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第1章:罪には罰を
第4話:自由を得るための暴力
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レオナルト=ヴィッダーは第1王子:フィルフェン=クレープスの発言を聞くや否や、膝から崩れ落ちる。そして、膝を絨毯の上に乗せて、上半身を前へと投げ出す。その姿はまるでどこぞの宗教徒がするような懺悔の姿勢へと移り変わっていた。それだけでなく、レオナルト=ヴィッダーは嗚咽の声をあげて、泣きだす始末であった。
「わかります、わかりますよ、キミの気持ちは……。出来ちゃったの状況になれば、ワンチャン、どうにか苦しい状況を覆す一助となっていたはずだと。しかしながら、これはキミにとっても良い知らせなのです」
「このどこが良い知らせだって言うんですかっ! 俺は、俺は、アイリスを孕ませれなかったっ! 俺は彼女が望むことを何一つ叶えられなかったっ!!」
レオナルト=ヴィッダーは額を絨毯に擦り付けながら、フィルフェン=クレープスの顔を見ずに怨嗟を込めた声を喉から絞り出す。そんな哀れな男に同情心を抱いたのか、フィルフェン=クレープスは仕事机から席を立ち、彼の近くに歩み寄り、姿勢を低くする。その後、彼をあやすかのように彼の背中側から右腕を回し、左手でレオナルト=ヴィッダーの赤いザンギリ頭を優しく撫でてみせる。
「良いですか? もう一度、言いますが、もしキミがこの時点でアイリスくんを孕ませていたならば、彼女は無理やりに堕胎を行われていました。そして、キミは絞首台で縛り首だったことは間違いありません……」
「そう……なんですか?」
「はい。キミは先生の父親であり、同時にこの国の国王であるロータス=クレープスを舐めています。あのひとにアイリスくんやキミの浅はかな考えを貫き通すことなど、どだい無理なのです。ですが、レオナルトくん。キミはまだ生きているではないですか? これがキミとアイリスくんの二人にとって、どれほどの僥倖をもたらすか、想像できますか?」
フィルフェン=クレープスは努めて優しい声調で、レオナルト=ヴィッダーを諭そうとする。しかし、言われている側のレオナルト=ヴィッダー本人は彼の言いたいことを何一つ理解出来ないでいた。絶望の淵に落とされて、それでもなお運命に抗おうとした。なのに、唯一の希望となるはずであった、アイリスとの間に子供が出来る兆候は消え去ってしまった。それは同時に、レオナルト=ヴィッダーの希望の光が地の果てに儚く消えていったと同義であった。
「今更、俺に何が出来るというんですか!? 俺にはもう何も残されていな……い」
「ハハッ! キミは馬鹿ですね。では、このまま何も成し遂げずに、きりたった崖の上から飛び降りて、来世でアイリスと添い遂げるとでも言うのですか?」
フィルフェン=クレープスの言いにレオナルト=ヴィッダーはうぅ……と呟きながら、情けなくも口を閉ざしてしまう。フィルフェン=クレープスにそう指摘されることにより、自分が少なからず、そういうことを考えていたことに恥ずかしさを覚えてしまう。そんなレオナルト=ヴィッダーの心情をその子犬が哀願するような眼の色から察したフィルフェン=クレープスがフフッ……と軽く微笑する。
そして、一度、レオナルト=ヴィッダーから自分の身を離し、仕事机の上にある桐箱を両手で掴む。続けて、その桐箱を未だに絨毯の上でうずくまるレオナルト=ヴィッダーの眼の前に置く。レオナルト=ヴィッダーは自分の顔近くに白い桐箱を置かれたことにより、今から何が行なわれるのだ? と不審がる。しかし、そんな彼を差し置いて、フィルフェン=クレープスは桐箱の上蓋を外し、その中身をまざまざとレオナルト=ヴィッダーに見せつける。
「これはキミとアイリスを繋ぐための呪物です。研究所での名称は『ZGMF-X20A』。しかしながら、先生は個人的に『素戔嗚』と呼んでいます。キミとアイリスが『自由を得るための暴力』をキミに与えてくれます」
「何を言って……いるんです?」
レオナルト=ヴィッダーは明らかに混乱していた。フィルフェン=クレープスが自分に見せているもの自体は左手用のいびつな形をしている金属製の手甲である。黒を基調として波のように紅い紋様が三つ走っている。いかにもいかがわしい呪物ですよと主張してやまないソレがどうして、自分とアイリスが一緒にいられるようになるという話に繋がるのかが皆目わからない。
