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第2章:失って得るモノ
第5話:失ったモノ
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救護兵が点滴の針をレオナルト=ヴィッダーの右の腕先に刺した後、ゆっくり休むのだぞと告げる。その後、彼は他の傷病兵の下へと向かっていく。点滴袋の中身はゆっくりとではあるが、細い管を通り、レオナルト=ヴィッダーに力を与えていく。レオナルト=ヴィッダーは段々と覚醒していき、点滴を受けてから30分後にはパイプベッドの上で上半身を起こせる程度までには復活する。
レオナルト=ヴィッダーは救護所の中で、自分の見知った顔が居ないか探すこととなる。するとだ、ある男が自分と眼が会うや否や、こちらにウインクを飛ばしてくる。レオナルト=ヴィッダーは安堵とも嘆息ともつかぬ息を吐くことになる。その男は松葉杖で自身の身体を支えつつ、レオナルト=ヴィッダーに近づいていく。
「デーブ=オクボーン。お前、生きていたのか……。なんだか嬉しいような、残念なような気分だよ」
「ぶひっ。そこは素直に喜んどけてーの。おいら、気づいたら、この救護所に運ばれていたんだが、レオンもここにやってきていたのを知って、いつ寝込みを襲ってやろうかと思っていたんだぜ? まあ、おいらは紳士だから、前後不覚の男をどうこうしようという趣味は持ち合わせていないがな……」
デーブ=オクボーンはそう言いながら、立っているのもしんどいのか、レオナルト=ヴィッダーが休んでいるパイプベッドの片隅に尻を乗せて、座り込むこととなる。デーブ=オクボーンの顔や身体には凍傷を象徴するかのように肌に火ぶくれの跡が走っていた。レオナルト=ヴィッダーは何とも言えぬ顔つきで、デーブ=オクボーン相手に黙ってしまう。
「おめえが気にすることじゃないだろぉ? おめえさんは頑張ったらしいじゃねえか。ひどい凍傷を患った者ばっかりだが、命を落とした奴は誰一人もいないっていう奇跡を起こしたそうだからな?」
「お前……。俺が紅い眼をした蒼き竜とやりあったのを見ていたのか!?」
「違うわっ! おいらはあんたの従者だと言ってきかない坊やが、あんたのやったことを大々的に言い広めているんだよ。ったく、先に唾をつけられちゃったみたいだから、おいらが手を出せないことが口惜しいわっ!」
デーブ=オクボーンは寝取りの性癖を持ち合わせていないと断言する。だが、レオナルト=ヴィッダーは誰を寝取るんだ? と不可思議な顔つきになる。そもそも、自分の想い人であるアイリス=クレープスは女性だ。デーブ=オクボーンは男色デーブだ。そのデーブ=オクボーンがアイリスをどうこうするつもりが無いのは、自然とわかりきっている。なら、どこのどいつを指しているのか? という疑問が湧いてくる。そんな怪訝な表情を浮かべるレオナルト=ヴィッダーの下に騒がしく半天半人がやってくる。
「あっ! レオン様、眼を覚まされたのですねっ! ぼくはレオン様がこのまま死んじゃうんじゃないかって、夜も眠れませんでした……」
「チュッチュッチュ。この馬鹿は呪力を一気に引き出し過ぎたせいで、気絶しただけだッチュウ。外傷はほとんど無いから、十分に寝れば、意識が戻ると教えておいたでッチュウよ?」
蒼髪オカッパで紅と緑のオッドアイが特徴の可愛らしい男の娘が一兵卒が着る安い服を着こんでいた。そして、その彼の左肩には蝙蝠羽つきの白いネズミがちょこんと乗っかっていた。肩に乗っている白いネズミがやれやれという所作をしだしたことで、男の娘はお湯が張った桶を両手で持ったままにネズミ相手に憤慨するのであった。そんなひとりと一匹のやりとりを見て、レオナルト=ヴィッダーはハァ……と嘆息する他なかった。
「アイリス……。コッシロー=ネヅの言っていることをまともに受け取るのはやめておけ。そいつの憎まれ口は今に始まったことじゃない」
「レオン様。まだぼくのことをアイリスさんと勘違いされているんですゥ。でも、ぼくはめげませんっ! いつか、レオン様の心をぼくだけで埋め尽くしてみせるのですゥ!」
レオナルト=ヴィッダーはクルス=サンティーモの姿をその両目でしかと見ても、彼のことをアイリスだと口走ってしまう。クルス=サンティーモは少しばかりしょげてしまうが、すぐに気持ちを切り替えて、ちょうど良い温度のお湯に手ぬぐいを突っ込み、それをやや硬く絞った後、レオナルト=ヴィッダーの身体を拭き始める。
