知る事件となってしまったのであった……。
「わたくしから言えることは、レオナルト=ヴィッダーから死罪を免じることですわ。兄上もそのことだけはご留意してくださいまし?」
「はいはい、わかってますよ。では、妹のフローラもこう言っていることですし、先生からはレオナルトくんを近々行なわれるであろう戦の最前線に立ってもらうことで手を打ってもらいたいんですよね。どうです? 名案でしょ?」
1週間ほど続いた収穫祭も終わり、祭りの熱に浮かされたひとびとは段々と日常の生活に戻っていくことになる。しかし、国王:ロータス=クレープスから端を発した事件が戦にまで発展するとは国民たちは、この時はまだ知らなかった。
そもそもとして、ウィーゼ王国が北ラメリア大陸1番に収穫祭を賑わせたのには理由があったのだ。ウィーゼ王国から北西には亜人族が支配するバルト帝国が広がっている。バルト帝国の領土は北ラメリア大陸の北半分を占めており、南半分はエルフ族が代表となっているウィーゼ王国を含めて、3つの王国が占拠している状態である。
とある事件をきっかけとして、国王:ロータス=クレープスの代において、ウィーゼ王国とバルト帝国との関係は一気に冷え込み、どちらとも一戦を辞さずという雰囲気になっていたのだ。だが、それはそれぞれの国民たちには知らされていない。あくまでも御上同士のいがみ合いであり、それが国民に広がりを見せることは無かったのだ。
だが、国王:ロータス=クレープスは収穫祭を大々的に行うことにより、バルト帝国なにするものぞという国威を見せつけてしまった。それにより、ますます両国の緊張は高まってしまったのだ。しかしながら、ロータス=クレープスは武人としての血を曾祖父から強く引き継いでおり、もしも何かしらが起こったとしても、北ラメリア大陸の北半分を支配するバルト帝国相手に力で解決する気まんまんであったのだ。
そんな豪胆なロータス=クレープスが驚愕の表情へと変わってしまうほどの寝耳に水なことが収穫祭中に起きる。自分の愛娘から物理的に距離を空けさせたはずのレオナルト=ヴィッダーが、あろうことか、収穫祭に乗じて自分の愛娘に一生消えぬ傷をつけたことである。
「ぐぬぅ! レオナルト=ヴィッダーめがっ!! おいっ、何をおかしそうに笑っておるのかっ! 貴様の提案通りに死罪にはせずに、城から遠ざけるだけにしておいたのだぞ! 聞いておるのか、フィルフェン!!」
王宮の円卓の間において、国王並びにその家族、そしてウィーダ王国の宰相、ウィーダ国軍の総軍団長、首席騎士だけでなく、さらには衛兵隊長までもが呼ばれることとなる。その家族会議としては済まされない面子が勢ぞろいし、レオナルト=ヴィッダーの処分について円卓会議が行われることとなる。
「いやあ……。レオナルトくんもやらかしてくれましたねえ……。こればかりはこのフィルフェン=クレープスにも読めませんでした、ははっ!!」
「ははっ!! じゃなからろうがっ! 貴様の案を採用したからこそのこの始末だぞっ! 貴様がどうにかせねばならぬだろうにっ!」
国王:ロータス=クレープスはエルフ耳の先までをも真っ赤に染め上げて、今にも第一王子であるフィルフェン=クレープスをぶん殴ってやろうかというような目力で彼を睨みつける。しかし、睨まれている側のフィルフェン=クレープスはどこ吹く風の如くに、まいったまいったとばかりの所作をするのみである。国王としては、今すぐにでも後ろ足で椅子を蹴り飛ばして、自分の息子の胸ぐらを両手で捕まえて、首を締めてやろうかとさえ思っている。
だが、そんな国王がギリギリで冷静でいられるのは、宰相たちといった国の重鎮たちが円卓の間に集まっていたおかげでもあった。しかしながら、この場において、場違い感たっぷりの衛兵隊長は顔から血の気が引くに引けて、真っ青から紫色へと変貌しつつある。そんな今にも死にそうな顔をしている衛兵隊長に首席騎士は同情心を抱くが、実際に彼を助けるために行動に移るつもりもない。出来るなら、衛兵隊長だけにとばっちりが飛ぶようにと願っているのだ、首席騎士は。
「お父様。そんなに兄上を睨みつけても、暖簾に腕押しなのですわ。こうなることを半分期待してのことですものね?」
「おやおや。これは奇妙なことを言ってくれますね、フローラくん。先生はそんな風にキミを教育したつもりはありませんけど?」
自分のことを『先生』と呼ぶどこぞの教授気取りな兄のことを第一王女:フローラ=クレープスは毛嫌いしていた。もしも妹の件が無ければ、この円卓の間で兄と同じ空気を吸う気にもなれないのである。だが、可愛い妹が嘆き悲しむ結果になるのが嫌なので、渋々、この円卓会議に出席しているのだ。
この国の第一王女であるフローラ=クレープスは、父親であるロータス=クレープスに勧められるままに隣国のバージニア王国の第二王子と婚約を交わしている。所謂、政略結婚というものだ。それもあって、自分の妹には束の間となろうとも少しでも自由恋愛を楽しんでほしいと願っている。そのため、いくら庶民の出であるレオナルト=ヴィッダーと仲睦まじい関係になったからといって、ことさらに妹を責める気はないのだ、フローラ=クレープスは。将来的にどうなるかまではわからないが、せめて親が敷いたレールの上を走らせっぱなしにはさせたくはなかった。
そして、一番に親の敷いたレールの上を黙って走るべき兄が最もレールから外れていることに腹立たしい気持ちでいっぱいになってしまうフローラ=クレープスである。代々、クレープス家の家長は武人たれという言葉がある。しかしながら、ロータス=クレープスの後を継がねばならぬ長兄が国の研究所に入り浸りになり、夜な夜な怪しげな実験を繰り返しているという噂が市中にまで広まっているのだ。
その噂話の真相までは、フローラ=クレープスにはわかっていないが、相当な食わせ者であることだけは確かなのだ、自分の兄は。国王:ロータス=クレープスの末子であるアイリス=クレープスには自由に生きてほしいと願っているのは兄も同様であることは、フローラ=クレープスが兄と数カ月前に意見を交換し合った時に確認済みだ。しかしながら、いざ蓋を開いてみれば、このざまである。
父上であり、同時にウィーダ王国の国王であるロータス=クレープスに直接的には意見を言いづらいフローラ=クレープスは、兄であるフィルフェン=クレープスを介して、父親に異を唱えてはいる。だが、やはり邪兄フィルターを通すと意見が捻じ曲がることを痛いほど思い知る事件となってしまったのであった……。
「わたくしから言えることは、レオナルト=ヴィッダーから死罪を免じることですわ。兄上もそのことだけはご留意してくださいまし?」
「はいはい、わかってますよ。では、妹のフローラもこう言っていることですし、先生からはレオナルトくんを近々行なわれるであろう戦の最前線に立ってもらうことで手を打ってもらいたいんですよね。どうです? 名案でしょ?」
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