「キミは近々行なわれるであろう、ウィーゼ王国とバルト帝国との合戦で、最前線送りにされることが決定しています。これはどうやっても覆らせません。そして、キミはそこで生き延びなければなりません」
「そ、そんな……。俺は兵士としての訓練なんてまったく受けていませんっ! 国王は俺に死ねと言っているんですか!?」
「はい、残念ながらそういうことになります。しかし、先生は妹たちに頼まれているのです。キミを絶対に死なせないようにと。だからこそ、この『素戔嗚』をキミに与えるのです。決して、肌身離さず、これを装着しなさい。そうすればキミはヒトとしての大事な何かを失くす代わりに、命だけは落とさずに済むでしょう」
「あ、あの!? 今、とんでもないことをサラリと言いましたよね!?」
レオナルト=ヴィッダーは黒金剛石の双眸を見開いて、フィルフェン=クレープスの顔を見る。しかしながら、彼に凝視されている側のフィルフェン=クレープスはにっこりと微笑み、呪物が収められている桐箱をずずいとレオナルト=ヴィッダーに押し出してみせる。これを装着する以外にキミが最前線送りから生きて帰ってこれないと所作だけで主張してみせたのだ。
レオナルト=ヴィッダーが渋面となるのは当然であった。しかし、今は藁にでもすがりたい気持ちであることには変わりない。絨毯の上で丸まった格好のままにその桐箱を抱えこんでしまうレオナルト=ヴィッダーであった。その姿を見たフィルフェン=クレープスは満足そうに頷き、一度、彼の左肩にポンと軽く自分の右手を置いてみせる。
「『素戔嗚』の使い方については、それ自体に宿っている精霊が教えてくれるでしょう。さあ、それを持って、自分が居るべき場所に向かい、運命に抗うのです」
第1王子:フィルフェン=クレープスは言うべきこと、渡すべき物を託したと確信した後、その場から立ち上がり、仕事机の上にある呼び鈴をチリリンと軽く鳴らして見せる。するとだ、侍女たちが数人現れ、レオナルト=ヴィッダーに立ち上がるようにと促す。
レオナルト=ヴィッダーは首をうなだれたまま、フィルフェン=クレープスに与えられた呪物が収まった桐箱を大事そうに抱えながら、第一王子の執務室から去っていく。そんな彼の後ろ姿を見ながら、フィルフェン=クレープスは小声でぼそりと呟く。
「『ZGMF-X20A』。『自由を得るための暴力』。くくっ……。普通ならそこは翼だろうとツッコミを入れたいのですがね? はてさて、コッシロー=ネヅくん。レオナルトくんを死なせないように、彼を導いてくださいよ?」
「わかります、わかりますよ、キミの気持ちは……。出来ちゃったの状況になれば、ワンチャン、どうにか苦しい状況を覆す一助となっていたはずだと。しかしながら、これはキミにとっても良い知らせなのです」
「このどこが良い知らせだって言うんですかっ! 俺は、俺は、アイリスを孕ませれなかったっ! 俺は彼女が望むことを何一つ叶えられなかったっ!!」
レオナルト=ヴィッダーは額を絨毯に擦り付けながら、フィルフェン=クレープスの顔を見ずに怨嗟を込めた声を喉から絞り出す。そんな哀れな男に同情心を抱いたのか、フィルフェン=クレープスは仕事机から席を立ち、彼の近くに歩み寄り、姿勢を低くする。その後、彼をあやすかのように彼の背中側から右腕を回し、左手でレオナルト=ヴィッダーの赤いザンギリ頭を優しく撫でてみせる。
「良いですか? もう一度、言いますが、もしキミがこの時点でアイリスくんを孕ませていたならば、彼女は無理やりに堕胎を行われていました。そして、キミは絞首台で縛り首だったことは間違いありません……」
「そう……なんですか?」
「はい。キミは先生の父親であり、同時にこの国の国王であるロータス=クレープスを舐めています。あのひとにアイリスくんやキミの浅はかな考えを貫き通すことなど、どだい無理なのです。ですが、レオナルトくん。キミはまだ生きているではないですか? これがキミとアイリスくんの二人にとって、どれほどの僥倖をもたらすか、想像できますか?」
フィルフェン=クレープスは努めて優しい声調で、レオナルト=ヴィッダーを諭そうとする。しかし、言われている側のレオナルト=ヴィッダー本人は彼の言いたいことを何一つ理解出来ないでいた。絶望の淵に落とされて、それでもなお運命に抗おうとした。なのに、唯一の希望となるはずであった、アイリスとの間に子供が出来る兆候は消え去ってしまった。それは同時に、レオナルト=ヴィッダーの希望の光が地の果てに儚く消えていったと同義であった。