「レオン様。どこかかゆいとか痛いってことろはありますかァ?」
「いや、大丈夫。てか、アイリスは俺が寝ている間もこうやって俺の介護をしてくれていたのか?」
「はいっ! なんたって、レオン様は桃源郷の救世主なんですゥ! 桃源郷の主からも、レオナルト殿の世話をしっかりこなすようにと言付かっているのですゥ!」
レオナルト=ヴィッダーはアイリス=クレープスに濡れタオルで身体を拭かれている間、そのアイリス=クレープスからあの後、何があったのかを聞かされることとなる。レオナルト=ヴィッダーが氷雪で埋まってしまった桃源郷に春を告げる暖かな風を招き入れたこと。それにより、氷漬けとなってしまった天使たちは呪縛から解き放たれたこと。さらには、命を落とした天使は誰もいなかったことをアイリス=クレープスから聞かされることとなる。
「そしてですね。ぼくの主が、レオナルト殿が困った時には、自分を頼るがよいと言われて、呼び鈴を貸し与えてくれたのですゥ」
クルス=サンティーモがアクセサリーのように、自分の首にくくりつけている黄金色の鈴を指差してみせる。まるで飼い猫の首に鈴をつけているかのようにも見えて、思わずレオナルト=ヴィッダーはブフッと噴き出してしまう。
「笑うなんてひどいのですゥ! ぼくはよく物を失くすんで、主が考案したのが、コレだったんですゥ!」
「ごめんごめん、アイリス。笑うつもりはなかったんだ。ただ、似合っているなあって」
「それは誉め言葉なんですゥ? それとも、けなしているんですゥ? 後者ならレオン様でも許せないんですゥ!」
レオナルト=ヴィッダーはこのやりとりに幸せを感じていた。戦場の真っただ中で、明日とも知れぬ命だ。それなのに、自分のそばには愛しのアイリスがいてくれる。それがどれほどまでに自分に生きる希望を持たせてくれるのか? レオナルト=ヴィッダーは蒼髪オカッパのアイリスに向かって、優しく微笑む。
「アイリス。俺がお前を護ってみせる。だから、ずっと俺のそばにいてくれよ? 俺はこの2年間の兵役を無事に終えて、国に帰るんだ。そして、アイリスと今度こそ、結婚式を挙げるんだっ」
「は、はいっ! 嬉しいですゥ。ぼくもレオン様と結婚できたら、どれほど幸せになれるのかを考えると、お尻が自然と濡れてくるんですゥ! レオン様、ぼくを護ってくださいね?」
レオナルト=ヴィッダーは救護所の中で、自分の見知った顔が居ないか探すこととなる。するとだ、ある男が自分と眼が会うや否や、こちらにウインクを飛ばしてくる。レオナルト=ヴィッダーは安堵とも嘆息ともつかぬ息を吐くことになる。その男は松葉杖で自身の身体を支えつつ、レオナルト=ヴィッダーに近づいていく。
「デーブ=オクボーン。お前、生きていたのか……。なんだか嬉しいような、残念なような気分だよ」
「ぶひっ。そこは素直に喜んどけてーの。おいら、気づいたら、この救護所に運ばれていたんだが、レオンもここにやってきていたのを知って、いつ寝込みを襲ってやろうかと思っていたんだぜ? まあ、おいらは紳士だから、前後不覚の男をどうこうしようという趣味は持ち合わせていないがな……」
デーブ=オクボーンはそう言いながら、立っているのもしんどいのか、レオナルト=ヴィッダーが休んでいるパイプベッドの片隅に尻を乗せて、座り込むこととなる。デーブ=オクボーンの顔や身体には凍傷を象徴するかのように肌に火ぶくれの跡が走っていた。レオナルト=ヴィッダーは何とも言えぬ顔つきで、デーブ=オクボーン相手に黙ってしまう。
「おめえが気にすることじゃないだろぉ? おめえさんは頑張ったらしいじゃねえか。ひどい凍傷を患った者ばっかりだが、命を落とした奴は誰一人もいないっていう奇跡を起こしたそうだからな?」
「お前……。俺が紅い眼をした蒼き竜とやりあったのを見ていたのか!?」
「違うわっ! おいらはあんたの従者だと言ってきかない坊やが、あんたのやったことを大々的に言い広めているんだよ。ったく、先に唾をつけられちゃったみたいだから、おいらが手を出せないことが口惜しいわっ!」
デーブ=オクボーンは寝取りの性癖を持ち合わせていないと断言する。だが、レオナルト=ヴィッダーは誰を寝取るんだ? と不可思議な顔つきになる。そもそも、自分の想い人であるアイリス=クレープスは女性だ。デーブ=オクボーンは男色デーブだ。そのデーブ=オクボーンがアイリスをどうこうするつもりが無いのは、自然とわかりきっている。なら、どこのどいつを指しているのか? という疑問が湧いてくる。そんな怪訝な表情を浮かべるレオナルト=ヴィッダーの下に騒がしく半天半人がやってくる。
「あっ! レオン様、眼を覚まされたのですねっ! ぼくはレオン様がこのまま死んじゃうんじゃないかって、夜も眠れませんでした……」
「チュッチュッチュ。この馬鹿は呪力を一気に引き出し過ぎたせいで、気絶しただけだッチュウ。外傷はほとんど無いから、十分に寝れば、意識が戻ると教えておいたでッチュウよ?」
蒼髪オカッパで紅と緑のオッドアイが特徴の可愛らしい男の娘が一兵卒が着る安い服を着こんでいた。そして、その彼の左肩には蝙蝠羽つきの白いネズミがちょこんと乗っかっていた。肩に乗っている白いネズミがやれやれという所作をしだしたことで、男の娘はお湯が張った桶を両手で持ったままにネズミ相手に憤慨するのであった。そんなひとりと一匹のやりとりを見て、レオナルト=ヴィッダーはハァ……と嘆息する他なかった。
「アイリス……。コッシロー=ネヅの言っていることをまともに受け取るのはやめておけ。そいつの憎まれ口は今に始まったことじゃない」
「レオン様。まだぼくのことをアイリスさんと勘違いされているんですゥ。でも、ぼくはめげませんっ! いつか、レオン様の心をぼくだけで埋め尽くしてみせるのですゥ!」
レオナルト=ヴィッダーはクルス=サンティーモの姿をその両目でしかと見ても、彼のことをアイリスだと口走ってしまう。クルス=サンティーモは少しばかりしょげてしまうが、すぐに気持ちを切り替えて、ちょうど良い温度のお湯に手ぬぐいを突っ込み、それをやや硬く絞った後、レオナルト=ヴィッダーの身体を拭き始める。
「レオン様。どこかかゆいとか痛いってことろはありますかァ?」
「いや、大丈夫。てか、アイリスは俺が寝ている間もこうやって俺の介護をしてくれていたのか?」
「はいっ! なんたって、レオン様は桃源郷の救世主なんですゥ! 桃源郷の主からも、レオナルト殿の世話をしっかりこなすようにと言付かっているのですゥ!」
レオナルト=ヴィッダーはアイリス=クレープスに濡れタオルで身体を拭かれている間、そのアイリス=クレープスからあの後、何があったのかを聞かされることとなる。レオナルト=ヴィッダーが氷雪で埋まってしまった桃源郷に春を告げる暖かな風を招き入れたこと。それにより、氷漬けとなってしまった天使たちは呪縛から解き放たれたこと。さらには、命を落とした天使は誰もいなかったことをアイリス=クレープスから聞かされることとなる。
「そしてですね。ぼくの主が、レオナルト殿が困った時には、自分を頼るがよいと言われて、呼び鈴を貸し与えてくれたのですゥ」
クルス=サンティーモがアクセサリーのように、自分の首にくくりつけている黄金色の鈴を指差してみせる。まるで飼い猫の首に鈴をつけているかのようにも見えて、思わずレオナルト=ヴィッダーはブフッと噴き出してしまう。
「笑うなんてひどいのですゥ! ぼくはよく物を失くすんで、主が考案したのが、コレだったんですゥ!」
「ごめんごめん、アイリス。笑うつもりはなかったんだ。ただ、似合っているなあって」
「それは誉め言葉なんですゥ? それとも、けなしているんですゥ? 後者ならレオン様でも許せないんですゥ!」
レオナルト=ヴィッダーはこのやりとりに幸せを感じていた。戦場の真っただ中で、明日とも知れぬ命だ。それなのに、自分のそばには愛しのアイリスがいてくれる。それがどれほどまでに自分に生きる希望を持たせてくれるのか? レオナルト=ヴィッダーは蒼髪オカッパのアイリスに向かって、優しく微笑む。
「アイリス。俺がお前を護ってみせる。だから、ずっと俺のそばにいてくれよ? 俺はこの2年間の兵役を無事に終えて、国に帰るんだ。そして、アイリスと今度こそ、結婚式を挙げるんだっ」
「は、はいっ! 嬉しいですゥ。ぼくもレオン様と結婚できたら、どれほど幸せになれるのかを考えると、お尻が自然と濡れてくるんですゥ! レオン様、ぼくを護ってくださいね?」
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