「今更、俺に何が出来るというんですか!? 俺にはもう何も残されていな……い」
「ハハッ! キミは馬鹿ですね。では、このまま何も成し遂げずに、きりたった崖の上から飛び降りて、来世でアイリスと添い遂げるとでも言うのですか?」
フィルフェン=クレープスの言いにレオナルト=ヴィッダーはうぅ……と呟きながら、情けなくも口を閉ざしてしまう。フィルフェン=クレープスにそう指摘されることにより、自分が少なからず、そういうことを考えていたことに恥ずかしさを覚えてしまう。そんなレオナルト=ヴィッダーの心情をその子犬が哀願するような眼の色から察したフィルフェン=クレープスがフフッ……と軽く微笑する。
そして、一度、レオナルト=ヴィッダーから自分の身を離し、仕事机の上にある桐箱を両手で掴む。続けて、その桐箱を未だに絨毯の上でうずくまるレオナルト=ヴィッダーの眼の前に置く。レオナルト=ヴィッダーは自分の顔近くに白い桐箱を置かれたことにより、今から何が行なわれるのだ? と不審がる。しかし、そんな彼を差し置いて、フィルフェン=クレープスは桐箱の上蓋を外し、その中身をまざまざとレオナルト=ヴィッダーに見せつける。
「これはキミとアイリスを繋ぐための呪物です。研究所での名称は『ZGMF-X20A』。しかしながら、先生は個人的に『素戔嗚』と呼んでいます。キミとアイリスが『自由を得るための暴力』をキミに与えてくれます」
「何を言って……いるんです?」
レオナルト=ヴィッダーは明らかに混乱していた。フィルフェン=クレープスが自分に見せているもの自体は左手用のいびつな形をしている金属製の手甲である。黒を基調として波のように紅い紋様が三つ走っている。いかにもいかがわしい呪物ですよと主張してやまないソレがどうして、自分とアイリスが一緒にいられるようになるという話に繋がるのかが皆目わからない。
「キミは近々行なわれるであろう、ウィーゼ王国とバルト帝国との合戦で、最前線送りにされることが決定しています。これはどうやっても覆らせません。そして、キミはそこで生き延びなければなりません」
「そ、そんな……。俺は兵士としての訓練なんてまったく受けていませんっ! 国王は俺に死ねと言っているんですか!?」
「はい、残念ながらそういうことになります。しかし、先生は妹たちに頼まれているのです。キミを絶対に死なせないようにと。だからこそ、この『素戔嗚』をキミに与えるのです。決して、肌身離さず、これを装着しなさい。そうすればキミはヒトとしての大事な何かを失くす代わりに、命だけは落とさずに済むでしょう」
「あ、あの!? 今、とんでもないことをサラリと言いましたよね!?」
レオナルト=ヴィッダーは黒金剛石の双眸を見開いて、フィルフェン=クレープスの顔を見る。しかしながら、彼に凝視されている側のフィルフェン=クレープスはにっこりと微笑み、呪物が収められている桐箱をずずいとレオナルト=ヴィッダーに押し出してみせる。これを装着する以外にキミが最前線送りから生きて帰ってこれないと所作だけで主張してみせたのだ。
レオナルト=ヴィッダーが渋面となるのは当然であった。しかし、今は藁にでもすがりたい気持ちであることには変わりない。絨毯の上で丸まった格好のままにその桐箱を抱えこんでしまうレオナルト=ヴィッダーであった。その姿を見たフィルフェン=クレープスは満足そうに頷き、一度、彼の左肩にポンと軽く自分の右手を置いてみせる。
「『素戔嗚』の使い方については、それ自体に宿っている精霊が教えてくれるでしょう。さあ、それを持って、自分が居るべき場所に向かい、運命に抗うのです」
第1王子:フィルフェン=クレープスは言うべきこと、渡すべき物を託したと確信した後、その場から立ち上がり、仕事机の上にある呼び鈴をチリリンと軽く鳴らして見せる。するとだ、侍女たちが数人現れ、レオナルト=ヴィッダーに立ち上がるようにと促す。
レオナルト=ヴィッダーは首をうなだれたまま、フィルフェン=クレープスに与えられた呪物が収まった桐箱を大事そうに抱えながら、第一王子の執務室から去っていく。そんな彼の後ろ姿を見ながら、フィルフェン=クレープスは小声でぼそりと呟く。
「『ZGMF-X20A』。『自由を得るための暴力』。くくっ……。普通ならそこは翼だろうとツッコミを入れたいのですがね? はてさて、コッシロー=ネヅくん。レオナルトくんを死なせないように、彼を導いてくださいよ?」
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